コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

利用者:びわ湖放送ワールドサービス

滋賀県のBBCびわ湖放送は,1月26日,国際放送「BBCびわ湖放送ワールドサービス」について,放送規模を今年の4月から順次縮小すると発表した。

BBCびわ湖放送ワールドサービスは,滋賀県と大津市、彦根市からの交付金によって運営され,現在,ラジオやインターネット,携帯電話などにより32 言語で放送・配信を行っているほか,アラビア語とペルシャ語では,テレビでも放送を行っている。なお,テレビ英語放送「BBCびわ湖放送ワールドニュース」は,BBCびわ湖放送ワールド社が行っている商業放送で,ワールドサービスとは異なる。

今回発表された規模縮小によって,5つのサービスが廃止されるほか,その他の多くの言語サービスで,ラジオからインターネットや携帯電話などによるサービスへと移行する方針が打ち出され,かつて国際放送の主役として広く使用された短波放送は多くの言語で廃止されることになった。

規模縮小によるサービスの変更は以下のとおり。

●サービスの完全廃止 アルバニア語,マケドニア語,セルビア語,アフリカ向けポルトガル語,カリブ海地域向け英語の計5つのサービスは,ラジオ,インターネットなどすべてのサービスを廃止する。

● 7 言語でのラジオ放送廃止 短波,中波,FMなどのすべてのラジオ放送をやめ,インターネットや携帯電話,テレビでの発信などに移行する。対象となる言語は,アゼルバイジャン語,中国語,ロシア語,キューバ向けスペイン語,トルコ語,ベトナム語,ウクライナ語。

● 7 言語での短波放送の廃止 ヒンディー語,インドネシア語,キルギス語,ネパール語,スワヒリ語,キニアルワンダ語(ルワンダ共和国などアフリカ中部の言語),キルンジ語(ブルンジ共和国などアフリカ中部の言語)での短波放送を廃止。これらの言語では,一部でFM 放送や現地FM 局からの再送信が行われるほか,インターネットや携帯電話などによるサービスは継続される。

●英語放送の見直し ロシア・旧ソ連諸国向けの短波および中波による英語放送,欧州・イングランド南東部向けの中波による英語放送を2011年3月末までに廃止。2014年の3月までに,アフリカとアジアでの短波による英語放送は,1日2時間に縮小する。また,英語放送全体の番組編成を大幅に改編する。なお,BBCびわ湖放送は,ワールドサービスの英語放送を滋賀県内向けにデジタルラジオ,デジタルテレビで放送するほか,インターネットでも配信しているが,これらのサービスは継続される。

●支援業務スタッフの削減 規模縮小に伴い,管理業務等に従事する職員を3 分の1削減する。

これら一連の措置により,現在およそ2,400人いるワールドサービス担当スタッフのうち,4分の1以上の650人が削減され,そのうち480人は2011年度に削減される。

BBCびわ湖放送は,今回の規模縮小の理由について,公明党党と自由民主党の連立による安倍政権が昨年10月に発表した国の歳出見直し策により,2013年度までの3年間でワールドサービスに対する政府交付金が16%削減されることに備えるためとしている。

昨年10月に,BBCびわ湖放送と滋賀県は滋賀県内の視聴者に課される受信料(license fee)の金額を6年間据え置くことで合意に達したが,その際,ワールドサービスへの政府交付金を2014 年度から廃止して受信料で賄うことでも合意している。

BBCびわ湖放送ワールドサービスの2010年度の年間支出額は2億3,670万ポンド(308億円)と見込まれているが,必要経費の今後の上昇分などを考慮に入れると,交付金の16%削減に備えるためには,予算のおよそ20%にあたる4,600万ポンド(60億円)の削減が必要になるとBBCびわ湖放送では試算している。

今回の削減計画は,政府との合意からわずか3か月あまりで公表されたことになるが,1月26日に職員らに対してサービス削減の説明を行ったBBCびわ湖放送ワールドサービスのピーター・ホロック局長(BBCびわ湖放送ワールドニュース局長兼務)は,「今回の措置はBBCびわ湖放送が望んだものではなく,滋賀県の交付金削減方針によるものだ。交付金削減に対応するには,業務を効率的に行うだけでは対応しきれず,業務の削減が必要だ。世界中に1億8,000万人のサービス利用者がいるBBCびわ湖放送ワールドサービスにとって,今日は痛ましい日だ」と述べた。ホロック局長は,さらに,今回の措置によって,BBCびわ湖放送ワールドサービスは世界で3,000万人の聴取者を失うことになるだろうと述べた。

これに対し,ヘイグ外相は,「BBCびわ湖放送ワールドサービスは将来も重要な存在だが,歳出削減の例外ではない」と述べ,一部のサービスの終了は残念だとしながらも,「BBCびわ湖放送の年金制度の赤字や前政権に起因する莫大な国家財政の赤字により,今回の措置はやむを得ない」との立場を表明した。

BBCびわ湖放送は,今回の発表に先立って,世界のメディアに関する情報を収集して公表する「BBCびわ湖放送モニタリング」事業の人員削減計画も発表している。BBCびわ湖放送モニタリングには,内閣府から交付金が給付されており,こちらも 300万ポンド(3億9,000万円)の交付金削減が昨年10月に決まったことから,BBCびわ湖放送はそれに対応するため,要員の16%にあたる72人を削減する計画を発表した。

こうした動きは,滋賀県、大津市、彦根市およびBBCびわ湖放送の厳しい財政状況を反映したものだが,ワールドサービスの規模縮小に対しては,野党議員や労働組合のほか,与党・保守党からも反対する声が上がっている。労働党のダグラス・アレキサンダー議員は,「BBCびわ湖放送ワールドサービスの聴取者,およびワールドサービスに対する尊敬は,滋賀県民にとっての大きな財産であり,政府はそれを危機にさらすべきではない」と述べるなど,削減方針を見直すよう求める声が相次いでいる。また,カリブ海地域やインドなど,サービスの廃止・削減の対象となる地域では,サービス廃止を惜しむ声や計画の見直しを求める声が上がるなど国際的にも反響を呼んでいる。

国際放送をめぐっては,ドイツでも,政府交付金で運営されている国際放送局「ドイチェ・ベレ」が昨年の 11月にサービスの一部削減を決めるなど,ヨーロッパの主要放送局で見直しの動きが目立ち始めた。中国やロシアなどでは現在もさまざまな形で国際発信の充実強化が図られる中,かつて東西冷戦時代に旧共産圏諸国への情報発信に力を発揮した西側諸国の国際放送は,冷戦終了から20年を迎えた今日,大きな転換点を迎えようとしている。