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利用者:Eugene Ormandy/sandbox86 図書館情報学

図書館情報学 (としょかんじょうほうがく、英語: library and information science) とは、情報と知識の性質、情報が生まれ、伝達され、探索され、利用されるまでの過程と情報メディアとの関係、それに図書館に関わる諸問題を扱う学問である[1]。図書館学 (library science) と情報学 (information science) の複合領域であり、1960年代に形成された[1][2]

なお、日本では「情報図書館学」「図書館・情報学」などの表記が存在したが、1990年代半ば以降「図書館情報学」という表記が定着したとされる[2]

沿革

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アメリカの大学院図書館学科が、コンピュータの利用や情報検索などをカリキュラムに取り入れた1960年代の初めごろ、新たな学問領域として "library and information science (図書館情報学)" が提唱され、社会的な情報流通過程や情報利用過程についても研究されるようになった[2][3][4][5]。この用語は、"Encyclopedia of Library and Information Science""Library & Information Science Abstracts" が刊行された1960年代後半に確立したとされる[2]。その一方で、1907年にポール・オトレが提唱し、フリッツ・ドンケル=デュイヴィが発展させた「文献の生産、識別、収集、利用、というプロセス」を指す「ドキュメンテーション」という用語は次第に使われなくなったとされる[6][3]

1990年代半ば以降、インターネットが広まって情報量が拡大すると、図書館情報学のコア領域や境界に関する議論が進んだ[2]

2000年には国際図書館連盟が「図書館情報学教育方針 (Guidelines for Professional Library/Information Educational Programs) 」を発表し、2012年に改訂版を発表した[7]

研究内容

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図書館情報学の研究領域としては、情報検索、情報探索行動、目録研究、計量書誌学が挙げられる[8][9]

情報検索

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情報探索行動

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目録研究

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計量書誌学

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「計量書誌学 (bibliometrics)」という用語は、アラン・プリチャードによって提唱された[10]。 『図書館情報学用語辞典 第5版』では「書誌や索引誌、抄録誌、あるいはこれらのデータベース等を利用して、文献の集合を統計的に分析することにより、文献の生産、流通、利用等に関するさまざまな事象を計量的に扱う研究領域」と説明されているが [11]、上田修一は、計量書誌学の定義は研究者によって様々であり、一定ではないと指摘している[10]

具体的な研究内容としては、引用文献・被引用文献の識別・分類・集計を行なって学術コミュニティへの影響度などを測定する「引用分析」[11][12][10]

計量書誌学の類似領域としては「科学軽量学 (scientometrics)」と「計量情報学 (infometrics)」がある[10]。科学計量学は、1978年に Scientometrics誌が刊行されたことで出現した領域である[10]。また、計量情報学は、計量書誌学とほぼ同義に扱われることもあるが、計量書誌学を包含する領域とも捉えられることもある[10]

図書館情報学の近接領域

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また、図書館情報学と近接する分野としては、出版、読書、書誌学、メディア論、アーカイブス、自然言語処理、情報システム学、知識論、知識経営などがあるとされる[13][14]

AIと図書館情報学の関連も指摘されるようになり、2020年には『人工知能』において「図書館情報学とAIの新展開」と題した特集が組まれ、AI研究から図書館情報学への影響、図書館情報学からAI研究への影響の双方が記された[15]。特に「知識の利用と共有」「言語メディア処理」「Web インテリジェンス」の分野で両者の共通点が指摘されている[15]

研究動向

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図書館情報学の研究動向

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図書館情報学の研究動向に関する研究の動向

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図書館情報学そのものの研究動向に関する研究は1970年代から行われてきたが、初期は著者と主題が調査項目となっていたのに対し、次第に研究方法や理論の使用へと分析対象は拡がっていったとされる[16]

研究機関

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日本における研究機関

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1953年に設立された日本図書館学会は、1998年に「日本図書館情報学会」と改称した[17]。また、日本図書館情報学会と慶應義塾大学文学部図書館・情報学科をもとにして1968年に誕生した「三田図書館・情報学会」は、査読制学会誌の刊行と研究集会の開催を行なっている[17][18]。なお、上田修一は日本図書館学会が日本図書館情報学会に改称するまでに時間がかかったことについて、「情報」という言葉に抵抗を示す人々も一定数いたと指摘している[17]

図書館情報学に関する教育

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多くの国では、図書館情報学の教育は図書館員養成と密接に関わっているとされる[19]。また、2000年には国際図書館連盟が「図書館情報学教育方針 (Guidelines for Professional Library/Information Educational Programs) 」を発表している[7]

日本

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2002年に筑波大学と統合された図書館情報大学 (2002年)

1951年に占領軍と米国図書館協会の援助で慶應義塾大学に開設された「日本図書館学校」では、アメリカ人教員たちによって図書館学が教えられたが、1967年に「図書館・情報学科」と改名され、大学院修士課程が設置されるとともに、アメリカと同じ図書館情報学のカリキュラムが採用された[3]。また、1955年に国立の図書館短期大学となった文部省の図書館職員養成所は、1979年に4年制の「図書館情報大学」となり、1984年には大学院修士課程が設置された[3]。その後2002年に、筑波大学と統合された[3][20]

