モンスター・クラーン
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モンスター・クラーン(Monster Clan)は、結城光流著、甘塩コメコ挿絵のシリーズ小説。角川ビーンズ文庫から発売されている。
内容
[編集]『血族は、いかなることがあっても隣人に危害を加えてはならない。
もし、隣人が血族に危害を加えてくることあらば、速やかにそれを退け、すべての痕跡を消してそこから去れ。
そして、隣人に害をなす血族は、異端者とみなして、狩れ。』
司堂咲夜は正統なヴァンピーア一家に育てられた人間の少女。しかしクラーンの長老たちに疎んじられ、一族と認められていない。15歳のある日、彼女は一族として認められるための試練を与えられる。
「血の掟に従い、血族を離反した異端者/ケッツァーを狩れ」
愛銃を手に彼女は試練に挑むが大ピンチに。そこに助けに現れたのは、十年前に離れ離れになった義兄・アベルだった。彼女は一族として認められるのか!?
登場人物
[編集]主人公とその関係者
[編集]- 司堂 咲夜(しどう さくや)
- 本作の主人公。1巻で15歳。2巻で16歳になる。人間の少女。ドイツ語名はエリアンヌ・クリスティーネ・フォン・ベルンシュタイン(Eliane Christine von Bernstein)。名付け親はルイの大叔父レオナール。
- 東洋とスラブの血が混じったエキゾチックな顔立ち。アベルが城に行った後カールから貰った魔法の青い石(ブラオと呼ぶ)を首から下げている。
- 16年前の冬の朝、ベルンシュタイン邸の前にショールに包まれバスケットに詰められた状態で捨てられ、その縁でベルンシュタイン家の養女になったと聞かされて育った。ヴァンピーアの養父カール、人間の養母エミーリア、混血児であるダンピールの義兄アベル、狼男の執事ルイ、メイドのグレーテルがいる。
- 人間であるためクラーンの長老衆から疎んじられ、養母エミーリアの死後カールは咲夜を追い出すよう迫られた。それを拒んだカールに出された条件を飲み、アベルは10年前クラーンの城で育てられることになった。
- 狩りの際にはクラーン特製の弾丸を込めた銃を使う。愛銃はS&W、M36チーフススペシャルのリボルバー(本来は牙や爪の代わりとする刃)。
- カールの考えで人間としての戸籍はない。そのため学校に通ったことはないが、6歳のころから自邸の書斎に入って本を読み漁っていた。
- 人間の友人である要とは12歳の夏に出会った。要は人間の中では唯一の友人。
- 父カールの会社の株を多数所有しており、あるとき株配当の詳細を調べるとそれだけでも一生相当贅沢な生活が送れることが判明した。
- マリー・クリスティーネ号から連れ帰ったジルに懐かれる。ジルが当初きちんとした名前を持っていないことを気に病み、彼女の声とよく似たフィンガー・シンバルからジルと名付けた。
- アベルのことを「兄だと思ったことはない」と豪語している。アベルにカルネオル伯爵令嬢との縁談が持ち上がった際、密かに彼女をカルネオル家次男・ディートリヒに嫁がせようと画策したカルネオル家にクラーンの牙を受けるように迫られたが、ディートリヒの離反とエーアストの忠告によって白紙になった。
- ヒールが苦手。そのためパーティーでは決まった相手と一曲しか踊らないと決めている。
- 実は16年前の冬、マインツのベルンシュタイン邸は三か月間無人だったとマックスから知らされる。それを聞き、カールに真実を問いただしたところ、バカンスで訪れていたベルヒテスガーデンの別荘から、咲夜が生まれ、しばらくの間実の両親と一緒に暮らしたという廃屋に連れて行かれた。そこでカールがクライスの凶弾に倒れ、中南米のヴァンピーアであるラ・ルロロナとトラキークのケッツァーと戦った。
- カールの治療のため、仕方なくジーンに連れられクライスの本拠地・隠処(フェアシュテック)へ向かう。そこで夢の中でブラオの幻で咲夜が生まれた当初の両親とベルンシュタイン家の光景を見、アベルから両親が失踪した夜の話を聞く。目覚めたのち、ブラオが持ってきた(と思われる)アベルの脇差を持って部屋を出、建物の中を歩き回っているうちに、夢の幻で見た母・マリア・クリスティナ・ベルンシュタインと再会するが、マリアには咲夜の誕生以前の記憶しかなく、自分の世界に閉じこもってしまっていた。
