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利用者:McYata/天 (聖書)

神はおおぞらを造って、おおぞらの下の水とおおぞらの上の水とを分けられた。神はそのおおぞらをと名づけられた。夕となり、また朝となった。第二日である。
創世記1.7-1.8[1]
聖書に記述されている古典的なヘブライ世界観の模式図。大地(Earth)の上を天(Raqia/Firmament)が覆い、下にシェオル (Sheol、黄泉)とテホム英語版(Tehom、深淵)が横たわっている。
大地の上に太陽、惑星、天使、天が描かれた図。1475年の木版画

聖書宇宙論における (ヘブライ語: רָקִ֫יעַ rāqīa ラーキーア)は、天地創造の二日目に、テホム英語版(深淵)を上下に分けて大地を生み出すために作り出した、大地の上を覆う巨大で固定されたドーム状の存在とされている[2][3]。この観念は古代や中世の世界観にも受け継がれていったが、16/17世紀に天文学が発達するにつれて廃れていった。聖書における天を指していた単語(英語のファーマメント(firmament)など)は、現在「」や「天国」の類義語として用いられている。

語源と訳語

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聖書ヘブライ語における「天」を指す語は「ラーキーアrāqīaʿ (רָקִ֫יעַ)である。これは創世記1.6などに見ることができ、創世記1.1などに登場するshamayim (שָׁמַיִם天国英語版)とは区別されている。Rāqīaʿの語源であるrqʿ (רָקַע)には、「打ち延ばす」「薄く広げる」といった意味がある[4][5]

紀元前200年ごろにユダヤ人学者たちが編纂したギリシア語訳である七十人訳聖書では、天(ラーキーア)は「ステレオーマ」(στερέωμᾰ)と訳された。これは直訳すれば「堅固な(στερεός)構造体」を意味する。

4世紀のラテン語訳聖書であるウルガタでは、「フィルマーメントゥム」(firmamentum)という訳語が用いられた。これも直訳すると「堅固なもの」という意味である。英語訳フランス語訳ドイツ語訳聖書では、いずれもこのラテン語のフィルマーメントゥムに由来する訳語を用いている。英語におけるファーマメント(firmament)という語の初出は1250年のMiddle English Story of Genesis and Exodus英語版で、後のジェームズ1世による欽定訳聖書にも受け継がれた[6]

聖書学者のゲルハルト・フォン・ラートは、こうした「天」を指す訳語について次のように述べている。

Rāqīaʿには、しっかりと叩かれたとか、押しつぶされたなどといった意味がある (フェニキア語で「錫製の皿」を意味する言葉と同源!)。rqʿという動詞は、天国の天井が堅固に叩き敷かれたということを示している(イザヤ書42.5、詩編136.6)。ウルガタrāqīaʿfirmamentumと訳したのは、最もよく元の姿を残しているといえる。
Gerhard von Rad [7]

宇宙論史における天

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フラマリオンのエングレービング英語版(1888年)では、空が固形の半球であるかのように描かれ、男がその隅から這い出て、外にある神秘的な最高天英語版を覗こうとしている。絵の下には「ある中世の宣教師によれば、彼は天国と地球が出会う点を見つけたのだという……」というキャプションが付けられている。

古代ヘブライ人は、近東の古代人の例に漏れず、天は固形のドームであって、太陽惑星恒星もそこに埋め込まれているのだと考えていた[8]。こうした世界観に影響をうけた紀元前4,3世紀ごろのギリシア人は、「天は完全であるに違いなく、その領域は完璧な幾何学的形状をしている」と説いたアリストテレスの影響もあり、球体の大地が固形の天の領域に取り囲まれていると解釈した。この世界観は古典古代や中世における支配的な感覚となった。地動説を唱えて太陽を宇宙の中心に置いたニコラウス・コペルニクスも、惑星系の外側を恒星が埋め込まれた領域(恒星天)が取り囲んでいると認識していた。彼の考えでは、地球が自転するならば恒星天は固定されたままでも矛盾しないのであった。こうした固形で普遍で物質的な天が存在する、という考えに対して初めて理論的な異議を呈したのが、ティコ・ブラーエによる1572年の超新星1577年の大彗星英語版に関する研究である[9]。さらに1584年には、ジョルダーノ・ブルーノが恒星天を必要としない世界観を打ち出した。彼は宇宙が無限に広がっており、恒星は実は一つ一つが太陽と同じような星で、それぞれに惑星系を有しているのだと主張した。そしてガリレオ・ガリレイ望遠鏡を用いた天体観測を始めると、もはやアリストテレス哲学が前提としていた「天は完全」という理念は通用しなくなり、1630年までには支配的な説ではなくなっていた[9]

脚注

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  1. ^ ウィキソース出典 (英語)『創世記(口語訳)』。ウィキソースより閲覧。 
  2. ^ Pennington 2007, p. 42.
  3. ^ Ringgren 1990, p. 92.
  4. ^ Brown, Francis; Driver, S.R.; Briggs, Charles A. (1951). A Hebrew and English Lexicon of the Old Testament. Oxford University Press  p. 955.
  5. ^ Lexicon Results Strong's H7549 – raqiya'”. Blue Letter Bible. Blue Letter Bible. 2011年11月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年12月4日閲覧。
  6. ^ Online Etymology Dictionary – Firmament”. 2012年10月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年10月25日閲覧。
  7. ^ von Rad 1961, p. 53.
  8. ^ Seely, Paul H. (1991). “The Firmament and the Water Above”. Westminster Theological Journal 53: 227–40. http://faculty.gordon.edu/hu/bi/Ted_Hildebrandt/OTeSources/01-Genesis/Text/Articles-Books/Seely-Firmament-WTJ.pdf 2010年2月2日閲覧。. 
  9. ^ a b Grant 1996, p. 349.

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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