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利用者:加藤勝憲/ジェイ・W・ラスロップ


ジェイ・ウォーレス・ラスロップ(Jay Wallace Lathrop、1927年 - 2022年10月9日)は、米国の半導体製造工程における重要な技術であるフォトリソグラフィ法の開発者、クレムソン大学名誉教授。

生いたち、教育

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1927年にメイン州バンゴーで生まれ、メイン州オロノで育った。14歳でメイン大学に入学し、物理学者になりたいと思った。15歳でマサチューセッツ工科大学(MIT)に編入[1][2][3]。ラスロップの父親は昆虫研究家であったので、息子が生物学、とりわけ生物物理学に進んでくれることを期待していた。しかし、最初の学期のすべての科目に「優」を取ったのに生物学だけは「不可」であった。このため、物理学を専攻することになった[4]。MITでは、学士、修士を取得した[1][2][3]。1952年にマイクロ波によるガス放電で博士号を取得した[4]

大学院では、ずっと後にインテル社を設立することになるロバート・ノイスと出会い、親交を深めた。

半導体製造技術の開発

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1947年、トランジスタの製造に写真技術を用いた最初の論文を発表し、このプロセスを表す「フォトリソグラフィ」という言葉を作り出した[2]

1952年、ワシントンD.C.にあり、後に陸軍のダイヤモンド兵器信管研究所(Diamond Ordnance Fuze Laboratories、DOFL)となる国立標準局(National Bureau of Standards、NBS)で7年間働いた。NBSはもともと、計量標準を管理する役所であったが、第二次世界大戦前、戦中、戦後しばらくは兵器の開発をしていて、もっともよく知られているのは近接信管である[5]

その後、研究の中心をソーラーセルに移し、その材料製造法を考えるなかでゲルマニウムダイオード製造の微細加工に注力した。ラスロップは微細化の難しいメサ型トランジスタと格闘したが、助手のジェームズ・ノールとトランジスタを顕微鏡で眺めているうちに、あるアイデアがひらめいた[6][7][8]。顕微鏡ではものが拡大して見えるが、逆さにすると大きなものが小さく見える。それなら大きな半導体のパターンをゲルマニウム結晶上にプリントしメサ型トランジスタの縮小版をつくれないか?[9]折しもイーストマン・コダックが感光すると反応するフォトレジストと呼ばれる化学薬品を販売していた。顕微鏡を逆さまにして半導体の回路パターンをフォトレジストに照射し、感光した部分を洗い流すことで微細な電子回路をつくることに基本的に成功した[10][11]

1957年にはフォトリソグラフィ法に関する特許を取得した[12][13]

1958年にテキサス・インスツルメンツ(TI、テキサス州ダラス)に入社し、NBS/DOFLで開拓した技術を使ってマイクロチップの製造方法を研究した。TI社では半導体部門の先端技術担当ディレクターに就任。ノーベル賞受賞者で集積回路(マイクロチップ)の共同発明者であるジャック・キルビーとともに集積回路を開発した[2]



もう一人の集積回路の発明者は、ラスロップの大学院時代の友人であり、フェアチャイルドセミコンダクターで開発に携わっていたロバート・ノイスである。

ラスロップは、50年代に「チップ」の開発によって起こった技術革新の主役であった。



1962年の論文「SILICON SEMICONDUCTOR NETWORKS MANUFACTURING METHODS」 → [14][15]

以後のラスロップの論文は、この ↓ 一覧にある。

https://www.researchgate.net/profile/Jay-Lathrop


大学教授として

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1968年、クレムソン大学(サウスカロライナ州クレムソン)の電気工学の教授に就任し、ジェームズ・ナールとともに、国防総省のために固体回路の超小型化に取り組んだ。また、電気工学科の教育課程を真空管から半導体技術へ移行する作業を指揮した。

1970年代には、太陽光を電気エネルギーに変換するための太陽光化学変換システムをキルビーと共同発明した[2][3]

晩年

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2022年10月9日、ノースカロライナ州アッシュビルのDeerfield Episcopal Retirement Communityの自宅にて、2人の娘の傍らで穏やかに息を引き取った[16]