- ジーンによって脇差を取り上げられ連れ戻されたのち、カールの治療のため、仕方なくマクシミリアンとの結婚に承諾の返事をし、咲夜を「クリスティアナ」と呼ぶアダムによってクライスの創始者の元へと連れて行かれる。咲夜を「クリス」と呼ぶ創始者・メトシェラがヴァンピーアであることに気づき、アダムとメトシェラの隙をついて脇差を奪還、渾身の力で刀身を引き抜き、メトシェラに斬りかかった。アダムによってメトシェラが撃ち殺されたのち、そのアダムの魔法陣によって魂を体から引き剥がされかけるが、間一髪のところでアベルが魔法陣を破壊し、事なきを得た。そしてアダムにとどめを刺したエクシールから自分が「クリスティアナ」の孫娘にあたることを告げられる。
- 意識のないマリアを抱えたアベルと共に崩壊を始めたフェアシュテックを脱出する寸前にジーンと再会する。父親らしい慈愛の表情を向けたジーン=恭介を連れて行こうとするが、恭介は咲夜の目の前で崩落した天井の下敷きになった。
- フェアシュテック脱出後、予見のクラーン・クローネ一族のマリアの娘、そしてクリスティアナとエーアストの孫娘として、ベルンシュタイン家と共にシュヴァルツヴァルトの城に滞在することになった。
- アルベルト・フォン・ベルンシュタイン
- 咲夜の義兄。カールとエミーリアの一人息子。19歳。愛称はアベル。これはしゃべり始めで舌足らずだった咲夜が呼びやすいように縮めたもの。日本刀「龍王」を得物としている。
- モンスターと人間の間に生まれたダンピールで、そのためクラーンからはベルンシュタイン家の跡継ぎ、カールの嫡出子と認められていない。両親のことを名前で呼ぶ。
- 少々長めの前髪、黒い髪、黒い瞳で、要からするとちくしょうかっこいいなとうなるほど。常に無表情だが、感情の起伏は激しいほうだと咲夜は感じている。
- 咲夜がベルンシュタイン家に引き取られた時から、咲夜のことを妹ではなく、一人の女の子としてみていて、彼女を特別大事にしている。母の死後、長老衆の要請で邸を出て十年間城に住み、その間は危険から咲夜を守るための強さを求め、養育係のトーゴから日本刀の扱いを叩き込まれた。咲夜が危ないことに絡むと普段の冷静さがなくなることもある。
- 以前、純血のヴァンピーアとの婚姻を求められたことがあるが、咲夜以外の異性は眼中にない。その後カルネオル伯爵令嬢アンゼルマとの縁談が持ち上がるが、ディートリヒの離反により、イェーガーとしてディートリヒへの狩りを遂行した時点で縁談は白紙撤回となることが決定している。その後ディートリヒを発見し、追い詰めるが、歯に仕込まれた石化剤で石化死されてしまった。
- 東條 要(とうじょう かなめ)
- 人間の日本人。15歳。父の一雄、母の雅美との3人暮らし。
- 小6のときから父のマインツ転勤で両親がドイツに住んでいた。その間は父方の祖父母と暮らす。中学卒業後ドイツに留学する。
- 中学の卒業式の日に同級生から告白され、遠距離恋愛している。両親には隠しているが、実際は机に隠してある写真を見られている。将来結婚できればと思っている。
- 小6の夏休みに両親の元を訪ねたときにケッツァー絡みの事件に巻き込まれ、それがきっかけで咲夜たちと出会った。
- 小学校時代にリキという犬を飼っていた。しかしその犬は犬ではなく、老齢の人狼でルイの大伯父だった。
- 父方の祖父は宮大工。帰省の度に技術を教わり、ベルンシュタイン邸の日本家屋を修理している。祖父からカールによく欄間など日本趣味なものが送られてくる。父方か母方かの明記はないが祖父の母方の先祖は神奈川の刀鍛冶だった。
- 要が遠距離恋愛の相手と結婚したら要の家の子どもにしてほしいというジルの願いに対し、いっそ今すぐ東條家に来て自分の妹になればいいからカールたちに相談しようと約束した。
- カール・ブラント・フォン・ベルンシュタイン
- アベルと咲夜の父親。ヴァンピーアを束ねる長。父はローベルト・ヴィルヘルム。およそ600歳。
- 若いころは放蕩息子で世界中を旅していた。その頃いろいろやったらしく、ピン一本でカギをこじ開ける方法も覚えた。[1]
