幾何代数(きかだいすう、英: geometric algebra)とは、グラスマン代数(外積代数)を発展させたクリフォード代数の幾何的な性質に注目した代数である。数学的に厳密な議論はクリフォード代数を参照。
複素数とは別の実数の一般化として以下のような記号を導入する。
(、は各々一つしか用いない場合には省略可、各記号は直交)
これらの記号をもちいると、という式は、以下のように書きなおせる。
は定義より複素数単位と同一視できるが、同じように定義より分解型複素数と同一視可能なを用いても、
より、以下の式が導ける。
すなわちと定義することもできる。
2次元ユークリッド平面における回転をのかわりにやを用いると以下のように表現できる。
または、
の乗は2乗以上の項が0になることに注意すると、以下のように展開されるが、
これは、
ここで定義した記号は次元によらないユニタリ群と同じ機能をするんではないかと。(要確認)
または特殊直交群の行列を用いない表現と考えることもできるはず。(要確認)
を基底ベクトルとして幾何代数におけるベクトルを以下のように定義する。(ただし)
このベクトルに以下のような演算、幾何積を以下のように定義する。
この積を表す記号には、⟑(U+027D1、ウェッジドット)が用いられるが、これは幾何積が内積(ドット積)とウェッジ積との和で表されるからである。
幾何積におけるのような2つのベクトルの積をバイベクトル(bivector)と呼ぶ。
ベクトルは大きさと向きを持つ量であるのに対し、バイベクトルは大きさと向きのある面積である。
同様に3つのベクトルの積はトライベクトル(trivector)と呼び、大きさと向きのある体積である。
となるが、
ここで、はスカラだが、とは交換法則は満たさない。
定義
これらのベクトルの成分表示は幾何数で行うことができる。
スカラとベクタとバイベクタ...の和を
と表現し、が自乗して1となる基底ベクトル数、
が自乗して-1となる基底ベクトル数、が自乗して0となる基底ベクトル数を表す。
マルチベクタの例
|
|
|
|
|
|
0 |
0 |
0 |
実数
|
|
1 |
0 |
0 |
分解型複素数
|
|
0 |
1 |
0 |
複素数
|
|
0 |
0 |
1 |
双対数
|
|
2 |
0 |
0 |
2次元ユークリッド平面(2D Geometric Algebra、2D GA)
|
|
2 |
0 |
1 |
2次元射影平面(2D Projective Geometric Algebra、2D PGA)
|
|
3 |
0 |
0 |
3次元ユークリッド空間(3D Geometric Algebra、3D GA) 四元数、リー群
|
|
3 |
1 |
0 |
2次元共形平面(2D Conformal Geometric Algebra、2D CGA)
|
|
3 |
0 |
1 |
3次元射影空間(3D Projective Geometric Algebra、3D PGA)
|
|
4 |
1 |
0 |
3次元共形空間(2D Conformal Geometric Algebra、3D CGA)
|
幾何学と代数学の関係は、少なくとも紀元前 3 世紀のユークリッド原論までさかのぼりますが(ギリシャの幾何代数を参照)、この記事のような、空間の幾何学的な特性と変換を記述するための体系的な方法という意味での幾何代数は1844 年まで開発されませんでした。
その年、ヘルマン・グラスマン(Hermann Grassmann)は、空間のすべての幾何学的情報を記述可能な特別な算法(命題論理に類似)として、完全に一般的な幾何代数のアイデアを導入しました。
グラスマンの代数システムは、いくつもの異なる種類の空間に適用できます。主なものとして、ユークリッド空間、アフィン空間、および射影空間があげられます。
グラスマンに続いて、1878 年にウィリアム・キングドン・クリフォード(William Kingdon Clifford)が、グラスマンの代数系をウィリアム・ローワン・ハミルトン(William Rowan Hamilton) の四元数(quarternions)と比較しました。(Clifford 1878)
彼の視座では、四元数は特定の変換(彼はローターと呼びました)を記述し、グラスマンの代数は特定の性質(線分の長さ、面積、体積など) を記述していました。
彼の貢献によって、グラスマン代数上に新しい積 (幾何積、geometric product) が定義され、四元数はこの代数内に存在することが明らかになりました。
その後、1886 年にルドルフ・リプシッツ(Rudolf Lipschitz)は、クリフォードの四元数の解釈を一般化し、四元数をn次元での回転の幾何学に適用しました。
これらの発展は、後の20 世紀の数学者によるクリフォード代数の性質の形式化と探求につながっていきます。
しかしながら、19 世紀の数学におけるもう 1 つの革命的な発展が、幾何代数を完全に覆い隠してしまいました。 ジョサイア・ウィラード・ギブス(Josiah Willard Gibbs)とオリバー・ヘヴィサイド(Oliver Heaviside)によってそれぞれ独立して開発されたベクトル解析です。
ベクトル解析は、ジェイムス・クラーク・マクスウェル(James Clerk Maxwell)の電磁気学研究に端を発し、ある特定の微分方程式を便利に表現・操作するために考案されました。
ベクトル解析には新しい代数の厳密さと比べて、直感的な魅力がありました。
特にギブスの講義を受けたエドウィン・ビドウェル・ウィルソン(Edwin Bidwell Wilson)による1901 年の教科書「ベクトル解析」によって、多くの物理学者と数学者が幾何学の手法として幾何代数ではなくベクトル解析を採用します。
より細かく見れば幾何代数には3つのアプローチがありました。
1843年にハミルトンによって始まり、1878年にクリフォードによってローター(rotors)として幾何化された四元数解析(quaternionic analysis)。1844年にグラスマンによって始められた幾何代数。そして19世紀後半にギブスやヘヴィサイドによって四元数解析から発展したベクトル解析。
ベクトル解析における四元数解析の遺産は以下のようなものがあります。
の基底ベクトルを表現するために, , を使用している事。これらは純粋虚四元数(purely imaginary quaternions)と見ることができます。
幾何代数の観点からは、時空間代数(Space Time Algebra)の偶部分代数(even subalgebra)は3次元ユークリッド空間の幾何代数と同型であり、四元数は3次元ユークリッド空間の幾何代数の偶部分代数と同型であるので、3つのアプローチを統一しています。
20世紀におけるクリフォード代数の研究は、エリ・カルタン(Élie Cartan)、ヘルマン・ウェイル(Hermann Weyl)、クロード・シュヴァレー(Claude Chevalley)といった抽象代数学者の研究によるところが大きいのですが、その進展は静かなものでした。
20世紀を通じて幾何代数に対する幾何学的アプローチは何度も確認されています。
数学では、エミール・アルティン(Emil Artin)の『Geometric Algebra』が、アフィン幾何学、射影幾何学、シンプレクティック幾何学、ユークリッド幾何学(orthogonal geometry)など多くの幾何学に関連する代数を論じています。
物理学では、幾何代数は、古典力学や電磁気学、さらには量子力学やゲージ理論などのより高度なテーマを扱うための「新しい」方法として復活しました。
David Orlin Hestenesは、パウリ行列とディラック行列をそれぞれ通常空間と時空のベクトルと再解釈し、幾何代数の使用を提唱しています。
コンピュータグラフィックスやロボット工学では、回転や移動などの変換を効率的に表現するために、幾何代数が復活しています。
ロボット工学(スクリュー理論(Screw theory)、バーサー(versors)を用いた運動学と力学)、コンピュータビジョン、制御、ニューラルコンピューティング(neural computing、幾何学的学習)における幾何代数の応用については、Bayro (2010) を参照してください。
- 外積代数
- クリフォード代数
- 複素数
- 四元数
- 八元数
- 多元数