利用者:Loasa/執筆記録と下書き/下書き用4
LonomismとはLonomia属の幼虫と接触することにより発生する、血液凝固障害や出血症候群などを中心とする一連の症状である[1]。
特徴
[編集]ヤママユガ科Lonomia属の昆虫は南アメリカに26種分布しているが、L. obliquaとL.achelousの幼虫は刺毛に毒を持ち、ヒトに出血作用を引き起こす[2]。 これらの属の幼虫による刺傷事故は南米各地、特にベネズエラや南ブラジルを中心に10000件以上発生し、数件の死亡事故も発生している。これらの幼虫の持つ毒はまた、多くの医学研究の課題にもなっている。[3]
発見
[編集]多くの毛虫は、毒を注入する、あるいは容易に分離したり摂取されれば毒となるような毒毛により炎症を起こすことができる[4]。しかしLonomia の幼虫に関する研究より前には、十分な量があればヒトを殺すことができるほどの毒を毛虫が生成できることは知られていなかった。 Lonomia属の幼虫との接触による症例が初めて報告されたのは1912年である[5]。しかし、詳細な研究が始まったのは、ベネズエラで毛虫と接触した患者に発生した出血症候群が5件報告された[6]1967年からである[2][7]。 それ以来、ベネズエラ、フランス領ギアナ、ブラジル、ペルー、パラグアイ、アルゼンチンから1000件以上の症例が報告されている[2]。Lemaireは1972年に、ベネズエラからブラジル北部で発生した事故の原因となった幼虫をLonomia achelousと同定し、一方で、ブラジル南部の幼虫はLonomia obliquaと同定した[2][6]。ブラジル南部のリオグランデ・ド・スル州、サンタカタリーナ州、パラナ州での出血を伴う事故の多発が1980年代末期に報告されるまでは、L. obliqua による事故は稀なものと考えられていた[2]。2000年前後になると、同種との接触事故はサンパウロ、リオデジャネイロ、ミナスジェライス州からも報告されている[2] 。 また、同様の事故による患者はペルー、パラグアイ、アルゼンチン、コロンビアからも報告されている[6]。 本種による事故事例が初めて国際的に知られたのは、リオグランデ・ド・スル州のある大農場において流行が発生したときである。医師たちは同じ症状を訴える多数の患者に当惑した。患者は血腫や壊疽状の症状を呈し、それが身体中に広がり、最終的に脳内において大量の血液漏出が発生し、いくつかの例では死亡した。 各患者の被害時の状況は「通路を作るため、あるいは野菜を収穫するため葉の付いた枝を掴んだだけ」であったため、最初は原因を特定できなかった。その地域を捜索した結果、全ての事例で共通して見付かったただ一つの生物が、L. obliquaの幼虫だった。その毛は胴体を覆って成長し、その刺の塊は容易に肌に突き刺さり、被害者に毒を注入できた[8]。
毒性
[編集]雑誌「Toxicon」に発表された研究によると、L. obliqua は、播種性血管内凝固症候群、および、ある種の出血症候群を引き起こす可能性のある一種の消費性凝固障害などの原因となる独特の毒成分を持っている。
研究では、各刺毛の基部は毒成分が蓄積される袋になっていることも解明された。そのstemと針が患者に刺さったとき、毒はこの中空の針を通して流れ、刺創に侵入する。[9]
この研究ではまた、この幼虫の皮膚にある毒は抗凝固因子の可能性をもっていることが発見された。この抗凝固因子は、体内の細胞の他の蛋白質と結合し、血液が凝固できないようにそれらを漏出させる原因となる。 この内出血は「傷ついた血液」で取り囲まれた組織を充満させる。この内出血は体内組織を通じて広がり、最終的に(血液による)圧迫と脳死をもたらす。この毒は、かなり大量の場合にのみ効果をもたらす。この毒によって引き起こされる深刻な結果の経験によれば、患者はたぶん少なくとも20回から100回は刺される必要がある。なぜなら、一回刺されたときに注入される毒の量はごく微量だからだ。
この幼虫は群居性があるため、わずかな接触でもしばしば致命的な大量の毒を注入されることがある[3]。
Lonomia属はアメリカ大陸で発見された26種を含む。しかし、ヒトに血腫状の症状を引き起こすことが報告されているのは、L. obliqua とL. achelous の2種のみである。[2] 1989年以来、これらの幼虫を原因とする人身事故の件数はブラジル南部で増加している。 1997年から1999年の159件を解析した結果によると、過半数の患者は男性(63%)で、45%は0歳から19歳であった。損傷は特に手に多かった(38%)。この報告によれば、199件の事故例で死亡例は5件(死亡率は2.5%)である[10]。またブラジル南部のパラナ州では、1989から2001までに5673件の事故が発生し、21人が死亡している[11]。 抗血清がサンパウロのInstituto Butantanで製造されている。それは、L. obliquaの毒によって誘導される凝固障害を実質的に修正する。そして、その抗血清で治療された患者は速やかに回復する。[9] この抗血清は、アルゼンチンで2014年に発生した数件の事故で患者に投与され、いずれも数時間で回復が見られたため、アルゼンチンの病院におけるL.obliqua との接触事故の治療にはこの抗血清の使用が推奨されるようになった[12]。
播種性血管内凝固症候群は被害者の身体に毒が注入されると発生する。毒を入れられた被害者のある厳しい効果は、出血症候群である。
「ベネズエラで1967年にArocha-Pinango と Layrisse によって最初に考察された
Lonomiaに触れることによってヒトに引き起こされる出血性素因は、接触部の炎症で始まり、頭痛、発熱、嘔吐や不快感といった一連の症状が引き続く。24時間後には、ある激しい出血性疾患が引き続き、斑状出血、血尿、肺や脳の出血、急性腎不全などが引き続く[13]」
事例
[編集]L. obliqua:による事故は1980年代後半まではごく稀ななものと考えられていた[2]。
それ以前には数件の事例しか記録されていない。 Arquivos de Neuro-Psiquiatriaに報告された致命的な症例によれば、 「70際のそれまでは健康であった女性、突発的昏睡状態に陥った。4日前、彼女は血尿症の提示が始まった。入院後間もなく、彼女の昏睡はGlasgow 3になった。物理的試験はいくらかの皮膚出血および肉眼的血尿が見られた。 患者が残したノートによる情報に基づき、彼女の左足爪先の先端に小さな充血した皮膚損傷が認められた。彼女のノートによれば、緑の毛虫が彼女のスリッパの中に隠れていたということである。CTスキャン画像は多数の脳内出血を明らかにした。彼女は刺傷の7日後に死亡した。[13]」