- 短いくすんだ金髪、紫の瞳、鼻は高くほりが深い。外見は40代程度。公爵位を持ち、移動は常にファーストクラスの、デメルングというかなり凄い貿易会社の社長。秘書の一人は極東出身でユミと呼んでいる。また、キール支社長はマーメイド・クラーン。
- 南のほうの農家の娘だったエミーリアと結婚。カール曰く、いろいろあって掻っ攫って結婚したらしい。それから降誕祭のときに毎年ひとつずつガラスのオーナメントを女性が買い足すという習慣ができた。
- しかし人間と結婚したことや、エミーリアが人間のままでアベルを産んだことでカールは長老衆から圧力をかけられることとなった。
- 精霊の王パラルダ、魔女のアグラーヤ、骸骨騎士のロード・スケルトン、人間からヴァンピーアになったトーゴなどとは長い付き合い。
- 日本趣味に傾倒していて、ヨーロッパ各国にたまに見られる日本庭園のえせジャパニーズぶりに辟易して、自宅の敷地内に日本でも珍しい完璧な日本家屋を建ててしまった。[2]人が住まない家は傷むので、トーゴが屋敷に来る以前はカールが週3回寝泊まりしていた。
- 咲夜が自分の出自に疑問を持った時、ベルヒテスガーデンにある彼女が生まれてしばらく住んでいた家に連れて行く。しかしそこで中南米のヴァンピーア、トラキークのケッツァーに撃たれ、止まらない出血で意識を失ってしまい、咲夜と共に治療のためクライスへ連行された。
- エミーリア
- カールの妻、アベルの実母。咲夜の養母。南のほうの農家の娘で人間。10年前に病気で亡くなる。愛称はエリー。
- 人間であることに誇りを持ち、決してヴァンピーアにならなかった。
- ルイ・アドリアン・ベリル
- ベルンシュタイン家の執事。人狼(ヴェアヴォルフ)。要の飼い犬だったリキは大叔父。実家はフランス。外見は20代だが実際は236歳。
- 瞳は透き通った翠。腰まで届く長い銀に近い金髪を首の後ろで括っている。常にかっちりとしたダークカラーのスーツを着ている。
- 紅茶だけはグレーテル以上のものを淹れられる。そのためベルンシュタイン家では紅茶担当。要曰く、食事はグレーテルのほうが上手だが、飲み物ではルイに軍配が上がる、とのこと。
- 咲夜が落ち込んだり悲しんだりした時はルイの淹れる蜂蜜入りアールグレイとグレーテルの焼くチョコチップ入りのスコーンを用意する。
- ミドルネームのアドリアンは大叔父のミドルネーム。
- セイレーンのアレキサンドラとは恋人同士。100年前に引き離されそうになったが、75年後アイルランドのノームが作った地下都市に幽閉された彼女をあちこち破壊しながら救出した。ただそのため向こう300年は出入り禁止となっている。
- グレーテル
- カールの乳母。ベルンシュタイン家の家事一切を取り仕切る。料理は絶品で、その腕は要が感嘆するほど。本名はマルガリータでグレーテルは愛称。
- すっかり白くなった髪をシニヨンにまとめ、古めかしいロングドレスに白いエプロンをした、古き良き時代のメイドを髣髴させる恰好をしている。
- 正体はゴルゴン三姉妹の次女エウリュアレ。2巻で妹のメデューサと久しぶりに再会した。メデューサの頬の血は石化させたり石化を解いたりする力があるが、姉の彼女と姉妹の長女のステンノにも知られていないものの同じ力がある。
- 彼女一人で抱えきれない悩みだとかができると、すべて料理にぶつける傾向がある。その際は大量の菓子やキッシュができるので、ベルンシュタイン家でせっせと食べたりカールが社員に配ったりしている。[3]もちろん絶品だが、普段のほうが格段においしい。
- 姉ステンノによく似た面差しを持つジルを何かと気にかけている。
- トーゴ
- 日本人のヴァンピーア。400年ほど前日本を旅行中だったカールと仲良くなり、ヴァンピーアになってドイツに渡った。元は刀鍛冶で本名は長ったらしいので短くした。
- アベルの養育係を任され、日本刀の扱いを教えた。
- 二巻で城の地下にある秘宝「アテナの盾(アイギス)」を持ち出したためにケッツァーとされる。しかしそれはクライスの手により石化した女性を救うためで、カールが魔女に石化を解く薬を作ってもらったことで事なきを得た。現在は客分としてベルンシュタイン邸の離れの日本家屋に寝起きしている。
- 出身は相州(現在の神奈川県)で、それなりに名の知れた刀匠のいたあたり。
