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利用者:ネイ/IPアドレス非表示化

2020年10月、ウィキメディア財団は財団法務部の助言に基づき、IPアドレスの非表示化を決定しました(実施時期は未定)。このページでは2021年9月時点でIPアドレスの非表示化についてわかっていることをまとめています。

予備知識

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ウィキメディア財団

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ウィキメディア財団は2003年に設立されたNPOです。ウィキメディア・プロジェクトを広めて世界中にフリーな知識を提供することを目的としており、実務ではサーバー運営、MediaWikiの開発、フリーな知識への障害に対する法廷闘争、募金など多岐にわたります。

たとえば、2009年にナショナル・ポートレート・ギャラリー(NPG)が提供する、絵画の画像ファイルを米国の利用者がパブリックドメインとしてコモンズにアップロードした事件(National Portrait Gallery and Wikimedia Foundation copyright dispute)がありました。この事件では絵画自体がパブリックドメインになっているものの、NPGは知的労働英語版の論理に基づき、NPGがデジタル化した絵画の著作権を有すると主張した。この論理は2009年当時では米国で却下されたが、イギリスで認められていました。そのため、アップロードした利用者はNPGの代表からデータベース権や著作権の侵害を主張するウィキメールを受けた(原文はコモンズで公開された。送信者のc:User:Amisquittaは法的な脅迫をしたとみなされ、ウィキペディア英語版とコモンズで無期限ブロック)。その後、財団は利用者側を支持する声明を発しました。事件自体は、2015年にイギリス知的財産庁欧州司法裁判所の意見に基づき、知的労働の論理を却下したことで完全に終息したが、コモンズにおけるc:Template:SourceNPGLondonとNPGのウェブサイトにおける著作権主張は2021年現在も表示されています。

IPアドレス

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IPアドレスは、インターネット通信における識別番号です。今回の件ではいわば「ネットの住所」みたいな認識でよいでしょう。

IPアドレスにはIPv4とIPv6アドレスの2種類があり、それぞれ「126.243.235.227」、「2400:4152:3282:3700:89B8:6AE:86A9:4D81」のような書式になっています。IPv6は、IPv4で使用できるアドレスが枯渇しそうになった(IPアドレス枯渇問題)ために開発されました(詳しくはIPv6を参照)。

IPアドレスからは、色々な情報がわかります。これは、IPアドレスの割り当てが公開されているためであり、WHOISクエリでわかります。たとえば、特別:投稿記録/150.249.195.15の下にある「APNIC」のリンクをクリックすると、So-net経由の接続であることがわかります。ほかにもIPアドレスに関する情報を収集して公開するサービスが多く、Spur.us(英語)では「公開プロキシの疑いが少なく、東京からの接続が多い」ことがわかります。このようにIPアドレスから多くの情報がわかるため、ウィキペディアではログインせずに編集する利用者を「匿名利用者」とは呼称せず、「未登録利用者」または「IP利用者」と呼びます。

このIPアドレスがある場合、例えば日本ではISPや携帯キャリアへの情報開示請求で身元が判明することがあります。中国などではIPアドレスから特定の投稿をした人物を探し出して、その人物を罰することもあります。後者では2018年にウィキペディア中国語版のチェックユーザーがIPアドレス情報を漏洩して、中国語版のチェックユーザー全員が権限を取り上げられた事件に発展しました。

ウィキペディアにおけるIP利用者

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ウィキペディア日本語版ではIP利用者によるページ編集や作成を制限していませんが、多くの機能を使用できません。下記に例をいくつか挙げます。

アカウントを作成してログインした場合、投稿記録でIPアドレスが表示されなくなります。チェックユーザーによりチェックユーザー権限保有者がIPアドレスを閲覧できますが、秘密保持契約書に署名する必要があるので、不特定多数にIPアドレスを知られるリスクは大きく低下します。

IP利用者への制限は言語版によって異なります。

  • 英語版ではIP利用者による記事作成を禁止しています。その代わり、Drafts名前空間で作成して、ページの移動ができる利用者により標準名前空間に移動されます。
  • ポルトガル語版では2020年10月よりIP利用者による編集を禁止しています(後述)。

日本語版はIP編集が多い言語版として知られていますが、主要言語版で一番多いのは2007年のことであり、現在では25から29%で推移しており、平均以上ではあるものの1位ではなくなりました。他言語版をいくつか抜粋すると、下記のようになります。

