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利用者:国際観光政策研究所/sandbox

■「ムスリムフレンドリーツーリズム」
■「Muslim Friendly Tourism」

「ハラールツーリズム・Halal Tourism」と同様に、「Religious Tourism 宗教ツーリズム」におけるサブコンテンツの一つ。  今日まで国際観光市場においてはBasic Tourism Contentの一つとして「Religious Tourism 宗教ツーリズム」であり「Faith Tourism 信仰ツーリズム」という存在は普遍的な存在感を伴って今日に至っている。これらは聖地巡礼に特化されるわけではなく、信仰に基づいたライフスタイルやイデオロギー、そしてアイデンティティーを守ることに基づきつつ旅を楽しむことを目的としたツーリズムと言える。別の言い方をするのであれば「日常を守りつつ異文化に触れる旅」と言えるだろう。 これは、日本におけるマスツーリズム市場に見られる「非日常のテーゼ」という切り口とは異質であり、信仰及び宗教に基づいた日常生活の延長線上に存在する旅と位置付けることが出来る。

[言葉の背景]

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国家行政機関の働き

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 2012年12月21日国土交通省・観光庁が主体となり「東南アジアからの訪日促進プロモーション」が発表された。その中では日本・ASEAN友好協力40周年を契機とした訪日プロモーションを実施する旨が報告されている。同時に、この報告書において、観光庁としては初めて公式に「ムスリム」という言葉を用い、信仰に取り組むことを明示した歴史的瞬間とも言える。その後、平成25年2月1日に日本の観光行政としては初めての「ジャパンムスリムツーリズムセミナー」が開催された。このセミナーでは、宿泊施設としては初めてハラール認証を取得した北海道のカモリ観光、独自にムスリムのおもてなしを進める京都の美濃吉らがコメンテーターとしてそれぞれの取組を報告。
これを契機に日本における「ムスリムツーリズム」への取組が加速することとなった。

2013年3月観光庁とJNTOは、マレーシアで行われたMATTAフェアーへのプロモーション参加を通じ、訪日旅客獲得のために積極的な取り組みを進めることになった。その際、会場で配られたのが「Japan Travel Guide for Muslim Travelers」というガイドブックであり、この中において使われた言葉が「Muslim Friendly」ムスリムフレンドリーという言葉だった。

同時にこの「Japan Travel Guide for Muslim Travelers」の作成に観光庁・JNTOの委嘱を受け携わったのが大阪のNPO法人日本ハラール協会である。日本ハラール協会は全国のイスラム国籍系レストランや飲食施設に対し、電話でのヒヤリング、施設訪問を通じ当該施設のハラール性を調査し、その結果ムスリムフレンドリーサービスの提供施設として表記するのが妥当であるとの判断に至った模様である(NPO法人日本ハラール協会調査担当者弁)

また、外務省外郭団体の「日本アセアンセンター」は2013年3月以降、日本各地の自治体において「ムスリムフレンドリー」を軸とした、ムスリムの生活様式を解説するセミナーを開催し、20都市延べ1300人にのぼる受講を動員している。

地方自治体と民間の働き

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地方公共団体や民間ではもう一歩早くから「ムスリムフレンドリー」という言葉を使いはじめていた。それが長野県白馬五竜観光協会が中心となり取組を進めていたムスリムフレンドリープロジェクトだ。 このプロジェクトは2012年秋にはスタートしており、白馬五竜観光協会加盟の周辺のホテル、旅館、ペンションなど20余りの施設が加入し、主にASEANのムスリム市場に対し独自のプロモーションの展開をはじめていた。
その後、当該市場への国の取り組みにスピード感が増すとともに沖縄県の公共団体と民間の共同プロジェクト「ムスリムフレンドリー沖縄」をはじめ、新横浜ラーメン博物館の「ムスリムフレンドリーメニュー」といった使われ方が見られる様になる。また2014年には福岡市と福岡モスクが中心となった「福岡市ムスリムフレンドリーレストランガイド」が登場、大阪でも同様の取組がスタートした。同時に京都をはじめ様々な地方都市や民間事業者間においても「ムスリムフレンドリーメニュー」や「ムスリムフレンドリーサービス」等の言葉が使われるようになっている。