- ロード・スケルトン
- カールの旧友。その名の通り本人も乗る馬も骸骨。ロードと呼ばれる。名前はウィリアム。
- 2巻で命の危険にさらされた要の護衛をカールから頼まれ、引き受けている。
- 何せ骨なので慣れるまではぎょっとするが(実際要も夜に外出しようとしてロードがいたため驚いたことがある)、慣れれば生粋のイギリス紳士なので人はいい。
- ペレニアル・オネスティ
- ロードの愛馬。やはり骨。咲夜たちにはレニ、ロードにはオネスティと呼ばれ、彼女はロードをマイ・ロードと呼ぶ。普通の馬と同じく飼い葉と水を摂取するが、普通の馬より量が少なくてよいので優雅に食べる。
- 彼女が人型を取ったときの姿は、薄い紅茶色の長いストレート、シルバーグレイの瞳で儚げでたおやかな印象。咲夜より5cmほど長身で2つほど年長に見える。しかし普段人型を取ることに慣れていないためクラーンには気付かれやすい。
クラーンの関係者
[編集]- エーアスト
- クラーンのヴァンピーアの始祖。アベルを手元に引き取って育て、養育係としてトーゴを呼び寄せた。彼曰く、アルベルトをベルンシュタイン家に戻したのは咲夜をエクシールから守るためだという。
- レオナール・アドリアン・ベリル
- ルイの大叔父(ルイの祖父の弟)。人狼。ベリル家のご老体だとかレオと呼ばれていた。
- 咲夜の名付け親。咲夜の養母エミーリアと自身の亡き妻アンヌ・フローラの名前を組み合わせて、エリアンヌ・クリスティーネと名付けた。
- 妻子に早くに先立たれたため、兄の血と自分の名前を受け継いだルイを可愛がっていた。100年前にルイとアレキサンドラが引き離された際にはアレキサンドラの行方を捜索し、その75年後にはアレキサンドラを匿う手助けをした。
- 何年か前に忽然と姿を消し、要の愛犬として晩年を過ごした。要が小6の夏にドイツで命の危険にさらされた際、魂のみの存在となって海も空も山も越えて助けた。が、そのあとに息を引き取る。カールの計らいで牙は要に渡った。
- ミヒャエル・ハインツ
- リューゲン島に住むヴァンピーア。トーゴの旧友。人間からヴァンピーアに転化した妻クラーラとの間に、10歳になる長女ウィルヘルミネ(愛称ミーネ)と1歳になる次女クラリッサ(愛称リーサ)がいる。
- 近くのシュトラントヴァルトの村にいるトーゴの恋人、ラケルと親しい。シュトラントヴァルトの石化事件に最初に気づいて報告し、石化していることに人間が気が付かないよう策を施した。
- ミヒャエル自身は純血のヴァンピーア。クラーラが人間だったこともあり、カールが人間のエリーと結婚したことについて陰ながら祝福した。しかしエリーが人間のままアベルを産み、次代がダンピールだということについてははっきりとした意見を表明していない。
- 5巻でミーネが何者かに狙撃され、重体に陥る。純血で人間の武器は通じないはずのミーネの出血が止まらず、治療は霧の森の魔女の手にゆだねられた。
- アグラーヤ
- 霧の森に住む魔女。カールの旧友の一人。グレーテルとも仲がいい。愛称はラーヤ。
- 咲夜に金の弾丸を届けたり、グレーテルの血から石化解除薬を作ったり、疲れているほど眠くなるというお茶を作ったりしている。クラーン特有の病気は霧の森の魔女が治療する。
- パラルダ
- エレメンタル・クラーンのシルフ、精霊王。カールの旧友の一人。
- 咲夜に会いたがっており、2巻でそれは叶った。
- アレキサンドラ・ヘリオドール
- セイレーン・クラーンの後継者夫妻の一人娘。クラーンで最も強い力を持つ、最高の歌姫(ディーバ)[4]ルイの恋人。120歳。愛称はサンドラ。
- 他のセイレーンと同じように黄昏の城に上がってエーアストのそばに仕え、数年から数十年したら同じセイレーンか上流階級のクラーンに嫁ぐことになっていたが、ルイと恋人になる。それに激高したセイレーンの長老たちに説得されてクラーンの本拠地のイギリスに戻るが、間もなくアイルランドのエレメンタル・クラーン、ノームの作った地下都市に幽閉されてしまう。
- 75年後レオナールの調査によって居場所を知ったルイによって助けられ、レオナールの手引きでエーアストさえうかつに手を出せないトルコのフォアツァイト・クラーン、アトラ・ハシースの居城、箱舟(ゲミ)に匿われた。
