利用者:Ttuku/保管所
原子力発電(げんしりょくはつでん)とは、原子炉内で原子核反応時に生成されるエネルギーで水蒸気を発生させ、タービン発電機を駆動して行う発電を指す。ここでは地上の核分裂を利用した主に商業用の原子力発電について説明する。
原理
[編集]原子核反応は核分裂反応と核融合反応の2種類の反応に大別する事が出来る。しかし、核融合反応の利用は実用段階にはなく、現在原子力エネルギーとして実用化されているのは核分裂反応のみである。そのため単に原子力発電と言う場合には核分裂反応時に生成されるエネルギーを元にした発電方法を指す。
原子力発電の仕組みを簡単に表現すると、核燃料を燃料として核分裂反応を起こし、発生する熱を使って水を沸騰させ、その蒸気で蒸気タービンを回す事で発電機を回して発電していると言える。火力発電の場合は石油や石炭、液化天然ガスといった化石燃料を燃料として熱を作り出して蒸気を発生させ、その蒸気で蒸気タービンを回す事で発電機を回して発電を行っている。つまり、原子力発電と火力発電は、発生した蒸気でタービンを回し発電機で発電するという点で、同じ仕組みを利用していると言える。このような蒸気でタービン発電機を回転させ、電力へ変換する発電方法を汽力発電と言う。
ただ、火力発電と原子力発電ではタービンを回すまでの過程は大きく異なり、またタービンの形式等も異なる。火力発電所との詳細な相違点については後述する。
核分裂反応
[編集]原子力発電は先述した通り、核分裂反応を利用した発電である。核分裂反応とは、何らかの要因で中性子を捕捉した原子が2つないしそれ以上に分裂する事である。ウラン235の中性子吸収に起因する核分裂反応を例に取ると、以下の様に記述する事が出来る。
つまり、ウラン235の核分裂の結果、核分裂片以外にも2~3個の中性子が発生するのである。この核分裂反応で発生した中性子は、他のウラン235に吸収され順々に核分裂反応が起こっていくことになる。この反応を核分裂連鎖反応と言い、連鎖反応の進展程度を示す増倍係数 が1.0以下の状態を未臨界、1.0の状態を臨界、1.0以上の状態を超臨界と言う。尚、中性子を吸収したウラン235は必ず核分裂を起こす訳ではなく、15%程度の確率でγ線を放出し、ウラン236のまま基底状態に陥る事がある。
また、核分裂反応時は反応前の質量よりも反応後の質量の方が小さくなる。この質量差がE=mc²の関係式に基づき、膨大なエネルギーへと変わっている。このエネルギーの殆どは熱エネルギーへと変わり、原子力発電ではこの熱エネルギーを元に発電するのである。核燃料中からの熱除去及び発電のプロセスに必要な要素が冷却材である。
核分裂反応で発生する中性子は平均エネルギー約1MeVであり、高速中性子と呼ばれる。熱中性子炉では高速中性子を核分裂反応を起こし易い、平均エネルギー約0.05eVの熱中性子と呼ばれる状態まで減速させる必要がある。減速は中性子と軽い原子核との弾性衝突により行われ、この目的を果たすために必要な要素が減速材である。
尚、核分裂反応の結果発生する中性子の大半は核分裂と同時に発生する即発中性子である。しかし、核分裂片の中には崩壊の途中で中性子を発する物があり、これは遅発中性子と呼ばれる。遅発中性子は原子炉内の全中性子の0.65%を占めるのみではあるが、遅発中性子がある事により外乱等に対する制御がし易くなっている。
プラント構成要素
[編集]原子力発電用原子炉には様々な炉型が存在するが、ここでは世界の発電用原子炉の内、電気出力比で8割以上を占める軽水炉の中でもより構造が簡素な沸騰水型原子炉を使用したプラントを中心に、構成要素を説明する。他の原子炉を利用したプラントの場合は構成が異なるという点に留意。
プラントを構成する機器は大きく分けて2つに分ける事が出来る。蒸気を発生させる原子炉系の機器と、この蒸気によりタービン発電機を回して電力を発生させる機器、この2つである。
原子炉建屋
