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ロンドン地下鉄S7・S8形電車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ロンドン地下鉄S形電車
メトロポリタン線で運用されるS8形電車
基本情報
運用者 ロンドン地下鉄
製造所 ボンバルディア・トランスポーテーション [1]
製造数 191編成1395両
投入先 メトロポリタン線(S8形)
サークル線ディストリクト線ハマースミス&シティー線(S7形)
主要諸元
編成 7・8両編成
軌間 1,435 mm
電気方式 直流630V[2] 4線軌条式
最高運転速度 100 km/h[1]
起動加速度 1.3 m/s2
編成定員 S7形: 座席256人、立席609人
S8形: 座席306人、立席697人[2]
編成長 117.450 m (S7形)
133.680 m (S8形)[3]
長さ 18,150 mm (先頭車)
16,230mm(中間車)[1][注釈 1]
2,920 mm[3]
高さ 2,880 mm[2]
車体 アルミニウム合金[1]
軸重 13 t
主電動機 かご形三相誘導電動機[2]
ボンバルディア製MJB 200-2
駆動方式 2段減速式
歯車比 6.59
制御方式 IGBT素子VVVFインバータ制御[2]
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ロンドン地下鉄S7・S8形電車2010年から営業運転に投入されているロンドン地下鉄半地表各線[注釈 2]用の電車である。ロンドン地下鉄の2種類ある車両サイズのうち、大きいほうのサイズの車両群に属する。S7形とS8形では編成両数、座席レイアウトに差があるが、両者を総称してS形電車と呼ぶ[2]こともある。ロンドン地下鉄で初めて車両間が貫通幌でつながれるとともに、冷房装置を装備したことが特筆され、総数1,395両の発注は単一契約としては英国の鉄道史上最大のものである[1]

概要

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S形電車はボンバルディア・トランスポーテーションモヴィアと呼ばれる地下鉄用車両シリーズに属し、全車が同社で製造される。ボンバルディアは信号システムの更新、就役後の車両保守を一括して受注し[1]メトロポリタン線A60・A62形電車(A形電車)、サークルハマースミス&シティーディストリクトの各線で運用されているC69・C77形電車(C形電車)、ディストリクト線用D78形電車(D形電車)全177編成を、S7形電車7両133編成、S8形電車8両58編成、合計191編成1395両で2015年までに置き換える計画となっている。ロンドン交通局はS形電車投入の費用を15億ポンドと発表している[4]。半地表各線で運用されている電車は編成両数、車両全長、扉配置、座席レイアウトなどがばらばらで[注釈 3]、車両の融通ができないなどの問題があり、これを共通設計の電車で置き換えることで運用の自由度を高め、保守の効率化を図ることも投入の目的とされている[1]。S8形電車はメトロポリタン線用で、最長一時間を超える乗車時間に配慮して8両編成の一部にボックスシートを備える一方、都心部の路線を中心に運用されるS7形電車はプラットホーム有効長の制約から7両編成となり、短時間の乗車が多いと想定されることから全席ロングシートとなった。

ロンドン地下鉄の半地表線用電車の形式名がその電車が運用される路線にちなんだものとされる伝統に従い、形式名のSsub-surface(半地表)の頭文字で、半地表各線で運用される車両であることを示している[注釈 4]1930年代にもS形電車と呼ばれていた車両が存在し、2010年投入開始のS形電車は2代目となる。

半地表路線ではトンネル内でも車両とトンネル内壁の隙間が狭いシールドトンネル各線[注釈 5]と異なって冷房使用時の排熱が拡散できる[1]こと、半地表各線の地下区間は全体の1/3程度であることから同時期に製造されたヴィクトリア線2009形電車が非冷房とされた一方、S形電車には冷房装置が装備された[1][5]回生ブレーキの使用により使用電力が20 %削減できる[6]ことに加え、加速性能も従来車に対して向上しているが、最高速度はA形電車より12 km/h低い100 km/hに抑えられている[注釈 6]。従来車と平行して運用される間は信号の制約と、新型車の列車が旧型車の列車に追いついてしまうことを防ぐため、性能は旧型車並みに抑えられている。半地表各線の電源電圧は空調や全軸駆動による消費電力の増加に対応し、630Vから750Vに昇圧される予定である。昇圧により、車両性能がさらに向上するとともに、回生ブレーキの効率が向上すると想定されている[2]

