コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

利用者:Akaniji/引用

引用(いんよう、citationquotation[1])とは、

広義には、他人の著作を自己の作品のなかで紹介する行為、先人の芸術作品やその要素を自己の作品に取り入れること。報道や批評、研究などの目的で、自らの著作物に他の著作物の一部を採録したり、ポストモダン建築で過去の様式を取り込んだりすることを指す。

狭義には、各国の著作権法の引用の要件を満たして行われる合法な無断転載[2]のこと。引用は権利者に無断で行われるもので、著作権法[3]で認められた合法な行為であり、権利者は引用を拒否することはできない[4]。権利者が拒否できるのは、著作権法の引用の要件を満たさない違法な無断転載等に限られる。

緒言

[編集]

引用は、論評などの対象を示したり、自分の主張の裏づけを示すために行われる。 たとえば、文書で行われる引用は次のようなものである。

夏目漱石は数々の名文を残した。たとえば「どこで生れたかとんと見当がつかぬ」1)などである。


参考文献

  1. 夏目漱石 (1905), 吾輩は猫である, ホトトギス社 

明治時代、福澤(1872)は学問を奨めた。


参考文献

  • 福澤諭吉 (1872), 学問のすゝめ, n.p. 

この文に「1)」や「(1892)」がなかった場合、何を根拠として書いた文章かわからないため、信頼性の低い作文とみなされてしまいかねない。このように、引用は文章等の信頼性を確保する手段でもある。

著作権

[編集]

引用は、他人の文章を複製して頒布 パブリックドメイン文書は、無条件に、著作者に無断で全部を頒布してよい。 コピーレフト文書は、各条件を満たせば、著作者に無断で全部を頒布してよい。 その他の公開文書(コピーライト文書)は、著作権法の定める引用の要件を満たせば、著作者に無断で一部を頒布してよい。 非公開文書は、著作者に無断で頒布してはならない。

日本法における著作物の引用

[編集]

日本では、一定の条件を満たした「引用」は、権利者に無許可で行えることが著作権法第32条で規定されている。これは著作権の侵害にならない。

趣旨

[編集]

人間の文化活動のなかでは、批評・批判や、自由な言論のために、著作者・著作権者に断りなく公表された著作物を用いる要請が生じることがある。狭義の引用は、その要請を満たすために用意された著作権の制限・利用の許容の規定である。著作権の保護と調和するように適切と認められるための条件が定められている。

の条文

[編集]

著作権法32条(引用)  

  1. 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。  
  2. 国若しくは地方公共団体の機関又は独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。

著作権法43条(翻訳、翻案等による利用)  

  1. 次の各号に掲げる規定により著作物を利用することができる場合には、当該各号に掲げる方法により、当該著作物を当該各号に掲げる規定に従つて利用することができる。
    • 一  〔略〕
    • 二  〔・・・〕第三十二条〔・・・〕 翻訳
    • 三  〔略〕

著作権法48条(出所の明示)  

  1. 次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
    • 一  第三十二条〔・・・〕の規定により著作物を複製する場合
    • 二  〔略〕
    • 三  第三十二条の規定により著作物を複製以外の方法により利用する場合〔・・・〕において、その出所を明示する慣行があるとき。
  2. 前項の出所の明示に当たつては、これに伴い著作者名が明らかになる場合及び当該著作物が無名のものである場合を除き、当該著作物につき表示されている著作者名を示さなければならない。
  3. 第四十三条の規定により著作物を翻訳〔・・・〕して利用する場合には、前二項の規定の例により、その著作物の出所を明示しなければならない。

要件

[編集]

著作権法において正当な「引用」と認められるには、公正な慣行に従う必要がある。最高裁判所昭和55年3月28日判決[5][6]によると「引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録すること」である。

一般に、適切な「引用」と認められるためには、

  • ア 既に公表されている著作物であること
  • イ 「公正な慣行」に合致すること
  • ウ 報道,批評,研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であること
  • エ 引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること
  • オ カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること
  • カ 引用を行う「必然性」があること
  • キ 「出所の明示」が必要(コピー以外はその慣行があるとき)

—  文化庁 (2008, §8. 著作物等の「例外的な無断利用」ができる場合 ⑧ ア、「引用」(第32条第1項))

