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利用者:水凪唯維/水凪唯維の作業部屋3

カンゾウタケ
Fistulina hepatica Schaeff.:Fr.
分類
: 菌界 Fungi
亜界 : ディカリア亜界 Dikarya
: 担子菌門 Basidiomycota
亜門 : ハラタケ亜門 Agaricomycotina
: ハラタケ綱 Agaricomycetes
亜綱 : ハラタケ亜綱 Agaricomycetidae
: ハラタケ目 Agaricales
: カンゾウタケ科 Fistulinaceae
: カンゾウタケ属 Fistulina
: カンゾウタケ F. hepatica
学名
Fistulina hepatica Schaeff.:Fr.
和名
カンゾウタケ

カンゾウタケ肝臓茸Fistulina hepatica Schaeff.:Fr.)は、ハラタケ目カンゾウタケ科カンゾウタケ属に属するキノコの一種である。


形態

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有性世代(テレオモルフ)

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きのこは幼時は半球状~こぶ状をなして樹皮の割れ目から突出するが、成熟すれば舌状・半円形ないし扇状となる、明瞭な柄を欠き、一端が狭まって樹幹に付着する。表面は幼時には微細な粒状突起を生じてざらつくが、じゅうぶんに生長すればほぼなめらかになり、鮮赤色~血赤色を呈し、新鮮なものでは光沢を有するが粘性はない。裏面の子実層托(胞子の形成部)は管孔 状をなし、孔口は微細でかさの表面より淡色(帯褐淡赤色)を呈し、管孔層は厚さ 1-2 cm 程度でかさの肉から剥がれにくい。個々の管孔は互いに独立し、比較的容易に分離し得る。は基部ではやや厚く、丈夫な肉質で水分に富み、縦断面では赤みの強い部分と黄白色の部分とが不規則な霜降り肉状に混じり合っており、淡い帯褐紅色の汁液を含み、ほぼ無臭であるが弱い酸味と渋みとを有する[1][2]。胞子紋は黄白色を呈する[3]


胞子は卵形~楕円形で表面は平滑、無色・薄壁、ヨード液で染まらず、大きさ 3.5-4.5 (-5.0) × 2.5-3.0 μm 程度である[2]。きのこを構成する菌糸はその隔壁部にクランプを備え、あまり屈曲せず、壁は薄い。

無性世代(アナモルフ)

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Confistulina hepatica (Sacc.) Stalpers の学名[4]で呼ばれ、


生態・生理

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有性世代のきのこは、梅雨期あるいは秋に、広葉樹(特にブナ科)の生きた幹もしくは切り株などに発生する。日本ではスダジイコジイの巨木の根際部に発生することが多い[2][5]。ときにシラカシに生じることもある[3]。ヨーロッパや北アメリカでもオウシュウミズナラ(Quercus rubra[6]ヨーロッパナラ[7]、あるいはフユナラ[7]など)のナラ類(オーク)によく発生し、ときにクリ[7][8]ヤナギ[9]あるいはクルミ[9][に生じることもある。また、ニューギニアにおいても、日本におけるのと同様にシイ属の材上に発生し、オーストラリアではおもにユーカリを宿主とする[9]。いずれにせよ、腐朽材はおもにセルローズを分解・資化され、いわゆる褐色腐朽を起こす。


栲树、米槠、橡树


無性世代は、自然界ではヨーロッパナラ[4][7]フユナラ[7]クリ属[4][7]ナラの一種(Quercus velutinaQ. coccineaなど[4])の材上から見出された例が多いが、まれにはマツ属Pinus)の材片から得られる場合もある[4]


通常は菌糸の状態で材の内部に生息しているが、まれには柄を欠いた塊茎状の子実体を形成する。アナモルフの子実体は径5-7 cm程度、表面は不規則ないぼ状隆起を有し、はじめは白っぽいがのちにクリーム色を帯び、さらには赤褐色を帯びるにいたり、しばしば亀裂を生じ肉質・多汁、内部の組織もはじめは白いが次第に赤紫色を呈し、果実のような香りを放つが味はほとんどない。

