利用者:Sadmadjane/hostile
イギリス内務省による敵対的環境政策 (英: The UK Home Office hostile environment policy)、または単に敵対的環境政策(英: Hostile Environment Policy)は、在留許可証のない人々を「自発的に出国」させることを目的にして、彼らのイギリス滞在をできるだけ困難にするべく設計された、一連の行政・立法措置である[1][2][3][4][5]。この措置は、2012年、第1次キャメロン内閣下で最初に発表された[6]。敵対的環境政策は、イギリスへの移民数を2010年の保守党の選挙マニフェストで公約したレベルにまで減らすための戦略の一環として広く認識されていた[1][7][8]。
敵対的環境政策は、イギリスの歴史上最も過酷な移民政策の一つとして挙げられ、非人道的で、効果に乏しく、不法であると広く批判されている[9][10]。国際連合人権理事会は、敵対的環境政策がイギリス国内における外国人嫌悪を助長していると公式に述べたほか、平等と人権委員会は、本政策が2010年平等法に抵触していると指摘した[11][12]。
敵対的環境政策は、ウィンドラッシュ世代をはじめとするコモンウェルス市民が、イギリスに滞在する権利を保障されているにもかかわらず、その権利を証明できずに国外退去に追い込まれるという重大な問題を引き起こしている[13]。結果として、後述するウィンドラッシュ・スキャンダルにより、2018年4月29日にアンバー・ラッドが内務大臣を辞する事態となり、サジド・ジャヴィドが後任に任命された[14][15][16]。
名称の由来
[編集]2012年、当時内務大臣を務めていた保守党のテリーザ・メイが、敵対的環境政策を次のような言葉で紹介している:「目的は、ここイギリスにおいて、不法移民に対してまったく敵対的な環境を構築することにあります」[1]。2007年5月、当時の移民担当大臣であった労働党のリーアム・バーンが、諮問文書の発表にあたって、「敵対的環境」について次のように言及している:「我々は、この国において、違法にここにいる人々に対して、より敵対的な環境を作ろうと試みている」[17]。
敵対的環境政策
[編集]2013年、テリーザ・メイは、「深刻かつ不可逆な危害のリスクがない限り、先に国外退去させ、後から不服申し立てを聞く、という方式に移行するために、我々は不服申し立ての件数を増やす」と明言した[18][19]。
この政策には、他のEU諸国の市民であるホームレスを排除することも含まれていた.[2][20][21]。加えて、2014年移民法および2016年移民法の施行により、家主、国民保健サービス、慈善団体、コミュニティ・インタレスト・カンパニー、銀行は、IDチェックの履行を要求されるようになった[22][23][24][25][26][27][28]。
また、敵対的環境政策においては、「まず国外退去、訴えは後で聞く」の原則の下、在留許可の申請手続きをより複雑にしつつ、「ヴェイクン作戦」(Operation Vaken)の一環としての「国に帰れ」バン、エスニック・マイノリティーが利用する新聞・商店・慈善施設・宗教施設に広告を出すなどして、自発的に国外退去するよう促した[29][13][30][31]。
2018年、内務省は、内務省が難民申請を却下したことに対する異議申し立て裁判の75%において敗訴した[32]。フリーダム・フロム・トーチャーの最高責任者であるソーニャ・シーツは、以下のように述べている。
長く引き延ばされた法的手続きは、迫害から逃れてきた人々に対してのみならず、誰にとっても精神的な傷を与えるものです。強制的に連れ戻されれば拷問や死のリスクがあることを公平な裁判官に認められているにもかかわらず、内務省によって結局また最初から同じ説明の要求を別の上訴委員会の前で求められることは、破壊的な結果をもたらしかねません。……こうした訴えの必要性と人道性について、重大な疑問を投げかける必要があるでしょう。[32]
2018年のイギリス政府による検証では、内務省が移民規則322(5)[”注釈” 1]の規定に基づき、少なくとも300人の高技能移民(教師、医師、弁護士、エンジニア、IT専門家を含む)を国外退去させようとし、少なくとも87人に関してはそれに成功したことが明らかになった。イギリスに10年以上居住し、イギリスで生まれた子供がいる人々がその大半を占めていた。その多くは、イギリスを離れるまでに14日間しか与えられず、イギリスに帰国するためのビザを申請する資格もない状態に追い込まれたのである。検証によれば、移民規則322(5)に基づく決定の65%が上級審で覆され、司法による審査を申請した45%が受諾された(司法審査の28%は被告に有利な判決が下りた)。さらに、「複雑なケース」の32%が誤った判断を下していたことも判明した[35]。