[編集]原子炉系機器はこの原子炉建屋内に設置される。原子炉建屋内に設置される具体的な機器としては原子炉格納容器、原子炉圧力容器、非常用炉心冷却装置、熱交換器、非常用ディーゼル発電設備、燃料貯蔵プール、機器仮置プール等が挙げられる。
建屋は鉄筋コンクリート構造であり、事故時は2次格納施設として放射性物質の封じ込めを行う。通常運転時も内部は負圧に保たれており放射性物質の漏洩を防ぐように設計されている。
建屋内の構造は原子炉圧力容器を中心にこれを原子炉格納容器が囲み、その外周りに補機類が配置されている。非常用炉心冷却系設備は最下層に配置され、非常用ディーゼル発電機も下層階に設置される。建屋上部にはプール類、クレーン装置、非常用ガス処理系が配置される。平面形状はほぼ正方形になる。
原子炉格納容器
[編集]原子炉格納容器は事故時に圧力障壁となると共に、放射性物質の放散を防止するために設けられる施設である。この目的を達するために通常は鋼で作られている。また、作業員の被曝防止のために格納容器の外周には厚さ約2mのコンクリート製生体遮蔽壁が設置されている。
沸騰水型原子炉の原子炉格納容器は原子炉圧力容器を囲むドライウェルと下層に位置する圧力抑制室の2つの部分に大きく分かれている。圧力抑制室には事故時に発生した蒸気を冷却し凝縮させるためのプールが設置されている。
原子炉圧力容器
[編集]原子炉圧力容器は炉心を収容する容器である。内部には燃料棒、制御棒、気水分離器、蒸気乾燥器等が収容されている。原子炉圧力容器本体は縦置円筒型の容器である。使用材料は低合金鋼で内面は基本的にステンレス鋼、又はニッケル基合金の溶接肉盛で被覆されている。
原子炉圧力容器には主蒸気出口ノズル、原子炉冷却材再循環系配管、高圧炉心注水ノズル、低圧注入ノズル、圧力容器頂部スプレイノズル、各種計装ノズル等多くの配管などが溶接で取り付けられている。
沸騰水型原子炉の炉心には燃料集合体と十字型制御棒が正方格子状に配列されている。燃料集合体は燃料被覆管に装荷した燃料棒を複数本束ねた物である。燃料被覆管の材質は沸騰水型原子炉の場合はジルカロイ-2である。燃料集合体は沸騰水型原子炉の場合は、燃料棒74本と内部を軽水が流れるウォーターロッド2本を9行9列に配列し、これを1つの燃料集合体としている。
燃料棒には核燃料が封入される。沸騰水型原子炉では核燃料として二酸化ウランペレットが使用されるため、これを燃料被覆管に封入した物が燃料棒と呼ばれる事になる。ペレット中には核分裂性物質であるウラン235が3%程度に濃縮された物が含まれており、これが核分裂連鎖反応の形成を担う。ただ、ペレット内のウランの大部分は直接核分裂連鎖反応に寄与する事は無いウラン238である。また、燃料棒上部には核分裂反応に伴いペレットから放出される、核分裂生成ガスを収容するためにプレナムが設けられている。
沸騰水型原子炉の十字型の制御棒は4本の燃料集合体の中央に配置されている。制御棒の材質は反応度制御材としてボロンカーバイト又はハフニウム、そして構造材としてステンレスが用いられる。制御棒の挿入方向は下部からであり、制御棒駆動機構には水圧駆動ピストン型の物を採用している。
気水分離器はシュラウドヘッド上部に多数の気水分離器ユニットを平行に並べた物である。使用材料としてはステンレス鋼が用いられる。気水分離には遠心力効果を利用している。チューブ内を渦巻きながら上昇していく間に水と蒸気に分離されるのである。
蒸気乾燥器は気水分離器の上方に位置する。蒸気乾燥器を構成する各エレメントは平行波形板をまとめた物である。蒸気はステンレス鋼製波形板の間を通る間に進行方向が何度も変わる事になる。方向変換毎に波形板の表面に当たり、湿気が除かれる仕組みである。
燃料プール
[編集]燃料プールは原子炉建屋最上階に設けられる。燃料プールは燃料プールゲートで原子炉ウェルと接続されている。燃料プールはステンレスのライナ張りとなっており、燃料はプール底に固定されている使用済燃料貯蔵ラックに収納される。使用済燃料貯蔵ラックはボロン添加ステンレス鋼で作られている。燃料の収納配列は中性子実効増倍率が0.95以下となるように設計されており、臨界状態に至らないようになっている。
