利用者:Omotecho/Sandbox/ユニオン美術家総覧
美術家総覧 (Union List of Artist Names=ULAN) は書籍版から発展したオンライン版の無料の美術家データベースとして、ゲティ研究所が運営する。時間軸は古代から現代にわたり地理的範囲は全世界を対象として、規格化した語彙 (en) を採用する固有のシステムを運用する。「作家名ユニオンリスト」として紹介されることもある[1]。
概要
[編集]2018年の統計では美術家30万件超に対して人名72万件を割り当て、付帯情報をまとめてある。美術家総覧、通称ULANにおける人名とは、実名、筆名、つづり違い、多言語の表記や改名 (例えば結婚前の旧姓) のすべてを指し、そのうち1件に「優先名」(preferred name) としてフラグを立てる。
構造は一覧表示形式を採用するシソーラスであって、件名索引作成のISOおよびNISO標準に準拠、階層構造に同値や連想関係を組んである。
ULANの記録は美術家に特化し、それぞれの美術家記録 (主題とも呼ぶ) に一意の識別用数値IDを割り当て、各人の国籍と並んで生没年とその場所 (わかる場合) も記載する[2]。リンク情報として美術家記録ごとに名前と関連美術家、データの入手先および特記事項を設けた。
芸術家は個人 (単独) または一緒に活動する個人のグループ (活動体) からなる。ULANの代表的な美術家は一般に視覚芸術 (ビジュアルアート) や建築分野で構想や制作に携わる作り手であり、舞台芸術の美術家も若干名、含まれる (ただし通常は俳優、舞踏家その他の演技者は除外)。リポジトリと篤志家も記録する[3]。
沿革
[編集]ULAN の創設は1984年にさかのぼりゲティ財団が手がけた。その時点で美術建築事典 (Art & Architecture Thesaurus・AAT ) 創設を終えていた同財団は、ゲティプロジェクトから美術家名を秩序立ててまとめられないかと要請を受け、語彙集づくりに着手している。やがてULANと命名されたシソーラスはゲティ語彙集プログラムならびに利用者コミュニティの貢献を受け、拡張しながら変容していった。
設立当初こそゲティ研究所プロジェクト群の内部で専用されたが、外部の美術情報コミュニティからULANを利用した目録作成や情報取得の需要が申し入れされた。そこで既存の美術建築事典の解説および管理の信条に従い、ULAN利用の門戸を広げる。提供範囲は視覚芸術ならびに建築関連の目録づくりに採用する人名と情報とし、用語は最新で権威のある文献を典拠に、美術史と建築史関連の学術界に妥当と認められている。その基盤は美術家の人名と伝記情報の集合を簡略にABC順に整理した「総覧」であって、同財団既存のAATおよびゲティ地名事典 (Getty Thesaurus of Geographics) との互換性を保たせた。1990年代後半、アメリカ国内と世界標準のシソーラス構築規準 (en:ISO 25964) 準拠が完成、その後、階層的な層序こそあれ建築会社や美術リポジトリなど掲載範囲を広げている。
設立時のULAN編集主幹はエレノア・フィンク Eleanor Fink[注釈 1]である。開発には利用者コミュニティが多大に貢献し、代々の責任者と多くの熱心な編集者により整備されてきた。書籍版『Union List of Artist Names』初版発行[4]ならびに機械可読なファイルの公開は1994年だが、内容の変更や新規項目追加の量と頻度を考慮すると、やがて1997年には書籍形態のULAN改訂版発行と実用性の矛盾が明らかになる。現在は自動化された電子版のみ発行し、ウェブ版の検索可能なUIのほか、ライセンス物件としてデータファイルを供与する。
ULANのデータ管理にはゲティ研究所で内製した編集システムを採用し、投稿者の多様性、データの統合や移動、出版形態の多様性に対応する。全体の統括責任はゲティ財団事典事業 (Getty Vocabulary Program) が担い、よく練り上げた編集規準を当てている。編集主幹はパトリシア・ハープリング Patricia Harpring、事典事業部長兼電子情報財管理者はマーサ・バチャ Murtha Baca である (2019年現在)[要出典]。
設計と構造
[編集]階層の深度に特筆性がないものの ULAN は階層化データベースとして構築され、ULAN最上位階層 (Subject_ID: 500000001) から下位へ分岐が始まる。概念属性としてのファセットは「個人」と「団体」(Person and Corporate Body) に2分類され、前者のエンティティには通常、子項目がなく後者は樹木構造を取り得る。また広い意味付け (context) を複数登録を認める点で多層階層型である。階層同士の連携に加え、同値や連想関係も登録する。
参考文献
[編集]- Baca, Murtha, ed (1994) (英語). Union List of Artist Names. Bower, James M. (主管). ニューヨーク: G.K. Hall. ISBN 0816107254. NCID BA3651970X [5]
- 波多野宏之 (1997年5月). “国立西洋美術館における西洋美術研究支援アプリケーションツールの評価 : 画像分類、作家名ユニオンリストを応用した科研システムを中心に”. 情報処理学会研究報告. CH,[人文科学とコンピュータ] (一般社団法人情報処理学会) 34: 31-36.