批判
[編集]敵対的環境政策は、その不透明性を批判されており、本政策によって多くの不適切な国外退去の脅しが発されることになったほか、控訴院からは、その複雑性を称して「迷路のように入り組んでいる (Byzantine)」とされた[36][37][38][39][40][41][42]。
移民弁護士[”注釈” 2]で活動家のコリン・ヨーは、敵対的環境政策の効果をこのように記している:「搾取に対して極めて脆弱で、社会や福祉によるセーフティネットへのアクセス手段を持たない、外国籍、あるいはエスニックマイノリティの労働者および家族、という非合法な下層階級の創生。」[44]
2018年2月には、英国議会の議員が、敵対的環境政策に関する検証を要求した[45][46]。
同年12月、内務省による敵対的環境政策の遂行が、英国政府の他の部局によって支持され資金を供給されていた諸構想を失敗に追い込んでいたことが明らかになった.[47][48]
2020年9月の敵対的環境政策に関する公共政策研究所によるレポートは、敵対的環境政策は「多くの人々を貧困に追い込み、レイシズムと人種差別を助長し、イギリスで生活し労働する法的権利を持つ人々に誤って影響を与えた」としている[49]。
平等と人権委員会は、2020年11月にレポートを公表した。それによれば、内務省は、敵対的環境政策によって公共セクターの果たすべき平等義務を破ったほか、内務省は、最高幹部を含め、敵対的環境政策のネガティヴな結果を日常的に無視していた[50]。
警察
[編集]イギリスの45の域内警察のうち、半数以上が、犯罪被害者・目撃者の移民の詳細を移民法の執行のために内務省に譲り渡すことを認めており、否定したのは3つの域内警察だけだった[51]。
複数の重大犯罪(レイプを含む)の被害者が、自身の被害を通報したことにより逮捕される事案が複数存在したことが明らかになっている[52][53]。この状況に呼応すべく、難民の家庭内暴力問題に取り組む団体が連合して、Step Up Migrant Women Campaignが結成された[54]。
批判の最中、全国警察本部長会議は2018年12月に訓示を発した。訓示の内容は、「警察の根本原理は、何よりもまず、(犯罪を通報した人間を)被害者として扱うことでなくてはならない」と宣言し、内務省の移民取締りへの情報提供のために杓子定規に被害者の法的ステータスを確認することは避けるよう勧告するものだった。さらに訓示は、在留資格が無効であることが確認された場合「時期を鑑みて警察官が内務省のimmigration enforcementにコンタクトを取ることは全く適切である」としつつも、情報共有以上の処置が警察によって取られるべきではない、としている[55][56]。
注釈
[編集]- ^ Immigration Rules, paragraph 322 (5)。在留許可申請は本項に当てはまる場合、通常は却下されるべきである、ということを定めた包括条項[33]。以下が2018年8月27日段階での322(5)の条文。[34]
the undesirability of permitting the person concerned to remain in the United Kingdom in the light of his conduct (including convictions which do not fall within paragraph 322(1C), character or associations or the fact that he represents a threat to national security;
当該人物の行為(322(1C)に該当しない前科を含む)、性格、交際関係、および当該人物が国家の安全保障に対する脅威であるという事実、といった観点から、当該人物の英国への在留に懸念があり、許可することが望ましくない場合。
- ^ immigration lawyer。移民の在留資格申請などを補助する法律家のこと[43]。
出典
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