利用者:野牧華/sandbox0
エロエロ草紙 エロエロ草紙 (談奇群書 ; 第2輯) | ||
---|---|---|
編集者 | 酒井潔 | |
著者 | 酒井潔 | |
発行日 |
(原書)1930年11月 (復刻)2013年6月20日 | |
発行元 |
(原書)竹酔書房 (復刻)彩流社 | |
ジャンル | 随筆・漫画 | |
国 | 日本 | |
言語 | 日本語 | |
ページ数 |
(原書)74p (復刻)80p | |
公式サイト |
(原書)国立国会図書館所蔵 (復刻)彩流社 | |
コード | (復刻)978-4-7791-1905-7 | |
ウィキポータル 書物 | ||
ウィキポータル 性 | ||
|
『エロエロ草紙』(えろえろそうし[1]、- ぞうし[2])は、酒井潔による随筆やイラストの作品集[3]。1930年(昭和5)に竹酔書房より販売を予定していたが、出版前の検閲[4]にて「公序良俗を乱す[5]」と判断され、発売中止となった[3][5]。いかがわしさを彷彿とさせる題名やテーマに対し、現代では「いかがわしいというよりはむしろ微笑ましい[6]」や「ユーモラスな読み物[3]」等と評される。また、昭和初期の検閲事情や社会風俗を知る上で、貴重な資料とみなされている[7][6]。
本書は、発禁から約80年の2012年、国立国会図書館により電子化され、インターネット上に公開される。公開から5カ月連続でアクセス数1位を記録[3]したほか、文化庁による電子書籍化プロジェクトでも、ダウンロード数が1位となる[6]。そして、2013年、彩流社より復刻版として、紙媒体での出版が実現した[8]。復刻版の刊行によって、インターネットでは白黒画像でしか見れなかったイラスト等を、原書と同様にカラーで見ることが可能となった[4]。
沿革
[編集]文化と出版
[編集]1930年(昭和5)の出版事情を述べる。改造社、平凡社、講談社による円本合戦が白熱していた。同時期、艶本も合法・非合法を問わず、出版競争に盛り上がりを見せた。『エロエロ東京娘百景』『巴里・上海エロ大市場』『エロ新戦術』(全て1930年出版[9])など、「エロ」を冠する書物が相次いで出版された[9]。永井良和(関西大学教授)によると、当時「エロ」という言葉は、人々に時代の最先端性を感じさせる魅力があった[1]。たとえ「エロ」を冠した書物であっても、検閲を乗り越える書籍は多く存在した[1]。
国立国会図書館所蔵『発禁図書函号目録』(安寧ノ部・風俗ノ部)
https://dl.ndl.go.jp/pid/10205753
検閲と発禁
[編集]画像外部リンク | |
---|---|
扉絵(閉じ) (開き) - 国立国会図書館デジタルコレクションより | |
扉絵(ギミックの「扉」を開く様子) - 復刻版を担当したデザイナーのブログ[注釈 1]より |
1930年11月に竹酔書房より『エロエロ草紙』の販売を予定していた。事前検閲[4]にて「公序良俗を乱す[5]」との判断を受ける。製本途中で、発売の中止に至った[3][5]。本書が検閲に抵触した理由について、永井は「表紙と扉絵」の表現が、当時の価値観に照らすと、刺激が強かったと指摘している[1]。復刻版を担当したデザイナー渡辺将史は、その扉絵を「ギミック扉[11]」と呼び、本文の装丁とは別に作られた、仕掛けであると説明している[11][12]。ページ中央に描かれた扉、その周囲3面が切り抜かれている。そのため、絵の扉を、手で開閉できる。その扉を開けると、色っぽい女性を覗けるという仕組みである[11][12]。渡辺は「80年前の読者はこれに興奮し、検閲官はけしからんと激怒したのだろうか。[11]」と語る。発禁処分を受けた後、酒井は翻訳本として『奴隷祭 一九世紀ルイジアナの蛮習』(ドン・ブランナス・アレラ著)を、竹酔書房より出版した[13]。
公開
[編集]国立国会図書館(以下、NDL)は『エロエロ草紙』の原本を所蔵している。ただし、閲覧できるのは原本ではなく、コピーであるマイクロフィルムに制限されていた[1]。NDLでは、2009年から所蔵資料の大規模デジタル化事業を開始する[1][14]。本書もデジタル化の対象となり、2012年6月、旧「近代デジタルライブラリー[1]」(現「国立国会図書館デジタルコレクション」)よりインターネット公開された[3][7]。本書は、その露骨なタイトルから注目を集め[15]、公開より5カ月連続アクセス数1位を記録した[3][7]。
