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メキシコサンショウウオ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
メキシコサンショウウオ
メキシコサンショウウオ
メキシコサンショウウオ
Ambystoma mexicanum
保全状況評価[1][2]
CRITICALLY ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 両生綱 Amphibia
: 有尾目 Caudata/Urodela
: トラフサンショウウオ科
Ambystomatidae
: トラフサンショウウオ属
Ambystoma
: メキシコサンショウウオ
A. mexicanum
学名
Ambystoma mexicanum
(Shaw & Nodder, 1798)[3]
シノニム[3]

Gyrinus mexicanus
Shaw & Nodder, 1798

和名
メキシコサンショウウオ[4][5]
英名
Axolotl[1][4]

メキシコサンショウウオ (Ambystoma mexicanum) は、両生綱有尾目トラフサンショウウオ科トラフサンショウウオ属に分類される有尾類。ウーパールーパー[6]メキシコサラマンダー[7][8][9]という名称も用いられる[5]

アホロートル ([ˈæksəlɒtəl]; 古ナワトル語:āxōlōtl [aːˈʃoːloːtɬ] ( 音声ファイル)) とも呼ばれるが、アホロートルは本種をはじめとした幼形成熟のトラフサンショウウオ科の総称であるため、ほかの種の幼形成熟個体を指す場合もある[10]

名前

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種小名mexicanumは「メキシコの」の意。アホロートルはトラフサンショウウオ科の幼形成熟個体を指す名称でもあり[10]アステカ文明で用いられたナワトル語で「」と「イヌ」を組み合わせた語に由来する[5]スペイン語では、アホロートルの意味を翻訳した monstruo de agua(「水の怪物」の意)と呼ばれた[11]

アホロートルはアステカの火と稲妻の神ショロトル(Xolotl)にちなむものである[11]。スペイン語とナワトル語で書かれた絵文書『ヌエバ・エスパーニャ概史スペイン語版』によると、アステカ神話で第4の太陽がなくなり、第5の太陽を作る際に神々が身を捧げたが、ショロトルだけが逃亡した。他の神に追いかけられて生き延びるために様々な姿に変化して、最後にはトウモロコシ畑の中のアホロートル(Así Xólotl アショロトル)に変化したが結局捕まった。それによって幼体の姿のまま再生能力を持つ死を恐れる怪物アホロートルとなったとされる[12]

和名としてメキシコサンショウウオ[4][5]やメキシコサラマンダー[7][8][9]が用いられている[10]。 俗称のウーパールーパーは、日本のテレビCMに登場した際に商標登録を行うために創作された[6]

分布

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メキシコソチミルコ湖とその周辺)[4][7][9]。 日本には分布していないが、飼育を経て放流されたと見られる個体が確認されたことがある[13]

形態

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三色のメキシコサンショウウオ。中央がアルビノ、右が白変種のリューシスティック。左がそれらの混合
飼育個体のカラーバリエーション
バンクーバー水族館の展示

全長10 - 25センチメートル[4][8]。メスよりもオスの方が大型になり、メスは最大でも全長21センチメートル[4]。通常は幼生の形態を残したまま性成熟する(幼形成熟)[4][5]。胴体は分厚い[4]。小さい孔状の感覚器官は発達しないが、頭部に感覚器官がある個体もいる[4]。左右に3本ずつ外鰓がある[4]

上顎中央部に並ぶ歯の列(鋤口蓋骨歯列)はアルファベットの逆「U」字状[4]。四肢は短く、指趾は扁平で先端が尖る[4]。水かきはあまり発達せず、中手骨中足骨の基部にしかない[4]

背面の体色は灰色で、黒褐色の斑点が入る[4]。視覚情報から色素胞のサイズと厚みを変え、周囲に溶け込もうとするカモフラージュ能力を持つ[14]。飼育下では白化個体などの様々な色彩変異が品種として作出されている[4][9]。色彩変異となったもののバリエーションとして、体全体が黒いブラック、斑点のあるマーブル、全体が白色のアルビノ、全身が黄色いゴールデン、青いブルーなどがある[6]

生態

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自然下では水温が低くヨウ素が少ない環境に生息し、チロキシンを生成することができないため、変態しない[8]。きわめてまれに変態して成体となり、陸上生活に移行する[15]

