ラハイナのバニヤン・ツリー
ラハイナのバニヤン・ツリー | |
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Lahaina Banyan Tree | |
2022年5月撮影 | |
所在地 | アメリカ合衆国ハワイ州ラハイナ |
座標 | 北緯20度52分19秒 西経156度40分39秒 / 北緯20.871821度 西経156.677620度座標: 北緯20度52分19秒 西経156度40分39秒 / 北緯20.871821度 西経156.677620度 |
樹種 | ベンガルボダイジュ (Ficus benghalensis) |
樹高 | 18m |
移植 | 1873年4月24日 |
ラハイナのバニヤン・ツリー (英語: Lahaina Banyan Tree) は、アメリカ合衆国ハワイ州マウイ島のラハイナにある、著名なバニヤン(ベンガルボダイジュ)の木[注釈 1]。歴史的市街の港近くにあるラハイナ・バニヤン・コート・パークの一角を占め、ラハイナのシンボルとして知られている[4]。1873年に植樹されたもので、ハワイ州内のみならずアメリカ国内でも最大のバニヤンの木とみなされている。
解説
[編集]この木はインドの宣教師から贈られたもので、アメリカからのプロテスタント宣教師のハワイ到着50周年を記念して、1873年4月24日に植樹された。ラハイナ・バニヤン・コート・パーク(約0.78ヘクタール)の一角にある。植樹された際の木の高さは約2.4mであったが、その後150年を経て高さは約18mまで成長、また、主幹とは別に16本の支幹が根を張り、樹冠の面積は約0.26ヘクタールにまで広がった。
2023年8月のハワイの山火事(ハワイ・マウイ島山火事)によってラハイナの町は破壊され、この木も深刻な被害を受けた[5]。被害の範囲と程度を特定し、木が再生・修復できるかどうかが判断された[6]。 樹木医は、再生の可能性は十分にあると考えている。
特徴
[編集]「バニヤンの木」(英語: Banyan Tree) [注釈 1]と呼ばれるベンガルボダイジュ(学名: Ficus benghalensis)はインド原産で、その根の特異な成長が知られている。枝からは根が生えて地面に向かって下降し(気根)、地面に到達すると新しい幹を形成する[7]。主幹の周りに多くの支幹が成長し[7][8]、1本の木ながらあたかも森のような様相を見せる[7]。
ベンガルボダイジュはイチジクの仲間(イチジク属)である。イチジク属はハワイ全土で60種が見られる。樹高は大きく、さらに幹が迷路のように成長する。ラハイナのバニヤン・ツリーは植樹された際に高さ2.4mの苗木であったが、長い歳月を経て高さ18mに成長し、主幹とは別に16本の支幹を広げて半エーカー以上を覆う[9]。イチジク属の木としては、ハワイ州のみならず米国全体においても最大の木と言われている[10]。
かつて、木の片側に水路があり(現在は道路になっている)、今でも木の根の水源であると考えられている。長年にわたって、地元の日本人コミュニティの庭師たちは、適切な気根に水を満たした瓶を吊るし、一方で他の気根を剪定することで、気根の成長を促進させた[7]。この木は、干ばつという気象条件、公園内の歩行者や車両の通行による土壌の圧縮、さらには近隣の開発活動により、深刻なストレスにさらされている。このため、木の下を車両が通行することは制限されている。その維持は、ラハイナ修復財団によって公園に灌漑システムを設置することによって確保されている[7]。
夕暮れ時にはインドハッカ(学名:Acridotheres tristis。ムクドリ科の鳥で、一般に「マイナ・バード」と呼ばれる[11])などの鳥の群れがこの木に集まって夜のねぐらを営むが、鳥の鳴き声は周囲に不協和音を響かせる[12]。
歴史
[編集]植樹
[編集]この木はもともと、1870年代にスミス家に贈られたものであるが、1873年4月24日にラハイナの保安官であったウィリアム・オーウェン・スミスによって、マウイ島へのプロテスタント宣教師到着50周年を記念するものとして植樹された[10][13]。この宣教師たちは、カメハメハ1世の妃ケオプオラニによってマウイ島に招かれたものである[10]。この木は、ハワイで最も古いバニヤンの木である[14]。
その広大な幹と気根の連なりは、約0.78ヘクタール(1.94エーカー)の公園のうち、約0.26ヘクタール(0.66エーカー)を覆う。もともと「コートハウス・スクエア」と呼ばれていた公園は、「バニヤン・ツリー・パーク」あるいは「バニヤン・コート・パーク」に改名された。このバニヤンの木はハワイ最大であるだけでなく[15]、アメリカ合衆国でも最大である[16]。公園は、マウイ郡とラハイナ修復財団 (英語: Lahaina Restoration Foundation) によって管理されている[14][10]。
バニヤン・ツリーとコミュニティ
[編集]記録によれば、1886年にはこの木の下でカメハメハ3世の誕生日を祝う舞踏会が開かれたという[7]。
大きな樹冠は、ラハイナの照りつける太陽から人々に日陰を提供しているが、これは公園の一部として意図されたものであった[10][12]。周囲は約400mあり、その下には1000人が集まることができると信じられている[7]。巨大な樹冠の下では、ダンスパーティ、コンサート、メーデーの祝祭(ハワイのメーデーは「レイ・デー(英語: Lei Day)」とも呼ばれ、ハワイ先住民の文化を祝う日である[17])、政治集会、ルアウ(宴会)、小学校のフェスティバルなど、この町のさまざまな行事が行われてきた[7]。
アロハ・フェスティバル・ウィーク (英語: Aloha Festivals Week) はこの木の下で開催される。また、多くの週末(年間約36回)にこの木陰には催事の販売店が出る。
2023年4月、ラハイナでは植樹150年を祝うパーティーが開催された。
2023年の大火
[編集]2023年8月初旬にマウイ島で一連の山火事が発生した際、この木も深刻な被害を受けた[18]。樹木医のスティーブ・ニムズ (Steve Nimz) は、山火事の後、気根と樹皮の下を含む木の完全な検査を行い、焼けた木に再生や健康回復の兆候がないかを監視している。ニムズは主幹に生きた組織があることを発見しており、これは再生の良い指標と考えている。ニムズは、3か月から6か月の間は様子を見る期間が続くと予想している[19]。8月中旬時点で報じられている情報によると、給水車によって毎日散水が行われるとともに、約5cm(2インチ)の堆肥層を施し、土壌のエアレーション(通気性改善作業)を行っている[20]。
ギャラリー
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解説銘板
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バニヤン・ツリー全景(2014年撮影)。主幹のほかに16本の支幹がある。
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主幹(2013年撮影)
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樹冠は1エーカーほどを覆う(2009年撮影)
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夕景(2014年撮影)