燃料プールは十分な深さの水で満たされており、作業中の放射線防護及び燃料の冷却を可能としている。燃料プール水の水質維持と冷却を専門に行う系統として燃料プール冷却浄化系が設けられている。この系統による冷却によってプール水温は通常時約50℃以下に抑えられている。また、配管破断等の事故による水の流出を抑えるために、配管は燃料の高さ以下には設けられていない。
原子炉を挟んで燃料プールと正対する位置に設けられているのが機器仮置プールである。燃料交換時等に原子炉圧力容器から取り出された、蒸気乾燥器やシュラウドヘッド等を仮置するために設けられている。
タービン建屋
[編集]制御建屋
[編集]廃棄物処理建屋
[編集]サービス建屋
[編集]排気塔
[編集]プラント構成システム
[編集]原子炉建屋やタービン建屋内に配置される、沸騰水型原子炉を用いた原子力発電の実施に必要な系統を説明する。
1次冷却系
[編集]1次冷却系は炉心からの熱除去を行う系統である。沸騰水型原子炉の場合は原子炉圧力容器、原子炉冷却材再循環系、主蒸気系、給水系から構成される。
原子炉冷却材再循環系
[編集]原子炉冷却材再循環系は原子炉出力を炉心流量によって制御するために設けられる。改良型沸騰水型軽水炉の場合は圧力容器に直接インターナルポンプが取り付けられる形の再循環系となっており、単純化が指向されている。
主蒸気系
[編集]主蒸気系は原子炉圧力容器内で発生した蒸気をタービンへ導く系統である。蒸気を出来る限り減圧させずに、尚且つ湿分を除去する事が必要とされる。蒸気管は4本用意され、それぞれに複数の逃し安全弁も設けられている。各逃し安全弁には排気管が接続されており、その先は圧力抑制室に繋がっている。
給水系
[編集]給水系はタービン復水器から原子炉に送られてくる冷却材を圧力容器内の給水スパージャへ導くための配管系である。復水浄化装置や各種昇圧ポンプ、加熱器を経て冷却材は給水スパージャに到達する。尚、給水スパージャとは気水分離器で分離された高温の冷却材と給水系より送られて来る冷却材を均一に混合するために設置されている設備である。
非常用炉心冷却系
[編集]非常用炉心冷却系は工学的安全設備の1つである。冷却材喪失事故が発生した場合でも原子炉を安全に冷却するために設けられている。非常用炉心冷却系は多くの系統の冷却系、及び減圧系から成り立っている。以下は改良型沸騰水型軽水炉の非常用炉心冷却系の基本構成である。
低圧注水系
[編集]低圧注水系は後述する残留熱除去系の運転モードの1つであり、低圧時に大容量の冷却水を注水する系統である。圧力抑制室内のプール水を取水して炉心シュラウド外側へ注水する。独立した複数の系統構成となっている。
高圧炉心注水系
[編集]高圧時に炉心に冷却水を注水する系統である。水源は復水貯蔵槽及び圧力抑制室内プールである。注水は炉心シュラウド内側、燃料集合体上部へ行う。通常、独立2系統からの構成となっている。
原子炉隔離時冷却系
[編集]主蒸気隔離弁が閉鎖し、原子炉が隔離された高圧時にも冷却水を原子炉に供給して炉心の冷却を行うための系統である。水源は高圧炉心注水系と同じであるが注水は炉心シュラウド外側に行われる。本系統は他の系統と異なり、電源を使用せずに原子炉蒸気により駆動するタービン駆動ポンプで構成される。
自動減圧系
[編集]先述の主蒸気管に設置されている複数の逃し安全弁から構成される。原子炉内の蒸気を圧力抑制室へ逃す事で原子炉内圧力を低圧注水系による注水が可能となる圧力まで低下させる。
原子炉格納施設
[編集]事故によって炉心から核分裂生成物が放出された場合にも環境への漏洩を抑制するために設けられた工学的安全設備が原子炉格納施設である。原子炉格納施設は1次格納施設及び2次格納施設から構成される。1次格納施設は原子炉格納容器と原子炉格納容器補助系としての格納容器スプレイ冷却系、可燃性ガス濃度制御系から成り立つ。2次格納施設は原子炉建屋及び非常用ガス処理系等から成り立つ。
