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商業軌道輸送サービス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
COTSに基づき開発されたドラゴン宇宙船

商業軌道輸送サービス(しょうぎょうきどうゆそうサービス、英語: Commercial Orbital Transportation Services, COTS)は、NASAが計画し調整を行なっている国際宇宙ステーション (ISS) への民間企業による輸送サービス計画である。この計画は2006年1月18日に発表された[1]

NASAは『少なくとも2015年までには国際宇宙ステーションへの商業輸送が必要になるだろう』と提案した[2]

COTSは商業補給サービス (Commercial Resupply Services, CRS) 計画とは区別しなければならない。COTSは補給機の開発に関わるものであり、CRSは実際の運搬を行うサービスになる。COTSはマイルストーンの進捗に応じてNASAからの支払いが行われるもので、将来的な輸送契約を約束するものではない。一方、CRSは義務的な契約となるため、契約者は計画の失敗時には責任を有することになる。関連する計画に商業乗員輸送開発 (Commercial Crew Development, CCDev) があり、こちらは国際宇宙ステーションのクルーの交代サービスを行うための商業有人宇宙機だけの開発を目指す。COTS、CRS、CCDevの3つのプログラムは、NASAのCommercial Crew and Cargo Program Office (C3PO) が管理している。

概要

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国際宇宙ステーション (International Space Station, ISS) へ物資輸送を行う政府が運用する宇宙船の代わりとなる民間企業による商業軌道輸送サービスの実証のために、NASAはスペースシャトルの1回の飛行よりも廉価な5億ドルの融資を2010年までに行っている。

これ以前のNASAのプロジェクトとは異なり、提案された宇宙船は主に開発した会社自身によって所有され、費用を確保する。またアメリカの政府機関と商業カスタマーの双方に貢献するように設計される。NASAはより明確になった時点で、ミッションの契約を結ぶ予定。

宇宙船の高精度な軌道投入技術宇宙ステーションへのランデヴー技術が必要とされるため、このサービスには現在までに実現している通信衛星等の商業打ち上げサービスより困難が伴う。民間宇宙飛行企業[3]は4つの特定のサービスエリアにおいて競争を行っている。

  • 能力レベルA:船外曝露貨物の運搬および廃棄処分
  • 能力レベルB:与圧貨物の運搬および廃棄処分
  • 能力レベルC:与圧貨物の運搬および回収
  • 能力レベルD:宇宙飛行士の輸送

NASAは2006年に、ロケットプレーン・キスラー (RpK) と、アライアント・テックシステムズ (ATK) と協定を結んだが、後にRpKとの協定は同社に十分な自己資産がないことから破棄された。NASAは2008年12月に、別のISSへの貨物輸送契約を入札し、 オービタル・サイエンシズスペースXの2社を選んだ。2012年5月にスペースX社のドラゴン宇宙船が、翌2013年9月にはオービタル・サイエンシズ社のシグナス宇宙船がISSに到達し、計画は達成された。

計画原理

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NASAは1990年代半ばに、代替アクセス (Alternate Access) と名付けたISS輸送サービスのための計画を模索した。NASAは他の研究計画を差し置いてまでは代替のアクセス方法の検討に資金は配分しなかったが、この計画はISSが重要な打ち上げ事業の市場機会となることを多くの企業家に納得させることが出来た。

有人宇宙飛行のための軌道輸送をNASAは何年も維持し続けていたが、NASAは自由市場の企業の方が政府の官僚制よりも効率的かつ廉価にこのようなシステムを開発・運用出来るという結論に至った[4]

当時のNASA長官であったマイケル・D・グリフィンは、手ごろな商業軌道輸送サービスなしには、NASAは宇宙開発の展望 (Vision for Space Exploration)[5]の目的を達成するための十分な予算は得られないだろうと述べた。

もしこのようなサービスが2010年の終わりまでに利用できなかった場合、NASAのスペースシャトルの代替機であるオリオンの完成が2014年まで準備出来ない可能性があるため、NASAはロシア連邦宇宙局ソユーズプログレス補給船ESA欧州補給機 (ATV)、またはJAXA宇宙ステーション補給機 (HTV) などの軌道輸送サービスを調達せざるを得なくなる。しかし、NASAはCOTSが運用に入れば、その後ロシアの宇宙貨物輸送サービスを調達する必要はなくなる[6]