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幹には多くの落書きも行われていた
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ a b 日本語の文章では、ラハイナのこの木が「ガジュマル」と紹介されることがある[1][2]。ガジュマルは日本でも南西諸島に自生するために知名度があり、また英語ではガジュマルも「バニヤン・ツリー」(英語: Banyan Tree)と広く呼ばれる木の一種である(ガジュマルは 英語: Chinese Banyan など、ベンガルボダイジュは 英語: Indian Banyan などと呼び分けられる[3])。植物学的には、ガジュマル (Ficus microcarpa) とベンガルボダイジュ (Ficus benghalensis) はともにイチジク属に分類される近縁種ではあるものの別種である。
出典
[編集]- ^ “マウイ島森林火災、死者55人に 復興は長期の大事業に”. ロイター (2023年8月11日). 2023年8月19日閲覧。
- ^ “ハワイ・マウイ島の山火事 日系移民の歩み見守った寺も焼失…本尊に起きた再びの奇跡”. GLOBE+. 朝日新聞社 (2023年8月19日). 2023年8月19日閲覧。
- ^ 崎津鮠太郎. “インディアンバニヤン(ベンガルボダイジュ)”. ANUHEA:ハワイの花・植物・野鳥図鑑. Studio Elepaio. 2023年8月22日閲覧。
- ^ “【解説】ハワイ王国の古都ラハイナで焼失した歴史的遺産”. ナショナルジオグラフィック日本版 (2023年8月15日). 2023年8月17日閲覧。
- ^ Parker, Jordan (August 9, 2023). “Maui’s famous banyan tree scorched in fire. Will it survive?”. San Francisco Chronicle. オリジナルのAugust 10, 2023時点におけるアーカイブ。 August 10, 2023閲覧。
- ^ Anguiano, Dani (August 10, 2023). “‘Heartbeat of Lahaina Town’: wildfire chars beloved 150-year-old banyan tree”. The Guardian. オリジナルのAugust 10, 2023時点におけるアーカイブ。 August 10, 2023閲覧。
- ^ a b c d e f g h Timothy Hurley (22 April 2001). “There's life yet in the old banyan tree”. WebCite. July 17, 2001時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年8月22日閲覧。
- ^ a roving printer (1861). life and adventure in the south pacific
- ^ Scott 1991, p. 53.
- ^ a b c d e “The Lahaina Banyan Tree How It Came To Be”. Lahaina Restoration Foundation. 2014年11月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年11月17日閲覧。
- ^ “鳥を見つけよう!・その3”. 株式会社パシフィックリゾート (2022年5月19日). 2023年8月20日閲覧。
- ^ a b “Lahaina Historic Trail, The Banyan Tree”. 2014年12月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年11月17日閲覧。
- ^ Legarde & Foster 1996, p. 171.
- ^ a b “Lahaina Banyan Court”. County of Maui. 2014年11月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年11月17日閲覧。
- ^ Kevin Whitton (15 August 2014). Hawaiian Islands. Avalon Travel Publishing. pp. 265–. ISBN 978-1-61238-831-1
- ^ Julie DeMello (2 December 2008). Hawaii: Hundreds of Ideas for Day Trips with the Kids. Globe Pequot Press. pp. 60–. ISBN 978-0-7627-4859-4
- ^ “May Day is Lei Day”. Flowerleis. 29 June 2017時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年8月22日閲覧。
- ^ “Lahaina’s Historic Banyan Tree Is Scarred, but Standing” (英語). (2023年8月10日). オリジナルの2023年8月15日時点におけるアーカイブ。 2023年8月16日閲覧。
- ^ KITV Web Staff (August 14, 2023). “Esteemed arborist Steve Nimz gives update on Lahaina's Banyan tree”. KITV. オリジナルの2023年8月16日時点におけるアーカイブ。 2023年8月15日閲覧。
- ^ Wu, Nina (August 15, 2023). “Efforts underway to revive 150-year-old banyan tree in Lahaina”. Honolulu Star-Advertiser August 15, 2023閲覧。
関連文献
[編集]- Foster, Jeanette (17 July 2012). Frommer's Maui 2013. Fodor's Travel Publications= John Wiley & Sons. ISBN 978-1-118-33145-3
- Legarde, Lisa; Foster, Jeanette (1996). Frommer's Maui, with the Best Beaches, Shopping and Dining. John Wiley & Sons, Incorporated. ISBN 978-0-02-860905-8
- Scott, Susan (1 January 1991). Plants and Animals of Hawaii. Bess Press. p. 53. ISBN 978-0-935848-93-9
関連項目
[編集]- 夢回帰線 (さだまさしのアルバム) - さだまさしの1987年のアルバム。1曲目に『バニヤン樹に白い月 〜LAHAINA SUNSET〜』という楽曲が収録されている。