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利用者:Omotecho/ガヴァリ


Gypsy trader being blocked by Meena bandits
敵対するメーナに進路を阻まれたジプシーの商人隊

ガヴァリGavariまたはGavri[1])はインドの40日がかりの祭礼。ラージャスターン州メーワールで例年7月と9月に祝う[2]

起源

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ガヴァリの始まりにはさまざまな仮説があるものの、いつ頃から続くのか、どこで発生したのか不明である。

一説に、16世紀末にメーワールの人々がムガル帝国から自治権や領土を回復した1579年のハディガティの戦い(英語)が契機になり、その地域で始まったのではないかという[3][4]。このとき山岳部のビールの人々(英語)の功績を認めたラジャプトの王室は前例のない厚遇をし、褒賞として平地部に土壌の豊かな広い農地を与えた。仮説では、半遊牧民だった人々はやがて森の暮らしを離れ村に定住して農民になり、その割合が増えるにつれて定住の契機への誇りと冒険の多い祖先の暮らしへの懐かしさから、この習俗が発したと述べている。あるいはガヴァリの習俗はすでにグジャラートで3世紀または4世紀に始まっていたと主張する説もあり[5]、別の説ではビール人の独自の文化は4千年の歴史があるとしている[6][7][8]

シャーマンあるいは宗教的な要素

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祈願に用いる神具と祭具

ガヴァリの一座が行う招請の儀式は2つあり、1つ目は稲作の収穫シーズン終了を待ち、村人が女神の許しを求めて一連のガヴァリの実施に臨むためで、メーワールのすべてのビール人コミュニティで通常8月にあたるヒンズー教の年間行事「シュラヴァナ」(Shravana=アルタイル牽牛[注釈 1])の満月またはその直前に開く。2つ目の儀式はそれぞれの上演当日、演目の前に女王の存在と参加を確めるためであり、どちらにも香と花が欠かせない。歌と打楽器(太鼓のmadal とシンバルのthali )で音曲を演奏し、シヴァ派(英語)の三又の槍トリシューラ、「ドゥニの灯明」をかかげる。

最初に女神を呼び出すときは通常「ボーパ」(bhopa)と呼ばれる巫女が暗い聖域で取り仕切り、村の長老たち、ガヴァリの演じ手のベテランたちの小さなグループが参列する。他の村人たちは女神がボーパに憑依し、震える巫女の口から告げられる女神の決定を聞こうと外で待つ[11][12]。巫女はやがて女神の魂と呼応し、その年のガヴァリの上演を認めるか拒むか告げる。認めない理由は主に村人同士の不和、社の修繕が済んでいないこと、不作、作物の病気の蔓延などがあり、きちんと手当てをしないうちは再度、女神の託宣を請わないとされる[13]

日常に祈りを捧げては信仰を確める習慣があり、ガヴァリの場の中央に祭壇を築き、その周りにシャーマンや楽器奏者、古株の信者が座る。他の信者はその周りを輪になって反時計回りに踊りながら進み、時には村人が加わることもある。その輪に逆らうように守護神ブディア像がめぐって女神請来(しょうらい)の祈りを守るうち、1人または複数の巫女(ボーパ)が震え始め半覚醒半トランス(英語)の境地に至ると、女神の降臨と存在を示すとされる[14]

女神が憑依した印にクジャクの羽で作ったという祭具を手にした巫女は、授かった神力を信仰者に分け与えるように振る。あるいはまた巫女や同じくトランスに陥った人々は重い鎖(saankal)を握り自身の背中を鞭打つ。

文化的背景や社会の反応

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よくばりな町の商人
風刺的な寸劇。村人に小銭をせびる太った商人を揶揄(やゆ)する

ガヴァリの女神は自然界の美と力を象徴するとされ、その多様性や健康または将来を損なおうとすると、それが不注意であろうと意図したものであろうと罪であり冒涜であり、近視眼的で自滅を招くだけではないと見なされる[15]。多くの先住民族が7世代にわたって(英語)守ってきた見識で、滅びずに長らえた民族は、現代は水資源の枯渇や生態系の絶滅の危機、生物多様性(英語)を保護することなど、広範な挑戦に直面している[16][17]