外面は厚み 300-400 μmの皮層(赤褐色の色素を含み、かつ不規則に絡み合い、径 2-10 μm でクランプを備えた菌糸群で構成される)に包まれる。内部はやはり不規則に絡み合う無色の菌糸(クランプをひんぱんに有し、幅18μm まで)で構成されるとともに、赤紫褐色の内容物を含んだやや太い菌糸(乳管菌糸)をひんぱんにまじえており、無色の菌糸群のところどころから、やや屈曲した分生子柄(しばしば一枚の隔壁を備える)を不規則に生じ、楕円形ないし球形あるいはゆがんだ短い円筒状の分生子を形成する。分生子は淡黄褐色を呈し、ときに一枚の隔壁を有し、大きさ 6-9 x 4-6 μm である[10][11][12]


新鮮な子実体から無菌的に切り出した組織片を、ジャガイモブドウ糖培地(PDA)に植えつけることによって、純粋培養菌株が得られ、無性世代を形成させることができる。培地のpHについては 4-6.5の範囲で生長することができるが、pH 6.5の条件下では、pH4 の培地上で培養した場合に比べて、菌糸の伸長速度が50パーセント程度に低下する[13]。培養下での至適伸長温度は25-30℃である[14]と考えられ、10℃でも僅かに生長が認められるが、35℃の条件下では菌糸はまったく伸長しない。なお、菌糸の生長は暗黒下で培養したほうが良好で、照度400lxの蛍光灯のもとで培養した場合に比べ、菌糸体の乾重にして 1.4倍程度の生育を示す[13]

成分

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Fistulin


分布

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日本全土・北米・ヨーロッパおよびオセアニア[5]に広く分布し、ニューギニアの高地 にも産する[9]


分類学上の位置づけ

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有性世代

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かさの裏面が管孔状をなすため、古くは広義の多孔菌科の一員として取り扱われたが、個々の管孔が独立していることから、後に独立したカンゾウタケ科が設けられた。また、カンゾウタケ科の位置づけとしては、慣例的にヒダナシタケ目に置かれ、広義のハリタケ科(Hydnaceae)とイドタケ科(Coniophoraceae)との間に位置づけられることが多かったが、近年の分子系統解析の結果からは、ハラタケ目に移されるとともに、スエヒロタケ科の菌との類縁関係が示唆されている[15]


無性世代

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類似種

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カンゾウタケ科の菌としては、日本には本種が分布するのみであり、日本産のきのこ類の中には外観が似たものがまったくない[16]ブラジルなどに産するFistulina guzmanii Brusis は、日本のカンゾウタケによく似るが、子実体がより小形で赤みが強く、ネムノキ属の根際に発生し、胞子もやや小さいことで区別されている[17]


利用

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生では酸味があり、簡単な料理法としてはドレッシングなどで和えたサラダにされる[6]。そのままソテーにされることも多い[16]が、全面を針先でつついてから板に挟んで荷重をかけ、赤みを帯びた汁液を絞り出してから調理すると、特有の酸味がやわらげられるという[18][19]
また、官能試験の結果からはチーズとの相性がよく、グラタンピザパイなどに加えても美味であるとされている[20]


栽培

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原木栽培は不向きで、おがくずを主体とした菌床栽培が適用される。自然環境下では、カンゾウタケは広葉樹を宿主とするが、菌床栽培ではスギのおがくずをブレンドしたほうが収量が大きくなるといい、副材料としてはトウモロコシ果実の芯を砕いたものを用いると好成績につながるとされている[20]。また、多くの食用菌と比べると、栽培に要する期間が長い部類に属するが、前述のように培地に鉄分を加えることで菌糸の伸長が促され[13]、培地の量あたりのきのこの発生量も増大する[21][22]。なお、前述のとおり、菌糸体の生育は暗黒下でのほうが良好であるが、子実体原基の形成および生長には光照射を要する[14]


名称

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[5]

英語圏でBeefsteak Fungusビフテキタケ)[5][23]とかVegetable beafsteak(野菜ビフテキ・植物性ビフテキ)[5][23]Liver fungus(肝臓茸)、Ox-Tangue(雄牛の舌)、Tree-Liver(樹の肝臓)あるいはPoorman's Beefsteak(貧乏人のビフテキ)など[23]の名がある。

ドイツ語圏でもLeberpilz(肝臓茸)またはZungenpilz(舌茸)[23]と称され、フランス語圏では「牛の舌」(Langue de boeuf)の通称で呼ばれている。中国語名としては肝色牛排菌あるいは牛舌菌[24]の名がある。


