コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

利用者:月は地獄だ/sandbox

生物学 > 数理生物学集団遺伝学行動生態学 > 月は地獄だ/sandbox

生物学においてプライス方程式は世代の経過により遺伝型や表現型がどのように変化するのかを記述した式で、進化自然選択を解析する為に用いられる。なお、慣用的にプライス「方程式」と呼ばれるが、実際には恒等式である[1]

プライス方程式はハミルトンによる血縁選択に関する成果を再導出するためにジョージ・プライスにより定式化された。プライス方程式は生物学の範囲を超え、経済学にも応用されている[2][3]

定式化

[編集]

方程式の記述

[編集]

プライス方程式を定式化するため、まず記号を導入し、その直観的意味を説明する。Sを有限集合とし、Sの各元iには値ziが割り振られているとし、さらにSは排他的な部分集合S1,...,SJに分割されているものとする。これらの生物学的意味付けは以下の通りである:

記号 数学的定義 生物学的意味
S 有限集合 個体群[4]
zi iSに対して割り振られた何らかの値

(実数、ベクトル等)

個体iSの何らかの形質を数値で表したもの。
Sj Sの分割の一つ Sの部分個体群[4]

プライス方程式は群淘汰血縁淘汰のような個体の集団の自然選択を対象としており[1]、したがって個体群Sが複数の集団S1,...,SJからなり、各集団に個体が属しているという階層的な構造をその定式化に取り入れている[5]

個体iの形質ziとして、例えば以下のものが考えうる:

  • 何らかの遺伝子の頻度[3]
  • 何らかの表現型を数値であらわしたもの[4]
  • (遺伝型もしくは表現型による)形質の分散[3]
  • 獲得する資源の量。例えばハチが採餌した量[3]

プライス方程式は生物学ばかりでなく経済学にも応用できるが、この場合のziとしては例えば

  • 市場占有率を争う企業のキャッシュフロー[3]

などがある。


次に同様に有限集合S'を取り、S'の各元iには値z'iが割り振られているとし、さらにS'は排他的な部分集合S'1,...,S'Jに分割されているものとする。

直観的には、S'は世代を経た後の個体群Sである。世代を経ているのでS'に属する個体はSとは入れ替わっており、Sに属する個体とS'に属する個体は対応しておらず、S'に属する個体数はSに属する個体数と一般には異なる。同様にS'jは世代を経た後のSjであり、一般にはS'jに属する個体数はSjに属する個体数と異なる。ただし分割の個数Jは同一である事が求められる。

生物学に応用する場合は、Sjに属している各個体のziは同一である事を仮定する事もある[3]。しかし数学的にはそのような仮定がなくてもプライス方程式を導く事ができるので、本稿ではこのような仮定を置かない。

Sにおけるziの平均値、Sjにおけるziの平均値、SにおけるSjの割合をそれぞれ

とする。ここでは集合の元の数を表す。同様に も定義し、さらに

とする。このとき次が成立する:

定理1 ―  


文献[1]では定理1の式を「プライス方程式」(の表現方法の一つ)とみなしているが、多くの文献[1][6][7]ではここからさらに変形したものをプライス方程式と呼んでいるので、次にそのバージョンのプライス方程式について説明する。Sjの個体数とS'jの個体数の比、Sの個体数とS'の個体数の比をそれぞれ

とする。Wjは世代の推移による個体群Sjの個体数の増減を表しているので、WjSj適応度と呼ぶ[8]。同様の理由でS適応度と呼ぶ[8]。このとき次が成立する[8][5]

定理2(プライス方程式) ―  

ここでCovq(W,Z)はそれぞれ分布に関する共分散、平均である:

なお、定理2の右辺第一項、第二項はそれぞれ定理1の右辺第一項、第二項を倍したものに等しい[8]


直観的意味

[編集]

本節では定理2で述べたプライス方程式の直観的意味を説明する。

左辺

[編集]

すでに述べたように、プライス方程式の記述には、個体群Sと、Sが世代を経た後の個体群であるS'により記述されている。よって定理2に記載されたプライス方程式において、これら2つの世代における個体の形質の平均値の差は、個体群の進化を表していると解釈できる[1]。またはこれら2つの世代の個体数の比であり、前述のようにこれはS適応度を表す。