  • 日本語版より多い:イタリア語版(31%)、スペイン語版(32%)、朝鮮語版(42%)
  • 日本語版より少ない:英語版(22%)、中国語版(22%)、ロシア語版(21%)、ポーランド語版(16%)、フランス語版(15%)、オランダ語版(15%)、ドイツ語版(10%)。ポルトガル語版は例外的に0%。
  • ウィキペディアの全言語版の合算は20%。

ポルトガル語版におけるIP利用者編集禁止

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ポルトガル語版では2020年9月4日から10月4日までの投票に基づき、IP利用者の編集禁止を決定しました。実装は編集フィルターで行われました。この決定の影響について2021年3月に意見聴取が行われ、肯定的な意見が大多数を占めました。

ウィキメディア財団は禁止後のポルトガル語版について情報を収集し(phab:T264940)、2021年8月末にIP利用者の編集禁止の影響に関する報告書を発表しました。収集したデータは公開しており、禁止前後の編集数、取り消された編集の数、投稿ブロック回数、アカウント作成数、ページ保護回数などがPtwiki_dashboard(英語)にて閲覧できます。

財団はさらなる情報収集のために、IP利用者の編集を8か月間禁止する実験に参加するウィキを2021年9月より募集しており、現時点でスペイン語版が興味を示しています。これとは別に、fa:ویکی‌پدیا:نظرخواهی/تغییر روش ویرایش کاربران گمنام#پیشنهاد چهارم: ممنوعیت موقت ویرایش کاربران گمنامの議論を経て、ペルシア語版ウィキペディアでIP利用者の編集禁止を2か月間試行する合意が形成されました。

今回の変更

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2020年10月、ウィキメディア財団は将来的にIP利用者のIPアドレスを既定で非表示にすることを決定しました[1]財団法務部の声明によれば、決定の理由を全て公開することはできませんが、FAQでは「特定の条例が可決されたためではない」とし、データプライバシー基準と利用者の期待(user expectations)が世界中で変化しており、その対応の一環であるとしています。

いきなり実施すると混乱は必至であり、また荒らし対処に悪影響を与えないよう、新しいツールを開発する必要があるため、2021年7月現在IPアドレス非表示化の実施時期は未定です。

IPアドレス非表示化

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IPアドレス非表示化が実施された後、未登録利用者が編集した場合、編集履歴などで表示される名前はIPアドレスではなく、何らかの別称になります。

  • 別称の例示として"Anonymous 12345"が挙げられますが、詳細は未定であり、「IP毎に異なる」「全プロジェクトで共通」のみ決定されている模様です。別称のイメージとしてGoogleドキュメントの「匿名セイウチ」がわかりやすいでしょう。
  • IPアドレス非表示化が実施される前に編集したIP利用者のIPアドレスは引き続き表示されます。
  • 別称になったIP利用者には会話ページが設けられ、これまでのIP利用者の会話ページと同様に使用できます。非表示前のIP会話ページから非表示後の別称会話ページへの移行については未定です。

非表示されたIPアドレスの閲覧

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今回の変更ではIPアドレスを完全公開にしなくなるだけであり、サーバーログなどでは引き続き保存されます。荒らし対処などで必要になることもあるので、ある程度信任された利用者がIPアドレスを閲覧できるようにすることは必要です。財団は2021年6月10日にIPアドレスのアクセスレベル案を提出しました。具体的には4レベルに分けます。

  1. スチュワード、チェックユーザー、管理者:個人設定にてアクセス権限のない利用者にIPアドレス情報を提供しないことに同意すれば、閲覧できるようになります。
    • (2021年7月16日更新)この同意がチェックユーザー就任に必要な非公開情報の秘密保持契約と同一かどうかについては、財団法務部が検討中ですが、「チェックユーザーの契約よりシンプルなものを目指す」としています。
  2. 荒らし対処に関わる利用者はコミュニティからの信任を経た上でアクセス権限のない利用者にIPアドレス情報を提供しないことに同意にすれば、閲覧できるようになります。
    • 財団としては管理者立候補と同程度の信任を想定しており、「アカウント作成から1年以上と編集500回以上」を最低条件としています。
  3. アカウント作成から1年以上と編集500回以上の利用者はアクセス権限のない利用者にIPアドレス情報を提供しないことに同意にすれば、IPアドレスのうち最後の数字を除く部分を閲覧できます。
    • たとえば、「126.243.235.227」の場合は「126.243.235.X」まで閲覧できます。このアクセスレベルはコミュニティからの信任を必要としません。
  4. それ以外の利用者はIPアドレスにアクセスできず、"Anonymous 12345"のみが表示されます。