参考画像

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脚注

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  1. ^ 今関六也・本郷次雄(編著)、1989. 原色日本新菌類図鑑(Ⅱ). 保育社、大阪. ISBN 4-586-30076-0.
  2. ^ a b c 神奈川キノコの会(編)、城川四郎(著)、1996. 猿の腰掛け類きのこ図鑑. 地球社、東京. ISBN 978-4-80495-093-8.
  3. ^ a b 都会のキノコ図鑑刊行委員会、2007.都会のキノコ図鑑.258 pp.八坂書房、東京.ISBN 978-4-89694-891-2
  4. ^ a b c d e Stalpers, J. A., and L. Vlug, 1983. Confistulina, the anamorph of Fistulina hepatica. Canadian Journal of Botany 61: 1660-1666.
  5. ^ a b c d e 今関六也・本郷次雄・椿啓介、1970. 標準原色図鑑全集14 菌類(きのこ・かび). 保育社、東京. ISBN 978-4-58632-014-1.
  6. ^ a b 今関六也・本郷次雄、1973. カラー自然ガイド きのこ. 保育社. ISBN 978-4586400089.
  7. ^ a b c d e f Cartwright, K. T., 1937. A reinvestigation into the cause of "Brown Oak", Fistulina hepatica (Huds.) Fr. Transactions of the British Mycological Society 21: 68-82. + 4 pls.
  8. ^ Luminita, B. M., 2010. Determination of the biotic factors involved in the degradation of the sweet chestnut-tree in Maramures Country. Journal of Holticulture, Forestry and Biotechnology 14: 104-109
  9. ^ a b c d Kobayasi, Y., Otani, Y., and T. Hongo, 1973. Mycological reports from New Guinea and the Solomon Islands 14. Some higher fungi found in New Guinea. Reports of the Tottori Mycological Institute 10: 341-356.
  10. ^ Jahn, H, 1986. Pilze, die an Holz wachsen. 268 pp. Busse, Herford. ISBN 978-3-87120-853-9.
  11. ^ Telleria, M. T., 1980. Contribución al estudio de los Aphyllophorales españoles. Bibliotheca Mycologica 74: 1-464. J. Cramer, Vaduz.
  12. ^ F.D. Calongne, F. D., and P. M. Pasabán, 1999.Adiciones al catálogo de hongos de Guipúzcoa y Navarra (espa y Nabarra (España). Registro de cinco especies nuevas. Boletín de la Sociedad Micológica de Madrid 24: 179-185.
  13. ^ a b c 鳥越茂、1994. カンゾウタケ栽培試験(1). 菌糸の生理的性質について. 日本林学会関西支部論文集 3: 181-184
  14. ^ a b 王利火・沈家骧、1995. 肝色牛排菌生物学特性研究.食用菌学报 1995-(3): 18-24.
  15. ^ Moncalvo, J. M., Vilgalys, R., Redhead, S. A., Johnson, J. E., James, T. Y., Aime, M. C., Hofsetter, V., Verduin, S. J. W., Larsson, E., Baroni, T. J., Thorn, R. G., Jacobsson, S., Clémençon, and O. K. Miller Jr, 2002. One hundred and seventeen clades of euagarics. Molecular Phylogenetics and Evolution 23:357-400.
  16. ^ a b 清水大典、1968. 原色きのこ全科-見分け方と食べ方-. pp. 418. 家の光協会、東京. ASIN: B000JA46CY
  17. ^ Brusis, O. A., 1972. A new species of Fistulina from Mexico. Mycologia 64: 1248-1252.
  18. ^ 井口潔、1994.街で見つける山の幸図鑑. pp. 302. 山海堂、東京.ISBN 978-4-38110-212-6.
  19. ^ 井口潔、2008. いきなりきのこ採り名人(小学館SJ-MOOK). pp. 98. 小学館、東京. ISBN 978-4091042781.
  20. ^ a b 山原美奈、2009. カンゾウタケ栽培技術の開発. センターだより(奈良県森林技術センター)(98): 2-3.
  21. ^ 山原美奈・河合昌孝、2009. カンゾウタケの優良菌株選抜試験. 奈良県森林技術センター研究報告39: 91-96.
  22. ^ 山原美奈・河合昌孝、2009. 培地への鉄添加がカンゾウタケの栽培工程および収量等に与える影響. 奈良県森林技術センター研究報告 38: 97-99.
  23. ^ a b c d 上村登、1973.なんじゃもんじゃ―植物学名の話―.221 pp.北隆館、東京.ISBN 978-4832601048
  24. ^ Dai, Y.-C., 2009. A checklist of polypores in China. Mycosystema 28: 316-327.

関連項目

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外部リンク

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カンゾウタケ・ノート