イカナゴ
イカナゴ | |||||||||||||||||||||||||||
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Ammodytes japonicus Duncker and Mohr, 1939 | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
Japanese sand lance |
イカナゴ(玉筋魚、鮊子、䱊、学名:Ammodytes japonicus[1])は、スズキ目ワニギス亜目イカナゴ科に属する海水魚の総称である。かつての学名はAmmodytes personatus であったが、2015年の研究で A. personatus は日本には分布しないことが分かり、イカナゴの学名はシノニムであるとされていた Ammodytes japonicus となった[2]。
イワシなどと並んで、沿岸海域における食物連鎖の底辺付近を支える重要な魚種である。日本においては食用とされ、釘煮(くぎ煮)、天ぷらなどに調理される[3]。
日本語における名称
[編集]イカナゴには様々な地方名があり、稚魚は東日本で「コウナゴ、コオナゴ(小女子)」[4][5]、西日本で「シンコ(新子)」と呼ばれる。毎日新聞ではイカナゴについて取り扱った記事で、東京本社版は「コウナゴ」、大阪本社版は「コウナゴ(イカナゴ)」「イカナゴ」と表記した例がある[6]。
また、成長した個体は北海道で「オオナゴ(大女子)」、東北地方で「メロウド(女郎人)」、西日本では「フルセ (古背)」「カマスゴ(加末須古)」「カナギ(金釘)」などと呼ばれる。
分布と生態
[編集]イカナゴは北半球の寒帯域から温帯域を中心に熱帯域まで、沿岸部に5属18種が分布する。沿岸の粒径0.5 mmから2.0 mm程度までの砂泥底に棲息し、主にプランクトンを食べる。産卵期は冬(12月)から翌年春(5月)で、寒冷な水域ほど遅い傾向が見られ、水深10 mから30 m付近の砂底に、粘着質の卵を産卵する。なお、北方系の魚であるため、温暖な水域では、夏季に砂に潜って夏眠(かみん)する。
日本産イカナゴは移動性が小さく、各地に固有の系統群が存在している。
1歳で体長10 cm程度まで成長し、成熟する。3年から4年で20 cm程度まで成長する。ただし瀬戸内海や伊勢湾では大きくても15 cmである。
漁獲
[編集]日本では沿岸漁業で漁獲される。集魚燈を用いた敷網漁や、定置網漁や、船曳網によって捕獲する。日本では生食や加工食品以外に、太刀魚、スズキ、メバル等の釣り餌や養殖用飼料としても利用される。
しかし、乱獲や生息環境の悪化および海砂の採集による生育適地の破壊により[7]、日本各地で漁獲量は激減した。特に、瀬戸内海のようなイカナゴが夏眠を行う水域において、イカナゴの夏眠に適した粒度分布の海砂が、ちょうどコンクリートの骨材に適していたため、その海砂が建設資材として大量に採取され、多くの漁場が壊滅的な被害を受けた[8][9]。
下水処理の普及、海水浴場の衛生維持を想定した水質規制により、河川から流れ込む栄養塩類の減少もイカナゴの資源量を減らす原因とみられる[3]。
このような状況を受けて、伊勢湾や瀬戸内海では、年ごとにイカナゴの生育度合いや推定資源量を調査し、その年の漁獲量を決定している[10][11]。それだけでは資源量回復に不十分であるため、以下のように各地で禁漁が実施されている。
日本各地での禁漁や不漁
[編集]陸奥湾
[編集]青森県の陸奥湾での漁獲量は、1973年に1万トンを超えていたが、乱獲により1980年代には100トン以下に激減した。1990代後半に、漁獲量は一旦回復して1000トンを超えたものの、その後は減少を続け、2012年には1トンまで減少した。