[ムスリムフレンドリーツーリズムの定義]

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国が取組をはじめる以前から、ムスリムフレンドリーという言葉がサービス概念、ホスピタリティー概念として独り歩きをしてきた経緯がある。 同時に「ムスリムフレンドリー」という言葉の後にツーリズムをはじめ「サービス」「メニュー」という様々な単語が組み合わさり、それぞれの存在感を確かならしめている。
ここで言う「ムスリムフレンドリー」とはあくまで一般名称であって、宗教用語ではなく、宗教の戒律やルールを表す言葉でもない。同時に、この言葉を使う国際観光市場は、非イスラム教国に多く見られる。次章で述べるが「ハラールツーリズム」を信仰者にとっての普遍的概念と定義付けするのであれば、「ムスリムフレンドリー」とは持て成し側の概念と定義付けすることが出来る。
同時に「ムスリムフレンドリーツーリズム」を構成する要件としてはムスリムフレンドリーサービスの提供施設であり、ムスリムフレンドリーメニューの提供施設の利用に基づくことが求められる。
言いかえるのであれば「ムスリムフレンドリー」の可視化に努めた取組を推進することといえるだろう。
従って「ムスリムフレンドリーツーリズム」とは、「ハラールツーリズム」ではなく、ムスリム観光客の皆さんに「持て成す側の心と持て成しのあり様(ホスピタリティー)を感じて頂く旅」と定義することが出来る。
この成功のためには、持て成す側だけでなく、持て成されるゲストの理解も必要となることは言うまでも無く、相互理解を深める地道な取り組みが必要である。
ただし、今後、これらに関するガイドラインをはじめ、汎用プラットフォームの構築が国際観光市場において定義づけられた時点においては、ここで申し上げている定義の普遍性はその限りではないことを申し添える。

[定義の背景]

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参 考①「ハラールツーリズム・Halal Tourism」

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宗教ツーリズム・Religious Tourismのサブコンテンツとして紹介されるところの「Halal Tourism」ではあるが、これを体系的に定義付けされているとは言えない状況にある。リンクを見る限り「Halal Tourism」の存在とその紹介に止められていると言える。同様にここに至るまで「Muslim Friendly Tourism」を体系的に定義付けされている論説に触れることは出来ない。 この状況に鑑みるならば、「Halal Tourism・ハラールツーリズム」「Muslim Friendly Tourismムスリムフレンドリーツーリズム」を定義付けすることの意味は、国際観光市場において、既にBasic Tourism Contentとして存在感を放っている、「宗教(Religious)と信仰(Faith)」に基づくツーリズムへの取組を見据えたとき、「観光学」のみならず「宗教学」や「社会学」をはじめとした学術的意義も見出すことが出来るだろう。また、萌芽的分野であることから、様々な考え方が出尽くしていない現状ではあるが、定義付けを置き去りのまま取り組むことによる不利益も既に見え始めている。

参 考②「ハラールツーリズム・Halal Tourism」の定義

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「定義の背景」でも申しあげたように、リンク先の「Halal Tourism」においては明確にこれを定義されておらず、サブコンテンツの一つとしての紹介に留まっている。とするなら、これの定義がないままにムスリムフレンドリーツーリズムの定義をすることは、定義の本質が揺らぐことになる。従ってここではハラールツーリズムの定義付けを紹介する。

 そもそもハラール(Halal)]とはイスラーム教におけるシャリーア(イスラム法)に定められた戒律、即ち「合法」であることを言い、この対極にあるのがハラーム(許容されない)である。
つまり、「ハラール」という言葉はイスラム教の用語である。
同宗教がもともと政教一致を基本とすることから、元来、刑法や税法、財産法、家族法等広範にわたる概念であり、本項目に述べるような狭い分野(観光・ツーリズム)に限られたものではない。

 13世紀~14世紀以降、イスラム法がほぼ完成した。しかしながら、それから下って近代に至り、イスラム世界は西洋世界の思惑に翻弄されると同時に、結果として風下に立つが如き状況を余儀なくされた。これにより数少ない原理主義的な国家及び地域を除いて、従来のイスラム法の適用分野は限られたものとならざるを得なくなった。
周知のとおり、観光と宗教は歴史的に切り離せないものであり、イスラム世界においても観光は、メッカへの巡礼など聖地巡りを中心とした歴史がある。
近代に至り、西欧キリスト教の軍事力を含む科学がイスラム世界を遙かに凌駕するようになって以来、イスラム各国は留学という形などで、それらの技術導入をせざるをえなくなった経緯がある。