15年ほど生きる個体もいる[15]

食性は肉食で、匂いで探し当て、軟体動物、ミミズ、昆虫、甲殻類、魚などを咥えてから吸い込み、捕食する[15][16]

繁殖様式は卵生。11月から翌1月(4 - 5月に繁殖する個体もいる)に、水草などに1回に200 - 1,000個の卵を産む[4][9]

皮膚からも酸素を取り込める[17]

人間との関係

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都市開発や観光開発による生息地の破壊・乾燥化・水質汚染などにより、生息数は激減している[1]。以前はメキシコ盆地内のスムパンゴ湖やチャルコ湖・テスココ湖にも生息していたが、埋め立てによって生息地が消滅した[4][8]。1975年のワシントン条約発効時から、ワシントン条約附属書IIに掲載されている[2]

日本では、1980年代に珍獣ブームとともに「ウーパールーパー」の商標で日清食品カップ焼きそば日清焼そばU.F.O.」のCMキャラとなった[6]

食用

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アステカ族は食用、薬効のある食物と考えられていた[18][19]。宮廷料理としても食べられた[20][19]

飼育

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幼形成熟個体は水中のみで生活すること・飼育の歴史が古いこと・飼育法や繁殖方法が確立していることなどから、ペットとして飼育されるほか、発生学や内分泌学における実験動物として用いられることもある[5]。国際的な商取引が規制されているため、日本ではほぼ日本国内での飼育下繁殖個体のみが流通する[9]

飼育下ではチロキシンの投与や水位を下げて飼育することにより、変態した例もある[8][9]。以下では主に流通する幼形成熟個体に対しての飼育の説明を行う。

アクアリウムで飼育され、水棲の有尾類としては、水質の悪化や高水温への耐性も持つ[9]一方、水質が悪化すると最悪の場合には外鰓が壊死して死亡することもあるため、濾過などによる清涼な水質の維持、夏季の高水温への対策が望ましい[9]。隠れ家として流木や岩・市販の隠れ家(シェルター)を設置し、水草を植え込む[7]。底砂を敷く場合は誤飲しないように生体が飲み込めない大きいものにするか、飲み込んでも簡単に排泄されるような細かい粒のものにする[7]。餌として魚類やエビ、ユスリカの幼虫などを与える[7]。専用の配合飼料も市販されており、飼育下では専用の配合飼料だけでなく動物食の魚類用配合飼料(水中に沈むもの)にも餌付く[7][9]。協調性が悪いため、複数飼育を行う場合は飼育頭数よりも多い数のシェルターを用意する[9]。餌用も含めて魚類などをケージ内に混泳させると、外鰓を傷つける恐れがある[7][9]

文化

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2021年にメキシコ・ペソの50ペソ紙幣の絵柄となった[21]。この紙幣は、国際銀行券協会が表彰する the Banknote of the Year 2021 を受賞した[22][23]

研究

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再生能力
四肢だけでなく脊椎や心臓なども再生可能であることから、再生医療の研究で注目されている[24]。部分的に再生できる生物なら他にもいるが、年齢を問わず元の器官と同等の器官を再生する点で本種は異なる特徴を示す[25]
ゲノム
2018年1月にゲノム解析が終了し、約320億塩基対を持つうえにヒトゲノムの10倍以上の長さであることが判明した[24]

