利用者:Omotecho/クルタ
クルタ(kurta、ヒンディー語: कुरता、ペルシア語: کرته)とはゆったりしたシャツもしくはスモックで、南アジア各地[注釈 1]の伝統的な衣服[4]である。
概要
[編集]この種類の衣服は世界中で、南アジアの多くの国で着用され、中東からアフリカ北部にも広がる。男女どちらも臀部を人目にさらさない丈を保つ[5]。
起源は異なる服装体系に触れつづけた古代の4世紀、その後、中世早期までムスリムの支配下に置かれた6世紀を経て、裁断や縫製のバラエティが生まれた結果である[6]。中央アジアの遊牧世界で上半身に着た伝統衣装(騎馬民族であったクシャーンとトルコ系のチュニック)がやがて数世紀のうちにスタイルとして進化し、その中で特に南アジアの流れがクルタとなり[6]、普段着、また正装として発展した。外部からの侵略者がもたらしたシンプルな衣服の形態は、ムガールの宮殿文化の装飾性を得て文明化が高度に進んだ都市型の服飾へ、やがて日常生活を快適にリラックスして過ごす「クルタ=パジャマ」ファッションへと何度も大きく変化を重ねた[7]。
素材は綿または絹が使われてきた。平織りの布をそのまま、あるいは刺繍で装飾を施す。代表的な手法にチカン刺繍(chikan) がある。見頃はゆとりを持たせたり体に沿わせたりデザインを工夫し、丈は普通、膝上もしくは膝丈が多い[注釈 2]。前後の身ごろは布を四角く裁断し、脇は動きやすいように適宜、深さを決めて途中で縫い止め、裾をスリット状に開く[5]。
伝統の縫製では筒袖にして手首まで袖幅を変えず、また袖先にカフスを付けなかった。クルタは男性も女性も着用し、伝統のデザインでは襟はないが、スタンドカラー(立襟)にした製品が一般的になった。上半身はクルタ、その下にやはり伝統衣装のパジャマ[6]あるいはオーバーサイズのサルワールないしはチュリダル(churidars )を身に付ける[注釈 3]。地理的に南アジアに限らず[8]、都市部の若い層や、バローダなど「グジャラート系ヒンドゥー教徒」と呼ばれる中流の核家族の高校生はジーンズに合わせており[注釈 4]、海外に住む南アジア系の人々のうち渡航が最近の人々[注釈 5]にも何世代も暮らす人々[注釈 6]にも定着した。都市部の若い女性や少女には腰丈の短めの「クルティ」kurti の人気が広まり、伝統的な衣装のほか、ジーンズやレギンスと合わせている[注釈 7]。体の線を曖昧にするクルタとチュリダール(churidar)の組み合わせを〈クルティ〉に発明し直してから、およそ10年かかった[12]。
語源
[編集]『Oxford English Dictionary』オンライン版[13]には、英語社会で「クルタ」という単語が使われた最初の例をトーマス・エドワード・ロレンスの著書『Home Letters』(1913年)でW・G・ロレンスが語った次の言葉だとする。
- 「私はドウティクルタ(khurta)という白いインドの衣装を着ていた」。
キャノンとケイズの論文(2001年)では、次の定義を挙げている。「ペルシャ語。 チュニック、チョッキ、ジャケット。ヒンディ語とウルドゥー語に移入、ペルシャの男性が着用するゆるいシャツまたはチュニックで、ことにインド人が着るようになったもの、または男性のクルタに似た女性のドレスで、西洋で人気がある[14]」。
プラッツ(1884年)はウルドゥー語、英語とヒンディー語の比較語彙集で次の定義を示した。「ペルシア語: کرتکurta, ドロワーズ の上に着るシャツ、フロック、一種のチュニック、ウエストコートまたはジャケット[15]」。
ペルシア語: कुरता、kurtā: とは男性名詞、襟なしのシャツのことと『オックスフォードヒンディー語英語辞典』(1993年)は定義する[17]。
ワイナーの説(2009年)では「"kurti、kurteeとはインドの女性の伝統衣装で、ゆったりとした長袖のチュニック」を指す。クルティは「通常、男性のクルタよりも丈が長く、膝下まで届くものもあった(Raghoo 1984:3)」[19]。
ステイングラスの説(1892年、改版2007年)ではペルシア語: کرته 、クルタはチュニック、ウエストコート、ジャケットのこと。裾広がりのコート下もしくはシャツ。ペルシア語: کرتی クルティとは女性用のウエストコートで腰丈の身ごろに袖は非常に短いか袖なしで、襟元は喉から下げてあるもの。軍隊の制服の上着[20]。アラビア語: قرطق 、qurt̤aq(ペルシア語: كرته クルタ(kurta)、服飾の一種。アラビア語: قرطقة qartaqat(アラビア語: قرطقの動名詞形)、qurt̤aq という服飾(を誰かに着付けること[21] )。