NASAは、ISSに対するCOTSサービスの実現は少なくとも2015年には必要になると予想している。NASAは1年に約6回、毎年10トンの輸送を行うと想定している[6]。NASA長官は、COTSの第1段階が成功した段階で宇宙輸送サービスの調達対象を軌道上の燃料補給ステーションおよび月への輸送任務まで広げられる可能性を示した[7]

歴史

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第1段階

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2006年5月、NASAは更なる評価のために6社の提案を準決定案として選択した[8]

2006年8月18日には、NASAの探査システム計画局 (Exploration Systems Mission Directorate, ESMD) がスペースX社ロケットプレーン・キスラー (Rocketplane Kistler, RpK) の2社がCOTS計画のフェーズIとして選ばれた事を発表した[9]

2006年11月8日、RpKとアライアント・テックシステムズ (Alliant Techsystems, ATK) は、ATKがK-1宇宙船の主契約社になると発表した[10]

NASAはRpKが2007年7月31日の期限までに十分な民間基金を準備することが出来なかったことに対して警告し、2007年9月に同社とのCOTS協定を打ち切り[11][12]、余ったCOTS予算から1億7,500万ドルをRpK以外の別の企業に与えることにした。

第2段階

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2007年6月18日には、NASAは払い戻し不要な宇宙計画協定 (Space Act Agreements) を別の4つの会社と契約した[13]これらの協定は資金援助の項目を全く含んでいないが、NASAは企業が提案した宇宙船の開発を支援するために情報の共有を行うことに同意した。

2007年10月22日、NASAは第1段階で使わなくなった1億7,500万ドルの予算に対する新たな提案を求めた[14]基金の2007年11月の締め切りまでにいくつかの新たな企業スペースハブ社t/space社アンドリュース・スペース社プラネットスペース社SpaceDev社が提案に応じた[15]

2008年1月、産業界の消息筋は競争企業が、スペースハブ、アンドリュース・スペース、プラネットスペースとオービタル・サイエンシズ4つに絞り込まれたことを明らかにすると共に、発表は2月7日に行われるとした [16]。いくつかの情報筋は、アンドリュースではなくボーイングが残っていることを示唆した[17]

2008年2月19日、第2段階の選定ではオービタル・サイエンシズ・コーポレーションシグナスが選ばれた[18]

契約の落札結果

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競争相手

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2006年3月には、20社以上の会社組織がCOTS提案を公的に発表した[19]。NASAは2007年11月21日までに少なくとも7つの企業から新しいCOTS提案を受け付けた[20]

社名 宇宙船 打ち上げロケット パートナー 第1段階参加社 第1段階準決勝 第2段階参加社 勝者
スペースX ドラゴン ファルコン9 参加 参加 参加 勝者
オービタル・サイエンシズ[21] シグナス[18] トーラスII
(後にアンタレスに改名)[18]
不明 不参加 参加 勝者
アドベンド・ローンチ・サービス 不明 不明 不明 不参加 不明 -
アンドリュース・スペース[22] アンドリュース・カーゴ・モジュール ヘラクレスSLV アライアント・テックシステムズMDA 参加 参加 参加 -
ボーイング ATV デルタ IV アリアンスペースEADS アストリウム 不明 不参加 参加 -
コンステレーションサービス・インターナショナル[23] プログレス補給船 ソユーズ RKKエネルギア 不明 不参加 不明 -
エクスプロレーション・パートナーズ 不明 不明 不明 不参加 不明 -
ロッキード・マーティン ATV、HTV アトラス V EADS アストリウム、JAXA 不明 不参加 不明 -
オデッセイ・スペース・リサーチ 不明 不明 不明 不参加 不明 -
パンエアロ スペースバン2010 不明 不明 不参加 不明 -
プラネットスペース[24][25] ロッキード・マーティン提供の軌道輸送宇宙船[26] ATK提供のアテナIII[27] アライアント・テックシステムズ、ロッキード・マーティン 不参加 不参加 参加 -
ロケットプレーン・キスラー K-1 K-1 オービタル・サイエンシズ[28] 参加 参加 不参加 -
スペースシステムズ/ロラール インターモーダルシステム: 宇宙タグボートで貨物コンテナを輸送 不明 コンステレーションサービス・インターナショナル[29] 不明 不参加 不明 -
SpaceDev[30][31] ドリームチェイサー ユナイテッド・ローンチ・アライアンスによるアトラス V 参加 参加 不明 -
スペースハブ[32][33] APEX、ARCTUS アトラス V 参加 参加 参加 -
t/Space[34][35] CXV クイックリーチ(空中発射型) エア・ランチ 参加 参加 不明 -
ソーテック・ラボラトリー 不明 不明 不明 不参加 不明 -
トリトンシステム 不明 不明 不明 不参加 不明 -
ベンチャー・エアロスペース S-550 ファルコン9 参加 不参加 不参加 -

