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あらすじ
[編集]物語は、監督であるレオス・カラックス自身が目覚める(あるいは、「夢から覚める」という夢を見る)場面から始まる。彼はこれから観客に、最初期の連続写真から最新鋭のCGを使った映像まで、120年に及ぶ映画史を一挙に見せていく。
主人公のオスカーは、セリーヌが運転するリムジンの後部座席を楽屋として使用し、パリの街なかを廻っては変幻自在に数々の役を演じていく。
ランデヴー①(物乞い)
[編集]セーヌ川にかかる橋の上で、物乞いをする老婆。彼女は言う。「もう何年もの間、目にするのは地面と通り過ぎる人の足だけだ。みんなから嫌われてる。それでもこうして生きさらばえる。死ねないことほど恐ろしいものはない」。
ランデヴー②(VFX技術)
[編集]全身にマーカーを付け、モーションキャプチャー撮影に挑むオスカー。アクションシーンをこなし、3DCGのキャラクターと一体化し、相対する女性キャラクターと淫靡に踊る。
ランデヴー③(メルド)
[編集]3つめの役はオムニバス作品『TOKYO!』の中で東京にも出現したことのある、フランス語で「クソ」という意味の名前を持つ怪人、メルド。地下用水路を通ってモンパルナス墓地に出現し、人々を襲ったあげく女性モデルを拉致し、彼女の歌う子守唄で眠る。
ランデヴー④(親子物語)
[編集]パーティーのために、週末を使ってパリに滞在していたアンジェレとその父。しかし彼女は自分の容姿に自信がなく、男の子とも仲良くなれない。結局パーティーの間じゅう、バスルームに閉じ籠もっていたものの、そのことが父にばれて失望される。
インターバル
[編集]聖堂の回廊を練り歩きながら、バンドネオンを演奏するオスカーたち。
ランデヴー⑤(ギャング映画①)
[編集]ギャングに扮したオスカーは、復讐のためにテオと呼ばれる人物が潜むアジトに赴く。テオを刺して倒したオスカーは、彼の髪型や服装を変え、自分が死んだように偽装する。しかし、テオはかろうじて生きており、オスカーに逆襲する。地面に倒れた二人は双子のように瓜二つだった。
ランデヴー⑥(ギャング映画②)
[編集]リムジンの車窓から、以前から狙っていたらしい銀行の重役を偶然見つけ、オスカーは車を飛び降りて決着をつけに行く。標的は殺したものの、彼は護衛からの銃撃を受けて倒れる。
ランデヴー⑦(臨終の場面)
[編集]ホテルの一室で息絶えようとしているヴォーガン氏と、傍で見守る姪のレア。彼女はヴォーガンから受け継いだ財産で富裕になったが、金が目当てだった夫と結婚したことで零落してしまった。ヴォーガンは「たとえ君が憎まれていたとしても、君は好かれても愛されてもいたのだ」と言い残して絶命する。
ランデヴー⑧(ミュージカル映画 / ポンヌフの恋人)
[編集]オスカーは『ポンヌフの恋人』の主役・アレックスとしてヒロインのミシェル(ジーン)と再会する。廃墟となったビルで、ジーンの相手役の男が来るまでの20分間に、二人は今までの20年を取り戻そうとする。ジーンは「あの頃の私たちは誰だったの?」と歌い、二人の間には子どもがいたことが示唆される。オスカーと別れたあと、ジーンはキャビン・アテンダントのエヴァとなり、ビルの屋上から飛び降りて自殺する。
ランデヴー⑨(コメディ)
[編集]長い一日を終え、帰宅したオスカー。しかし自宅で待っていた妻はチンパンジーだった。
メタ・フィルムとしての性格
[編集]監督のレオス・カラックスは映画の歴史を語るために、今まで数え切れないほどの映画の舞台となってきた街・パリを再び舞台として様々な映画のシーンを再現し、かつ自らの作品(『ポンヌフの恋人』)にも戻って来た。そのため、この作品は「映画についての映画」であり、メタ・フィルムと言える[1]。
映画の撮影時、各ショットの初めの合図である「アクション!」というかけ声を、フランス語では「モトゥール(Moteur)!」という。それに「聖なる」を意味する形容詞「Holy」を付加した本作のタイトル『ホーリー・モーターズ』は、この作品が無数の映画作品へのオマージュであることを示している[1]。
作品中にはオスカーがこなす「仕事」以外にもいくつか、映画とその歴史に関する言及がある。例えば、彼は「カメラのことは残念だ。どんどん小さくなって、いまや目に視えなくなった。本当にこの仕事が好きなのか、疑わしくなるよ」とぼやいている。
また、ところどころで挿入される、手を開いたり閉じたりする動きや、幅跳びや綱引きをする男を捉えた映像はエドワード・マイブリッジの初期の連続写真であり、映画の黎明期の作品として位置付けられるものである[1]。 他にも、ラストシーンでセリーヌが付ける仮面は明らかに、1960年の映画『顔のない眼』への言及である[1]。
また、冒頭に登場するモダニズムの美しい邸宅は、フランスの建築家ロベール・マレ=ステヴァンスが、『人でなしの女』の衣装を担当した服飾デザイナーであるポール・ポワレのために1923年に建てたものである。カラックスは1920年代のフランス映画へのオマージュとして、この邸宅を映画に登場させた。マレ=ステヴァンスは当時、白い立方体を組み合わせたキュビスム風のセットを製作していた。1923年の『人でなしの女』に登場する邸宅と実験室も彼が手がけたものである[2]。
劇中の楽曲
[編集]劇中で使用される主な楽曲は以下の通り。
曲名 | 作曲者・歌手 | 備考 |
---|---|---|
『Who Were We ?』 | Leos Carax & Neil Hannon | 本作のために作曲されたもので、ジーンが独唱する。ピアノ・ソロで演奏されるライトモチーフが作品の随所で使用されるほか、オーケストラ・ヴァージョンがエンドクレジットで流れる。 |
『Funeral March (Adagio molto) String Quartet 15 E. Op. 144』 | ドミートリイ・ショスタコーヴィチ | レアの登場シーンと、ジーンとの再開シーンの後に流れる。 |
『Revivre』 | Gérard Manset | 最後に家路に着く場面で流れる。作中で再会したアレックスとミシェルに呼応するように、歌詞は「もう一度同じこの人生を生き直したい」、「私たちは生まれた場所へ遡上しては下って行くサケのようだ」などと歌っており、ニーチェの永劫回帰や可能世界論などを思わせもする。 |
『How are you getting home ?』 | Ron Mael / SPARKS | アンジェレを迎えに行く前後の車内のシーンで、カーステレオから流れてくる。 |
『Godzilla, Main Title Singking of Bingou-Maru』 | 『ゴジラ』サウンドトラックより | メルドが墓地で暴れ回るシーンで使用される。 |
『Let My Baby Ride』 | R.L.BURNSIDE / Tom Rothrock | バンドネオンのヴァージョンに編曲されたものを、オスカーたちが演奏する。 |
『Can't get you out of my head』 | Kylie Minogue | パーティー会場となったビルの一室から聴こえてくる。 |
『My Way』 | フランク・シナトラ | 一日の終わりに、オスカーが口ずさむ。 |