本文中の車両形式略号などはロンドン地下鉄の車両形式および車両番号の付与方法を参照のこと。

外観

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ボンバルディアのモヴィアと呼ばれる地下鉄車両シリーズに属する。全車両外吊り式の両開き3扉で、先頭車は運転室の分だけ車体が長い。車体はアルミ合金製で、全体が白、先頭車前面とドアが赤、側面腰部が青のロンドン地下鉄標準色となっているが、前面窓周りは濃いグレーとされた。先頭車前頭部貫通扉上には2行が表示できるLED式表示装置が設けられ、上段には行先、下段には路線名が表示される。側面はドア間に幅広の固定窓が2枚、車端部と運転台後部に狭幅の固定窓が配置された。側面にもLED式表示装置が窓上車体中央部に1箇所設けられ、行先、列車種別(メトロポリタン線運用時のみ)、線名が 「Watford」、「All stations」 、「Metropolitan line」の様に表示される。また、ロンドン地下鉄で初めて車両間をつなぐ貫通幌が設けられている。

内装

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S8形電車は扉間の半分の座席がボックスシートで、1両2か所ボックスシートが設けられているが、車椅子スペースのある車両ではボックスシートは1か所となる。S7形電車は全座席ロングシートである。S形電車全編成に各4か所車椅子スペースが設けられ、その部分には折りたたみ式の椅子が設置されている。立ち席スペースが増加するとともに、車いす用のスペースが設けられたため、座席定員は従来車より減少している[注釈 7]。すべての座席が清掃の容易化と乗客の荷物置場として使用できるよう片持ち式となっており[7]、A形電車にあった荷物棚はS形電車には設けられなかった。従来車の手すり類はラインカラーに塗装されていたが、S形電車の手すりは全車黄色に塗装されており、A形電車に比べてつかみ棒の高さが高すぎるとの苦情があることから、S形電車にはつり革が設けられる予定となっている[8]。広幅の貫通路により車両間の通り抜けが可能となるとともに、他の床とほぼ同一面に仕上げてあることで立ち席スペースの拡大にも寄与している[2]。車内にはLED式旅客案内装置が枕木方向に各車4台設置され、行先と路線名、運行情報などが表示されるほか、自動放送装置も設けられた。客室内に設けられた監視カメラにより運転士が全車両を確認することができるとともに、駅出発時には車両外側の映像が運転席から見られるようになっている。運転席には緊急脱出用の折りたたみ梯子が設けられた[9]

主要機器

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主制御装置はIGBT素子のVVVFインバータ制御[2]で、1992形電車以来の全車電動車となった。ブレーキ制御システムは各種条件を加味して最適な制動力が得られるとされるクノールブレムゼ製EP2002が採用された[2]。2009形電車に続いてドアの開閉が電気式とされたが、2009形のリンク式に対して、S形ではスクリュー式が採用された[2]。 冷房装置は三菱電機製出力31kWのものが各車に1台搭載された[10]。回路が二重化されており、片方が故障した場合でも50%の出力で運転することができる[5][10]

営業運転への投入

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各線で順次営業に投入されている。

メトロポリタン線

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ベーカー・ストリート駅で並ぶA形電車とS形電車

S8形電車の夜間試運転は2009年11月9日からアマシャム駅ワットフォード駅間を、ワットフォード分岐点北側の短絡線を経由するルートで開始された。2010年1月初頭から乗務員訓練が行われ、2010年7月31日からワトフォード駅 – ウェンブリー・パーク駅間の営業運転に投入された[5]。 2011年6月27日までにS8形電車はメトロポリタン線全線で運用されるようになったが、信頼性の問題からロンドン交通局が2011年11月に新造車の搬入をいったん停止、搬入済で営業運転未投入の車両の営業運転開始が延期された。2011年12月中旬[11]に搬入、営業運転への投入が再開され、2012年9月15日までに全58編成がニーズデン車両基地に搬入された。