達成

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2010年6月、スペースX社はファルコン9ロケットの初打ち上げに成功。同年12月にCOTSに基づく1回目のデモフライトを実施し、ドラゴン宇宙船は地球を2周した後大気圏再突入を果たし、民間初となる地球周回軌道からの帰還に成功した。次いで2012年5月には2度目のデモフライトを行い、民間初となるISSへのドッキングにも成功、COTSの目標を達成した。同年10月からはCRSに基づく補給ミッションを開始している。

オービタル・サイエンシズ社も2013年4月にアンタレスロケットの初打ち上げに成功。同年9月にはCOTSに基づくデモフライトを実施し、シグナス宇宙船によるISSへの初ドッキングに成功。2006年の計画開始から7年を経て、2社いずれもがCOTSによる宇宙船開発を達成した。

脚注

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  1. ^ "NASA Seeks Proposals for Crew and Cargo Transportation to Orbit" (Press release). NASA. 18 January 2006. 2006年11月21日閲覧
  2. ^ “Human Space Flight Transition Plan” (PDF). NASA. (2006年8月30日). オリジナルの2006年9月28日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20060928222416/http://www.hq.nasa.gov/osf/tran_plan.pdf 
  3. ^ COTS Vendors(2006年9月29日時点のアーカイブ)、ジョンソン宇宙センターxls文書
  4. ^ X Prize Comments by Mike Griffin”. NASA (2006年10月20日). 2009年8月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年6月6日閲覧。
  5. ^ NASA - Exploration Home”. NASA. 2008年8月8日閲覧。
  6. ^ a b Gerstenmaier, William (18 May 2007). "Need for Commercial Cargo to ISS". FAA Commercial Space Transportation Advisory Council. 商業宇宙輸送諮問委員会. Washington, D.C.: FAA. p. 2. 2009年2月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年8月13日閲覧
  7. ^ "Commercial Space Development – What’s the Next?". NASA, 2007年11月15日
  8. ^ Belfiore, Michael (2006年5月9日). “NASA makes first round of cuts for COTS”. Dispatches from the Final Frontier. 2006年6月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年11月21日閲覧。
  9. ^ "NASA Selects Crew and Cargo Transportation to Orbit Partners" (Press release). NASA. 18 August 2006. 2006年11月21日閲覧
  10. ^ "Rocketplane Kistler and ATK Announce Agreement for K-1 Launch Vehicle and COTS Program" (Press release). ATK. 8 November 2006. 2007年2月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年11月21日閲覧
  11. ^ “RpK's COTS Contract Terminated”. Aviation Week. (2007年9月10日). オリジナルの2011年5月12日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110512185739/http://www.aviationweek.com/aw/generic/story.jsp?id=news%2Frocketplane091007.xml&headline=RpK%27s%20COTS%20Contract%20Terminated%20&channel=space 2007年9月10日閲覧。 
  12. ^ NASA Cuts Funds for Private Space Venture
  13. ^ “NASA Signs Space Act Agreements with Three More Firms”. Space News. (2007年6月19日). http://www.space.com/news/070618_sn_COTSweb.html 2007年12月11日閲覧。 
  14. ^ “NASA Reopens COTS Bidding” (xml). Aviation Week. (2007年10月19日). オリジナルの2011年5月12日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110512185753/http://www.aviationweek.com/aw/generic/story.jsp?id=news%2Fbidding101907.xml&headline=NASA%20Reopens%20COTS%20Bidding&channel=space 2007年10月28日閲覧。 
  15. ^ “COTS 1.5 Roundup”. Space Fellowship. (2008年1月7日). http://spacefellowship.com/News/?p=4127 2008年1月12日閲覧。 
  16. ^ “NASA Picks Finalists for Space Station Resupply Demonstrations”. Imaginova/Space.com. (2008年1月8日). http://www.space.com/news/080118-nasa-cots-finalists.html 2008年1月27日閲覧。 
  17. ^ COTS I ReAward Final Cut Poll forum.NasaSpaceflight.com, 2008年2月5日.[リンク切れ]
