利用者:Tomos/学会との連携(草案)
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概要
[編集]学術研究の専門家にウィキペディアにもっと参加・協力してもらえる方法のひとつとして、ウィキペディアに掲載できるような記事を執筆し、学会で査読をしてもらった上で投稿してもらう、という仕組みを検討しています。このページはその解説です。
経緯
[編集]直接のきっかけはウィキメディア・カンファレンス・ジャパン2009の12月のミーティングでした。
- もう少し学者・研究者からの協力を得られるといいのではないかという話が出ました。
- ただ、この折には、学者を対象にする執筆ワークショップの開催が主な話題でした。どういうワークショップを開催するとよいか(対象とする層はどこか、新規投稿か既存記事編集か、など)、という議論が中心だったと思います。
- ワークショップは試してみる価値はあると思いましたが、同時に、2つの問題を感じました。
- モチベーションの問題:学者にとってはそもそもウィキペディアへの投稿やその他の形での参加は業績として評価されるないため、モチベーションが乏しいのではないか。
- 文化の問題:ウィキペディアの文化に慣れるのに時間がかかる。専門家であっても必ずしも敬意を払われるわけではなく、他の参加者との接し方次第では摩擦の種になることも十分考えられる。ネット上での他人とのやりとりに慣れていないと協力してもらうのも大変かも知れない。
- 初期の英語版でリーダー的な役割を果たしたラリー・サンガーは、ウィキペディアのライバルプロジェクトであるCitizendiumを立ち上げましたが、その際にもウィキペディアでは専門家への敬意が不十分であるという指摘をしていたことも気になっていました。学者の中には相当アクの強い人もいますし、専門家としては価値の高い仕事をしながらも人間的にはつきあっていて疲れるような人もいます。もちろん、ウィキペディアの側にもそういう人はいますから、そういう人の相手をしてまでウィキペディアに参加し続ける意義を見出せないと去っていく人もいるでしょう。
そこで、ひとつの解決策として、ウィキペディアへの直接参加ではなく、学会誌に展望論文などを投稿し、掲載されたものをウィキペディアにも投稿してもらう、というような仕組みが作れるといいのではないかと考えました。
ミーティングでの議論では、そこまでウィキペディアを評価し、ウィキペディアに協力的な学会があるかどうかは未知数、という辺りで話が終わったと思います。
その後、もう少し話が進みました。
- 情報社会学会という学会に話を持っていきました。運営に携わっている知人がいたこと、またその学会はウィキペディアのようなものもとりあげたり、評価する傾向にある、インターネットにも関わりの深い学会だったので、話を持ちかけてみたところ、よいアイディアだという意見でした。
- その後、その学会の運営に深く関わっている理事の人にも会う機会があったので話をしたところ、面白い企画なので運営会議にかけたい、ということでした。
- 運営会議では、よい企画なので進めるようにと承認がとれました。「展望・解説論文」として学会誌に掲載できるようなものを2本ほど試験的に記事の執筆を進め、全体のフローをまずは確立、来年度(2010年4月)以降、本格的に開始してはどうかという提案でした。
今後の展開
[編集]- うまく進むなら、試験的にひとつの学会と連携して実施するといいと思います。その際に必要になる準備作業などについては、次節以降に記しました。
- その経験を元に他の学会にも話を持ちかけてはどうかと思います。特定の学会とだけ連携する理由はないですし、インターネットを扱っているなどの理由でウィキペディアと連携することに意義を見出してくれる学会はおそらく複数あると思います。
- 学会のミッションが特定の観点・主張を展開することにある場合もあるので、どの学会でも歓迎というわけには行かないかも知れません。
- 最初から多くの学会を巻き込む形で展開してはどうか、その手伝いをしてもいいよ、ということを今回話をしてみた学会の側から言われているので、そういう可能性もあるかと思います。
企画の要旨
[編集]- 学者・研究者の方には、展望論文のように独自性の弱い、基本情報の紹介や整理といった点に力点をおいた論文を学会誌に査読してもらう。また、それがウィキペディア上に掲載され、改変されること、フリーライセンスを適用することに同意してもらう。
- 学会には、論文を査読、できれば学会誌に掲載してもらう。
- ウィキペディアンは掲載されたもの、あるいは査読をパスしたものを利用できる。
より細かなフローなど
[編集]- 学会誌へ提出
- 投稿規程は別途用意されている。投稿資格が学会員に限定されること、投稿料がかかることなどは恐らく他の論文投稿と同様。
- 編集部からウィキペディアンへ回覧・査読依頼
- 形式上の要件・ウィキペディアの方針に関わる要件についてウィキペディアンがコメント
- 具体的には、おそらく、中立性やフォーマットに関わる部分が中心
- 編集部から学会の査読担当者へ回覧
- 査読担当者が査読
- 受理・書き直し・却下
- 掲載・発行
- ウィキペディアにも掲載
実現までに必要な作業・決定事項
[編集]1.ウィキペディアン側として求める要件の特定・説明
- 中立性の説明
- 独自研究の禁止や信頼できる情報源を典拠とするという原則の扱いをどう適用するか。
- ライセンス(デュアルライセンスにするか否か、ウィキペディア上での運用も含め)をどうするか。
- 用語表記やかなづかい、タイトルなどを変更することになるが、その点についての説明
- 分割などの際の履歴の扱いについての説明(特にGFDLの場合)
- 表記や文献参照のフォーマット、その他の点について
- ウィキペディアのガイドラインと学会誌のガイドラインのズレをどう扱うか
- 自説、自著作の紹介をすることと中立性との兼ね合いをどう考えるか
- 権利侵害など、法的な側面についての基準をすりあわせる。
- 学術論文上のプライバシーの扱いや引用の基準がそのままウィキペディアに適用されるわけではない可能性があること、学術誌に比べてウィキペディアは広く参照されやすいこと、削除の議論の際に「安全側に倒す」場合があること、などを勘案する必要がありそう。
2.審査フローのデザイン
- ウィキペディア上で、例えば利用者ページのサブページなどでウィキペディアンがウィキペディア側として求める要件を満たしているかどうかをコメントすることができるか?