オスマントルコの時代、留学というものは当時の流行り病(梅毒)の治療法を求めての欧州行に限られていた。シャリーアでは異教徒の地たる外国に行くのは、イスラム(平安)の家から戦いの家に行くこととして定義されており、戦争以外で外国に行くことは基本ハラームと扱われていた。当時の解釈としては、ムスリムが非ムスリムの国にとどまることは許されるのか?古典的な法学者は一致してノーであった。
しかし、15世紀イスラム教マーリク派のモロッコ人教学者アル・ワンシャリシーは、スペインを想定して、「キリスト教の政府が寛容で、ムスリムに自らの信仰を許すとしたら、その場合、ムスリムはそこにとどまって良いものであろうか」との設問に直面した。結局彼の回答は、その場合なおさらムスリムは立ち去るべきであるというものであったという。
寛容な政府の下では、棄教の危険がより大きいからである(参考と出典、「イスラム世界はなぜ没落したか? 西洋近代と中東」バーナード・ルイス著 臼杵陽監訳日本評論社 刊) しかし、留学や観光がハラームであるという解釈は、今日では事実上廃棄されているのが実情である。ただ原則を言えば、イスラムの「旅」とは「軍旅」のことで、兵士へ与えられた、神からの免責である。観光は該当しない。ただし、イスラム教には、法判断のうえで信者に「利益」や「善」を与える考慮をすべきだという「マスラハ」という言葉がある。まだこの概念が、どこまで広がるのか、ムスリム共同体全体の合意(シャリーアとしての確定)を得ているとは言いがたい。

他方、ハラールには「承認」と「認証」という行為が、現実に存在することも押さ えておく必要がある。これが「ハラール認証」である。
食品、化粧品、健康食品、薬、包材、輸送、倉庫、およそ消費と流通全般にハラールを巡る承認・認証シ ステムが存在している。したがって、この考え方に基づくならば「Halal Tourism」 とは認証行為(宗教行為)と密接な関係にあるとする定義が成り立つ。
即ち、この「信仰」を持つ人々を正しい道に導くためのルールであり、信仰を通じ、個 人、家族、社会(イスラーム教国においては、これに国家を含めた包括的な信仰基盤を形成している)を守るためのルールといえる。

これを裏付ける様に世界のムスリムコミュニティーにおいては「Halal Tourism」という言葉がポピュラー化していることが覗える。
2013年11月に行われたイスラム系国際会議においても「ハラールツーリズム・Halal Tourism」という言葉が使われている。同時にイスラーム教国からのゲストが多い国や、イスラーム教国においても「Halal Tourism」と表記されていることが多い。
これらのことから「Halal Tourism」とはサービス上の概念ではなく、宗教上の概念であり、信仰者にとっての普遍的概念として定義付けすることが出来るだろう。従って、一般名称としての使用は相応しくなく、一般使用においては相応の配慮が相応しい。

同時に先にも述べたように「Halal・ハラール」は認証行為と密接に関係していることから、政教分離と消費者保護の観点及び制度設計に立ち鑑みるのであれば、行政機関をはじめ公共機関公共団体がこのワードを用いた取り組みの推進は、現状の憲法解釈に照らすなら潜在的不安要素となりうるだろう。

脚  注

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関連項目

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外部リンク

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参  考

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「ムスリムフレンドリー」の様々な使われ方

  • ムスリムフレンドリーツーリズム
  • ムスリムフレンドリーメニュー
  • ムスリムフレンドリーサービス
  • ムスリムフレンドリーレストラン
  • ムスリムフレンドリーホテル
  • ムスリムフレンドリー旅館
  • ムスリムフレンドリーハラール認証
  • ◆ムスリムフレンドリープロジェクト
  • ◆ムスリムフレンドリー沖縄
  • ◆ムスリムフレンドリー北海道

注釈・一部「◆マーク」の取り組みは商標登録申請中もしくは商標登録済みとなっている。