- 年に数度ルイと会う生活を送っていたが、アトラ・ハシースの子孫ハシスオール家の人々に春の歌を届けに来たセイレーンに騙されて外に連れ出されてしまう。イスタンブールのグランド・バザール(カパル・チャルシュ)でセイレーンたちを撒くが、一人になったところを元婚約者のダグラスに誘拐され、アナトリアの地下都市に監禁された。ルイに救出されてからは引き続き箱舟に住んでいる。
- ソロモン・ハシスオール
- アナトリアのヴァンピーア。箱舟(ゲミ)に妻ジャスミンと家人たちで暮らしている。
- 子供がいなかったためルイとアレキサンドラを可愛がり、友人レオナールの名づけた咲夜に会いたがっていた。
- ジャスミン・ハシスオール
- ソロモンの妻。もとは人間。料理はグレーテルに負けず劣らず。
- 300年ほど前に流行り病で死にかけ、ソロモンの牙を受けてヴァンピーアに転化することで生きながらえた。しかし生来の病弱さは治らず、出産に耐えられるかわからなかったので子供をあきらめた。そのためルイやアレキサンドラを実の子のように可愛がっている。
- ジル
- マリー・クリスティーネ号の地下室にあった箱に入れられていた少女。青い瞳と肩に付く金髪を持ち、グレーテルの姉ステンノによく似た面差し。両頬の血に石化とその解除の力がある。
- 当初はクライン[5]と呼ばれ、ジーンという名を何度も呼んでいた。ジーンの元に行こうとする一方ジーンをひどく恐れている様子である。
- マリー・クリスティーネ号から咲夜たちの手によって連れ出され、ベルンシュタイン邸でずっと眠っていた。ある日突然目覚め、咲夜を見つけて名前を呼び、とても懐いた。
- 箱の中の暗闇しか知らず、ずっと星を見たがっていた。
- クラインと呼ばれるのを嫌がっているのに咲夜が気づき、新しい名前を考えてもらうと約束する。咲夜は彼女の鈴の音のように可愛らしい声によく似た、どこまでも高く響く澄んだ音色を持つ、ベリーダンサーが手に持つフィンガー・シンバルから「ジル」と名付けた。[6]
- 知識はないものの勘がよく、物の正誤や善悪は分かると作中に描写されている。
- トルコのハシスオール家に預けられることになっていたが、ハシスオールの長老アトラ・ハシースの進言でベルンシュタイン邸にいることになる。当初は咲夜以外に対して非常な警戒心を抱いていたが、夏ごろには時折遊びに来る要にも心を開くまでになった。
- ジーンへの恐怖心は現在も取り除かれておらず、遠い日本ならジーンも追ってこられないだろうと考えて要に要の家の子どもにしてほしいと頼んだ。しかしその夜にジーンが現れ、追ってきた要とともにクライスへ連行されてしまう。
- クリスティアナ
- 人間がクラーンを迫害していた時代に生まれたクローネの娘。アルノルトの妻でマリアの母、咲夜の祖母にあたる。
- 一族を皆殺しにされ、赤ん坊の頃に一度息を引き取ったが、ブラオの力で蘇った。
- 双子のヴァンピーアのアルノルト・アドルフ兄弟(のちのエーアストとエクシール)と共に育つ。アルノルトは家族としての愛を、アドルフは情愛を彼女に注いだが、クリスティアナが愛していたのはアルノルトの方だった。
- 後にアルノルトと結婚するが、アルノルトを愛する自分をまるごと愛してくれるアドルフの元へと去った。その後、アドルフの元でアルノルトの娘を出産し、息を引き取る。娘を引き取ったアルノルトが娘を「アドルフとクリスティアナの子供」だと勘違いしたため、アドルフは長の妻を奪った罪で追放され、エクシール(追放者)と呼ばれることとなった。
- マリア・クリスティナ(・ベルンシュタイン)
- エーアストとクリスティアナの間に生まれた娘で咲夜の血縁上の母。対外的にはエクシールの娘とされていたため、城のクラーンに疎まれていた。城を抜けた後、メトシェラによって縊られたが、ブラオの力によって長い時間をかけて蘇生した。なお、この時のブラオによりすべてのヴァンピーアが呪われそうになったため、エーアストはブラオの力を封印し、それを維持するために常に精力を奪われ続ける身となった。
- カールにとっては妹のような存在。ベルンシュタイン家の別荘に起居するようになった後、恋に落ちた恭介と結婚する。産み落とした咲夜の名前を最初に読んだのも彼女である。