が必要とされる。

中でも出所の明示については著作権法の第48条に規定されており、後述する引用以外の合法な無断利用を含め、共通の必須事項である(これを怠ると剽窃とみなされる)。 ついで、引用する分量を抑えなければならない。引用するには目的(必然性)が必要であり、それに必要な量しか引用してはならない。質的にも量的[7]にも、引用先が「主」、引用部分が「従」の関係になければならない。引用を独立してそれだけの作品として使用することはできない。 なお、引用部分を明確にする方法としては、カギ括弧のほか、段落を変える、該当箇所の右肩に出典の一連番号を付ける該当箇所の直後に参照文献の著者名等を括弧に入れて記載する[8]などの方法もある。

以上の要件を満たさない無断転載等は、法で認められている合法な「引用」にはあたらず、違法な無断転載等にあたり、法第119条以降の罰則に基づいて懲役や罰金に処される。

引用以外の合法な無断利用

[編集]

ただし、一般に周知させることを目的とした、転載を禁止する旨の表示がない、行政機関等の名義の下に公表された広報資料等は、出所を明示すれば、行政機関に無断で説明の材料として新聞や雑誌などの刊行物に転載して構わない[9][10]

また、学術的な性質を有するものでない、政治上、経済上、社会上の時事問題に関する、転載・放送・有線放送を禁止する旨の表示がない、新聞又は雑誌に掲載して発行された論説等も、出所を明示すれば、新聞社等に無断で他の新聞等への転載、放送・有線放送・放送対象地域を限定した「入力」による送信可能化による放送の同時再送信[11]をして構わない[12][10]

公開して行われた政治上の演説・陳述又は裁判手続きにおける公開の陳述も、同一の著作者のもののみを編集せずに、出所を明示すれば、著作者に無断で転載等して構わない[13]

以上3つの合法的な無断利用にあっては、それぞれの要件と出所の明示を守る場合に限って、主従関係や必然性などの引用の要件を考慮する必要なく、権利者に無断で全部を転載しても構わない。 ただし、特に新聞等は大抵無断転載を禁じており、法第39条に基づいて合法的に全部を無断転載することは事実上不可能である。よって、法第32条第1項の引用の要件を満たして一部分のみを引用するか、次の著作権の保護の対象にならない内容(創作性のない表現、データそのものなど)に限って転載するのが、現実的な合法的手段である。

著作権の保護の対象にならないもの

[編集]

著作権法上適切な「引用」に関する問題は、対象が著作権法上保護されるものであることが前提となるが、以下のものについては、著作権法上保護の対象とならない。

著作権侵害 参照。(キャッチコピーの著作権については、同項を参照)

要約による引用

[編集]

引用には、原文をそのまま抜粋して引用するもの(quotation)と、要約して引用するものがある。 学界では通例、後者の要約による引用が行われる。

要約による引用を行う際は、

内容の同一性を損なわないこと
字句が変更されていても、内容の同一性が保たれた要約による引用は翻案ではなく複製であり、翻案権[14]同一性保持権[15]を侵害することにはならない。
引用部分の直後に出典を示し、明瞭区別性[5]を確保すること
要約文は引用者の言葉なので、原文の著作者の言葉であるとの誤解を避けるため、カギ括弧や段落分けではなく、ハーバード方式バンクーバー方式などによって引用部分の直後に出典を示す[8]

の2点に注意が必要である。 もっとも、学界での引用は「言葉を引く」というよりも「典拠を示す」という態度なので、同一性としては主旨があっていればよく、明瞭区別性については、出典を示した箇所の直前のわかるところに主旨が含まれていればよい。

なお、前述の通り、要約による引用は複製であるため、正当な範囲や主従関係、必然性などの引用の要件を守らなければならない点は、抜粋による引用と同様である。

複製の要件を避けるための変更

[編集]

複製の要件を避けるために、自分の言葉でまとめなおす例がある。 しかしながら前述の通り、字句を変えたところで内容が同一である限り複製であることに変わりはなく、出所を明示するなど、引用の要件を守らなければならないことに変わりはない。 出所の明示を怠ると、日本では50万円以下の罰金に処される(著作権法第122条)。 また、内容が変わるほど書き直しても、原文の創作性が残っている場合は[16]翻案及び同一性保持権の侵害にあたり、著作権の侵害として10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金(又は併科)(法第119条1項)、著作者人格権の侵害として5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金(又は併科)に処される(法第119条2項)うえ、法第114条の規定に基づいて計算された損害額の賠償を請求され、公衆の面前で訂正や謝罪をしなければならなくなることさえある(法第115条)。

