コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

ミルズ比

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

確率論において、 連続確率分布 ミルズ比(ミル比)は、関数

で表される。このとき、 はXの確率密度変数であり、

生存関数(相補累積分布関数)である。 この概念は John P. Millsにちなんで名づけられている[1]

ミルズ比はハザード率 に関連し、

のときのミルズ比は

となる。

[編集]

標準正規分布であるとき、 ミルズ比は次のように表される。

このとき、記号 は2つの関数の商が のときに1に収束することを示している(詳細はen:Q-functionを参照)。より正確な漸近線を与えることができる。

逆ミルズ比

[編集]

逆ミルズ比 は、ある分布の 相補累積分布関数確率密度関数 である。逆ミルズ比は、下記のようなデータが切断された正規分布に用いられる。 X が平均値 μ 分散 σ2正規分布確率変数 のとき、

このとき、 は母数, 標準正規分布の確率密度関数、 標準正規分布の累積分布関数を示す。この二つの要素が、逆ミルズ比である[2]

回帰分析での使用

[編集]

一般的な逆ミルズ比の適用例は、回帰分析でのセレクションバイアスの影響を補正する際に用いる。従属変数が打ち切られている(すなわちすべての変数が観測されたものではない)とき、ゼロとして観測された変数が多く存在する。この問題は、Tobin (1958)によって初めて指摘された。彼は、回帰分析での推定の際に打ち切りの影響を考慮しない場合、通常の最小二乗法による推定では偏ったパラメータ推定値が得られることを指摘している[3]。これは、打ち切られた従属変数を用いることで、独立変数と誤差項の間の相関がゼロであるというガウス=マルコフの定理の仮定に反することからわかる[4]

James Heckman はセレクションバイアスを補正するために、逆ミルズ比を用いた2段階推定法を提案した[5][6]。第一に、従属変数をプロビットモデルを用いた回帰分析を行う。逆ミルズ比は、ロジットモデルでは用いることができず、プロビットモデルから推定する必要がある。このプロビットモデルは、誤差項が標準正規分布に従うと仮定している[5]。第二に、プロビットモデルを用いて推定されたパラメータを用いて逆ミルズ比を計算し、この結果を最小二乗法を用いた回帰分析の説明変数に用いる[7]

関連項目

[編集]

参考文献

[編集]
  1. ^ Mills, John P. (1926). “Table of the Ratio: Area to Bounding Ordinate, for Any Portion of Normal Curve”. Biometrika 18 (3/4): 395–400. doi:10.1093/biomet/18.3-4.395. JSTOR 2331957. 
  2. ^ Greene, W. H. (2003). Econometric Analysis (Fifth ed.). Prentice-Hall. p. 759. ISBN 0-13-066189-9 
  3. ^ Tobin, J. (1958). “Estimation of relationships for limited dependent variables”. Econometrica 26 (1): 24–36. doi:10.2307/1907382. JSTOR 1907382. http://cowles.yale.edu/sites/default/files/files/pub/d00/d0003-r.pdf. 
  4. ^ Amemiya, Takeshi (1985). Advanced Econometrics. Cambridge: Harvard University Press. pp. 366–368. ISBN 0-674-00560-0. https://archive.org/details/advancedeconomet00amem 
  5. ^ a b Heckman, J. J. (1979). “Sample Selection as a Specification Error”. Econometrica 47 (1): 153–161. doi:10.2307/1912352. JSTOR 1912352. 
  6. ^ Amemiya, Takeshi (1985). Advanced Econometrics. Cambridge: Harvard University Press. pp. 368–373. ISBN 0-674-00560-0. https://archive.org/details/advancedeconomet00amem 
  7. ^ Heckman, J. J. (1976). “The common structure of statistical models of truncation, sample selection and limited dependent variables and a simple estimator for such models”. Annals of Economic and Social Measurement 5 (4): 475–492.