利用者:The Classical Symphony/sandbox1 ヴァイオリンソナタ第1番 (プロコフィエフ)
ヴァイオリン・ソナタ第1番 ヘ短調 作品80は、セルゲイ・プロコフィエフが1938年から1946年にかけて作曲した室内楽曲[1]。ヴァイオリン・ソナタ第2番ニ長調作品94bis (フルート・ソナタニ長調作品94の改作) より後に完成した[2]。
作曲の経緯
[編集]1938年の夏にヘンデルの音楽を聴いたことがきっかけとなり[2]、12月には第1楽章の冒頭を含むいくつかの動機がスケッチされた[1][3]。その後プロコフィエフは他の作品に専念したためスケッチを放置していたが[1][2]、恐らくヴァイオリニストのダヴィッド・オイストラフとの友情に触発され[2]、1946年、モスクワ西郊の村ニコリナ・ゴラに静養している間に再び作曲を開始した[2]。同年初頭から夏にかけての半年間で完成された。[1]完成直後にプロコフィエフはオイストラフとニコライ・ミャスコフスキーを招き、ピアノで試演している。[2][4]
初演とその後
[編集]オイストラフとピアニストのレフ・オボーリンは作曲者の監修の下で練習を重ね(Robinson, Zora)、1946年10月23日にモスクワ音楽院小ホールにて初演を行い、好評を博した(名曲)。プロコフィエフはこのソナタをオイストラフに献呈している。(名曲、Zora)
1947年にはこの作品に対してスターリン賞が与えられた。(名曲、Zora)
1953年のプロコフィエフの葬儀の際には、オイストラフのヴァイオリンとサムイル・フェインベルクのピアノで1,3楽章が演奏された。(Morrison)
曲の構成
[編集]プロコフィエフの数ある作品の中でも、最も憂鬱で情熱的な作品である。(Robinson, 373.)バロック時代の教会ソナタを意識した(名曲)緩-急-緩-急の4つの楽章からなり、プロコフィエフは「第2楽章への導入部のような厳粛な第1楽章、力強く吹き荒れる第2楽章、穏やかで優雅な第3楽章、複雑なリズムで書かれたテンポの速い第4楽章」(名曲)と解説している。演奏時間は約30分。
第1楽章 Andante assai
ヘ短調、自由な形式をとるが(名曲)、変形されたロンド形式とも解釈できる(Kaufman, 231)。
冒頭でピアノが4分の3拍子と4分の4拍子からなる主題をオクターブで呈示し、この重苦しい旋律は楽章の随所に挿入される。後半では、ピアノの和音の中弱音器を装着したヴァイオリンが音階的な速い走句を重ねてゆく。プロコフィエフはダヴィッド・オイストラフに対し、この旋律を「墓場にそよぐ風のように」弾くよう指示した。(名曲, 337.)
第2楽章 Allegro brusco
ハ長調、2分の2拍子。ソナタ形式をとり、同音連打の掛け合いが特徴的な第1主題と長いフレーズの第2主題からなる。
第3楽章Andante
ヘ長調、4分の4拍子。三部形式をとる。印象派の楽曲を思わせるピアノの伴奏の上で、弱音器をつけたヴァイオリンが主要主題を演奏する。中間部では8分の12拍子で短い音型をさまざまに発展させる。
第4楽章Allegrissimo - Andante assai, come prima
ヘ長調、三部形式。8分の5拍子、8分の7拍子、8分の8拍子からなる主要主題が反復される。中間部では哀調をおびたヴァイオリン旋律が中心となる。主部が回帰した後にヘ短調にて第1楽章後半の主題が再現し、結尾では第4楽章中間部の主題が回顧されて全体を締めくくる。
楽譜
[編集]1947年にはロンドンのASMP社よりヨーゼフ・シゲティの校訂による楽譜が、1951年にはソヴィエト国家音楽出版社からダヴィッド・オイストラフの校訂による楽譜が出版されている。
脚注
[編集]注釈
[編集]第4楽章のヴァイオリンの音階について、プロコフィエフは「見捨てられた墓を通り抜ける秋の夜風」と表現し、ショパンの変ロ短調ソナタと関連付けている。
シゲティはアメリカにおける初演を担当した。(Time、1948Jan 12.)
オイストラフは作曲者にフルート・ソナタをヴァイオリン・ソナタ第2番へ改作することを勧め、1944年にはピアニストのレフ・オボーリンと共にヴァイオリン版の初演を行っている。
出典
[編集]- ^ a b c d 伊藤恵子 (項目執筆)『最新名曲解説全集 第13巻 室内楽曲III』音楽之友社、1981年5月1日、335-337頁。
- ^ a b c d e f Robinson (2018). Sergei Prokofiev: A Biography (English Edition). Plunkett Lake Press. pp. 373
- ^ 最新名曲解説全集は「ヘンデルのヴァイオリン・ソナタ ニ長調からイメージを得て」としている。
- ^ Zora, Viktoria (2017-05-31). Sergei Prokofiev’s Violin Sonatas Op. 80 and 94bis: a historical and comparative study of manuscripts, early editions and interpretations by David Oistrakh and Joseph Szigeti. p. 173 .
参考文献
[編集]- 伊藤恵子(項目執筆)『最新名曲解説全集 第13巻 室内楽曲III』、音楽之友社、1981年5月1日、ISBN 4-276-01013-6。
- Harlow Robinson, Sergei Prokofiev: A Biography (English Edition), Plunkett Lake Press, December 2018, ASIN B07L9HWVB8 (Kindle).
- Kaufman, Rebecca Sue, Expanded tonality in the late chamber works of Sergei Prokofiev, University of Kansas, 1987.
- Simon Morrison (Editor) , Sergey Prokofiev and his world, Princeton University Press, 2008, ISBN 978-0-691-13895-4.
- Simon Morrison, The people's artist: Prokofiev soviet years, Oxford University Press, 2009, ISBN 978-0-19-518167-8.
- Victoria Zora, Sergei Prokofiev’s Violin Sonatas Op. 80 and 94bis: A historical and comparative study of manuscripts, early editions and interpretations by David Oistrakh and Joseph Szigeti, Doctoral thesis, Goldsmiths, University of London, http://research.gold.ac.uk/id/eprint/20535/ ( Accessed: 6 March 2021).