- (事前に公開されていない文章のみを受け付けるという原則がある学会誌の場合はだめかも知れない。)
- だめだとすると、査読のために特定少数のウィキペディアンが非公開の場でコメントするMLなどを設けるか? その場合、誰がコメントを引き受けられるか?
3.投稿手順の具体化
- 学会に学会名義でアカウントを作成してもらってそこから投稿してもらうのがよいのか?(そうすると履歴上は権利者が学会であることがわかりやすくなる)
- 著作権者は学会、人格権者は著者、というのがひとつの典型的な構図だと思われるが、それを履歴上はどう扱うべきか?
- ウィキペディアン側が投稿するのでよいのか?
- その場合にどのような注記をつけるか?
- その他につけるべきテンプレがあるか?
- 学会誌に掲載せず、学会のアカウントから直接ウィキペディアに投稿するだけ、というのもありか?
4.案内資料の作成と広報
- 企画の説明や投稿の呼びかけ
- 投稿規程の作成
- ライセンスやその運用についての説明・同意を求める文書の作成
- 免責事項についての説明・同意を求める文書の作成
5.実施期間や評価基準、評価のタイミングの決定(必要なら)
考えどころ
[編集]比較的難しい選択を迫られると感じた幾つかの点と、それについての考えは以下の通りです。
ウィキペディアの記事を査読にかけてもらうことはできるか?
[編集]幾つかの点で難しいと思います。
- 学術的には第一著者と第二著者、など著者の順番は意味を持っていますが、ウィキペディアではそういう考え方がなく、扱いがやや難しい。
- 査読は執筆に比べて学者の業績になる度合いが低い。
- 査読というのはそもそもそんなに堅牢な制度ではないので、意図的に虚偽を混ぜ込んだものを見つけられる可能性はそれほど高くない。ソーカル事件とか、Alex Halavaisの実験みたいなのに巻き込まれるのは学会側はきっと嫌。
- ライセンス上の課題がやや複雑になる(免責条項の扱い、侵害物がまぎれている可能性、なども含め)
- 多くの学会誌は掲載論文について権利の譲渡を求めるが、ウィキペディアの記事についてはこれに応じることはできない場合がほとんど。
- 既に公表されている文章を投稿として受け付けないという規定に反することの扱いも難しい。
- ウィキペディアの記事中に著作権侵害にあたる文章が紛れ込んでいないかどうかをチェックするかどうかも要検討事項になりそう。
こうした点について、特例扱いにしてもらったり、現実的な妥協点を見つけることは不可能でなく、究極的には学会次第ではあるので、お断りする必要まではないと思います。ただ、最初から持ちかける話としては少し準備が複雑になり過ぎると思います。
独自研究禁止との関係は?
[編集]- データに基づく独自の発見や自説の主張などは、ウィキペディアが求めている百科事典のあり方と乖離し過ぎるので望ましくない。
- 査読を経た論文なので、ウィキペディアの方針的には「信頼できる情報源」そのものに相当するということになるかも知れない。ただ、査読論文の中には独自の支持者の少ない説を唱えるものもあるため、ウィキペディアの記事としては使いにくい。
- 研究動向や基本的な情報の整理・紹介を主に行うような展望論文、それに近い解説記事の類はウィキペディアと相性がよい。
- つまり、中立性の方針を守ってもらうことが重要になる。
- 先行研究が乏しい場合や、先行研究を通じた定説の確立がされていない場合には、学説や事実関係の整理の仕方にもどうしても独自性が入ることになる。こういう整理は、他の人が検証できない情報だが、査読を経ているので全く信頼できないというわけでもなく、といって定説に比べて信頼性が高いとは言えない。これをどう扱うのがウィキペディアによって最適かは判断が難しい。定説の紹介と、よく検証されている事実関係の整理にとどめてもらうことも考えられるが、著作物としては混乱している学説の整理や、それまで唱えられていないが説得力がある事実関係の整理の方に価値があるとされる傾向もあるため、執筆・投稿する学者側のモチベーションを下げすぎるのも心配。
既存の記事との関係は?
[編集]- 簡単なのはまだ記事がないところへの新規投稿
- 既存記事への上書き投稿用の文章でもよいかも。その場合は、ウィキペディアに記載されている内容がスタブであるなど、内容を継承しなくて済むことが重要になる。