チェックユーザーと同様、IPアドレス閲覧もログが記録されます。

閲覧したIPアドレス情報は、同じまたはそれ以上のアクセスレベルを有する利用者と共有できます。

IP利用者の投稿ブロック

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IPアドレス非表示化が実施されるまでに投稿ブロックされたIP利用者やIPレンジのブロック期間などは変わりません。また、実施された後もIP利用者の投稿ブロックは引き続きできます。

IP利用者関連ツールの強化

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いずれもアイデア段階ですが、財団はツール強化をIPアドレス非表示化の前提にしています。

IP情報の表示

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IP情報表示のモックアップ

表示する情報の例としてIPアドレスの所在地、割り当てられた所有者、VPNやTorノードかどうか(どちらも日本語版で投稿ブロック対象)が挙げられます。財団法務部によれば、これらの情報は個人を特定できる情報ではないので、IPアドレス自体と違い、公開しても問題はないとのことです。

現在でもspur.usなど外部サイト経由で情報を取得できますが、これをウィキ上で(IPアドレス閲覧権の有無にかかわらず)表示します。

編集傾向の似ている利用者を探す

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編集傾向の似ている利用者を探す機能のモックアップ

IPアドレスを入力して、編集傾向や所在地の似ているIP利用者を返します。2021年現在では2アカウントの編集履歴を比較して、重なる部分を探す外部ツールもありますが、このツールではIPアドレスを1つ入力して、似ているIP利用者を検索できます。

IPアドレス閲覧権の有無にかかわらず利用できます。

長期荒らしデータベース

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長期荒らしデータベースのモックアップ

各ウィキの長期にわたる荒らし行為を行っている利用者(LTA)に関する情報を1つのデータベースに収集します。そして、特定の利用者名を入力することで、その利用者と編集傾向の似ている長期荒らし利用者を検索できます。

誰でもアクセスできるようにすると、荒らしに対策される可能性があるため、アクセスをある程度制限する必要があると言えます。

IPアドレス非表示化への反応

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この節は特記がない限り、m:Talk:IP Editing: Privacy Enhancement and Abuse Mitigationおよび過去ログの議論から抜粋しています。

決定そのものへの反応

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支持:

  • 大手サイト(フェイスブック、ツイッターなどを想定)で利用者のIPアドレスを公開しているのは、もうウィキメディア・プロジェクトしかありません。
  • プライバシー保護として当然の措置。

反対:

  • 特定の法律が可決されたためでなければ、なぜ「非表示化しない」という選択肢がないのか。
  • ここまで複雑な閲覧権限を設けるぐらいなら、未登録利用者の編集禁止を選ぶウィキが続出しそう。

財団の意思決定への意見:

  • 法務部の弁護士が助言の理由を公開できないのは理解できます。しかし、助言を受けた財団が理由を公開しないのは納得できない。
    • 財団法務部が7月16日に返答したところでは明言はしませんでしたが、「公開すると裁判で不利になる」とみられます。
  • 決定に異議はないが、コミュニティに諮問せず財団だけで決定すべきではない。

閲覧権限への反応

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  • 閲覧権限の要求が管理者並みでは厳しすぎており、せめて巻き戻し者程度の信任にすべき。
  • アカウント作成から1年と500編集が釣り合っておらず、後者は短期間でも達成できる。
  • 自動退任の規定も必要。
  • 荒らし対処が成り立つ程度に権限を与えていくと、IPアドレスを閲覧できる利用者はたちまち数千人単位になります。たとえば、英語版の管理者だけでも1,000人はいます。
  • 18歳未満(未成年)の利用者の同意は有効か?有効でない場合、未成年の利用者は荒らし対処に参加できないことになる。
    • 財団法務部は7月16日に「年齢制限は未定ですが、16歳以上になる可能性が高い」と返答しました。

その他

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  • "Anonymous 12345"のような別名表示はCC-BY-SAを満たすと言えるか?
    • 財団法務部は7月16日に「満たすと言えます」と返答しました。

脚注

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