  18. ^ a b c NASASpaceflight.com - Orbital beat a dozen competitors to win NASA COTS contract(2008年2月28日時点のアーカイブ
  19. ^ “Private ventures vie to service space station”. MSNBC. http://www.msnbc.msn.com/id/11927039/page/2/ 2006年11月21日閲覧。 
  20. ^ "Space Systems/Loral Proposes Bus for NASA's Cargo Needs" (Press release). Space News. 10 December 2007. 2007年12月10日閲覧
  21. ^ "Orbital and Rocketplane Kistler Announce Strategic Relationship" (Press release). Rocketplane Limited, Inc. 24 July 2006. 2006年11月21日閲覧
  22. ^ "Andrews Space Reveals Cargo Vehicle Design Work" (Press release). Andrews Space, Inc. 12 December 2007. 2007年12月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年12月13日閲覧
  23. ^ "NASA Signs Agreement with CSI" (PDF) (Press release). Constellation Services International, Inc. 18 June 2007. 2007年7月28日時点のオリジナル (PDF)よりアーカイブ。2007年12月11日閲覧
  24. ^ "NASA signs Space Act Agreement with Planetspace" (PDF) (Press release). PlanetSpace. 1 February 2007. 2007年3月17日時点のオリジナル (PDF)よりアーカイブ。2007年12月11日閲覧
  25. ^ "PLANETSPACE, Lockheed Martin and ATK team up to bid on NASA COTS" (PDF) (Press release). PlanetSpace. 21 November 2007. 2008年7月23日時点のオリジナル (PDF)よりアーカイブ。2007年12月11日閲覧
  26. ^ Strange space bedfellows, MSNBC, 2007-11-30.(2007年12月2日時点のアーカイブ
  27. ^ Chris Bergin, ATK's new vehicle to provide multi-access options, 2008-01-21(2008年1月24日時点のアーカイブ
  28. ^ "Orbital To Pull Out of Rocketplane Kistler's COTS Team" (Press release). Space News. 25 September 2006. 2007年12月17日閲覧
  29. ^ "CONSTELLATION SERVICES INTERNATIONAL AND SPACE SYSTEMS LORAL TEAM ON NASA COTS PROPOSAL USING A U.S. VERSION OF CSI'S LEO EXPRESSSM CARGO SYSTEM" (PDF) (Press release). Constellation Services International, Inc. 11 December 2007. 2009年2月26日時点のオリジナル (PDF)よりアーカイブ。2007年12月11日閲覧
  30. ^ "SpaceDev Selected as a Finalist in NASA's Commercial Orbital Transportation Services (COTS) Solicitation" (Press release). SpaceDev, Inc. 15 May 2006. 2006年11月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年11月21日閲覧
  31. ^ "SPACEDEV SIGNS SPACE ACT AGREEMENT WITH NASA FOR DEVELOPMENT OF COMMERCIAL ACCESS TO SPACE" (Press release). SpaceDev. 18 June 2007. 2007年12月11日閲覧[リンク切れ]
  32. ^ "Spacehab Finalist as NASA's Commercial Space Station Logistics Supplier" (Press release). SPACEHAB, Inc. 10 May 2006. 2006年5月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年11月21日閲覧
  33. ^ "SPACEHAB RESPONDS TO NASA RFP SEEKING COMMERCIAL ISS RESUPPLY MEANS" (Press release). SPACEHAB, Inc. 29 November 2007. 2007年12月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年12月11日閲覧
  34. ^ "NASA signs agreement with t/Space" (Press release). t/Space. 1 February 2007. 2007年2月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年12月11日閲覧
  35. ^ "t/Space enters COTS second round" (Press release). t/Space. 29 November 2007. 2007年11月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年12月11日閲覧

関連項目

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外部リンク

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