また、1977年には「図書館・情報学教育に関する基準およびその実施方法」が大学基準協会によって策定され、大学における図書館情報学教育の目的と実施方法を定めた基準、専門科目とその単位、担当教員数、授業方法、施設設備などが定められた[2]。なお、1982年に排列などが一部変更された[2]

なお、柳与志夫は「研究者としてよりも司書課程の教師としての役割が優先されがち」として、日本の図書館情報学の遅れを指摘している[21]

アメリカ

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民間団体であるアメリカ図書館協会は、大学に設けられた図書館情報学修士課程の認定を行なっており、そこで得た修士学位が図書館員となる条件となっている[19]。なお、アメリカ図書館協会の認定する課程は伝統校よりも大規模な州立大学に多く設置されている[19]。また、他にも情報学を中心とした教育機関としてアイスクール (i-school) が存在するが、アメリカ図書館協会の認定課程と多くは重なっている[19]

ヨーロッパ

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ヨーロッパの大学はアカデミズムを追求する傾向が強かったため、専門職の養成過程は20世紀後半まで大学に設置されず、図書館員のための教育は大学以外の専門養成学校で行われた[22]

ただ、1999年には「ヨーロッパ高等教育圏」の構築を目指したEUが「ボローニャ宣言」を発表し、各国共通の学士課程と大学院課程を作ることや、単位互換制度を作ることを定めた[23][22]。また、2000年からの10年間に学位や資格の透明性を高めること、教育の質を保証すること、圏内の移動に対応したカリキュラムを提供することなどの課題に取り組むことも宣言した[23]

ただし図書館職員が何段階にも区分けされ、中学校卒業レベルから修士レベルまでの教育機関があるフランスや、比較的単純な課程を設置しているデンマークなど、国ごとに教育体制は様々である[23]

イギリス

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ドイツ

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デンマーク

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フランス

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「図書館情報学」が示す領域にまつわる混乱や批判

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「図書館学」と「情報学」とのせめぎ合い

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情報化社会が到来し「図書館情報学」という用語が確立していく中、1979年にウェスタンリザーブ大学のジェシー・H・サラは、情報科学にはない、図書館学固有の領域に目を向けるよう注意を促した[24]。しかし、カリキュラムの重心は次第に図書館学から情報技術系へと移り、アメリカのライブラリースクールの中には「インフォメーションスクール」と呼ばれるところも複数登場した[24]

また、2005年に根本彰は図書館情報学に関する理論書としてヴィッカリー夫妻の『情報学の理論と実際』、バックランドの図書館・情報サービスの理論』を紹介したのち「日本において図書館情報学理論を構築するには、図書館そのものの社会における位置づけを理論化するか、こうした著作が前提としている機械論的情報論を見直すかいずれかが必要だろう」と述べている[14]

「図書館情報学」と「情報学」とのせめぎ合い

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上田修一は「図書館情報学、情報学、情報科学、コンピュータサイエンスをめぐる混乱」の例として、日本十進分類法における「007」の項目を挙げている[25]。1978年の新訂8版に新しく追加された「007 情報科学 Information science」には、細目から判断するに図書館情報学に関連する文献が分類されるべきだったが、本来であれば分類項目「548」に分類されるべきであったコンピュータ関連書やソフトウェアマニュアルが分類されてしまい、日本十進分類法における総記の意味が損なわれたと上田は述べている[25]

関連文献

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  • Allen Kent; Harold Lancour, eds (1968). Encyclopedia of library and information science. 1, A to Associat. OCLC 955398813  - 本書の刊行は、「図書館情報学 (library and information science) 」という用語が定着するきっかけの一つとなった。[2]
  • Aslib (United Kingdom) (1969). Library & information science abstracts. London: Library association [and] Aslib. OCLC 1248028892  - 本書の刊行は、「図書館情報学 (library and information science) 」という用語が定着するきっかけの一つとなった。[2]

脚注

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参考文献

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  • 上田修一「図書館情報学とは」『図書館情報学 第二版』、勁草書房、2017年3月、1-57頁、ISBN 9784326000432 
  • 清田 陽司、大向 一輝「特集「図書館情報学と AI の新展開」にあたって」『人工知能』第35巻第6号、2020年11月、744-747頁、doi:10.11517/jjsai.35.6_744 
  • 杉内 真理恵、羽生 笑子、上田 修一、倉田 敬子、宮田 洋輔、小泉 公乃「論文から見た日本の図書館情報学研究の動向」『Library and information science』第66巻、三田図書館・情報学会、2011年、127-151頁、NAID 120005255611 
  • 日本図書館情報学会用語辞典編集委員会 編『図書館情報学用語辞典 第5版』丸善、2020年8月。ISBN 9784621305348 
  • 根本彰「図書館情報学の理論的基盤」『図書館・情報学研究入門』、勁草書房、2005年、3-5頁、ISBN 4326000309 
  • 根本彰「図書館情報学からみる図書館の姿」『図書館情報学を学ぶ人のために』、世界思想社、2017年、32-44頁、ISBN 9784790716952 
  • 松崎博子「アメリカの図書館員養成の歴史」『新しい時代の図書館情報学 補訂版』、有斐閣、2016年12月、194-197頁、ISBN 9784641220836 
  • 柳与志夫『文化情報資源と図書館経営』勁草書房、2015年。ISBN 9784326000395 

関連項目

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外部リンク

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