2012年11月に、58編成中37編成が新信号システムへの対応と、運転席の居住性改善のため、ボンバルディアに返送されて改修されることが報道されている[12]

ハマースミス&シティー線

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ドアが開かないこと表示する装置。ドアが開かない駅に停車中のみ点灯する

2012年7月6日からハマースミス&シティー線ハマースミス駅ムーアゲート駅間で営業運転を開始した。S7形電車はC形電車6両編成よりも編成長が24m長いため、ホーム有効長が足りない駅のホーム延伸が行われた。ベーカー・ストリート駅などホーム延伸が難しい駅に対応するため、編成後方のドアを開けないドアカット装置が設置された[5]。バーキングまでの営業運転は2012年12月9日に開始され[13]、2014年までにハマースミス&シティー線のすべての電車がS7形電車に置き換えられる予定である[14]

サークル線

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S7形電車は2012年からサークル線にも投入され、2014年までにC形電車全車を置き換える予定とされている[14]が、2013年5月1日現在、営業運転には投入されていない。

ディストリクト線

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ディストリクト線には2013年から2016年にかけてS7形電車が投入される予定である[14]。ディストリクト線用D形電車は半地表路線用では最も新しく、更新完了から10年弱しか経過していないため、他路線より遅れての導入となる[15]

運用

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メトロポリタン線を走るS7(+1) 形電車
この車両、21319はS7形電車に属するが、このときはS8形電車改修による不足を補うため8両編成でメトロポリタン線で運用されている

S7形電車はディストリクト、サークル、ハマースミス&シティーの各線用、S8形電車はメトロポリタン線用だが、全車とも半地表各線で運用可能である。

試運転や車両の不足などに対応するため、S8形電車は1両減車の7両で、S7形電車は1両増結の8両で運転されることがある。

番号体系

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各車両には5桁の車両番号が付与されている。万の位は全車2、千の位は編成中の車両位置、機能を表し、残りの3桁は通し番号である。S8形電車は4両ユニットを背中合わせに2組連結した形、S7形電車は4両ユニットを背中あわせに組み合わせた形から23xxxの偶数番号車を抜いた形である。各ユニットの内の下3桁は同番号となっている。

S8形電車

'A' DM NDM NDM MS
21001

21115
22001

22115
23001

23115
24001

24115


MS NDM NDM 'D' DM
24002

24116
23002

23116
22002

22116
21002

21116

S7 形電車

'A' DM NDM NDM MS
21301

21565
22301

22565
23301

23565
24301

24565


MS NDM 'D' DM
24302

24566
22302

22566
21302

21566
  • 偶数番号の23xxxは防霜装置付きの25xxxと入れ替わる場合がある。
  • Aエンドは奇数番号、Dエンドは偶数番号。

将来

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現在S形電車は手動で運転されているが、2018年に予定されている信号装置の更新以降、自動運転が行われる予定となっている[2]

