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利用者:サヤ/作成中の記事

技術試験衛星VII型
「きく7号(ETS-VII)」
所属 NASDA(現JAXA
国際標識番号 1997-074B
カタログ番号 25064 [脚注 1]
状態 運用終了
目的 自動ランデブー・ドッキング技術試験
打上げ機 H-IIロケット 6号機
打上げ日時 1997年11月28日
6時27分(JST)
運用終了日 2002年10月30日
物理的特長
本体寸法 2.6m×2.3m×2.0m(ひこぼし)
0.7m×1.7m×1.5m(おりひめ)
展開型太陽電池パドルを有する箱型
質量 約2,860kg
姿勢制御方式 三軸姿勢制御方式
軌道要素
軌道 円軌道
高度 (h) 約550 km
軌道傾斜角 (i) 約35度
軌道周期 (P) 約96分
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きく7号(Engineering Test Satellite-VII, ETS-VII)は1997年宇宙開発事業団 (NASDA) が打ち上げた技術試験衛星。チェイサ衛星(ひこぼし)とターゲット衛星(おりひめ)の2機によって構成され、世界で初めて自動ランデブ・ドッキングを成功させた[1][脚注 2]

ミッション内容

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経緯

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軌道上の宇宙機に対して接近・結合するためのランデブドッキング技術、及び軌道上の宇宙機に対して点検・機器交換等の各種作業を行う宇宙ロボット技術は将来の宇宙活動において必要不可欠になると考えられた[2]。きく7号はこれら技術の基礎を習得するための軌道上技術実験を目的とした衛星で、基本構想は1990年にNASDA内部で提案された[2]。その後NASDA内部におけるシステム検討を踏まえ、平成4年度よりETS-VII開発予算が認可された[2]

機体

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チェイサ衛星とターゲット衛星は結合された状態で打ち上げられ、軌道上でのランデブー・ドッキング実験時に、ターゲット衛星はチェイサ衛星から分離される。ランデブー・ドッキングを行わない間、ターゲット衛星は姿勢制御用推薬を節約するためチェイサ衛星に結合されている。また、ロボット実験は主としてチェイサ衛星において行われる[3]。開発は宇宙開発事業団が中心となって航空宇宙技術研究所通信総合研究所通商産業省を合わせた4機関が共同で行った[3]

チェイサ衛星は約2.6×2.3×2mの箱型で、約1.8×20mの展開二翼式太陽電池パドル及び鏡面開口径約1.3mの高利得アンテナが取り付けられている[3]。また、飛翔方向と反対側にはドッキング機構ラッチ機構部、近傍センサ、ランデブーレーダ等のランデブー・ドッキング実験系システムが取り付けられている[3]三軸姿勢制御方式を採用し、打上げ時(ターゲット衛星搭載)の重量は約2.5トンである[3]

ターゲット衛星は、約0.6×1.7×1.5mの箱型で、約1.2×6.6mの展開一翼式太陽電池パドルが取り付けられている[3]。またターゲット衛星の進行方向面には、ドッキング機構ハンドル、近傍センサマーカ、ランデブーレーダリフレクタ等のランデブー・ドッキング実験系システムが取り付けられている[3]。チェイサ衛星と同様三軸姿勢制御方式を採用し、打上げ時の重量は約400kgである[3]

主要ミッション

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きく7号では次の2つが主要ミッションとされた[4]

  • 2つの宇宙機の接近・結合を自動および遠隔操縦により行うためのランデブ・ドッキング技術実験
  • 地上からの遠隔操作により無人で軌道上作業を行うための宇宙用ロボット技術実験

宇宙用ロボット技術実験ではNASDAによる技術実験のほかに、通産省・電子技術総合研究所、通信総合研究所、航空宇宙技術研究所による実験、およびドイツ航空宇宙センター(DLR)、欧州宇宙機関(ESA)との共同実験が行われる。またこれらの実験を地上からデータ中継衛星(TDRS等)を経由して行うことにより、データ中継衛星を介した軌道上作業の運用技術を修得する[4]

飛行記録

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打上げ

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打上げは当初1997年11月1日を予定していたが、ターゲット衛星の推進系スラスタの連続噴射モード試験中に、一部のスラスタで噴射が止まらなくなるという不具合が生じた[3]。原因の特定と修復のため11月19日に打上げは延期された[3]。その後、同時打上げのTRMMの最終点検作業中に時刻信号異常が発生し、打上げ日が11月28日に延期された[3]。さらに、打上げ当日である11月28日に、打上げ時刻を午前5時40分と予定していたが、ロケット第1段の主エンジンの酸素入り口温度が上昇し規定値を超えるおそれが生じ、予冷のリサイクル処置を実施したため、打上げ時刻が午前6時27分に変更された[3]

