群の位数に関する積の法則
数学の群論における積の法則(せきのほうそく、英: product formula, 仏: formule du produit[注 1]; 積の公式)は、任意に与えられた二つの部分群およびそれらから作られる積および交叉という四つの集合[注 2]の位数(集合の濃度)の関係を記述するものである。
定理の主張
[編集]H, K は群 G の部分群とし、部分群の積 HK は hk (h ∈ H, k ∈ K) の形の G の元全体の成す集合を表す。また H, K, H ∩ K の位数をそれぞれ |H|, |K|, |H ∩ K| とするとき、これらと HK の位数 HK との間に、積の法則と呼ばれる関係式 が成り立つ[1]。
初等的な数え上げ問題として、羊飼いの補題 (lemme des bergers) に基づく証明を以下のように与えることができる:
写像 を考える。y を HK の元とすれば、y は適当な h ∈ H, k ∈ K を用いて y = hk の形をしている。f(h′, k′) = y を満たす (h′, k′) ∈ H × K の全体からなる集合の位数を計算しよう。まず、そのような (h′, k′) ∈ H × K は h′k′ = hk(= y) を満たすから、変形して h−1h′ = kk′−1 となることに注意する。したがって適当な i ∈ H ∩ K が存在して(なんとなれば i = h−1h′ と書けば)h′ = hi かつ k′ = i−1k となる。これにより、f(h′, k′) = y を満たす (h′, k′) ∈ H × K が (hi, i−1k) (i ∈ H ∩ K) の形に書ける H × K の元にほかならないことは容易に確かめられ、そのような元全体の成す集合の位数が |H ∩ K| であることが分かる。
H × K の G への作用を、各対 (h,k) は h を左から、k-1 を右から掛けるものとして定めれば、この作用に関する単位元の軌道に対する 軌道–固定群の関係式あるいはバーンサイドの補題の応用として所期の積の法則を得ることもできる。
一般化
[編集]任意の g ∈ G に対し、その属する両側剰余類を HgK と書く(これはすなわち、hgk (h ∈ H, k ∈ K) の形の元全体の成す集合である)とき、関係式が成立する[注 4]。無限群の場合は、部分群の指数を用いて、より強い形の が成り立つ[注 5]。
注
[編集]注釈
[編集]- ^ 代数的整数論における formule du produit は特に積公式 と呼ばれるので混同の虞は無いと思われる。
- ^ これらの中で、積(元ごとに積をとって得られる集合)だけが必ずしも部分群をなさない(いずれか一方の部分群が正規部分群ならば群になる)。他は常に部分群である。
- ^ 積の法則は。一般にこの N の正規性を落としてもよいことを含意するが、正規性が無い場合部分群の積は部分群にならず、したがって準同型定理(あるいは同型定理)の適用はできないので、証明はもう少し丁寧に見る必要がある。
- ^ この第二の式は特に H, K が有限群であるという仮定の下で述べている。これは (Isaacs 2008, p. 6) に練習問題として出ている。またこれら両側剰余類は、H × K の G への右作用(これは上で述べた両側作用にほかならない)の軌道と同じ働きを表している[2]。
- ^ この式の第一の等号は、写像 が全単射であることにより、HgK が K に等濃な成分 [H : H ∩ gKg–1] 個に分割されることから言える。第二の等号も同様にしてできるが、対称性により第一の等号に帰着してもよい。
出典
[編集]- ^ Rotman 1995, p. 30.
- ^ Isaacs 2008, p. 304.
参考文献
[編集]- Rotman, J. J. (1995), An Introduction to the Theory of Groups (4 ed.), Springer, ISBN 9780387942858
- Isaacs, I. Martin (2008), Finite group theory, AMS Bookstore, ISBN 9780821843444