漁獲量の減少傾向を受けて、青森県庁は2007年に「イカナゴ資源回復計画」を立案し、漁期短縮などを行い資源量の回復を目指した[12]。しかし、資源量回復に失敗した。陸奥湾における2012年の親魚は、約1000万尾程度と推定され、適正水準の3億尾を大きく下回っていた[13]。そのため、2013年漁期から資源回復のために、陸奥湾での「集魚灯を使った漁や小型の定置網漁の全面禁漁」を決定した[14][15]。ところが、2019年2月に陸奥湾湾口周辺海域で実施された調査では、稚仔が全く採集されなかった[16]。
伊勢湾・三河湾
[編集]伊勢湾と三河湾では2016年から禁漁が続いている(2024年時点)[3]。
伊勢湾では冬季に資源調査を行い、春のイカナゴの漁獲実施の際の漁獲量を判断している[17]。前年末から2月にかけて行われる資源調査の結果、2016年以降は稚魚の捕獲数が著しく少なく、ゼロの年度もある為、愛知県及び三重県で、イカナゴは禁漁の状態が続いている[18]。
大阪湾での不漁
[編集]大阪湾のイカナゴ漁は、2016年まで毎年1万トン以上の漁獲があったものの、2017年以降には極端な不漁に陥り、2019年1月の仔魚採集調査では1998年以降で最も少ない漁獲であった[19]。実際の漁においても、2019年には漁業者が3日で漁を打ち切ったほど、漁獲量が僅少だった[20]。これに対して、2019年の段階では淡路島以西の海域では、それなりの漁獲量は維持されていた[20]。
調理方法
[編集]釘煮
[編集]四国を除いた、播磨灘や大阪湾に面した瀬戸内海東部沿岸部で、イカナゴは釘煮と呼ばれる郷土料理で親しまれ、阪神地区、播磨地区では春先に、各家庭でイカナゴの幼魚を炊く光景が見られてきた。
釘煮は佃煮の1種であり、水揚げされたイカナゴを、醤油やざらめ糖、千切りにしたショウガなどで味付けして煮込み、煮汁が減った段階で味醂を加えながら、焦がさぬように、煮汁が無くなるまで数回煮詰める事を繰り返す[21]。この際に、箸などでかき混ぜると身が崩れ、団子状に固まってしまうため、一切かき混ぜない。炊き上がったイカナゴの幼魚は、茶色く曲がっており、その姿が錆びた釘に見えるため「釘煮」と呼ばれるようになったとする説が有力である。なお「くぎ煮」は、神戸市長田区の珍味メーカーである株式会社伍魚福(ごぎょふく)の登録商標である。
ある種の風物詩として、また毎年3月末頃に、阪神地区、播磨地区の食料品店に、製品化された釘煮が山積みされてきた。また、この地域の土産物店でもイカナゴの釘煮は販売されており、ショウガ味以外に、サンショウ味、トウガラシ味の製品も見られる。
常温で日持ちする釘煮は、郵送で親類・知人に送付することも多く行われており、郵便局だけでも年間100万件近く、釘煮が送付されている。これに着目し、明石市の郵便局の一部では、レターパックに収まるサイズのプラスチック容器の販売を行っている[22]。
神戸市の垂水区はイカナゴの釘煮発祥の地と呼ばれており、それを示す石碑が垂水区塩屋町に建てられた。ただし、これには異説も唱えられており[23]、2013年10月2日には、神戸市長田区駒ケ林の駒林神社の大鳥居前に「いかなごのくぎ煮発祥の地」の石碑が建立された。
一方で、同じ近畿地方でも、前述の地域を除く他の地域ではイカナゴの釘煮は、あまり食されない。顕著な例として、京都ではイカナゴの釘煮よりもちりめん山椒が主流であり、そもそも京都の住人などは、イカナゴ自体を下魚として嫌う傾向も散見される。
フルセの佃煮
[編集]イカナゴの釘煮と類似の調理法だが、一般に釘煮はイカナゴの幼魚を調理した物であるのに対して、成魚であるフルセを佃煮に調理する地域も見られる。そのような地域としては、例えば、淡路島が挙げられる。フルセを調理した佃煮は、釘煮と明確に区別するため、釘煮とは呼ばず、そのまま「佃煮」の名称で扱われる。
ちりめん
[編集]水揚げされた体長2 cm程のイカナゴの幼魚は、鮮度が落ちないよう、水揚げ後ただちに釜揚げにされ、店頭に並ぶ。これを新子または新子ちりめんと呼ぶ。また、釜茹でした後に、乾燥させた場合はカナギ(小女子)ちりめんと呼ばれる。
カマスゴ