翌年2013年、文化庁では、貴重な資料の電子書籍化に対するニーズの把握や、電子書籍という媒体の流通課題を検討するために、実証実験を行った[7]。これを「文化庁eBooksプロジェクト」という[7]。実験にあたり、NDLデジタル化資料の中から、13作品が選定が行われた。選定基準は、デジタル資料へのアクセス数や、国会図書館内での閲覧件数を挙げている[7]。『エロエロ草紙』の選定には異論があったが[15]、「NDL デジタル化資料の中でアクセス数が圧倒的に多[6]」いため選ばれた[15]。そのほかの選定資料には、例えば、資料価値の高い古典籍である『遠野物語』や『平治物語絵巻』がある。「下人の行方は、誰も知らない。」と異なる結末を迎える、『羅生門』の初出版も選ばれている[7][6]。
選定後、電子書籍化に向けた処理が行われた。報告書には、編集で苦労した点も記されている。『エロエロ草紙』の場合、現物からではなく、マイクロフィルム(現物のコピー)からの電子書籍化であった。フィルムを見ると、原書を置いた作業台のも画角に写り込んでいた。それによる問題は、原書と作業台の色調が酷似していたことである。原書と作業台の境目が目視で確認しにくかった。データ編集者は、どこをトリミングすればよいか、判断に迷ったという[6]。
トリミング処理等が施され、電子書籍化された資料は、「紀伊國屋書店BookWeb」より2回に渡って無料配信された[6]。約1か月間(2月1日~3月3日)の配信期間における、総ダウンロード件数は、9万2517件であった[6]。作品別の順位では、第1位は『エロエロ草紙』(1万1749 件)、第2位が芥川龍之介『羅生門』(1万163 件)、第3位が同じく芥川『河童』(8,428件)である[6][注釈 2]。
順位 | 作品名(著者者名など) | 件数 |
---|---|---|
1 | 『エロエロ草紙』(酒井潔) | 11,749 |
2 | 『羅生門』(芥川龍之介) | 10,163 |
3 | 『河童』(芥川龍之介) | 8,428 |
4 | 『平治物語絵巻』(写:住吉内記) | 8,389 |
5 | 『絵本江戸紫』(著:浪花禿帚子・画:石川豊信) | 7,746 |
配信は2回に分けて行われた[6]。上位を占めた作品は、第1回(2月1日)配信分の作品であった[16]。『エロエロ草紙』のダウンロード件数の多さについて、持田泰は「マガジン航」にて、目を引くタイトルからインターネット上で注目を集め、「話題が一人歩きしてしまった感」があると語った[16]。
第2回(2月8日)配信分に限定してみると、第1位は柳田國男『遠野物語』(6,766件)、第2位が宮澤賢治『春と修羅』(5,715件)、第3位が宮澤賢治『四又の百合:宮澤賢治童話集』(件)である[16]。『遠野物語』と『春と修羅』は限定部数で自費出版された初版本である[16]。同プロジェクトの担当である、野村総合研究所上級コンサルタントの小林慎太郎は、このような作品のダウンロード件数が多かったことに意外性を感じたという[16]。また小林はプロジェクトを振り返り、本の特性や電子書籍の可能性を述べている)[16]。
このプロジェクトを進めるにあたって、出版社や書店の現場の人からは、「本は野菜と同じで鮮度が命だ」というようなことも言われました。でも実際に配信してみると、やはり「古典」への需要があるのだと確信しました。「旬のモノ」から「古典」まで、幅広くロングテールの需要があるのが、本の本来の特性のはずです。今回のプロジェクトを通して、そのあたりにも電子書籍のマーケットがあることが見えてきました。 — 小林慎太郎(野村総合研究所上級コンサルタント)、「文化庁eBooksプロジェクトは何を残したか」(マガジン航)[16]
復刻
[編集]復刻版は、2013年6月に彩流社より出版された[8]。復刻版の担当編集者(以下、A)は、2012年10月頃[17]、SNSを通じて、5カ月連続アクセス数1位で話題となっていた本書を知る。Aは本書について調べていく中で、本書が発禁処分に遭い、市場に流通していないと知り、そこに商機を見出す[17]。Aは、国立国会図書館(NDL)公開のデータを閲覧し、可読性が低く、読書に適していないことを実感する[17]。ここからAは、書籍化に向けて動き出す[17]。まず、復刻版の底本を得るために、古書店巡りや、研究者への相談を行った。しかし、原本はどこにも見つからなかった[17]。2013年4月、AはNDLを訪問し、原本を閲覧した[17]。Aは、原著がカラー印刷であることを知り、驚いたという[17]。それはNDLが公開している画像が白黒であり、原本も白黒印刷であると、Aは考えていたためである[17]。Aは、読者のためにも、カラーでの復刻を一層希望した[17]。次に、AはNDLに複写依頼を申し込んだ[17]。NDLは、貴重資料である原本の状態から、依頼を断る判断をとった[17]。原本の状態としては、シミの付着や紙片の破損、製本の糸かがりが外れていた[17]。諦めきれないAは、別の部署にも依頼をした[17]。その結果、特別に複写が許可される[17]。