脚注

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注釈

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  1. ^ 車両ごとの全長の公表値はないが、8両編成の編成長と7両編成の編成長が公表されているため、そこから算出できる。
  2. ^ :Sub-surface lines。サークル線ハマースミス&シティー線ディストリクト線メトロポリタン線のロンドン地下鉄では大型の車両を使う4線を指す。
  3. ^ A形電車が16 m級8両編成両開き4扉クロスシート、C形電車が電動車16 m級、付随車15 m級6両編成両開き4扉ロングシート、D形電車が18 m級6両編成、片開き4扉セミクロスシート。
  4. ^ 同様に、 A 形電車は、メトロポリタン線アマーシャム(Amersham)電化にちなみ(Bruce 1983, p. 110)、C 形電車サークル線(Circle line)で主に運用される車両であること(Bruce 1983, p. 114)を、D 形電車ディストリクト線(District line)で運用される電車であることを示している(Bruce 1983, p. 118)。
  5. ^ :Deep-level tube lines。シールドトンネルで構築された半地表路線以外の路線を指す。
  6. ^ A形電車もS形電車に置き換えが始まったころのダイヤでは最高速度は100km/hとなっていたうえ、S形電車の最高速度はC形電車、D形電車より向上している。
  7. ^ 座席及び立席定員はロンドン交通局の公表値による。ロンドン交通局のS7形電車座席256人、立ち席609人、S8形電車座席306人、立席697人に対し、ボンバルディアはそれぞれ268人、1071人、306人、1226人と 公表している。ロンドン交通局は立席1平方メートル当たり4名、ボンバルディアは扉間は1平方メートル当たり6名、ドア部は同8名で算出している。座席定員の差がどこから来るのかは不明。

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i Metro — London, United Kingdom”. Bombardier. 27 January 2011閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l S stock”. Transport for London. 10 January 2012閲覧。
  3. ^ a b Technical Data”. Bombardier. 4 August 2012閲覧。
  4. ^ “Metropolitan Line air-conditioned Tube trains launched”. BBC News. (2 August 2010). http://www.bbc.co.uk/news/uk-england-london-10835655 30 January 2011閲覧。 
  5. ^ a b c d “'S' stock making its mark”. Modern Railways (London): p. 46. (2010年12月) 
  6. ^ Transforming the Tube”. Transport for London (2008年7月). 28 May 2009閲覧。
  7. ^ London Underground Metropolitan Line S8 Vehicle Stock — Rail Vehicle Accessibility (Non-Interoperable Rail System) Regulations 2010 - Application for Exemption from Schedule 1 Part 1 - Boarding Devices”. Department for Transport (4 August 2010). 8 February 2011閲覧。
  8. ^ Gray, Jenny (9 August 2012). “New handles to be fitted on Met Line trains”. Uxbridge Gazette. http://www.uxbridgegazette.co.uk/west-london-news/local-uxbridge-news/2012/08/09/new-handles-to-be-fitted-on-met-line-trains-113046-31575944/ 12 August 2012閲覧。 
  9. ^ “Evacuation system for the Tube presents tight brief for DCA"”. Product Design + Innovation. http://www.pdesigni.com/news/15 
  10. ^ a b “ロンドン地下鉄に列車用空調機器納入のお知らせ”. 三菱電機. (2010年8月31日). http://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2010/0831-b.html 2013年1月20日閲覧。 
  11. ^ Connor, Piers (12 December 2011). “S Stock Deliveries Suspended”. Modern Railways (London). http://www.railway-technical.com/S-Stock-article-for-MR-v3.pdf 10 January 2012閲覧。 
  12. ^ Murray, Dick (21 November 2012). “Half of new Tube fleet sent back to factory for repair work”. London Evening Standard. http://www.standard.co.uk/news/transport/ 
  13. ^ Marc Johnson (13 December 2012). “First S Stock train runs on Hammersmith & City line”. Rail.co. http://www.rail.co/2012/12/13/first-s-stock-train-in-service-on-hammersmith-city-line/ 30 December 2012閲覧。 
  14. ^ a b c Our Upgrade Plan”. London Underground. p. 4 (December 2012). 2013年7月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年12月30日閲覧。
  15. ^ Waboso, David (2010年12月). “Transforming the tube”. Modern Railways (London): pp. 42–45 

参考文献

[編集]
  • Bruce, J. Graeme (1983) [1970]. Steam to Silver: A history of London Transport Surface Rolling Stock. Harrow Weald: Capital Transport. ISBN 0-904711-45-5 

外部リンク

[編集]

以下の外部リンクはすべて英語。