もんごういか
もんごういか[1][2](モンゴウイカ[3][4][5][6]、紋甲いか[1]、紋甲烏賊[7])とは、コウイカ目に属する大型のイカに与えられる和名(市場名)[1][7]であり、本来カミナリイカ Sepia lycidas Gray, 1849を指す地方名である[1][2][4]。カミナリイカの背中に丸い紋があることから「紋甲いか」と名付けられた[1]。カミナリイカはモンゴウイカ[6][4]のほかに、モンゴイカ[8](もんごいか[7])やモンゴ[6]、その紋の様子からマルイチ[6][4](丸一[1])や、ギッチョイカ[6][4](ぎっちょいか[1])、コブイカ[4](こぶいか[1])、センドウイカ[8]などの地方名がある。
現在「もんごういか」と呼ばれるのは、アフリカ沿岸やヨーロッパ産のヨーロッパコウイカ Sepia officinalis Linnaeus, 1758[1][5][9][4]や東南アジア産のトラフコウイカ Sepia pharaonis Ehrenberg, 1831[1]などが主流である。最近では輸入ものなら何でも「もんごう」と呼ばれる傾向にあり[1]、海外大型種に汎用されている[4]。トラフコウイカは大型のものがモンゴウイカと混称されており、特にアデンをトロール漁の基地としていたことから「アデンもんごう(アデンモンゴウ)」とも呼ばれる[3][2][10]。
河野 (1973)では、東京では大型のマイカ(コウイカ Sepia esculenta Hoyle, 1885)を「モンゴウ」と呼んでいる[11]とあるが、実際の市場ではコウイカ類が混称されていると考えられる。
漁業史
[編集]東シナ海のカミナリイカは肉厚で好まれたが、資源が減少した[10]。それに匹敵するヨーロッパコウイカなどはいち早く「もんごう」と呼ばれ、日本のイカ市場を席巻した[10]。遠洋トロール漁業が復活しアフリカから「もんごういか」が大量に輸入され、市場に流通していたが、これはヨーロッパコウイカの亜種であった[2]。1959年に日本漁船によりヨーロッパコウイカの好漁場が発見され[2]、国内のコウイカ類の漁獲量を上回った[10]。その最盛期は1965年頃からで、それから10年間程度は年間10,000 tくらい漁獲しており、最も漁獲量が多かったのは1967年で、30,000 tの漁獲があった[10]。1975年くらいから段々と減り[10]、1982年まで続いた[2]。
それに続き、1969年頃から、アラビア海のアデン湾に日本のトロール漁船が集まり、イカ資源が開発された[2][10]。このトラフコウイカはヨーロッパコウイカと並び身が大きく厚く、多い年では年間10,000 t程度漁獲された[10]。現在では東南アジアのコウイカ資源が極めて大きく、トラフコウイカを含めたコウイカ類が年間30,000 t程度上がっている[10]。
全世界では、コウイカ類の漁獲量は年々上がっており、最近では約300,000 t程度がされ、その10分の1程度が日本国内で漁獲されている[10]。2009年現在、市場でみられる「もんごう(ヨーロッパコウイカ)」はスペインなどからの買い付けが大部分で、成田に水揚げされる[10]。
市場
[編集]東京都中央卸売市場日報および市場統計情報(月報)によれば、5月の取扱数量が最も多く、2015年から2019年の5年間の平均は約3,500 kgであり、最も少ない8月の取扱量は500 kg程度である[12]。また、2015年から2019年の5年間で卸値は8月では例年1400円から1600円程度で最も高く、5月は例年900円から1,000円程度で最も安い[13]。2020年1月の豊洲市場における平均卸価格は1 kg当たり1,182円である[13]。
料理
[編集]身は柔らかく、刺身や煮付け、天麩羅や木の芽和えなどに調理される[8]。ヨーロッパコウイカは身は厚く柔らかで、ねっとりした甘さがあり、モンゴウイカとして寿司種にもされる[14]。
脚注
[編集]- ^ a b c d e f g h i j k 奥谷 2009, pp.21-23
- ^ a b c d e f g 奥谷 2010, pp.331-358
- ^ a b 奥谷 2015, p.6
- ^ a b c d e f g h 奥谷 2015, p.7
- ^ a b 奥谷 2015, p.55
- ^ a b c d e 日本水産資源保護協会 1986, p.7
- ^ a b c 『広辞苑』 p.2808
- ^ a b c 香川県農政水産部水産課. “モンゴウイカ”. 香川県の水産業. 香川県. 2020年4月12日閲覧。
- ^ 畑中 1979, p.557
- ^ a b c d e f g h i j k 奥谷 2009, pp.207-208
- ^ 河野 1973, p.170
- ^ “豊洲市場のモンゴウイカ(紋甲烏賊,カミナリイカ)の市況(月報) モンゴウイカの月別卸売取扱数量” (2020年2月20日). 2020年4月12日閲覧。
- ^ a b “豊洲市場のモンゴウイカ(紋甲烏賊,カミナリイカ)の市況(月報) モンゴウイカの月別卸売平均価格” (2020年2月20日). 2020年4月12日閲覧。
- ^ “ヨーロッパコウイカ”. マルハニチロ. 2020年4月12日閲覧。
出典
[編集]- 奥谷喬司『イカはしゃべるし、空も飛ぶ』講談社〈講談社ブルーバックス〉、2009年8月20日、21-23,35-37,43,50-52,104,132,136,141-142,146-147,183-185,208頁。ISBN 978-4-06-257650-5。
- 奥谷喬司 著「16章 イカに絡まれ半世紀―自伝的イカ研究の発展と多様性―」、奥谷喬司 編『新鮮イカ学』東海大学出版会、2010年7月20日、331-358頁。ISBN 978-4-486-01875-9。
- 奥谷喬司『新編 世界イカ類図鑑』東海大学出版部、2015年1月20日、6-8,55頁。ISBN 9784486037347 。
- 河野友美『魚』真珠書院〈改訂食品事典3〉、1973年、170頁。(京都府海洋調査船”平安丸”竣工記念)
- 社団法人 日本水産資源保護協会 (1986), わが国の水産業 いか, わが国の水産業シリーズ
- 新村出『広辞苑 第六版』(第6版)岩波書店、2008年1月11日、2808頁。ISBN 9784000801218。
- 畑中寛「アフリカ北西岸水域におけるヨーロッパコウイカ2亜種の地理的分布について」『Bulletin of the Japanese Society of Scientific Fisheries』第45巻第5号、1979年、557-560頁。