公正な平等主義者を自認するガヴァリ[18]は不当な権威をこらしめる風刺劇を演じて村人のあざけりの念に訴え、登場する高圧的な役人や教祖や行商人を生き生きと描写し、母性の象徴である女神が怒りの剣をくだすさまを讃える。権威ある人物は王でもクリシュナなどヒンドゥー教の神々あるいは身内であっても、偽物のボーパ(巫女)さえ風刺する[19][20]。メーワール郊外などの風刺劇は健全な批判精神を象徴し、そのような世界観はその他の芸術の形態や習慣と合わさると、市民運動からインドの2005年情報開示条例(英語)の素地となる。ジャーナリズムの世界で「インド独立以来の民主主義が示した最も顕著な社会改革」と評価されている[21]

メーワールの人々は田園地帯に散在し、その集落を巡回するガヴァリは地域社会のカーストや宗教コミュニティを緊密なネットワークで結び、連帯を促進してきた[22]。豊かな神話や歴史譚を若い世代に語り継いで遺産を自認する役割にも役立つ[23]

風刺劇は農村金融、貪欲な仲買人、商人の腐敗を主題にしたものがあり、村人に現実世界の商取引の陰の部分として特に作物ブローカーや高利貸しクレジット詐欺を教え、経済的自己防衛の方法を示し、あるいは都市型の富の概念を皮肉って教訓を提供してきた[13]

村にガヴァリが滞在する1ヵ月には、ビール人は目の前の田園よりもはるかに遠いコミュニティとの絆が強まり、広い世界との連帯と責任感を固めていく[15]。また風刺劇ではどのカーストの人もコミュニティも、あるいは年齢層を超えて同感できるように、正義の味方であるビール人も他の民族を歓ばせて共感を引き出す設定が盛り込んである[24]

現状

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夜の上演(ウダイプル、Gangaur Ghat)
「ガヴァリ再発見事業」の成果。ウダイプールの都市住民に滅多に触れることのない祭礼の様子を披露した。(開催地=Gangaur Ghat)

本拠地でもガヴァリは逆境に立たされている[23]。ラジャスターン州政府は公立学校のビール人学生がガヴァリの巡回先を追う長期欠席を禁じた。巡回に従って実地に見て学べないと、儀式や芸術を学ぶ唯一の伝授法(英語)が断たれる。ガヴァリには独自の宗教文書の記録や信徒向けの学校がないことから、存続を危うくした。

さらに農村部から大都市圏への出稼ぎが若者層に浸透しており、ガヴァリの社会でも出生率の低下が止まらず、集団の縮小を招いている[25]

地域のビール人コミュニティもガヴァリを広報したり、英語で解説文書を用意するなど積極的に対策を考えてきた[20]。インド国立舞台芸術大学[注釈 2]とロビー活動を進めて、世界の特徴的な無形文化遺産としてガヴァリを位置付けるユネスコ無形文化遺産指定を働きかけてきた。あるいはYouTubeにカヴァリの映像記録が増えてきたこと、日本人研究者が社会経済活動とカヴァリの関係を分析する新しい視座を示すなど[要説明]引用エラー: 無効な <ref> タグです。名前 (name 属性) がない場合は注釈の中身が必要です、肯定的な動きが見えてきた。

ガヴァリ再発見事業

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ウダイプル西部文化センター(英語)はガヴァリの映像記録や関連の資料を集めて展示しており[27]、地域の環境フェスティバルも都市部の住民にこの祭礼を紹介するようになった[28]。2016年にウダイプルの徴税官[29]でラジャスタン州知事(Chief Minister)ヴァスンダラ・ラジェ(Vasundhara Raje)が「ガヴァリ再発見」を地域の行政やNGOに働きかけ[30]、複数年の事業[注釈 3]が始まった。

同事業が選んだ地域の12集団は、それぞれ典型的なウダイプル風の景色が残る各地に派遣されて儀式を行う。前例のない催しは住民や観光客にとってガヴァリを知るチャンスとなり、数千、数万の人々が生まれて初めて触れ、マスコミからも取材が集中した[5][32]。これに引き続きデリーで2016年度の全国少数民族祭(National Tribal Carnival)が開かれると、初めてガヴァリを上演、観覧したモディ首相から大いに称賛され激励を受けた[33]