同じ頃、編集者Aは復刻版の構想を、デザイナーである渡辺将史に持ち掛けていた[11]。NDL公開のデータを閲覧した、渡辺は「はたしてこれを復刻して支持を受けるのだろうか[11]」と不安を持ったという。4月19日、渡辺は複写のために撮影機材を抱えて、NDLを訪問した[11]。渡辺は、原書の鮮やかな色彩を目にして、カラーでの復刻に意欲を燃やす[11]。渡辺は複写撮影の後、画像データの編集に入った[11]。作業工程は、大きく分けると3段階ある[11]。まず、画像データの位置を調整し、本文を読みやすいようにする[11]。次に、経年劣化によるシミなど、変色した部分の取り除きである[11]。そして色調を調整し、全体を統一する[11]。原書は退色も進んでいる。渡辺は、80年前の当時の色を想像しながら、再現を試みた[17]。この作業を全80ページ(40見開き分)に渡って繰り返していく[11]。
以上のような編集作業を経て、発禁から約80年の2013年、彩流社より『エロエロ草紙【完全カラー復刻版】』として出版される[8]。発行を記念し、東京堂書店では、エログロナンセンスな本を揃えたブックフェアが開催された[18]。刊行後、図書館蔵書検索サービスを提供するカーリルによる、インタビューが行われた。刊行経緯などを説明するなかで、編集者Aは著作権利関係の難しさに触れている[17]。
デジタルでは再現できない仕掛けもできたし、今回の復刻版はとてもいいものができたと自信を持っています。正直なところ、版元には著作権もないし、法律的には全く守られていない状態。今回の復刻に際しても、データ補正などにかなり手間隙がかかっています。できるのならば©(コピーライト)をつけさせてほしいところ。その辺りの権利関係は難しいです。 — 彩流社編集者A、「図書館デジタル化の波紋、パブリックアクセスと出版は両立するか」(カーリル)[17]
デザイナーの渡辺は彩流社のウェブ記事にて、複写から刊行までの経験を振り返り、次のように述べている[11]。
遠く80年という歳月を越えて、書物に命を吹き込みなおしたことは、いい経験になった。複写から携われたことは、原書の色調の再現にとっても好ましいことか と思う。 — 渡辺将史、「「エロエロ草紙」制作ノート」(彩流社)[11]
『エロエロ草紙』以降、彩流社は「酒井潔・復刻プロジェクト」として『奴隷祭』『日本歓楽郷案内』『らぶ・ひるたァ』の3冊を復刻した[19]。
内容
[編集]本書の構成としては、エッセイやイラスト、写真等が組み合わされている。雑誌のような作りである[20]。内容を見ていくと、胸元を露呈した女性のイラストや写真が多数ある[20]。「下半身はつねにかくされているが、ギリギリ感がないので、この時代は上半身露出だけで十分エロだった」と、雑誌「ダ・ヴィンチ」元編集部のrieは考察する[20]。またrieは、『エロエロ草紙』と江戸時代の春画(艶本)を比較すると、春画の方が明らかに性的表現が直接的[15]、かつエログロであると指摘している[20]。J-CASTも同様に「春画のように露骨にいかがわしい描写はない」という[15]。
評価
[編集]扇動的なタイトルや題材に対し、現代では「いかがわしいというよりはむしろ微笑ましい[6]」や「ユーモラスな読み物[3]」等と評される。著者の酒井は、本書を「上品なエロと、朗らかなナンセンス[2]」と語っている[15]。復刻版を担当したデザイナー渡辺は、昭和初期という軍国主義の足音が近づく時代に、相反するような内容や豪華な装丁に、「この脳天気さはいったい……」と戸惑いを覚えたという[11]。内容面では、雑誌のような作りになっている。この点について、「ダ・ヴィンチ」元編集部のrieは、次のように述べている[20]。
作中に登場する女性のモデルは、1930年頃活躍していた映画女優グレタ・ガルボの可能性を、永井良和(関西大学教授)は指摘している[1]。
書誌情報
[編集]- 『エロエロ草紙』談奇群書 ; 第2輯, 竹酔書房, 1930年11月, doi:10.11501/1137261.