字句を変えて複製の要件を逃れようとするのではなく、出所明示や正当な範囲、主従関係、必然性など著作権法の定める引用の要件を守って、堂々と引用するのが肝要である。 ただし、引用の要件はそれなりに厳しいものであるので、引用を行うにあたっては細心の注意が必要である。

無断利用のしやすい資料としにくい資料

[編集]

文書は何も宣言しない場合、全て著作権によって保護される。 著作権による保護は他人による利用を阻むものであり、これは著作者の意に反する場合がある。 著作者がより自由な無断利用を望む場合、無断利用を許可する宣言をしている場合がある(下表)。 表の上の方ほど無断利用しやすく、下の方ほど無断利用しにくい(条件が厳しい)。

文書 無断複製 無断頒布[17] 無断販売 無断改変 出所の明示 無断利用条件の継承
パブリックドメイン 不要 不要
コピー
レフト
CC BY 不要
CC BY-SA
行政機関等の広報資料等[18]
政治上又は裁判の
公開の演説・陳述
[19] [19] [19]
新聞または雑誌の論説等[20] [21] [21]
GFDL
CC BY-NC 不可 不要
CC BY-ND 不可 不要
CC BY-NC-ND 不可 不可 不要
CC BY-NC-SA 不可
その他(コピーライト [22] 不可 不可 不可

ちなみに、GFDL文書として無断頒布できる資料はGFDLのほか、パブリックドメイン、CC BY、CC BY-SA、行政機関等の広報資料等[18]、新聞または雑誌の論説等[20]、政治上の演説・陳述又は裁判手続きにおける公開の陳述[19]である。 これ以外の文書であっても、著作権法の定める引用の要件を満たせば、無断頒布することができる。

書式(出所の示し方)

[編集]

引用などの合法な無断転載を行う際は、出所を明示することが必須要件である。 出所の書誌情報は本文に直接書く方法もあるが、多くは本文ではなく末尾に参考文献の章を設けてまとめて書き、本文には引用部分の直後に書誌情報への目印を置く(SIST 08)。

この方法にはハーバード方式バンクーバー方式があり(SIST booklet)、投稿先の投稿規定の定める方を用いる。どちらでも可とする雑誌もある。

ハーバード方式

[編集]

著者の姓と発行年を目印に用い、参考文献の節では著者姓名と発行日の降順に出典を並べる方式である。 【例】

バンクーバー方式

[編集]

引用順の文献番号を目印に用い、参考文献の節では引用順に出典を並べる方式である。 【例】

書誌の書き方

[編集]

以上2つの方式で参考文献への目印を本文に置いたら、次は参考文献の節に出典の書誌を書く。 書誌の書き方は非常に多様で、本項ではその代表的なもののごく一部を紹介する。 詳細は各学術雑誌の投稿規定の引用の書式を参照されたい。

著者名は大抵先頭に書くが、発行年はその次に置いたり[23]、雑誌名の後に置いたり、順序や字体などは論文雑誌により異なる。 論文の投稿者は、投稿する雑誌の投稿規定の書式で出典を書く。

論文雑誌の投稿規定は、

著者名の書き方

[編集]

略語、雑誌名

[編集]

表題や雑誌名の単語は略語が用いられる。 略し方はさまざまではあるが、ここでは国際ISSNセンターのものを紹介する。

下はSIST 02から抜粋した、代表的な書誌の書き方である。参考にされたい。

SIST

[編集]

文部科学省所管の独立行政法人科学技術振興機構

APA

[編集]

アメリカ心理学会

NLM

[編集]