- 咲夜がメトシェラに発見されることを恐れ、クライスに連れ去られた晩、咲夜を別邸の部屋に隠し、カールに咲夜を託した。
- その後は咲夜に関する記憶をすべて消去し、自分の世界にこもって他人との意思疎通もままならない状態だったが、城に戻り、ようやく産んだ娘のことを思い出し、現実に意識を戻すことができた。
人間(ナハバール)
[編集]- マクシミリアン・カーン
- デメルングの系列企業と取引のある、海運会社ブリンクライン社の社長オットーの一人息子。20歳。愛称マックス。
- 今年75歳の父は35年前に20歳年下の母と結婚。その15年後に、マックスは妊娠8か月の早産で誕生した。未熟児で病弱だったため、母子ともにスイスの療養所で暮らし、治療のために莫大な医療費が使われた。ジーンが主治医となったのち、十五年かけて健康体となった。
- 父親にはあまり似ておらず、母方の血が強く出たといわれているが、アベル曰く、髪と瞳の色や表情などの細かなしぐさを除けば、顔立ちはエクシールに似ているという。
- 咲夜との出会いは全快祝いと後継者のお披露目を兼ねて、ブリンクライン社の所有するクルーズ船マリー・クリスティーネ号で開かれた誕生パーティー。咲夜を気に入り、その後もパーティーで会えば話をし、咲夜の出生についても調べていた。
- オストゼーラインズのパーティーで咲夜を庇い、クライスが作成した特殊な銃弾で撃たれる。そのため人間の医学では助からないと思われたが、ジーンの治療で回復。ベルヒテスガーデンの別荘で静養生活に入った。
- ドクトア・ジーン
- クライスに属していると考えられる男性。眼鏡をかけており、顔立ちから察するにオリエンタールである。ジルを使った実験を繰り返していたらしい。
- マックスが5歳の時から彼の主治医をしている。マクシミリアンを気にかけており、凶弾に倒れたカールの治療の条件としてマクシミリアンとの結婚を咲夜に求めた。
- 本名は司堂恭介。ドイツを訪れた際にカールとマリアと出会い、マリアと恋に落ち、結婚。咲夜の血縁上の父親であり名付け親。シュヴァルツヴァルトを訪れてからクライスに連れ去られるまでの記憶を失っていたが、アダムの言葉をきっかけに記憶を取り戻す。瀕死の重傷を負いながらもフェアシュテック脱出前の咲夜に再会、アベルに妻と愛娘を託し、自らはフェアシュテックの崩壊に飲みこまれた。
ケッツァー
[編集]- エクシール
- ケッツァー。顔はエーアストと瓜二つ。咲夜をエリアンヌと呼び、狙っている。要のこともフルネームで知っている上住所も知っている。名前の意味は「追放者」。
- 1巻でさらわれた要の前に現れ、逃げたいかと聞き、何も答えないので縄を解いて修道院の屋根に置き去りにした。その後、直接ベルンシュタイン邸に赴くことができないからと言って要を伝書鳩ならぬ伝書ナハバールとして使うようになる。
- ステンノとは長い付き合いで、彼女が危機にさらされた際、咲夜たちに助けを求めた。その際アルベルトと取引をし、以後咲夜のことから手を引くと約束した。
- ジルの父親と疑われたが、神に誓って違うと否定した。ただし、そのほうがジルは幸せだったと意味深な発言をし、咲夜とまったく同じ発想でジルを名付けた。
- テーオドール
- 咲夜が最初に狩ったケッツァー。ヴァンピーアの中では下層階級に属する。テオと呼ばれていた。クライスに与していた。
- 人間の子供をさらってはゴーレムを作り、修道院の修道女に牙を与えて闇に転化したもの(フェアヴァンドルング)にした。
- ヨーゼフという男に牙を与え、自分の眷属のヴァンピーアに転化させた。
- ダグラス
- セイレーン・クラーンの男性。アレキサンドラの元婚約者。
- ルイがアレキサンドラをイギリスからトルコに連れて行った頃に死亡したと思われていたが、実際はクライスに与していた。
- クライスの研究で生まれたキマイラの管理を任され、トルコの地下迷宮で管理していたが、セイレーンとはいえ男性であるためせいぜい長命でしかないダグラスには手に余っていた。そのため他のセイレーンに連れ出されたアレキサンドラを連れ去り、子ヤギを追いかけて逃げ出したキマイラに遭遇した遊牧民の少年ヌーフを人質に取って、アレキサンドラに歌を歌わせてキマイラを鎮めていた。