格納容器スプレイ冷却系
[編集]格納容器スプレイ冷却系は、後述する残留熱除去系の運転モードの1つである。完全に独立な3系統から構成される。格納容器スプレイ冷却系が設置されている目的は原子炉格納容器の圧力、温度が設計最高温度を超える事を防止するためである。また、原子炉格納容器内に浮遊した放射性ヨウ素を除去する機能も有する。水源としては圧力抑制プール水を使用する。熱交換器で冷却後にドライウェル及び圧力抑制室に散水する。
可燃性ガス濃度制御系
[編集]可燃性ガス濃度制御系は、格納容器内での水素ガス及び酸素ガスの急激な燃焼を防ぐために設けられており、独立2系統設置されている。事故時にはジルコニウム-水反応や放射線分解により水素、酸素ガスが発生する事がある。これらのガスをブロワによって吸気し、再結合器で再結合させた後に冷却凝縮させ、水となった物を圧力抑制室へ戻すのである。
不活性ガス系
[編集]工学的安全設備として設けられている訳ではないが原子炉格納容器の健全性の維持に必要な系統が不活性ガス系である。通常運転時の酸素濃度の上昇を抑制するために窒素ガスで置換する機能を担っている。
非常用ガス処理系
[編集]1次格納施設である原子炉格納容器より漏洩した、核分裂生成物を外部に放出させないために設けられており、2系統設置されている。湿分除去装置、高性能粒子フィルタ、ヨウ素用フィルタ等から構成されている。建屋内を負圧に保ちつつ、建屋内空気を処理する能力を有している。
原子炉補助系
[編集]原子炉補助系はホウ酸水注水系、残留熱除去系、原子炉冷却材浄化系、原子炉補機冷却系から構成されている。尚、原子炉隔離時冷却系は改良型沸騰水型軽水炉では非常用炉心冷却系に分類されているが、沸騰水型原子炉の場合は原子炉補助系として原子炉隔離時冷却系、若しくは非常用復水器系が設置されている。
ホウ酸水注入系
[編集]残留熱除去系
[編集]原子炉冷却材浄化系
[編集]原子炉補機冷却系
[編集]火力発電所との差異
[編集]火力発電プラントとの、蒸気発生過程後の主な違いは以下の通りである。
蒸気
[編集]タービンを回す蒸気が原子力発電所では約284度、6.8MPa[1]であり、石炭火力発電所の蒸気の約600度、25MPa[1]よりも温度、圧力が低く設計されている。この理由は、核燃料棒の被覆に使われているジルコニウムが比較的高温に弱いために[2]一次冷却水を高温には出来ないためである。また、火力発電所では超臨界流体である超臨界蒸気が使用されている。超臨界流体とは、液体の性質と気体の性質を持った非常に濃厚な蒸気であり、熱を効率良く運ぶことが出来るが高温高圧状態が必要なため、原子力発電ではこれを利用することは現在は出来ない。これらの理由から一般的な火力発電所の熱効率は約47%程度[3]であるのに対し、21世紀初頭現在の原子力発電における熱効率は約30%程度である[4]。尚、冷却材に超臨界流体である超臨界圧軽水を用いた超臨界圧軽水冷却炉が現在研究中であり、これを原子力発電に用いれば熱効率は45%程度まで上昇すると考えられている[5]。
タービン
[編集]原子力用タービンの回転数は1500rpm又は1800rpmであるが、火力用タービンは3000rpm又は3600rpmである[6]。
脚注
[編集]- ^ a b ターボ機械協会 蒸気タービンとは? - 2010年12月8日閲覧
- ^ CiNii 国立情報学研究所 ジルコニウム合金の圧縮クリープ - 2010年11月3日閲覧
- ^ 東京電力 火力発電熱効率の向上 - 2010年10月30日閲覧
- ^ 東芝 原子力事業部 ABWR 改良型沸騰水型原子炉 - 2010年2月8日閲覧
- ^ ATOMICA 超臨界圧軽水冷却炉 - 2011年2月8日閲覧
- ^ 東芝原子力事業部 模型で学ぶ原子力 - 2010年10月31日閲覧