参考文献

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主な執筆者の順。

  • Agneya, Harish (2014). Gavari - Mewar's electrifying tribal dance-drama: An Illustrated Introduction. India: Tuneer Films. pp. 24. ISBN 978-9352123292 
  • Bhanavat, Mahendra (1993). Udaipur ke adivasi: Udaipur ke bhili kshetra ka shodh evam sanskrutic sarvekshan. Udaipur: Bharatiya Lokakala Mandala 
  • Chandra, Satish (2005). Medieval India : from Sultanat to the Mughals (Revised ed.). New Delhi: Har-Anand Publications. pp. 121–122. ISBN 8124110662. OCLC 469652456 
  • Claus, Peter J.; Diamond, Sarah, 1966-; Mills, Margaret Ann. (2003). South Asian folklore : an encyclopedia : Afghanistan, Bangladesh, India, Nepal, Pakistan, Sri Lanka. New York: Routledge. pp. 239. ISBN 0415939194. OCLC 49276478 
  • Henderson, Carol (2002). Culture and customs of India. Westport, Conn.: Greenwood Press. pp. 141. ISBN 0313305137. OCLC 58471382 
  • Majhi, Anita Srivastava (2010). Tribal culture, continuity, and change : a study of Bhils in Rajasthan. New Delhi: Mittal Publications. pp. 63, 150. ISBN 978-8183242981. OCLC 609982250 
  • Nayar, V. G.; Nayar, M. G. (2000) (英語). Encyclopaedia of Sociology of Religion: Sociology of religions in India. Cosmo Publications. pp. 161. ISBN 9788170209751. https://books.google.com/books?id=phRzAGYR9swC&dq=bhils+trance+invocatons&pg=PA161 
  • (英語) Rajasthan State Gazetteer: History and culture. Directorate, District Gazetteers, Government of Rajasthan. (1995). pp. 199, 205. https://books.google.com/books?id=ngZWAAAAYAAJ 
  • Tribhuwan, Robin D.; Tribhuwan, Preeti R. (1999). Tribal dances of India. New Delhi: Discovery Pub. House. pp. 106. ISBN 8171414435. OCLC 41143548 
  • Tribhuwan, Robin D. (2003). Fairs and festivals of Indian tribes. New Delhi: Discovery Pub. House. pp. 57. ISBN 8171416403. OCLC 50712988 

脚注

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注釈

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  1. ^ インドの占星術(とくにナクシャトラ)[9]から宿曜経(すくようきょう)に組み込まれ、二十七宿となる[10]
  2. ^ インド国立舞台芸術大学(Sangeet Natak Akademi)は現在、3部門構成であり、そのうち2部門はダンス教育機関でジャワハルラル・ネルー・マニプール・ダンス・アカデミー(JNMDA)とカタック・ケンドラである。前者のJNMDA(本拠地インパール)はその起源をマニプール・ダンスカレッジに辿り(1954年4月インド政府設立)、アカデミーの資金供与を受けて1957年にその構成単位になった。同様に後者のカタック・ケンドラ(本拠地デリー)は、カタック舞踏の主要な教育機関の1つとしてカタックの踊りと歌、パカワジをさまざまなレベルで教授する[26]
    Sangeet Natak Akademi now has three constituent units, two of these being dance-teaching institutions: the Jawaharlal Nehru Manipur Dance Academy (JNMDA) at Imphal, and Kathak Kendra in Delhi. JNMDA has its origin in the Manipur Dance College established by the Government of India in April 1954. Funded by the Akademi since its inception, it became a constituent unit of the Akademi in 1957. Similarly Kathak Kendra is one of the leading teaching institutions in Kathak dance. Located in Delhi, it offers courses at various levels in Kathak dance and in vocal music and Pakhawaj.
  3. ^ 「ガヴァリ再発見事業」とは、その評価を「古代の民間芸術の奇跡として(中略)精神を鼓舞し美的な驚きがあり歴史的に神秘的」 としている[31]