歴史
[編集]Roshen Alkazi の説では縫製をした(布を細断して縫い合わせた)衣服は中央アジア(ウズベキスタン)から北アジアに伝わったとしており、ごく初期の例は古代末期からほぼ3世紀にわたり、スキタイ、パルティア、クシャーンの侵入により文物が入ってきて、布を体に巻き付けるだけの衣服から縫製した衣服に変わった点、それが彫刻にも反映した点を論じる[23]。特にマフムードの攻勢後に移入が増加し、やがて12世紀後半にムスリムに降伏すると異国の衣服がどんどん持ち込まれ、やがてムガール朝に至るとクルタは社会に定着したと指摘しする[24]。
アルカジ(Alkazi)の説を紹介する。
(前略)ラシュカリバザールの壁画(ガズナ朝時代)には、マフムードの宮殿を守るマムルーク(奴隷)の護衛が実際に着用した衣装を描いた例は1件のみである(アフガニスタンに現存)。模様のある生地で縫ったガバ(qaba )という膝下丈の服は細い長袖、肩口にティラーズ(tiraz)と呼ぶ開口部がある。これは右から左へ開き、左肩の上部に設けた小さなループに留め具を通して閉じる。この壁画は襟元を開閉できる最も初期のデザインを示しており、現代でもインドの特定の地域のクルタ、ロシアのルパシカは左肩開きである[22]。
形態
[編集]伝統的なクルタは四角い布の要所に持ち出しを縫いつけ、余分な部分を断ち落としてある。断ち目は通常、単純な線状
素材
[編集]装飾
[編集]南アジア出身の縫製師はさまざまな伝統を知り、手法を駆使して現代風のデザインも取り入れ、布に装飾を施す。クルタにもそれが導入されたと見て良いが、最も一般的な装飾は刺繍である。夏用の布が薄いクルタは、裾まわりや前立てをラクナウに固有のチカン刺繍で飾る。布は淡色で透明かというほど 薄く、刺繍色の糸は布に合わせる[要出典]。
地方ごとの特徴
[編集]地方性に着目すると、ボパール地域の王族は独自のクルタを好み、女太守シャージャハン[注釈 8]がトルコの服飾を取り入れてアレンジしたと伝わる[25]。特徴は裾線にあり、ハイデラバードやラクナウでは直線のところ、ボパール風は裾周りがゆったりしている。ウエストにプリーツを配し、腰から膝とくるぶしの中間までスカート状に広がり[26]、下に筒状のパジャマを履く[27]。
ハイデラバード風という名称は旧ニザーム王国に由来し、腰丈で襟元はキーホール型である。その地域の王族が日常着にした[28] [29]。伝統のスタイルは白い布で仕立て[30]、現代の市販品は色が選べる。あるいは上に重ね着をする「ジャアリ・カルガ」 jaali karga は、網状の素材を使った衣服で男女を問わず着用する[31]。
ラクナウ風クルタは伝統的に丈は短いもの[32]と長いものがあり、用尺を12ヤード (11 m) も使う例さえあった。かつては身ごろの上にパネル布を重ねる特徴があったが[33]、現在は直線裁ちのクルタにチカン刺繍で装飾したものを指す。パネル布(「カリ」「カリダール」kali、kalidar)を縫い付けたクルタはスタイル名でもあり、フロックに似ている。カリダールクルタ(kalidar kurta)は前身ごろと後ろ身ごろの中央に長方形のパネルを配し、台形のパネル布を複数枚、縫い足して裾周りを広げている[34]。「カリ・クルタ」は男女を問わず着用する。
クルティ
[編集]女性向けに丈を短めにしたクルタを現代は「クルティ」(kurti)と呼ぶ。伝統衣装のクルティは、ウェストコートやジャケット、ブライスなどを指し、サイドにスリットがなくてウエスト丈で、その起源はおそらくシュンガ朝(紀元前2世紀)[35]から伝わるチュニックである。それまでの衣装よりも丈はずっと短く、サルワール(kameez)を縫うような薄めの生地を用いる[要出典]。
参考文献
[編集]主な執筆者の順。
- 洋書
姓もしくは出版社のアルファベット順。