画像

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脚注

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  1. ^ a b c IUCN SSC Amphibian Specialist Group. 2020. Ambystoma mexicanum. The IUCN Red List of Threatened Species 2020: e.T1095A53947343. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2020-3.RLTS.T1095A53947343.en. Downloaded on 27 April 2021.
  2. ^ a b UNEP (2021). Ambystoma mexicanum. The Species+ Website. Nairobi, Kenya. Compiled by UNEP-WCMC, Cambridge, UK. Available at: www.speciesplus.net. [Accessed 27/04/2021]
  3. ^ a b Ambystoma mexicanum (Shaw and Nodder, 1798) ,” In: Frost, Darrel R. 2023. Amphibian Species of the World: an Online Reference. Version 6.2 (Accessed on 18 July 2023). Electronic Database accessible at https://amphibiansoftheworld.amnh.org/index.php. American Museum of Natural History, New York, USA. https://doi.org/10.5531/db.vz.0001.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 松井正文 「メキシコサンショウウオ(アホロートル)」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ3 中央・南アメリカ』小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社、2001年、291頁。
  5. ^ a b c d e f 松月茂明 「ウーパールーパーの正体は? メキシコサンショウウオ」『動物たちの地球 両生類・爬虫類 1 アシナシイモリ・サンショウウオほか』第5巻 97号、朝日新聞社、1993年、24頁
  6. ^ a b c d 小嶋あきら「「ウーパールーパー」を覚えていますか “昭和”に一世風靡した不思議な生き物、今もペットとして根強い人気」『神戸新聞NEXT www.kobe-np.co.jp』2021年6月28日。2023年7月18日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h 海老沼剛 「メキシコサラマンダーを飼う」『ビバリウムガイド』No.33 マリン企画 2006年 134 - 135頁。
  8. ^ a b c d e f 池田純 「メキシコサラマンダー」『爬虫類・両生類800種図鑑 第3版』千石正一監修 長坂拓也編著 ピーシーズ 2002年 234頁
  9. ^ a b c d e f g h i j k l 山崎利貞 「メキシコサラマンダー」『爬虫・両生類ビジュアルガイド イモリ・サンショウウオの仲間』、誠文堂新光社、2005年、ISBN 4416705492、pp.40-41。
  10. ^ a b c 佐々木浩之「ウーパールーパーの基本」『ウーパールーパー・イモリ・サンショウウオの仲間:飼育の仕方、種類、食べ物、飼育環境がすぐわかる!』、誠文堂新光社、2018年5月2日、ISBN 4416618069、14-15頁。
  11. ^ a b 住み家なきメキシコの象徴 ウーパールーパーの危機”. 日本経済新聞 (2022年2月12日). 2023年7月18日閲覧。
  12. ^ The Creation of the 5th Aztec Sun”. www.mexicolore.co.uk. 2023年7月18日閲覧。
  13. ^ 近所の川に「ウーパールーパー」大津の小学生が発見」『京都新聞』京都新聞社、2016年8月12日。2021年5月18日閲覧。
  14. ^ Pietsch, Paul; Schneider, Carl W. (1985). “Vision and the skin camouflage reactions of Ambystoma larvae: the effects of eye transplants and brain lesions”. Brain Research 340 (1): 37–60. doi:10.1016/0006-8993(85)90772-3. PMID 4027646. 
  15. ^ a b c メキシコサラマンダー(アホロートル)ナショナルジオグラフィック、動物大図鑑
  16. ^ Wainwright, P. C.; Sanford, C. P.; Reilly, S. M.; Lauder, G. V. (1989). “Evolution of motor patterns: aquatic feeding in salamanders and ray-finned fishes”. Brain, Behavior and Evolution 34 (6): 329–341. doi:10.1159/000116519. PMID 2611639. 
  17. ^ Mexico's axolotl, a cartoon hero and genetic marvel, fights for survival” (英語). Reuters (2018年11月20日). 2023年7月17日閲覧。
  18. ^ Tickell, Sofia Castello Y. (2012年10月30日). “Mythic Salamander Faces Crucial Test: Survival in the Wild” (英語). The New York Times. 2023年7月17日閲覧。
  19. ^ a b Axolotl”. www.mexicolore.co.uk. 2023年7月18日閲覧。
  20. ^ Reuters (2023年2月16日). “New Museum in Mexico City Spotlights Axolotl” (英語). japannews.yomiuri.co.jp. 2023年7月18日閲覧。
  21. ^ Mexican axolotl will be the new image of the 50 peso bill - The Yucatan Times” (英語) (2020年2月21日). 2023年7月17日閲覧。
  22. ^ Staff, Entrepreneur (2022年4月8日). “The Mexican 50 peso bill is the most beautiful in the world!” (英語). Entrepreneur. 2023年7月17日閲覧。
  23. ^ IBNS Banknote of the Year”. www.theibns.org. 2023年7月17日閲覧。
  24. ^ a b 【びっくりサイエンス】目や心臓も再生できるウーパールーパー 驚異的な能力の謎をゲノムから解く産経ニュース
  25. ^ 器官再生の仕組みの鍵は、ウーパールーパーが持っている ニューズウィーク日本版 著:松岡由希子 更新日:2019年10月30日

関連項目

[編集]
色素変化について