出典

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  1. ^ Henderson 2002, p. 141
  2. ^ Bhanavat 1993, "Udaipur ke adivasi"
  3. ^ Chandra 2005, pp. 121–122
  4. ^ mughal-mewarconflict - airavat”. sites.google.com. 2017年7月25日閲覧。
  5. ^ a b “Going global: Mewar's tribal folk opera 'Gavari' ready for international stage - Times of India”. The Times of India. (2016年8月29日). http://timesofindia.indiatimes.com/city/udaipur/Going-global-Mewars-tribal-folk-opera-Gavri-ready-for-international-stage/articleshow/53908600.cms 2017年7月17日閲覧。 
  6. ^ "Rajasthan State Gazetteer" 1995, pp. 199, 205
  7. ^ Tribhuwan 2003, p. 57
  8. ^ “Gavari – A Dance Drama of Bhils” (英語). UdaipurBlog. http://www.udaipurblog.com/gavari-a-dance-drama-of-bhils.html 2017年7月16日閲覧。 
  9. ^ 暦計算室. “ナクシャトラ (Nakṣatra)†”. 暦Wiki > インド暦用語解説. 国立天文台. 2023年6月25日閲覧。 “Śravaṇa 280°00′ 女宿 アルタイル(牽牛)”
  10. ^ 暦計算室. “二十七宿†”. 暦Wiki > インド暦用語解説. 国立天文台. 2023年6月25日閲覧。
  11. ^ Nayar、Nayar 2000, p. 161
  12. ^ Majhi 2010, pp. 63
  13. ^ a b Gavari Introduction – Mewar Gavari” (英語). www.gavari.info. 2017年7月17日閲覧。
  14. ^ “'Gavri' the Opera of Mewar” (英語). UdaipurTimes.com. (2010年9月28日). http://udaipurtimes.com/gavri-the-opera-of-mewar/ 2017年7月16日閲覧。 
  15. ^ a b Mewar Gavari – Mewar's ecstatic tribal folk opera” (英語). gavari.info. 2017年7月14日閲覧。
  16. ^ 11 Indigenous resistance movements you need to know” (英語). rabble.ca (13 November 2014). 2017年7月26日閲覧。
  17. ^ Year of Clout: 10 Stories of Indigenous Environmental Influence in 2015” (英語). Indian Country Media Network. 2017年7月26日閲覧。
  18. ^ Henderson 2002, pp. 156
  19. ^ Chandalia, Hemendra Singh. “Tribal Dance-drama Gavari : Theatre of Subversion and Popular Faith” (英語). academia.edu. 29 May 2022閲覧。
  20. ^ a b Agneya 2014, p. 24
  21. ^ “The invisible history of people's movements”. The Telegraph. https://www.telegraphindia.com/1140313/jsp/opinion/story_18068459.jsp 2017年7月20日閲覧。 
  22. ^ Claus、Diamond、Mills 2003, pp. 239
  23. ^ a b Tribhuwan、Tribhuwan 1999, pp. 106
  24. ^ “Keeping history alive dramatically” (英語). The Hindu. http://www.thehindu.com/todays-paper/tp-features/tp-fridayreview/keeping-history-alive-dramatically/article2273799.ece 2017年7月14日閲覧。 
  25. ^ Majhi 2010, pp. 150
  26. ^ Tenders”. サンギート・ナタク国立舞台芸術大学(The National Academy of Music, Dance and Drama). 2022年12月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。June 16, 2022閲覧。
  27. ^ Aarnya Parva Enthralls Audiences - Event Review” (英語). Creanara. 2017年7月18日閲覧。
  28. ^ “Shakti Sunday resonates with World Music Day & honors Gavari tradition” (英語). Udaipur Times. (2014年6月23日). http://udaipurtimes.com/shakti-sunday-resonates-with-world-music-day-honors-gavari-tradition/ 2017年7月17日閲覧。 
  29. ^ Rohit Gupta” (英語). Mewar Gavari. 2023年2月9日閲覧。
  30. ^ Rediscovering Gavari – 2016 – Mewar Gavari” (英語). www.gavari.info. 2017年7月16日閲覧。
  31. ^ “Administration will lay emphasis on Gavari festival” (英語). Daily Udaipur. (2016年8月4日). http://www.dailyudaipur.com/administration-lay-emphasis-on-gavari-festival/ 2017年7月17日閲覧。 
  32. ^ Mewar's ecstatic tribal folk opera 'Gavri' seeks global recognition” (英語). Udaipur Kiran. 2017年7月18日閲覧。
  33. ^ National tribal festival at new delhi, mewars gavri dance”. m.rajasthanpatrika.patrika.com. 2017年7月17日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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