- キマイラは咲夜たちの手で殺され、自身はアレキサンドラを捜索していたルイに倒された。
- ディートリヒ・フォン・カルネオル
- ヴァンピーア・クラーンのナンバー2、カルネオル伯爵家の次男。父オイゲン、347歳の兄ザムエル、今年22歳の妹アンゼルマがいる。
- 兄ザムエルが優秀で本人が劣っているために父から軽んじられ、[7]さらには父が兄と妹ばかりをかわいがる(と思っていた)ので、すっかり拗ねてひねくれている。
- 元々使い魔への扱いが悪い。あるとき仲間たちとくつろいでいたベルンシュタイン家の使い魔のコウモリを、嗜虐心から乗馬用の鞭で追い払ったり叩き落としたりした挙句に傷と痛みで動けなくなったのを見て笑い転げたことがある。[8]
- ミーネをクライスが開発した特殊な銃弾で狙撃した張本人。ザスニッツの町にいたとき、ハインツ家のことで遣わされたと思ったマーメイドに声をかけられ、逃走する。不審に思ったマーメイドたちがビルの隙間に追い詰めたところ、ミーネと同じ銃弾でマーメイドを撃った。これでクラーンを離反したとみなされ、アベルが狩りを命じられた。最期は逃亡の疲労で足取りが鈍ったところをエクシールと追跡してきたアベルに追い詰められ、口に仕込んでいた石化剤で自ら石となり砕け散った。
- ヨーゼフ
- テーオドールの牙により、ナハバールから転化したヴァンピーア。幼い頃に狼に襲われ、左目を失明し、癒えぬ傷を負った。鬱屈的かつ内向的で、成長に伴い攻撃性と暴力性が際立つようになった。
- マックスと咲夜が参加した海運会社のパーティーにゴーレムを従えて乱入し、ミーネらを襲ったものと同じ銃と弾丸を使ってマックスに発砲したため、銃を奪った咲夜にその場でとどめを刺された。
用語
[編集]- クラーン(血族)
- モンスターの一族のこと。カールはヴァンピーアの長。長老衆は黄昏の城と呼ばれる場で暮らす。15歳の1月にある新月祭で始祖からクラーンの紋章が入ったブローチと血筋を表す色のマントを貰う。ヴァンピーア(吸血鬼)、ヴェアヴォルフ(人狼)、ナーガラージャ、マーメイド、ナールヴなど。地域の名士だとか旧家の一部はクラーンと考えてもいい。表の顔はベルンシュタイン家を頂点としたコンツェルン。
- 人間たちがオーガニックに注目する前からずっとオーガニック。というのも昔ながらの知識を持つ者が元気に存命しているため。クラーンの中には名前や姿を変えてその知識を人間に提供し、知名度が上がらないよう気をつけつつ収入を得る者もいる。このように上手く人間に溶け込んで暮らしている。
- ナハバール(隣人)
- クラーンから見た人間の呼称。
- 黄昏の城
- クラーンの総本山。ただしクラーンの末端にいるものは場所すら知らない。深い森に包まれている。
- クラーンの掟
- 『血族は、いかなることがあっても隣人に危害を加えてはならない。
- もし、隣人が血族に危害を加えてくることあらば、速やかにそれを退け、すべての痕跡を消してそこから去れ。
- そして、隣人に害をなす血族は、異端者とみなして、狩れ。』
- ヴァンピーア
- 吸血鬼。ベルンシュタイン家、トーゴ、エーアスト、エクシール、ハシスオール家とその使用人たちが該当する。また中南米のラ・ルロロナとトラキークもヴァンピーア・クラーンに含まれるがヨーロッパのヴァンピーア・クラーンとはほとんど交流がない。
- ヴァンピーアに噛まれて吸血された人間はヴァンピーアとなる。合法的に手に入れていない人間の血を吸うとケッツァーとされる。(合法的に入手した血液なら可。)
- 大量出血などで飢餓状態に陥ると、本能的に吸血したくなる。
- ヴェアヴォルフ
- 人狼。ルイ、レオナールなどのベリル家が該当する。
- セイレーン
- イギリスに本拠地がある。アレキサンドラなどのヘリオドール家が該当する。
- 女性は魅惑の歌声を持ち、その歌声は凶暴なキマイラを眠らせることもできるほど。ただし男性はせいぜい長命なだけで魅惑の歌声は持たない。うっかり歌声を人間が聞いてしまうとその人間は眠りに落ちてしまうため、シルフが上手く風を操って人間の耳に届かないようにしている。
- シルフ
- 風の精霊。よくカールやグレーテルが伝令役を頼んでいる。シルフを束ねるのはカールの友人、精霊王パラルダ。多くのシルフはエクシールを恐れている。
