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利用者:Tomos/名誉毀損関連ガイドライン草稿 概論

以下は、未整理のメモです。今のところ実用に耐えるものにはなっていません。

名誉棄損に詳しい方、調査に基づいて編集して下さる方は歓迎です。

一定の質が達成できれば、正式ガイドライン化へ向けてコミュニティの合意などをとりつけて下さる方も歓迎です。

正式なガイドラインとしては採用されず、このページに留まって、ひとつの見方として議論で参照されることがある、ということでもよいように初版の執筆・投稿者は考えています。


Tomos 2007年7月31日 (火) 11:41 (UTC)




名誉とは

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Q. 名誉毀損というのは、他人のプライドを傷つけるような言論を全て含むのでしょうか?

通説によれば、名誉毀損とは人の社会的な評判を低下させることで、他人の自尊心が傷つくかどうかは基準になりません。

この説によれば、本人のプライドを傷付けるような文章であってもそれによって社会的評判が低下しないのであれば名誉毀損にはなりません。逆に、社会的な評判が低下すれば、本人のプライドが傷ついていなくても名誉毀損となります。

最高裁四五年一二月一八日判決

但し、侮辱については 東京地裁平成2年7月16日 また http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/032834D2A8974AB849256A850030AA10.pdf


ただし、これは他人のプライドを傷つけることについて法律が何も考慮しないというわけではありません。社会的な評判が低下した場合に生じる精神的な損害は、名誉毀損の訴訟で賠償額を定める際に考慮されます。


例えば、いわゆる動物病院訴訟では、地裁、高裁ともに精神的苦痛を認めています。 H14. 6.26 東京地方裁判所 H14.12.25 東京高等裁判所 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C3285B90D0EFA50849256CB70005EBAD.pdf http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/2075f93e3210745849256bed0030f3ef.pdf

また、名誉毀損は「公然と」行われる言論に適用されるものとされています。1対1のメールのやりとりには関係がありません。

過度に攻撃的な言論などによって名誉感情を傷つけることが法的に問題にならないわけではありません。それは名誉毀損とは別の問題なので、ここでは扱いません。

名誉感情毀損について、地裁判決でその違法性阻却事由を述べたもの(名誉毀損における論評の扱いと同じ条件) http://www.jca.apc.org/toudai-shokuren/abeyasuda-meiyo-tisai/hannketudai4hanndann.html


Q.  ある人物を扱った文章を読んで、読者の一人だけでも、その人物について評価を下方修正したら、それで名誉毀損になってしまうのでしょうか?

裁判所は、「普通人の注意と読み方」を基準に、文章の効果を判断するとしています。そこで、例えば「Aさんは博愛主義者だと書いたら、博愛主義者のことを軽蔑する読者がこの文章を読んでAさんについての評判を低下させることになる」というようなことを心配する必要はないでしょう。

どれだけ悪意が込められてた罵詈雑言でも、例えばそれが罵詈雑言を書いた人にしかわからない独自の新言語で書かれていたりした場合には、普通人の注意と読み方では何もわかりませんから、同じく名誉毀損にはならないでしょう。

普通人の注意と読み方がどのようなものであるかについては、基本的に裁判所が判断することになります。

また、名誉毀損の場合、実際に社会的評判が低下することは必要ありません。社会的評判を低下させる効果を持つ文章であれば、その効果が何かの偶然で全く発揮されなかったとしても、名誉毀損が成立します。

Q.  社会的評価の低下って誰がどうやって測るのでしょうか?

名誉毀損が成立するかどうかを考える文脈においては、実際に測定されるわけではありません。「普通人の注意と読み方」に照らして、その文章がその人物の社会的評判が低下するものであるかどうかを判断しているためです。

ただし、損害賠償額の算定の際には、被害の様態などが考慮される例は見られます。

Q. ごく一部の人にしかわからないような言論や、ごく一部の人の間でしか相手の名誉を低下させないような言論であれば、名誉毀損にはならないと考えてよいでしょうか?

ごく一部の人にしかわからないような言論であっても、名誉毀損にならないというわけではありません。

限定された範囲の受け手にしかわからないような表現であっても、名誉毀損が成り立つのか?