- Lerner, Heidi G (2008). “Resources for Jewish Biography and Autobiography on the Internet” (英語). Shofar 26 (2): 128–142.
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 当時の役職は Vocabulary Coordination Group 部長。その後、Director of the Art History Information Program 部長に役職名改称後、組織改編によりGetty Information Institute に改称。
出典
[編集]- ^ 波多野 1997, pp. 31–36.
- ^ Lerner 2008, pp. 128–142.
- ^ “Getty Vocabularies (Getty Research Institute)” (英語). www.getty.edu. 2019年8月27日閲覧。
- ^ Baca, Bower 1994.
- ^ 『Union List of Artist Names』はゲティ美術史情報プログラム (Getty Art History Information Program) の事業として発行された。4巻1セットの内訳は美術家名のABC順に、第1巻 [A-D]ISBN 0783821352、第2巻 [E-K]ISBN 0783821360、第3巻 [L-P]ISBN 0783821379、第4巻 [Q-Z]ISBN 0783821387である。
関連項目
[編集]英語版ウィキペディアより
- Benezit Dictionary of Artists 美術家名鑑の双翼。オンライン (en) で購読できる
- Art and Architecture Thesaurus (AAT) 美術建築専門用語事典
- Categories for the Description of Works of Art (CDWA) 美術品改題の分類
- Cultural Objects Name Authority (CONA) 文化財の命名規準
- Cataloging Cultural Objects (CCO) 文化財の登録簿作成
- その他の標準や規格
- Getty Thesaurus of Geographic Names (TGN) ゲッティ地名事典
- Getty Vocabulary Program ゲッティ事典事業
外部リンク
[編集]ゲティ研究所の事典事業
ULAN 公式サイト Union List of Artist Names Online
- 固有の編集システムの使用法 About the Getty Vocabularies 概論
- 編集規準とガイドライン Getty Vocabulary Editorial Guidelines
- ULANに加えてAAT、TGNの解説。対象は投稿者ならびにライセンスを取得するデータベース実装者。
研修用教材と実例集 Training materials
- 美術家総覧 (ULAN)
- ゲティ地名事典 Getty Thesaurus of Geographic Names (TGN)
- 美術建築事典 Art & Architecture Thesaurus (AAT)
- 美術作品解題の分類 Categories for the Description of Works of Art (CDWA)
- 文化財の目録法 Cataloging Cultural Objects (CCO)
- その他のデータベース関連の標準や規格
関連文献
[編集]- 中村重男「研究者・技術者のための図書室運営 : その実務的立場からの技法」『ドクメンテーション研究』第21巻第5号、0012-5180、一般社団法人 情報科学技術協会、1971年。163-164、169頁。doi:10.18919/dokumen.21.5_163。
- 末吉哲郎「埋没資料の顕在化 : 社史を例にして」『ドクメンテーション研究』第27巻第12号、0012-5180、一般社団法人 情報科学技術協会、1977年。doi:10.18919/dokumen.27.12_577。
- 大貝明「オンライン情報検索をめぐって」『ドクメンテーション研究』第31巻第3号、0012-5180、一社) 情報科学技術協会、1981年。97-104頁。doi:10.18919/dokumen.31.3_97。
- bi D.S.「Item23e発展途上国の図書館学における機械化情報検索の意義 (<特集>第41回FID大会報告) : 第41回FlD大会発表テーマ要旨」『ドクメンテーション研究』第1巻第22号(33)、0012-5180、一社) 情報科学技術協会、1983年。doi:10.18919/dokumen.33.1_22_2。
- 小鷹久子「21世紀へ向かうOCLC (<特集> 北米におけるビブリオグラフィック・ユーティリテイ'90s) 」『情報の科学と技術』第40巻第11号、0913-3801、一般社団法人 情報科学技術協会、1990年。717-724頁。doi:10.18919/jkg.40.11_717。
- ジョン・ペン・デベッド、藤田盛也、井上英之、田村英彰「アジアにおける蔵書構築(抄訳)」『情報の科学と技術』第47巻第7号、0913-3801、一社) 情報科学技術協会、1997年。 358-362頁。doi:10.18919/jkg.47.7_358。
- 中原まり「今私たちがなすべきこと : 建築資料情報公開の素地を築く(建築博物館が欲しい!)」『建築雑誌』第1497号、日本建築学会、2002年12月。32-33頁。
- 宮崎幹子「アメリカの美術館・博物館における情報資源の構築と活用—現地での実体調査を通して」『アート・ドキュメンテーション研究』第11巻、0917-9739、アート・ドキュメンテーション学会、2004年。38-48頁。doi:10.24537/jads.11.0_38。
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