- ダンピール
- クラーンと人間の間に生まれた子。アルベルトが該当する。
- ケッツァー(異端者)
- 掟を破ったクラーン。イェーガーによって狩られる。銃の場合銀の弾丸で灰燼と化し、金の弾丸で石化して砕け散る。
- フェアヴァンドルング(闇に転化したもの)
- ケッツァーによって人間でなくなってしまった人間。銃の場合金の弾丸で還界(ツァラック)して元に戻る。しかし人間に害をなした場合ケッツァーとなってしまう。
- ちなみにクラーンから人間になることもできる。
- クライス
- 人間の秘密結社。魔術から科学まで手広く扱う。世界中に支部を持ち、不老不死を手に入れるためにありとあらゆるサンプルを追う。総帥はグリュンダーと呼ばれる。
- 数百年前にクラーンを知り、クラーンで人間と変わらないほど力の弱いものを捕えて生体実験の材料にしている。300年前にはアテナの盾を使って人間石化事件を起こした。またジルのような幼い子どもをクラインと呼ぶ実験体としている。
- 紋章は終わりのない生を表すメビウスの輪、狙ったものをどこまでも追う鷹の目、人間をはるかに超越した力を象徴する剣、闇に隠れたものを照らす太陽の意匠。クライスの意味は「円」。
- かろうじて逃れた者から存在を知ったクラーンの長老は、クライスの紋章を持つ者に限り掟はその限りではないと定めた。
- クラーンの末端の者には、上層階級にとってかわるためにクライスに協力している者もいる。その者たちは当然クライスに加担したと知れた時点でケッツァーとみなされる。
- デメルング
- カールが社長を務める貿易会社。ヨーロッパのクラーンが経営するすべての会社と提携している。実質ベルンシュタイン家を頂点とするコンツェルン。社名の由来は「黄昏の民(ロイテ・ダー・デメルング)」。キールに支社がある。
- 提携会社はワイン製造、農業関係、水産業、林業など。特に林業は黄昏の城を守る森の手入れという面でも重要。
- ブリンクライン
- マクシミリアンの父オットー・カーンが社長を務める海運会社。第3巻の舞台となったマリー・クリスティーネ号の持ち主。デメルングの関連会社と業務提携している。
- オストゼーラインズ
- デメルングと長年業務提携をしている海運会社。第5巻ではパーティーでヨーゼフによる乱射事件が起こり、重役ら何人もの犠牲者・被害者が出たため、業務縮小や合併が行われるらしい。
- フォアツァイト・クラーン
- 太古の時代から生きているクラーン。ゴルゴン三姉妹、エーアスト、エクシール、アトラ・ハシースが当てはまる。
- 箱舟(ゲミ)
- トルコのアララト山にある、アトラ・ハシースの居城。
既刊タイトル
[編集]- 『モンスター・クラーン 黄昏の標的(ツイール)』
- 『モンスター・クラーン 悠久の盾(シルト)』
- 『モンスター・クラーン 虚構の箱舟(アルシェ)』
- 『モンスター・クラーン 迷宮の歌姫(ディーバ)』
- 『モンスター・クラーン 紅涙の弾丸(クーゲル)』
- 『モンスター・クラーン 別離の嵐(シュトゥルム)』
- 『モンスター・クラーン 黎明の光冠(クローネ)』
脚注
[編集]- ^ これは咲夜に受け継がれており、やるとルイやグレーテルに嘆かれる
- ^ しかも建材一切日本産にこだわり、こたつや煎茶まである。
- ^ ちなみにデメルングの社員たちは時たま社長の家の家政婦が大量に作る菓子をひそかに楽しみにしている。
- ^ 4巻あとがきによると、「歌姫」の本来のドイツ語の発音に近いのは「ディバ」だが、「ディーバ」のほうが響きがいいしかっこいい気がするとのことでディーバとなったとのこと。
- ^ 「小さな子」という意味
- ^ しかし同時期にエクシールも同様に彼女をジルと呼ぶと言ったため、咲夜は同じ発想だというのが気に食わない。
- ^ 実際は溺愛されており、出来るだけ苦労をさせないように責任を負うという重圧から守ろうとする、間違った愛情を向けられていた。
- ^ 当然この悪行は家族に知れ渡り、こっぴどく叱られたがますます鬱屈した怒りに火を注ぐ結果となった。なお、これをきっかけに使い魔たちは元から嫌っていたカルネオル家がますます嫌いになった。