石に泳ぐ魚事件(原審、控訴審、上告審) http://www.kyoto-su.ac.jp/~suga/hanrei/11-2.html

これはモデル小説ですが、名誉毀損とされました。

モデルの氏名などは公開されておらず、モデルとなった人を知らない人の間での評判には影響を与えないのですが、 モデルとなった人を知っている人が読めばそれがその人について書いてあるとわかることから、 そうした人々の間での評判を落とすことはありうるような作品でした。 そのような限定された範囲であっても、 不特定多数の人の間での評判を落とすものであるから、名誉毀損が成り立つと裁判しょは判断しています。

他にモデル小説を扱ったものとして、女子高生・OL連続誘拐殺人事件があります。

http://www.translan.com/jucc/precedent-2000-10-25a.html


Q. 正当な批判でも名誉毀損になるのですか?

名誉毀損にはなりますが場合によっては、その名誉毀損行為の「違法性が棄却される」と判断される可能性があります。

違法性がないとされるのは、当該の文章が次の3つの条件を全て満たした場合です。

  • 文章は公共の利害に関わる事柄を扱っている
  • 文章は公共の福祉を目的として書かれている
  • 文中で指摘した事柄が、真実であるか、真実であると信じるに足りる相当の理由がある

違法性が棄却された場合には、批判を記した人は、その名誉毀損に伴う損害を賠償する責任なども負わなくなります。

最高裁 昭和41年6月23日判決 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/1B67246B4085A08E49256A8500312430.pdf

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=28002&hanreiKbn=01

Q. 穏当な表現で真実を指摘するだけなら、名誉毀損にならないのではないでしょうか?

そうとも限りません。これは、名誉毀損の違法性を判断する際には、「公共の利害に関わる事実」を扱っていて「専ら公益を図る目的」であるかどうかが考慮されるためです。例えば、芸能人のスキャンダルなどの場合、それを淡々と紹介するだけであっても、それは公共の利害に関わる事実ではないとして名誉毀損になることがあります。

Q. つまり、他人の社会的な評判を低下させるようなことは何も書けないということですか?

他人の社会的な評判を低下させるような文章であっても、次の3つの条件を満たしていればよいとされます。

1.公共の利害に関わる事実を述べていること 2.専ら公益を図る目的で書いていること 3.内容が真実であることが証明できるか、真実であると信じる相当の理由があると証明できること

これらの条件が全て満たされた場合には、名誉毀損だけれども違法ではない、という状態になります。そこで、他人の名誉を低下させても、それについて書き手は法的責任をとらなくてよいことになります。

名誉毀損をめぐる裁判では、通常これら3つの条件が成り立っているかどうかが争点になりますから、これらについてよく理解しておくことが重要だと考えられます。

対象となる人の特徴

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Q. 団体を相手とした場合には名誉毀損は成り立たないのでは?

企業などの団体の評判を低下させた場合には名誉毀損が成り立ちます。 「日本人」「最近の若者」など単に共通の特性でくくられる人一般のみを対象とした場合には名誉毀損は成り立ちません。

ただし、「Aさんの家族」という個人よりは広いが団体というほどでもない範囲を対象とした名誉毀損が認められたことがあります。


「市内において農業を営む者であり,ほうれん草,にんじん,小松菜等の野菜等を生産,販売して生計を立てている」原告(複数)の名誉毀損が認められたケースもあります。 平成15年10月16日 最高裁判所 (ダイオキシン報道) http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=25165&hanreiKbn=01 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/F5785C44A23E439C49256E8300059668.pdf


Q. 人種差別発言や性差別発言は名誉毀損になりますか?

「日本人は議論が下手だ」という類の、批判対象が不特定多数である言論なら、偏見や蔑視を表明する言論であっても、 それ自体としては名誉毀損になることはありません。これは女性蔑視、高齢者差別、人種差別などについても同様です。


Q. 有罪が確定した犯罪者に対する名誉毀損は成り立たないのでは?

そうとも限りません。 H09.05.27 第三小法廷・判決 平成8(オ)220

では、名誉毀損の被害を受けた被害者が後に有罪判決を受けたことは、その判決以前にあった報道による 名誉毀損を無効にするわけではないとしています。

Q. 死者が対象であれば名誉毀損は成り立たないのでは?

死者に対する名誉毀損を認めた名誉毀損はないようですが、学説上は認めるべきだという説もあるそうです。

また、死者の名誉を毀損するような言論によって遺族が故人を悼む感情を乱したことが違法とされた例がありますので、 死者に対する名誉毀損にあたる言論は、実質的に違法になっている部分もあります。

