この記事では正則関数の解析性(英: Analyticity of holomorphic functions)について述べる。複素解析において、複素1変数 z の複素数値関数 f は
- 点 a を中心としたある開円板の任意の点で微分可能であれば、この複素数値関数 f は点 a において正則であるとされる。
- もし a を中心としたある開円板で収束冪級数として展開できるのであれば、この複素数値関数 f は点 a において解析的であるとされる
- (これは収束半径が正であることを示唆する)
複素解析において最も重要な定理の一つが正則関数は解析的であるということである。この定理の系としては次のものが挙げられる。
- 2つの正則関数の領域の交わる部分にて、無限集合 S の任意の点で一致し集積点を伴う2つの正則関数は、この集合 S を含む2つの正則関数の領域のすべての連結開部分集合のすべての場所でも同様に一致するということを主張する一致の定理。
- 冪級数は無限回微分可能であるから正則関数もまた無限回微分可能であるという事実(これは、実微分可能関数の場合とは反対である)。
- 収束半径は常に中心 a から最も近い特異点までの距離であるという事実。もし特異点が存在しなければ(例えば関数 f が整関数である場合など)、収束半径は無限大となる。厳密に言えば、これは「正則関数は解析的である」という定理からの系ではなく、これはむしろその証明における副産物である。
- 複素平面には整関数になるような隆起函数が存在しない。特に、複素平面の任意の連結開部分集合上で定義される正則な隆起関数は存在しない。これは重要な複素多様体研究に重要な影響を与えており、1の分割の使用ができない理由となっている。一方で、1の分割はすべての実多様体上で使用可能なツールである。
オーギュスタン=ルイ・コーシーが最初に与えた議論はコーシーの積分公式およびその冪級数展開を用いている。
ここで D を a を中心とした開円板とし、f を D の閉包を含む開近傍の内部全域で微分可能であると仮定する。C を正の方向性を持つ(すなわち、反時計周りの)円であり、そしてD の境界であるとする。z は D 内の点であるとする。コーシーの積分公式から、次の式を得る。
積分和と微分和の交換はがある正の数 M によって C 上で境界づけられているということを見ることで正当化される。一方で C のすべての w に関して
ある正の数 r に関しても同様である。よって、C 上の次の式を得る。
ワイエルシュトラスのM判定法が C 上で一様に収束することを示すので、和と積分は交換可能である。
項 (z − a)n は積分変数 w に依存していないので、これはくくりだすことができ、次の式を得る。
そしてこれは z において望ましい冪級数の形式である。
係数を考慮すると
- 冪級数は項ごとの微分が可能なので、以上の議論を逆方向に適用すると
- この式は次を与える。
- これは導関数に関するコーシーの積分公式である。よって、上で得られた冪級数は ƒ のテイラー展開である。
- もし z が中心 a に ƒ の任意の特異点よりも近い任意の点である場合、この議論は成り立つ。よって、テイラー展開の収束半径は a と a から最も近い特異点の距離よりも小さくはならない(大きくもならない。これは冪級数が収束半径内部に特異点をもっていないためである)。
- 一致の定理の特別な場合は先述の注意より従う。2つの正則関数が a の(おそらくはかなり小さい)開近傍 U で一致している場合、2つの正則関数は開円板上 Bd(a) 上で一致する。ここで、 d は a と a から最も近い特異点までの距離である。