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利用者:Kazushi/編集ページIII

酸化ストレス(さんか―,Oxidative Stress)はス―パーオキシドアニオン(O2-)やヒドロキシルラジカル(・OH)などの活性酸素種により生じる生体にとって有害な現象である。活性酸素種は広義には一酸化窒素(NO)などの含窒素化合物(活性窒素種)も含んでおり、これらによるストレスは『ニトロ化ストレス』あるいは『ニトロソ化ストレス』と呼ばれる。生体は常に内因性あるいは外因性の酸化ストレスにさらされており、活性酸素の消去系が働くことでストレスから免れているが、生活習慣の乱れや慢性炎症により産生系と消去系のバランスが崩壊することで生体は過剰な酸化ストレスにさらされることとなる。本来これらの活性酸素は細菌などの侵入物に対する攻撃を行うなど有用なものであるが、反応性に優れる活性酸素が過剰に産生されることで自己を構成する蛋白質脂質核酸(DNA,RNA)などを損傷し、生活習慣病をはじめとする疾患の発症につながることから問題となる。また、活性酸素種はシグナル伝達(いわゆるレドックスシグナル)にも関与しており、細胞障害を引き起こす。

活性酸素と酸化ストレス

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レドックスシグナルに重要な活性酸素としてスーパーオキシドアニオンと過酸化水素が挙げられる。

活性酸素の産生

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活性酸素の生成。

キサンチン酸化還元酵素

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キサンチン酸化酵素の構造(ウシ)。

キサンチン酸化還元酵素(XOR)は通常の状態ではキサンチン脱水素酵素(XDH)として存在する。XDHはNAD+をNADHに変換する反応を触媒し、活性酸素を産生しない。しかし、酸化ストレスを受けるとその構造中に存在する複数のシステイン残基の間で分子内ジスルフィド結合(-S-S-)を形成し、酵素の性質が変化する。これにより活性酸素種の産生に寄与するキサンチン酸化酵素(XO)となるが、この反応をD/O変換と呼んでいる。XORはヒトや細菌など幅広い生物に発現が見られるが、XORのD/O変換をするのは哺乳類だけである。D/O変換は可逆的であり、システイン残基が還元されてジスルフィド結合が解離すればXOは再びXDHへと戻る。

哺乳類のXORは150kDaのサブユニットがホモ2量体を形成した構造をとる。

NADPHオキシダーゼ

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NADPHオキシダーゼ(Nox)は6回細胞膜貫通型の蛋白質であり、ヒトでは少なくとも5種類のNoxが存在する。そのうちの4種類(Nox1-4)は恒常的にp22phoxと呼ばれるタンパク質と会合している("phox"というのはphagocyte oxidaseの頭文字をとったものであり、食細胞のNADPHオキシダーゼに関連する分子は名称の右肩に"phox"をつけるしきたりがある)。p22phoxカルボキシル基側末端にはプロリンリッチ領域(PRR)が存在する。

  • Nox2/gp91phox
Noxの中で一番最初に発見された分子である。食細胞が貪食した異物の分解に関与するとされ、食細胞NADPHオキシダーゼと呼ばれた。Nox2は細胞休止時には不活性であるが、細胞質に存在するp47phoxやp67phox、Racなどが細胞膜へ移行してNox2-p22phoxと相互作用することにより活性化を受けると活性酸素を産生するようになる。これらの活性化タンパク質の中でも中心的な役割を果たしているのがp67phoxであり、p47phoxとp40phoxの補助を受けて細胞膜へ移行する。
  • Nox1
Nox1の活性発現には前述のp22phoxの他にNoxo1(Nox Organizer 1)およびNoxa1(Nox Activator)が必要となる。Noxo1とNoxa1はそれぞれp47phoxとp67phoxのホモログである。
  • Nox3-5

Duox

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Duox(Dual Oxidase)はアミノ基側末端にペルオキシダーゼ様ドメイン、カルボキシル基側末端にNox様ドメインを有する酵素であり、Duox1とDuox2が存在する。当初はペルオキシダーゼ活性とNox活性の両方を併せ持つ酵素であると予想されたためこのような名称が付いているが、Duoxのペルオキシダーゼ様ドメインはその活性を発揮するために必要なアミノ酸残基を欠いていることからペルオキシダーゼ活性をもたないと考えられている[1]。Noxがスーパーオキシドアニオンを生成するのに対してDuoxは過酸化水素を生成する。

