固有音響インピーダンスとは音波が伝わる空間における任意の点の音圧と粒子[1]の変位速度との比である。量記号はZc、単位記号は Pa・s/m (=N・s/m3 )。
エネルギー損失がない無限に広がる媒質では固有音響インピーダンスはその媒質の密度ρとその媒質を伝わる音速cとの積に等しい。
音圧と粒子の変位速度の比で表される固有音響インピーダンスは、電圧と電流の比である電気回路の特性インピーダンスに対応している。
音響インピーダンスとは音波が伝わる空間における平行で有限な面にはたらく音圧とその面Aを通過する体積速度[2]との比である。量記号はZa、単位記号は Pa・s/m3 (= N・s/m5 )。
無限に長い管壁が剛体で、完全に滑らかで、かつ断熱的である円筒状パイプような管内を伝搬する波を考えたとき、音響インピーダンスは次のようになる。
密度ρの媒質で点Pと点Qを含む微小体積V(=δxδyδz)を考えたとき、点Pにある粒子にx方向の音圧pが働くと、δt秒後にεxだけ変位し、点Qにある粒子はε' xだけ変位する。
x は音波の伝搬方向に沿った空間の変数を指す。
ニュートンの法則より
- (1)
変位による微小体積の増分は、
- (2)
と計算できる。
上の式と体積弾性率の定義を用いると
- (3)
となる。
式(1)(3)より、以下の式が得られる。
この式は1次元波動方程式であるため、
波の伝搬速度
であることが分かる。
任意の関数f(x,t),g(x,t)を用いると、この波動方程式の一般解はxの正の方向に進む波と負に方向に進む波の和で構成される
よって、
正の方向に進む波だけを考ええると、
反対に、負の方向に進む波だけを考ええると、
である。
この圧力と粒子の変位速度の比の絶対値 |p(x,t)/u(x,t)| は、固有音響インピーダンスと呼ばれ Zcと表される。
媒質 |
密度ρ(kg/m3) |
音速c(m/s) |
固有音響インピーダンスZc(106kg/ m2s)
|
空気 |
1.3 |
330 |
0.00043
|
水 |
1000 |
1500 |
1.5
|
銅 |
7700 |
5850 |
45.0
|
ゴム |
950 |
1500 |
1.5
|
[3]
図のような異なる媒質1と媒質2を考え、平面波の入射と反射と透過を示す。
Z1:媒質1の固有音響インピーダンス
Z2:媒質2の固有音響インピーダンス
音圧の入射波をpi、音圧の反射波をpr、音圧の透過波をpt、
粒子の変位速度の入射波をui、粒子の変位速度の反射波をur、粒子の変位速度の透過波をutとする。
x=0では作用・反作用の法則より、次の式が示される。
媒質の連続性より、次の式が示される。
これらの式とZ1=|pi/ui|=
|pr/ur| , Z2=|pt/ut|を用いると、
- 音圧の反射率 :
- 音圧の透過率 :
- 粒子の変位速度の反射率 :
- 粒子の変位速度の透過率 :
と計算できる。
単位時間に単位面積あたりに通過する音のエネルギーはと表すことができる。
音のエネルギーの入射波をIi、音のエネルギーの反射波をIr、音のエネルギーの透過波をItと表すと、
- 音のエネルギーの反射率:
- 音のエネルギーの透過率:
音のエネルギーの反射率をデシベル値で表したものを反射損失という
反射損失をRlossと表すと、
音のエネルギーの透過率をデシベル値で表したものを透過損失という。
透過損失をTlossと表すと、
透過損失は実用的には壁や床などの遮音性能を表す数値として用いられている。
遮音性能が大きいほど、透過する音が小さい。
特性インピーダンス
音圧
音速
反射損失
透過損失
遮音性能
音響インピーダンス
体積弾性率
ニュートンの法則
作用・反作用の法則
- ^ 粒子は流体の小さな塊として考えているため、実際にあるわけではない。このような粒子のことを流体粒子と呼ぶ。
- ^ 波面に平行で有限な面を考え、その面Aを単位時間に通過する流体の体積のことを指す。体積速度をUとして、粒子の変位速度をuとすると、U=uAである。
- ^ 崔 博坤 、 原田 久志 、興津 健二、榎本 尚也 編著「音響バブルとそのケミストリー」、コロナ社、2012/11/08発行、ISBN:978-4-339-01327-6
「楽器の物理学」 N・H・フレッチャー/T・D・ロッシング[著]岸憲史/久保田秀美/吉川茂[訳] 丸善出版
「新版 音響用語辞典」 日本音響学会 編 コロナ社
「新音響・音声工学」 古井貞煕 著 近代科学者
「音響バブルとそのケミストリー」 崔 博坤 、 原田 久志 、興津 健二、榎本 尚也 編著 コロナ社