[編集]体長4 cmから5 cm程度の大きさのイカナゴを釜茹でした物はカマスゴと呼ばれ、そのまま酢醤油やからし酢味噌で食べる。この際に、1回炙ると香ばしさが出て美味しくなるとされる。
いかなご醤油
[編集]香川県では、イカナゴを原材料とした魚醤である、いかなご醤油が見られる。かつては「しょっつる」および「いしる」と共に、日本三大魚醤と呼ばれたものの、1950年代に製造が途絶えた。しかし、その後、少量ながら復活生産されるようになった。
その他
[編集]東北地方では成魚を調理する方が一般的で、干物にされることもあるが、総じて安価に売られている。
出典
[編集]- ^ 中央水産研究所:平成30年度資源評価報告書(ダイジェスト版)標準和名 イカナゴ(2024年11月19日閲覧)
- ^ Orr, J.W; Wildes, S; Kai, Y; Raring, N; Nakabo, T; Katugin, O; Guyon, J (2015). “Systematics of North Pacific sand lances of the genus Ammodytes based on molecular and morphological evidence, with the description of a new species from Japan”. Fishery Bulletin 113 (2): 129-156. doi:10.7755/FB.113.2.3 .
- ^ a b c 「春の味覚細る 水揚げ/イカナゴ、海がきれいだから?伊勢・三河湾では9年連続禁漁」『朝日新聞』朝刊2024年5月1日(社会面)
- ^ 『日本国語大辞典』第2版「こうなご」の項(漢字表記なし)。
- ^ 『広辞苑』第5版
- ^ “知られざる「ローカルルール」の世界”. 毎日ことば. 毎日新聞 校閲センター (2022年10月29日). 2022年10月29日閲覧。
- ^ 「過去最悪のイカナゴ不漁[リンク切れ]」四国新聞(2009年4月26日)2013年2月18日閲覧
- ^ 大西正明; 古田忠弘; 山田明広; 泉川誉夫; 山下淳二 (1999年12月6日). “海砂報告書まとまる” (日本語). 四国新聞社 (香川県高松市) 2011年5月7日閲覧。
- ^ “収奪の記憶 砂と礫、まだらの海底” (日本語). 中国新聞社 (広島市). (2011年4月14日) 2011年5月7日閲覧。
- ^ イカナゴ資源回復計画策定調査 (PDF) (三重県水産研究所)
- ^ 瀬戸内海重要水族環境調査(イカナゴの資源管理)
- ^ 青森県イカナゴ資源回復計画 (PDF) 水産庁
- ^ 青森県陸奥湾海域におけるイカナゴの豊漁が期待できる親魚量 平成17年度青森県水産総合研究センター事業報告 2006年
- ^ 「陸奥湾イカナゴ、今春全面禁漁[リンク切れ]」東奥日報(2013年2月13日)2013年2月18日閲覧
- ^ 「イカナゴ:全面禁漁へ 春の味覚、乱獲で激減 陸奥湾6漁協、特定魚では初/青森[リンク切れ]」毎日.jp(2013年2月14日)2013年2月18日閲覧
- ^ 陸奥湾湾口周辺海域のイカナゴ稚仔分布調査結果について (PDF) 青森県産業技術センター水産総合研究 2019年3月1日
- ^ 明日のためのイカナゴ資源管理 三重県庁
- ^ イカナゴ情報 愛知県庁
- ^ イカナゴしんこ漁況予報(平成31年) 大阪府立環境農林水産総合研究所 2019年2月15日発表 (PDF)
- ^ a b “漁期わずか3日の大阪湾イカナゴ漁 記録的不漁の要因は”. 神戸新聞 (2019年3月). 2019年3月8日閲覧。
- ^ 長田流・正統派くぎ煮/にくてん(長田・未来ガイド誌「nannan」p.24-25) 神戸市(長田区役所)2021年1月3日閲覧
- ^ 【郵便局の挑戦】(19)兵庫・明石 レターパックで“故郷の味”
- ^ 兵庫県珍味商工協同組合「くぎ煮のルーツ」