結局1997年11月1日午前6時27分、種子島宇宙センターからH-IIロケット6号機によってきく7号とTRMMは打ち上げられた[3]。打上げ後約1分36秒に固体ロケットブースタの切り離し、同約3分30秒に上部衛星フェアリングの切り離し、同約5分51秒に第1段ロケットの切り離しが行われた[3]。同約5分57秒に第2段エンジンの第1回目の燃焼開始、同約13分37秒に燃焼停止[3]。同約14分12秒にTRMMの分離が行われ、同約17分8秒に下部衛星フェアリングの切り離して姿勢変更後、同約26分12秒に第2段エンジンの第2回目の燃焼(アイドルモード燃焼)開始、同約27分11秒に燃焼停止した[3]。打上げから約28分1秒にきく7号の分離が行われ、所定軌道に投入された[3]。打上げは良好に終わり、投入軌道の軌道要素遠地点551.1(550.0)km、近地点376.9(378.4)km、軌道傾斜角34.986(35.000)度、周期93.88(93.88)分(括弧内の数値は目標値)[3]。 

初期運用

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分離後チェイサ衛星は太陽電池パドルを展開し、三軸姿勢を確立[3]。その後ターゲット衛星の太陽電池パドルの展開及びチェイサ衛星の太陽電池パドルの太陽追尾が開始された[3]

2回の軌道変換テストマヌーバ実施の後、12月15、16、18日の3回に分けて軌道変換が実施され、衛星は計画された軌道へ投入された[3]。軌道変換後の衛星の軌道要素は遠地点554.4(550)km、近地点546.1(550)km、軌道傾斜角34.98(35)度、周期96(96)分(括弧内の数値は目標値)[3]。なお、第1回軌道変換テストマヌーバ後の11月30日8時32分に沖縄局で衛星の姿勢異常、太陽電池パドルの回転停止が確認されたが、13時34分までに衛星の姿勢の再捕捉、太陽電池パドルの太陽追尾の再開が行われ、大事には至らなかった[3]。その後原因調査とそれに基づくソフトウェアの改修が行われた[3]

12月20日に沖縄局においてコマンドを送信し、チェイサ/ターゲット衛星間通信アンテナ及びデータ中継衛星用通信アンテナの展開、ロボットアーム保持機構の解放が行われた[3]

機能確認

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1998年1月7日から同年5月27日まで、衛星バス系ミッション系の初期機能確認が実施された[3]。ここでいくつかの問題が発生した。

衛星バス系のうち通信・データ処理系については、データ中継衛星回線であるバンド・シングル・アクセス通信(SSA)系のハイゲイン回線送信出力が低下した[3]。ただし低下した状態においても、信号対雑音電力比(C/NO)データからは回線マージンがあり、テレメトリデータ及び画像データは正常に取得された[3]。この低下現象は、1998年6月11日以降はほとんど発生しなかった[3]

ミッション系のうちロボット実験系については、ロボットアームの関節の1つが30度ずれて取り付けられていることが判明した[3]。そこでロボット制御用のプログラムをロボットアームの関節角度の計算にバイアスを加えるよう改修し、実験に支障のないようにした[3]

ミッション系のうちランデブドッキング実験系については、衛星の姿勢制御をRVDモードから姿勢軌道制御系(AOCS)モードに切り替えた際に、衛星の姿勢異常が発生した[3]。これはソフトウェアの改修、運用手順の見直しにより解決された[3]

定常運用

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1998年5月28日より定常段階運用へと移行した[3]

ロボット実験については、宇宙開発事業団及び外部機関(通商産業省、通信総合研究所、航空宇宙技術研究所)の実験及び国外機関(ドイツ航空宇宙センター(DLR)、欧州宇宙機関(ESA))との共同実験が計画どおり全て実施された[3]

ランデブドッキング実験については、1998年7月7日に、近傍センサを主センサとし、チェイサ/ターゲット衛星の近傍域(0-2m)でのランデブ飛行機能及びドッキング機能の確認を行う分離・ドッキング実験飛行(FP-1)が実施された。

続いて8月7日に、ランデブレーダを主センサとする範囲(~500m)でのランデブ飛行機能の確認及びドッキングを行う初期離脱・最終接近実験飛行(FP-2)を実施したが、接近開始点(TF)(相対距離:520m)からの接近中にチェイサ衛星のスラスタ噴射異常による姿勢異常が発生し(Ⅱ3(3)参照)、安全確保モードに自動移行した。搭載ソフトウェアの改修や接近手順変更等の対策の結果、8月27日にチェイサ/ターゲット衛星がドッキングし、実験が終了した。 

