ヤーンボミング
ヤーンボミング(Yarn bombingまたはyarnbombing、直訳すると「糸爆弾」)とは、カラフルな編み物やかぎ針編みを使ったストリートアートのこと。ヤーンストーミング(yarn storming)、ゲリラ編み(guerrilla knitting)、ニフィティ (kniffiti) 、アーバン・ニッティング(urban knitting)、グラフィティーニッティング(graffiti knitting)とも呼ばれる。
歴史
[編集]アメリカ合衆国の発祥と言われる。テキサスの編み手たちが編み物の余った糸を使って何かできないと考えた末に生まれた[1][2][3]。
ムーブメントを始めたのはヒューストンのマグダ・セイエグ (Magda Sayeg) で、2005年、自身のブティックのドアノブをカスタムメイドの保温カバーで覆った時に思いついたという[4]。
ヤーンボミングはその後、世界に広まった[要出典]。
イギリスのロンドンでは2009年、ローレン・オファレル (Lauren O'Farrell、別名Deadly Knitshade)[5] が、編み物ストリートアート集団「ニット・ザ・シティ (Knit the City) 」を設立し、8月に「Web of Woe」と題したインスタレーションを発表した。手作りのあみぐるみを使って物語を語り、またテーマを主張した[6]。さらに、暴力的な響きのするヤーンボミングに代わるヤーンストーミングという語を造った[7][8]。
2011年、カナダのレスブリッジではジョーン・マヴィチャック (Joann Matvichuk) が6月11日を「国際ヤーンボミング・デー」とすると提唱した[9]。
2011年9月9日には、オクラホマシティのショッピング地区がヤーンボミングされた[10]。
ヤーンボミングは都市部で行われることが多いが、アメリカのアーティスト、スティーヴン・ドゥニア (Stephen Duneier) は2012年からロス・パドレス国立森林公園の原生林を(許可を得たうえで)ヤーンボミングした[11]。
かぎ針編み彫刻の巨大展示でギネス世界記録保持者となったザ・クラフト・クラブ・ヤーンボマーズ(The Craft Club Yarnbombers、メンバーはエマ・カーリー (Emma Curley) 、ヘレン・トマス (Helen Thomas) 、ギャビー・アトキンス (Gabby Atkins) 、クレア・ホワイトヘッド (Claire Whitehead) 、レベッカ・バートン (Rebecca Burton) )[12] は地元エセックスの郵便ポストを多数ヤーンボミングした[13]。
ヤーンボミングを広告に利用しようという動きも出てきた。2013年、前述した「ニット・ザ・シティ」はトヨタ自動車からロンドンでのインスタレーションの依頼を受けた[14]。ロンドン・ケイ (London Kaye) はヤーンボミングでヴァレンティノ、ミラー・ライトなどのブランド宣伝を行った[15]。
問題点と背景
[編集]ヤーンボミングは落書きの一種だが、塗料を使うわけでなく簡単に取り除くことができる。違法とするところもあるが、告訴されることはあまりない[1]。
しかし、そのまま放置した場合、たとえば樹木を覆っている場合、樹液生成や生育に影響を及ぼす可能性がある[16]。さらに、水濡れや、合成繊維による環境への影響も危惧される[17]。
ポーランドのアーティスト、オレク(Olek、本名アガタ・オレクシャク (Agata Oleksiak) )は海中博物館で無許可のインスタレーションを行ったが、海洋生物に被害を与えたとして訴えられそうになった[18]。
男性的・男性支配的な落書きシーンに、女性の仕事とされていた編み物が参入したことから、ヤーンボミングをフェミニスト運動と同義とする意見もある[19]。
アートのために編み物をするよりも、ホームレスの着るセーターを編むべきだと言う意見もある[17]。
ギャラリー
[編集]-
ヤーンボミングされた橋(Sleppa作、2014年、チェゼナーティコ)
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ヤーンボミングされた電柱(Noah Sussman作、2006年、ニューヨーク)
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ヤーンボミングされた車(Joanbanjo作、2013年、スペイン)
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ヤーンボミングされた汽車(Zorro2212作、2013年、ウッチ)
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ヤーンボミングされた自転車(Baykedevries作、2011年、オランダ)
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ヤーンボミングされた石(Rebmobnray作、2014年、ロス・パドレス国立森林公園)
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10体のエイリアンと24のテント(Rebmobnray作、2015年、ロス・パドレス国立森林公園)
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ヤーンボミングされた戦車(Bilderguru22作、2014年、ドレスデン)
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『Knit the Bridge』(VitaleBaby作、2013年、ピッツバーグのアンディ・ウォーホル橋)
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ヤーンボミングされたヤン・カルスキ像(Pfadfinder~plwiki作、2015年、ニューヨーク)
