利用者:Sketch/理想の百科事典
以前にも書きましたが、私がウィキペディアに参加するきっかけとなったのはスラッシュドットの記事で、「ウィキペディアが1,000ページを突破した」というニュースを見てのことです。人によっては、検索などでウィキペディアを知り、しばらく使ってみてから編集をするようになった、という方もあるでしょうが、私が触れた頃には実用的といえる状態からはほど遠く、まず書くという形がウィキペディアに接するもっとも自然なあり方でした。そこで項目を書こうというときに、真っ先に頼りになったのはWikipedia:基本方針とガイドラインなどの基本的な文書群です。これらを真っ先に整備してくださった最初期の方々には心から感謝したいと思っています。
当時のWikipedia:基本方針とガイドラインは、次のような引用から始まりました。
ウィキペディア・プロジェクトのゴールは、1冊の百科事典を創り上げることです。それはフリーであるばかりでなく、本の厚さと情報の深さのどちらの意味でも、歴史上最大の百科事典となるのです。そしてウィキペディアは信頼される情報源として認められるはずです。 [1]
私はこの一文にクラクラと来ました。いわば「質量ともに史上最大の百科事典を作り上げる」というのがウィキペディアの目標だというのです。既存の百科事典に追いつくというのではなく、それよりもはるか彼方を目標とするというのです。
当時ウィキペディアに参加していた方は、大抵この文章を読んでいるはずです。そして、その胸の内に各人が理想とする「質量ともに最大の百科事典」像が浮かんだことだろうと思います。そこに浮かんだものは何であったのか。
ある人は、ウィキペディア#先行事例にあるとおり、H・G・ウェルズの小説や『銀河ヒッチハイク・ガイド』、メメックスなどを思い浮かべたかもしれません。あるいは、『月は無慈悲な夜の女王』に登場し、月世界中の書物を読み尽くしたコンピューター・マイクロフトや、テッド・ネルソンの提唱したザナドゥ・プロジェクトなどがありえるでしょうか。しかし、この時、クラクラとしながら私の心に浮かんだのは、『ドラえもん』に登場する『宇宙完全大百科』でした。
『宇宙完全大百科』は、てんとう虫コミックスドラえもん42巻などに登場します。ディスクに詰め込んでも星一つ分の大きさになり、軌道上に浮かべてあるほどの情報力を持つその事典に端末機から音声で質問をすると、「野比のび太(「ドラえもん」の世界におけるごく普通の一般人)の人物・生い立ち」「ある日ある学校のあるクラスで出された宿題の内容と答え」「ジャイアンの草野球チームが他のチームと対戦したときの記録」などが、場合によっては写真付きで表示されます。私がそのとき理想としたのは、こういったレベルまで網羅された百科事典でした。
現在では、そのレベルは達成できないことが分かっています。このレベルで個々人の情報を網羅することは法令に違反するからです。でも言葉を返せば、法令の範囲内であれば、ウィキペディアはこのレベルを目指してよいはずだ、と私は今でも思っています。
ウィキペディアで「些末」とも言える事項に詳細に説明を加えることについて、否定的な論調を時おり目にします。しかし、私は今述べたような理由から、その方が分かることについて精一杯詳しく書いてくださるのであれば、それは全く問題のないことだと思っています。「それよりも先に書くべき基本項目がある」という批判はあり得ますが、ウィキペディアは常に未完成です。遠い将来には全ての項目に充分な情報量が準備されるであろうという楽観論のもと動いています。それなら、始まってまだ数年の現段階で、少々凸凹に発展していったって、なんの問題も無いように思えるのです。
――もしかしたら、私が今編集している項目は、将来「宇宙完全大百科」や「銀河ヒッチハイク・ガイド」の一部になっているのかもしれない。心に「理想の百科事典」を抱きつつ、そう思いながらこれからも編集に関わっていけたらと思います。これは私の「理想の百科事典執筆者」像です。
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