平成10年8月7日に、ランデブドッキング(RVD)実験として初期離脱・最終接近実験飛行(FP-2)を実施したところ、接近開始点(TF)(相対距離:520m)からの接近中にチェイサ衛星のスラスタ噴射異常による姿勢異常が発生し、安全確保モードに自動移行した。姿勢異常は、発生後回復するものの、繰り返し再発した。搭載ソフトウェアの改修や接近手順変更等の対策の結果、8月27日にチェイサ/ターゲット衛星がドッキングし、実験が終了した。 さらに、スラスタ噴射異常は後期利用段階の平成11年10月26日から27日にかけて実施した接近・離脱飛行技術実験(FP-6)においても発生した。 スラスタ噴射異常とは、スラスタ噴射指令があるにもかかわらずスラスタ推力が発生しないことを意味する。スラスタ噴射異常は、Z(地心方向)並進制御及びX(軌道接線方向)並進制御に関係する計6本のスラスタで発生した。

スラスタ噴射異常の原因

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スラスタ噴射異常の木解析が行われ、スラスタ噴射異常時には、推薬弁に異常が発生していたと考えられた[3]。推薬弁に異常が発生する可能性を確認するために、供試体2つを用いた地上再現試験が開始された[3]。軌道上実験を模したパルス噴射を繰り返した結果、供試体Aについては累積噴射回数約31万4千回で、供試体Bについては 累積噴射回数28万回で軌道上の噴射異常と類似した特徴を示す推薬弁の異常が発生した[3]。さらに地上再現試験後に推薬弁の分解調査によって、仕様値を超える寸法、量の汚染物質及び触媒成分が検出された[3]

この検証から、軌道上の噴射異常は推薬弁内で発生した汚染物質又は侵入した破砕触媒によって引き起こされたものと推定された[3]。しかし、軌道上で発生した噴射回数の少ない時点(5千回から1万5千回)での推薬弁異常は、地上試験では再現しなかった[3]。また、軌道上においてスラスタ28本のうち6本のスラスタで噴射異常が発生している点からもその他の原因が考えられたが、特定することはできなかった[3]


定常段階の運用は平成11年5月31日に終了した。

功績

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ETS-Ⅶのランデブドッキング(RVD)システムは、国際宇宙ステーション(ISS)あるいは将来型人工衛星への物資の輸送等、21世紀初頭の宇宙活動に対応するために必須の技術であるRVD技術を軌道上実験等の実施により確立するために開発されたものである。


この実験の成果が、後に宇宙ステーション補給機の無人ランデブー技術に活用された[5]

ETS-Ⅶのロボットシステムは、世界で初めて宇宙実証された無人衛星搭載のロボットシステムであり、地上からの遠隔操作により宇宙の暴露環境下で作動する。 スペースシャトルに搭載されたシャトル・マニピュレータ(SRMS)は、スペースシャトル搭乗の宇宙飛行士により操縦されるものである。また、ISS用にカナダにおいて開発中のSSRMS、SPDM、ESAにおいて開発中のERAは、すべて宇宙飛行士による操縦を基本としている。 また、1993年にドイツが実施したロボット実験(ROTEX)は地上からの遠隔操作により作動するものであるが、作動環境はスペースシャトルのスペースラブ内の与圧環境下である。これまでのロボットシステムの宇宙空間での稼動期間は、SRMSについては最大2週間で実働は数日間であり、ROTEXについては与圧環境下で10日間であった。 ETS-Ⅶのロボットシステムは宇宙空間において、これまでのどの宇宙用ロボットよりも長期間(1.5年以上、実働100日以上)にわたり安定して稼働している。

脚注

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  1. ^ 「ひこぼし」のNORADカタログ番号。「おりひめ」のNORADカタログ番号は、25424
  2. ^ アメリカにおいては宇宙飛行士の操縦による有人ランデブ・ドッキングが行われていた。ソ連・ロシアは自動ランデブ・ドッキングを行ったといわれているが、宇宙飛行士との役割分担は不明。この当時のESAはATVを開発中だった(宇宙開発委員会技術評価部会)

参考文献

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  1. ^ おりひめ・ひこぼし”. JAXA 宇宙情報センター. 2011年3月1日閲覧。
  2. ^ a b c 1.技術試験衛星VII型(ETS-VII:Engineering Test Satellite-VII)”. NASDA. 2011年3月5日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am an ao ap H-IIロケット6号機による熱帯降雨観測衛星(TRMM)及び技術試験衛星Ⅶ型(ETS-Ⅶ)の打上げ結果の評価について(報告)” (PDF). 宇宙開発委員会技術評価部会 (平成12-01-19). 2011年3月5日閲覧。
  4. ^ a b 9)技術試験衛星Ⅶ型「きく7号」/「ひこぼし」「おりひめ」(ETS-Ⅶ)”. 文部科学省. 2011年3月1日閲覧。
  5. ^ 平成18年版 文部科学白書 第2部 第6章 第3節 5.宇宙・航空分野 第3節”. 文部科学省. 2011年2月12日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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