- Alkazi, Roshen (2002). “Evolution of Indian Costume as a result of the links between Central Asia and India in ancient and medieval times”. In Rahman, Abdur. India's Interaction with China, Central and West Asia. Oxford University Press. pp. 464–484. ISBN 978-0-19-565789-0 クシャーン時代、中央アジアのウズベキスタンからインド北部に影響が及んだ点に注目、布を体に巻きつける服装から、裁断した布を縫製する衣服に移行する点と、彫刻も縫製しない服装のMauryan と Sungaの形態がこの時期には下火になると論じ、契機としてカニシカ王の台頭によってギリシャの版図ではなくなった紀元48年を指摘する。
- Bhandari, Vandana (2004). Costumes, Textiles, and Jewellery of India. Mercury Books. p. 192. ISBN 1-904668-89-5
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脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ ゆったりしたシャツもしくはチュニック。男女ともに着用する[1]。「クルタ:襟なしのたっぷりしたシャツで、南アジアでは女性も男性も身につける[2][3]。」
- ^ クルタ(チュニック)の裁断にも複数の型があり、ゆとりを持たせたり肌に沿わせたり、袖丈の長短や袖幅、脇のスリットの深さ、また目立つところでは襟元の裁ち方がある。腿(もも)から膝下まで身ごろの丈も自在である。南アジアから中東、北アメリカに暮らす人々が着用する[5]。
- ^ 『オックスフォード英語辞典』の定義では、ウルドゥーとペルシャのクルタをあげている[2]。
- ^ 「グジャラート系ヒンドゥー教徒」(Hindu Gujarati)は経済的に中流で子どもを英語系の中等学校に通わせる家庭で、子供たちにはバイクや自分用のスマホをを買い与え—若者に欠かせない道具を持った子女は欧米風のファッションを好み、日常はジーンズにクルタを合わせるなどインド風にアレンジした服装で過ごす[9]。
- ^ パーキンスが観察した例では移民の子供と一口に言っても、キリスト教徒だが南インドにルーツのある者、家ではベンガル語で会話する家庭、あるいはパキンスタン系、パンジャブ系もいて、ほとんどの人は洋服を着ていて、女子生徒の中に「サルワール・カミゼ」式の服装、あるいは男女とも丈の長いコットンのクルタの下にジーンズを合わせていた[10]。
- ^ Bhavani の説ではクルタに柔らかい素材のズボンを合わせることが好まれ、できればクルタとセットで(インド製のものを)買い、上下の素材を揃えるという。「揃える」点に意味があり、ハードな服(ジーンズ)とソフトなファッション(クルタ)の混合は—前者をイギリス風、後者をインド風と言い換えても良いが—趣味が悪い。学生や若い男性の傾向だが、クルタとジーンズを合わせて〈puja〉にも出席してはみっともないと感じたという[11]。
- ^ インドの女性で日常着に伝統衣装よりもジーンズやズボンを履く人が増えると、Fabindia では〈クルティ〉と呼び、インドの伝統のチュニック(カミーゼあるいはクルタ)を女性の腰回りをカバーする短めにアレンジした。ヒップラインを見せない服装に慣れたインド系の女性も、これを着ると体型に合わせたスラックスを履くことに抵抗感が薄れたという[8]。
- ^ 治世は1844年 – 1860年、1868年 – 1901 年。
出典
[編集]- ^ OEDオンライン版 2022, kurta, n.
- ^ a b Stevenson 2010, p. 981, ODE
- ^ CALD 2013, "kurta"
- ^ 繊維総合辞典編集委員会 編「クルタ」『繊維総合辞典』繊研新聞社、2002年10月、193頁。改版、「クルタ」『新・繊維総合辞典』繊維総合辞典編集委員会 編、繊研新聞社、2012年2月、196頁。
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関連項目
[編集]- サルワール・カミーズ
- チュニック
- トーブ {{tl:Clothing in South Asia}}
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