右辺第一項

[編集]

は、個体群SにおけるSjの割合qjに関して、各Sjに属する個体の形質の平均ZjSjとの適応度Wjとの共分散である。ZjWjの関連性が高いほど、共分散は大きくなり、これは形質の平均Zjの自然選択への影響を表す項だと解釈できる[4]

右辺第二項

[編集]

は遺伝子を子孫に伝達する際のバイアスを表している[1]

様々なプライス方程式

[編集]

遺伝子頻度に関するプライス方程式

[編集]

生物のある遺伝子座に着目し、piを個体iにおいてその遺伝子座に対立遺伝子Aの占める割合を表すとする(したがって2倍体の個体であれば、piは0、1/2、1のいずれか)。

定理2に記載したプライス方程式において、zi=piであり、さらに各Sjが1つの個体しか含んでいない状況を考えると以下が従う[9]

定理3(遺伝子頻度に関するプライス方程式) ―  

ここで

を表し、Δはこれまで同様「’」のつく世代との差分を表し、wiSj={i}に対するである。すなわちwiは、個体iが「’」のつく世代で何個体に増えるかを表す。


定理3において、定理2と同様対立遺伝子Aの頻度が進化に与える影響を表すが[9]にはより具体的な解釈ができる。上式においては「個体が配偶子を作る際に生じる遺伝子頻度の偏りΔpにより個体間の適応度の差とは無関係に進化が進む場合がある[9]事を意味し、たとえばマイオティック・ドライブ英語版[注 1]の効果はこの項に含める事ができる[9]

階層的なプライス方程式

[編集]

定理2に記載したプライス方程式において、各部分個体群が1つの個体しか含んでいない状況を考えると

が従う。ここで

である。記号Δwi定理3のそれと同様なので説明を省く。さらに上記の方程式に置いて個体群Sが複数の集団S1,...,SJからなっている場合を考え、定理2と同様に記号を定義すると、



であり、


Derivation of the continuous-time Price equation

[編集]

Consider a set of groups with that are characterized by a particular trait, denoted by . The number of individuals belonging to group experiences exponential growth:where corresponds to the fitness of the group. We want to derive an equation describing the time-evolution of the expected value of the trait:Based on the chain rule, we may derive an ordinary differential equation:A further application of the chain rule for gives us:Summing up the components gives us that:Note that:Therefore, putting all of these components together, we arrive at the continuous-time Price equation:



脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ マイオティック・ドライブとは、減数分裂(meiosis)の際に表現型とは無関係に、ある対立遺伝子が同じ遺伝子座を占める他の対立遺伝子より高い確率で配偶子に渡る現象の事。

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e f Macdonald 2015, p. 1.
  2. ^ Knudsen, Thorbjørn (2004). “General selection theory and economic evolution: The Price equation and the replicator/interactor distinction”. Journal of Economic Methodology 11 (2): 147–173. doi:10.1080/13501780410001694109. http://ideas.repec.org/a/taf/jecmet/v11y2004i2p147-173.html 2011年10月22日閲覧。. 
  3. ^ a b c d e f Frank 1998, p. 13-14.
  4. ^ a b c d Macdonald 2015, p. 3.
  5. ^ a b Frank 1998, p. 15.
  6. ^ Frank 1998, p. 14-15.
  7. ^ 山内 2012, p. 136.
  8. ^ a b c d Macdonald 2015, p. 2.
  9. ^ a b c d 山内 2012, p. 135-137.

参考文献

[編集]

引用文献

[編集]
  • Steven A. Frank (1998年7月1日). “Foundations of Social Evolution” (pdf). 2020年5月27日閲覧。
  • Alan Macdonald (2015年12月23日). “The Price Equation” (pdf). Luther College. 2020年5月27日閲覧。
  • 山内淳『進化生態学入門 ―数式で見る生物進化―』共立出版、2012年10月24日。ISBN 978-4320057234 

さらなる理解の為に

[編集]


関連項目

[編集]