- 『エロエロ草紙【完全カラー復刻版】』彩流社, 2013年6月20日, ISBN 9784779119057.
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ カーリルのインタビュー記事にて「製作過程はブログで公開しています。[10]」とリンク付きで渡辺のweblog紹介あり。
- ^ 野村総合研究所の報告書によると、「3 番目は「平治物語〔絵巻〕」の 8,389 件であった」と記載されている[6](p.59)。同頁の「図表 50 作品別ダウンロード件数」を確認すると、「No. 6 「河童」(芥川龍之介) 8,428」の方がややダウンロード件数は多い。単なる誤りとして、本項では3位を「河童」として記載している。
出典
[編集]- ^ a b c d e f g h “エロエロ草紙 (えろえろそうし)”. JapanKnowledge. 2024年8月4日閲覧。
- ^ a b 酒井潔『エロエロ草紙』竹酔書房〈談奇群書(第2輯)〉、1930年11月、自跋頁。doi:10.11501/1137261 。
- ^ a b c d e f g h ITmedia. “伝説の発禁本「エロエロ草紙」が80年ぶりに完全復刻”. ねとらぼ. ITmedia. 2024年8月3日閲覧。
- ^ a b c “発禁本「エロエロ草紙」がカラー印刷で復刻 電子版が大人気”. ITmedia. 2024年8月3日閲覧。
- ^ a b c d “国会図書館、ネット閲覧1位は「エロエロ草紙」-昭和5年の発禁本”. 赤坂経済新聞. 2024年8月3日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m 野村総合研究所『電子書籍の流通と利用の円滑化に関する実証実験 報告書』文化庁、日本、2013年3月29日、38,45,58-59頁 。2024年10月3日閲覧。
- ^ a b c d e f g “文化庁もびっくりエロエロ効果 80年前の「エロエロ草紙」が電子書籍に”. J-CAST. 2024年8月3日閲覧。
- ^ a b c “エロエロ草紙 【完全カラー復刻版】”. 版元ドットコム. 2024年8月3日閲覧。
- ^ a b 『発禁本 : 書物の周辺』桃源社〈桃源選書〉、1965年、211-212頁。doi:10.11501/2934399 。
- ^ “図書館デジタル化の波紋、パブリックアクセスと出版は両立するか”. カーリル. 2024年8月4日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q “第5回『エロエロ草紙【完全カラー復刻版】』 「エロエロ草紙」制作ノートーー渡辺 将史(デザイナー)”. 彩流社. 2024年8月5日閲覧。
- ^ a b 渡辺将史. “手前味噌・ギミック扉から本文へ「エロエロ草紙」”. 2024年8月4日閲覧。
- ^ “奴隷祭”. 日本出版インフラセンター. 2024年8月8日閲覧。
- ^ 国立国会図書館 電子情報部. “NDLデジタル関連事業の今”. 国立国会図書館. p. 9(スライド上はp.17). 2024年8月4日閲覧。
- ^ a b c d e f “文化庁配信電子書籍でダウンロード数トップ 「エロエロ草紙」の中身は「男子の妄想」”. Jcast. 2024年8月5日閲覧。
- ^ a b c d e f g 持田泰 (2013-04-09). “文化庁eBooksプロジェクトは何を残したか”. マガジン航 .
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q “図書館デジタル化の波紋、パブリックアクセスと出版は両立するか”. カーリル. 2024年8月4日閲覧。
- ^ “『エロエロ草紙』発刊記念! フェアやってます!”. 彩流社. 2024年8月3日閲覧。
- ^ “らぶ・ひるたァ【特別限定復刻版】”. 版元ドットコム. 2024年8月8日閲覧。
- ^ a b c d e f “昭和初期のナンセンスエロな発禁本は、エロというより美しい!”. ダ・ウィンチweb. 2024年8月19日閲覧。