生物に対する影響

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ペルオキシニトリルの作用。

炎症

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1990年代ころから活性酸素種が炎症反応に関与していることが注目され始めた。炎症に関与する転写因子としてNFκBが知られており、インターロイキン-2(IL-2)やIL-8細胞接着分子であるICAM-1VCAM-1の発現を制御しているが、NFκBはスーパーオキシドや過酸化水素(H2O2)により活性化されることが示されている[2][3]。活性酸素種によるNFκBの活性化はRas(p21)と呼ばれる低分子Gタンパク質を介しており、これがMAPキナーゼカスケードを活性化、NFκBを構成するp65サブユニットのリン酸化を引き起こすと考えられている[4]。しかし、一方でNFκBがDNAに結合する際にはp50サブユニットのシステイン残基(Cys62)が還元された状態のほうが有利であるとの報告もあり[5]、議論の過程である。

活性酸素種と同様、活性窒素種であるNOもNF-κBの活性化と深くリンクしている。NFκBの活性化は一酸化窒素合成酵素であるNOS2遺伝子の転写を亢進させ[6]、低濃度のNO(0.1-10μM)もまたNFκBを活性化させることが報告されているが[7]、これも細胞株やNOの濃度などにより大きく結果は異なり、高濃度のNO(0.2-0.5μM)では逆にNFκBの活性化が抑制されたというデータもある[8]


糖尿病

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血糖値の上昇や遊離脂肪酸(FFA)量の増大は活性酸素種の増加を引き起こし、酸化ストレスが生じる。これにより、シグナル伝達分子であるNFκBJNKp38MAPKの活性化が引き起こされる。

血管障害

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生体防御機構

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酵素

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  • スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)
  • グルタチオンペルオキシダーゼ

抗酸化分子

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  • グルタチオン
  • ビタミンC
  • ビタミンE
  • 尿酸
  • ベータカロチン

抗酸化剤

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NOの生成。

出典

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  • 『動脈硬化予防 vol.8 No.3』(2009)メジカルビュー社 ISBN 9784758309424
  • 『実験医学 vol.24 No.12』(2006)羊土社 ISSN 02885514
  • 『実験医学 vol.27 No.15 (増刊146)』(2009)羊土社 ISSN 02885514

参考文献

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  1. ^ Daiyasu H and Toh H.(2000)"Molecular evolution of the myeloperoxidase family."J Mol Evol 51,433-45. PMID 11080366
  2. ^ Schreck R and Baeuerle PA.(1994)"Assessing oxygen radicals as mediators in activation of inducible eukaryotic transcription factor NF-kappa B."Methods Enzymol 234,151-63. PMID 7808288
  3. ^ Anderson MT, Staal FJ, Gitler C, Herzenberg LA and Herzenberg LA.(1994)"Separation of oxidant-initiated and redox-regulated steps in the NF-kappa B signal transduction pathway."Proc Natl Acad Sci USA 91,11527-31. PMID 7526398
  4. ^ Lander HM, Ogiste JS, Teng KK and Novogrodsky A.(1995)"p21ras as a common signaling target of reactive free radicals and cellular redox stress."J Biol Chem 270,21195-8. PMID 7673152
  5. ^ Matthews JR, Kaszubska W, Turcatti G, Wells TN and Hay RT.(1995)"Role of cysteine62 in DNA recognition by the P50 subunit of NF-kappa B."Nucleic Acids Res 21,1727-34. PMID 8493089
  6. ^ Xie QW, Kashiwabara Y and Nathan C.(1994)"Role of transcription factor NF-kappa B/Rel in induction of nitric oxide synthase."J Biol Chem 269,4705-8. PMID 7508926
  7. ^ Lander HM, Sehajpal P, Levine DM and Novogrodsky A.(1993)"Activation of human peripheral blood mononuclear cells by nitric oxide-generating compounds."J Immunol 150,1509-16. PMID 8432991
  8. ^ Sekkaï D, Aillet F and Israël N, Lepoivre M.(1998)"Inhibition of NF-kappaB and HIV-1 long terminal repeat transcriptional activation by inducible nitric oxide synthase 2 activity."J Biol Chem 273,3895-900. PMID 9461573