Q. 政治家や著名人を対象とした批判は名誉毀損にはならないのでは?

政治家の中でも公的選挙の候補者、官僚、議員などは「公人」とされており、名誉毀損が成り立ちにくくはなっていますが、何を言っても構わないわけではありません。

米国法上は、いわゆる現実的悪意の法理と呼ばれるものがあり、悪意を持って名誉毀損を行った場合や、真実がどうであるかについて無関心な態度で名誉毀損を行った場合以外は、公人に対する批判を問題にしないようです。

日本ではこのような法理の採用を主張して敗訴したケースがいくつか存在しています。

政治家相手であれば何でも許されるというわけではありません。

  • 昭和六一年六月一一日 最高裁判決*>
  • 平成19年01月17日 東京地方裁判所

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070126164913.pdf

特に4 責任原因についてのまとめ (2) を参照。

平成18年06月07日 東京地裁 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060704095124.pdf http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=04&hanreiNo=33232&hanreiKbn=03 市会議員が自分のウェブサイトで述べた内容が名誉毀損となったケース

平成13年11月19日 名古屋高裁 http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=3326&hanreiKbn=03 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/504FA18D489427FD49256B580017836C.pdf 町議会議員の現職にあった控訴人が,婦人 浴場に侵入し,浴槽の湯栓を抜いたという事実は,公職である町議会議員の非違 行為に関するものであるから,公共の利害に関する事実に係わるものということが でき,被控訴人がそれを公言した目的も,専ら公益を図るためであったと認められ る。したがって,被控訴人の言動のうち控訴人に関する部分は,違法性を欠き,名 誉毀損は成立しないというべきである。


http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=8296&hanreiKbn=03 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/581962A6A9738DC04925710700488904.pdf 平成17年11月22日 鹿児島地裁 (村の議会と暴力団のつながりを指摘する発言の名誉毀損)


Q. 相手を特定せずに批判するなら名誉毀損にならないのでは?

そうでもありません。

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=33028&hanreiKbn=03 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060519131845.pdf 平成18年04月11日 大阪地裁

(回転寿司店における代替ネタの使用と不正表示をとりあげたもの。)

(原告チェーンが特に名指しで批判されたわけではないが、にもかかわらず信用毀損が成立するかについて、つぎのような判断が示された。)

「証拠(甲4)によれば,本件記事の中には,原告の名称は記載されておらず,また代替ネタを使用している業者として原告が特定され,あるいはこれを推知できるような記載はない。もっとも「全国でチェーン展開!大手A寿司」が取り上げられているが,全国に約290のチェーン店があるとも記載されており,店舗数の異なる原告を示すものではない。したがって,本件記事が対象としているのは原告であるとまで特定できない。

原告は,その売上高が寿司業界で第4位であった企業であり,かつその上位4社については100円回転寿司店の中では屈指の企業であるとして,その業界内地位からすれば,本件記事が原告を対象としたものではなくとも,本件記事の読者をして,原告を想起させると主張する。

しかし,本件記事が100円回転寿司店だけでなく回転寿司店全体を対象としていることは明らかであるところ,原告の店舗数が127店舗にすぎないことと全国で5000店を超える回転寿司店が存在すること(明らかに争わないものと認める。)とを対比するならば,本件記事を通常の読み方と注意で読んだ一般読者が原告を想定するとは認めることはできない。また,100円回転寿司店だけをみても,証拠(甲11)によれば,「すし・回転すし・宅配すし」部門売上高の上位7社はいずれも回転寿司を経営する企業であり,かつ100円均一の業態を採用しており(ただし,うち1社は100円均一以外の業態も併用),原告はその中で第4位であるが,一方では,被告のシェアは1.8パーセントであるところ,1位から3位までの業者のシェアは4.4パーセント,2.6パーセント,1.9パーセントであることも認められ,この事実に照らせば,被告が100円回転寿司店の業界を代表する地位を占めるものとはいえない。何よりも,本件記事を通覧しても原告に焦点を当てているとの印象を受けるわけではないし,本件記事を読んだ一般読者が,原告を特定した上で,代替ネタを使用していると認識するようなものでもない。」