ラスロップは生涯、自由思想家、ヒューマニストであり、サウスカロライナ医科大学に遺体を寄贈した。本人の希望により、葬儀は行われなかった。

受賞・栄典

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  • NBS/DOFLでの仕事を通じて、トランジスタの製造に初めてフォトリソグラフィーが使われるようになった。この功績により、1959年、ペンタゴンの式典で陸軍長官から陸軍文民功績勲章が授与された[3]
  • IEEEの「Jay Lathrop Outstanding South Carolina EE Education Award」は彼の名前に由来し、最初の受賞者である。IEEEのフェローでもある。2011年には、Thomas Green Clemson Academy of Engineers and Scientistsに選出された。

特許

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  • Glass support light energy converter(ガラス支持型光エネルギー変換器)関連
米国特許番号:42702634173494413643641000514021323
  • Electrostatic head with toner attracting plates(トナー吸着プレート付き静電ヘッド)関連
米国特許番号:39797583979757
米国特許番号:

脚注

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  1. ^ a b Jay Lathrop _Professor Emeritus Clemson University”. LinkedIn. 2023年4月6日閲覧。
  2. ^ a b c d e Jay W. Lathrop - Computer History Museum
  3. ^ a b c d Oral-History:Jay Lathrop
  4. ^ a b 脇 英世 シリコンバレー 2013, p. 358.
  5. ^ 脇 英世 シリコンバレー 2013, p. 359.
  6. ^ 1955: PHOTOLITHOGRAPHY TECHNIQUES ARE USED TO MAKE SILICON DEVICES”. Computer History Museum. 2023年4月8日閲覧。
  7. ^ J.R. Nall; J.W. Lathrop (1957). “Photolithographic fabrication techniques for transistors which are an integral part of a printed circuit”. 1957 International Electron Devices Meeting. doi:10.1109/IEDM.1957.187078. https://ieeexplore.ieee.org/document/1472349/keywords#citations. 
  8. ^ J.R. Nall; J.W. Lathrop (1958). “Photolithographic fabrication techniques for transistors which are an integral part of a printed circuit”. IEEE Transactions on Electron Devices 5(2): 117. doi:10.1109/T-ED.1958.14395. https://ieeexplore.ieee.org/document/1472438. 
  9. ^ J. Lathrop (2013). “The Diamond Ordnance Fuze Laboratory's Photolithographic Approach to Microcircuits”. IEEE Annals of the History of Computing. doi:10.1109/MAHC.2011.83. https://www.semanticscholar.org/paper/The-Diamond-Ordnance-Fuze-Laboratory's-Approach-to-Lathrop/8639a0e696e1e149491a1347c1cb47f182dadb15#citing-papers. 
  10. ^ Jay W. Lathrop (Jan.-March 2013). “The Diamond Ordnance Fuze Laboratory's Photolithographic Approach to Microcircuits”. IEEE Annals of the History of Computing Volume: 35, Issue: 1: 48 - 55. doi:10.1109/MAHC.2011.83. https://ieeexplore.ieee.org/document/6109207. 
  11. ^ クリス・ミラー 著、千葉敏生 訳『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』ダイヤモンド社、2023年、51-52頁。ISBN 9784478115466 
  12. ^ Semiconductor Milestones That Created the Modern World | designnews.com”. designnews. 2023年4月8日閲覧。
  13. ^ Patents US2890395A - Semiconductor construction”. Google Patents. 2023年4月8日閲覧。
  14. ^ Lathrop, Jay & Brower, W. & Cragon, H.G. (1962). “SILICON SEMICONDUCTOR NETWORKS MANUFACTURING METHODS”. aaa: 136. https://www.researchgate.net/publication/235203951_SILICON_SEMICONDUCTOR_NETWORKS_MANUFACTURING_METHODS. 
  15. ^ SILICON SEMICONDUCTOR NETWORKS MANUFACTURING METHODS pdf”. researchgate.net. 2023年4月8日閲覧。
  16. ^ Obituary for Jay Wallace Lathrop | Asheville Mortuary Services

参考文献

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  • 脇 英世『シリコンバレー スティーブ・ジョブズの揺りかご』東京電機大学出版局、2013年。ISBN 9784501552107 
  • クリス・ミラー 著、千葉敏生 訳『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』ダイヤモンド社、2023年。ISBN 9784478115466 

参照

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外部リンク

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[[Category:半導体]] [[Category:半導体製造]]