他の事例では下半身全体に内出血が広がっていた。この患者は死亡しなかったものの緊急治療が必要だった。[要出典]
治療
[編集]多くの深刻な障害や死亡例が報告されているが、刺された個人がなすべき初期治療についてはほとんど報告されていない。専門的医療を受ける前に、健康を取り戻す備えの助けになり得るあるステップがある。石鹸と水で患部を洗浄すること、同時に小さい毛を取り除くために粘着性のものを応用する。この場合ダクトテープが有用である。 Robert Norrisによれば、Lonomia obliquaによる傷は、抗線維素溶解薬で治療すべきである。もし造血が要求されるなら、定常的消費性凝固障害に供給を避けるべく慎重に与えられるべきである。[14]
医学への応用
[編集]L. obliquaの幼虫が持つ毒は、その医学的価値を決定するための多数の研究の対象となってきた。 特に"Lopap"(L. obliqua prothrombin activator protease) と呼ばれる成分は、抗凝血剤および抗アポトーシスとしての性質が示された[15][16]。
近縁種
[編集]- Lonomia achelous: ヒトが接触するとL. obliquaと同様の症状を引き起こす。ベネズエラやブラジル北部から報告されている、Lonomia属幼虫との接触を原因とする出血症候群は、本種によるものと考えられる[7]。Lonomia属は南アメリカに26種分布しているが、ヒトに出血作用を引き起こすことが報告されているのはL. obliquaと本種のみである[2]。本種との接触による臨床的な症状はL.obliqua によるものと似ている。しかし両種の毒成分およびその生理的作用はかなり異っている[1]。そのため、L. achelousによる症状に対する治療法は、L. obliquaによる症状には効かず、むしろ悪化させる可能性もある[7]。
脚注
[編集]- ^ a b Hossler (2010a)
- ^ a b c d e f g h i Chudzinski-Tavassi, and Alvarez-Flores (2013)
- ^ a b Floresa, Zanninb, Tavassi (2010)
- ^ Heppner 2008
- ^ Chudzinski-Tavassi, and Carrijo-Carvalho (2006)
- ^ a b c Arocha-Piñango, and Guerreroh (2001)
- ^ a b c Hossler (2010b)
- ^ Donato et al. (1998)
- ^ a b Pinto et al. (2010)
- ^ Rubio (2001)
- ^ Medeiros et al. (2014)
- ^ Sánchez et al. (2015)
- ^ a b Kowacs et al. (2006)
- ^ Norris (2014)
- ^ Waismam et al. (2009)
- ^ Prezoto et al. (2002)
参考文献
[編集]- A.M. Chudzinski-Tavassi, M.P. Alvarez-Flores (2013), “Chapter 6:South American Lonomia obliqua Caterpillars: Morphological Aspects and Venom Biochemistry”, in Elia Guerritore, Johannes DeSare (PDF), Lepidoptera: Classification, Behavior & Ecology, Nova Science Publishers Inc, pp. 169-186, ISBN 978-1624172489 2015年2月4日閲覧。
- Chudzinski-Tavassi A. M., Carrijo-Carvalho L. C (2006). “Biochemical and biological properties of Lonomia obliqua bristle extract” (PDF). Journal of Venomous Animals and Toxins including Tropical Diseases 12 (2). doi:10.1590/S1678-91992006000200002 .
- Carmen Luisa Arocha-Piñango, Belsy Guerreroh (2001). “Lonomia Genus Caterpillar Envenomation: Clinical and Biological Aspects” (PDF). Haemostasis 31 (3-6): 288-293. doi:10.1159/000048075 .
- Jos L. Donato; Moreno, R.A.; Hyslop, S.; Duarte, A.; Antunes, E.; Le Bonniec, B.; Rendu, F.; de Nucci, G. (1998). “Lonomia obliqua Caterpillar Spicules Trigger Human Blood Coagulation via Activation of Factor X and Prothrombin”. Thrombosis and Haemostasis 79 (3): 539–542. ISSN 0340-6245. PMID 9531036 .
- M.P. Alvarez Floresa; M. Zanninb; A.M. Chudzinski-Tavassi (2010). “New Insight into the Mechanism of Lonomia obliqua Enveoming: Toxin Involvement and Molecular Approach”. Pathophysiology of haemostasis and thrombosis 37 (1). doi:10.1159/000320067. PMID 20714126 .
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