関連項目
[編集]脚注
[編集]- ^ a b Wollan, Maria (18 May 2011). “Graffiti's Cozy, Feminine Side”. The New York Times 2020年1月17日閲覧。
- ^ Anonymous (2009年1月21日). “Knitters turn to graffiti artists with 'yarnbombing'”. London: The Telegraph 2009年5月25日閲覧。
- ^ Smee, Sebastian (2009年12月25日). “Dave Cole takes knitting to new heights - The Boston Globe”. Boston.com 2010年9月1日閲覧。
- ^ The Wild and Woolly World of Yarn Bombing, Street Art's Soft Sensation BLOUINARTINFO.COM
- ^ “London's graffiti knitters”. Telegraph. (May 2012) 2012年5月5日閲覧。
- ^ “London's Graffiti Knitters”. Telegraph Travel. The Telegraph. 11 March 2012閲覧。
- ^ Costa, Maddy (11 October 2010). “The Graffiti Knitting Epidemic”. The Guardian 11 March 2012閲覧。
- ^ Sillito, John (13 June 2009). “Knitting but not as we know it”. BBC
- ^ Mollins, Julie (2011年6月10日). “Graffiti knitters to hit streets on Yarnbombing Day”. Reuters 13 June 2011閲覧。
- ^ Heather Warlick Moore (2011年9月20日). “The Plaza District in Oklahoma City gets yarn bombed”. oklahoman.com. 2020年1月16日閲覧。
- ^ Cooper, Arnie (2015年3月8日). “The Guerrilla Art of the Yarnbomb Goes Natural”. Newsweek Magazine 2015年12月10日閲覧。
- ^ “Largest display of crochet sculptures” (2018年1月21日). 2020年1月16日閲覧。
- ^ “Yarn bombers spread Essex commuter Christmas cheer”. BBC News. (6 December 2014) 2020年1月16日閲覧。
- ^ Price, Laura (February 2015). “Knitting and the City: Knitting and the City”. Geography Compass 9 (2): 81–95. doi:10.1111/gec3.12181.
- ^ Miller, Jennifer (2016年12月2日). “Yarn Bombing Hits the High Street”. The New York Times. ISSN 0362-4331 2019年3月4日閲覧。
- ^ Mann, Joanna (January 28, 2017). “Knitting the archive: Shetland lace and ecologies of skilled practice”. Cultural Geographies 25: 91–106. doi:10.1177/1474474016688911.
- ^ a b “'Yarn Bombing' Is The New Graffiti, But Is That OK?”. The Odyssey Online (2016年3月22日). 2019年3月4日閲覧。
- ^ Thomas, Emily (2014年8月20日). “Artist Olek's Underwater Crochet 'Bomb' May Have Killed Marine Life”. Huffington Post 2019年3月4日閲覧。
- ^ Farinosi, Manuela; Fortunati, Leopoldina (April 2018). “Knitting Feminist Politics: Exploring a Yarn-Bombing Performance in a Postdisaster City.”. Journal of Communication Inquiry 42 (2): 138–165. doi:10.1177/0196859917753419.
外部リンク
[編集]- “街がニットを着ているような毛糸のアート、Yarn Bombing!屋外×編み物の意外な組み合わせにほっこり”. Craftie Style. 株式会社 Craftie. 2020年1月16日閲覧。
- くじらんまま (2015年11月14日). “いつかは千葉でもヤーンボンビング!”. LIVING千葉. サンケイリビング新聞社. 2020年1月16日閲覧。
- “ドイツのゲリラ編み集団 街に現れた新しいグラフィティ”. ドイツ発ライフスタイル・ガイド. ドイツ大使館 (2014年5月28日). 2020年1月16日閲覧。
- “自転車もニットで飾っちゃおう!独「アーバン・ニッティング」”. AFP BB NEWS. 株式会社クリエイティヴ・リンク (2012年8月6日). 2020年1月16日閲覧。