米国医学図書館

脚注

[編集]
  1. ^ Citationは他の参考文献を情報源として示すこと全般をいい、quotationはそのうち字句を一切変えずに行うものをいう。
  2. ^ 「転載等」とは、日本では「転載し、又は放送し、若しくは有線放送し、若しくは当該放送を受信して同時に専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として自動公衆送信(送信可能化のうち、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものを含む。)」(著作権法第39条)のこと。
  3. ^ 日本では第32条
  4. ^ 違法なものを含めて無断引用と呼んで禁じる権利者もあるが、引用は適法な無断利用の一態様のことなので「無断引用」という言葉はあり得ない (北村 & 雪丸 2005, p. 5) 。
  5. ^ a b 最高裁判所第三小法廷昭和55年3月28日判決 裁判所公式 パロディ裁判
  6. ^ この判例に言及している解説・意見には、次のようなものがある。
    • 六訂版『著作権法の解説』千野直邦、尾中普子 一橋出版 2005年 ISBN 4-8348-3620-7 P15 - 18 写真の著作物
    • 『著作権とは何か』福井健策 集英社新書 2005年 ISBN 4-08-720294-1 P148 - 153 パロディモンタージュ写真事件
    • 『Q&A 引用・転載の実務と著作権法』北村行夫、雪丸真吾編 中央経済社 2005年 ISBN 4-502-92680-9 P177 - 182 「主従関係」の要件で躓くのはなぜか
  7. ^ 「量」については、様々な意見・見解がある:(例)『Q&A 引用・転載の実務と著作権法』北村行夫、雪丸真吾編 中央経済社 2005年 ISBN 4-502-92680-9 の P177 - 182 「主従関係」の要件で躓くのはなぜか
  8. ^ a b 科学技術振興機構 (1986, §5.9(1))
  9. ^ 文化庁 (2008, §8. 著作物等の「例外的な無断利用」ができる場合 ⑧ イ、「行政の広報資料」等の転載(第32条第2項))
  10. ^ a b 転載等が禁止されていても、引用の要件を満たせば「引用」は可能である。
  11. ^ 放送・有線放送・「入力」による送信可能化による放送の同時再送信の場合は「受信機を用いた公の伝達」を含む
  12. ^ 文化庁 (2008, §8. 著作物等の「例外的な無断利用」ができる場合 ⑧ ウ、「新聞の論説」等の転載(第39条))
  13. ^ 文化庁 (2008, §8. 著作物等の「例外的な無断利用」ができる場合 ⑧ エ、「政治上の演説」「裁判での陳述」の利用(第40条第1項))
  14. ^ 日本での判例は、最高裁判所 (2001-06-28), “損害賠償等請求事件”, 最高裁判所判例集 (第一小法廷) 55 (4): p. 837, 平成11(受)922, http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiNo=25282&hanreiKbn=01 2009年3月8日閲覧。 
  15. ^ 日本での判例は、東京地方裁判所 (1998-10-30), “「血液型と性格」要約引用事件”, in 日本ユニ著作権センター, マスメディアと著作権, 東京地裁 平成7年(ワ)第6920号, http://www.translan.com/jucc/precedent-1998-10-30.html 2009年2月14日閲覧。 
  16. ^ 普通、どんなに書き直しても原文の創作性は残らざるをえない。
  17. ^ 転載や放送、アップロードなど
  18. ^ a b 転載を禁止する旨の表示がないものに限る
  19. ^ a b c d 同一の著作者のもののみを編集してはならない。
  20. ^ a b 学術的な性質を有するものでない、政治上、経済上、社会上の時事問題に関する、転載・放送・有線放送を禁止する旨の表示がないものに限る。
  21. ^ a b 転載、放送・有線放送・放送対象地域を限定した「入力」による送信可能化による放送の同時再送信(放送・有線放送・「入力」による送信可能化による放送の同時再送信の場合は「受信機を用いた公の伝達」を含む)に限る。
  22. ^ 著作権法の定める私的利用に限る。
  23. ^ ハーバード方式によって出典を示す場合、出典が著者姓名と発行日の順で並べられるため、書誌を書く際も著者姓名と発行年を先頭に書く。

参考文献

[編集]
  • 科学技術振興機構 (1986-03), 学術論文の構成とその要素, 科学技術情報流通技術基準(SIST), 08, http://sist-jst.jp/handbook/sist08/main.htm 2009年3月8日閲覧。 
  • 北村, 行夫; 雪丸, 真吾, eds. (2005), Q&A 引用・転載の実務と著作権法, 中央経済社, ISBN 4-502-92680-9 
  • 文化庁 (2008), 著作権テキスト~初めて学ぶ人のために~, http://www.bunka.go.jp/chosakuken/pdf/chosaku_text.pdf 2009年2月24日閲覧。 

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]