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クキ・チン諸語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
クキ・チン諸語
話される地域インド東部、ミャンマーバングラデシュ
言語系統シナ・チベット語族
下位言語
  • 北部
  • 中部
  • 南部
  クキ・チン諸語

クキ・チン諸語(クキ・チンしょご、Kuki-Chin)は、シナ・チベット語族チベット・ビルマ語派に属する言語群である。北東インド (アッサム州ミゾラム州マニプル州等)、ミャンマー (チン州ラカイン州ザガイン地方域マグウェ地方域)、及びバングラデシュ (チッタゴン管区) で用いられている[1]ミゾ・クキ・チン諸語(Mizo-Kuki-Chin)やクキッシュ(Kukish)とも呼ばれる。

クキ・チン諸族の大部分はインドアッサム州で暮らすクキ族英語版か、ミャンマーで暮らすチン族として知られている。なお、クキ・チン諸族の一部は、ナガ族としても分類されている。さらに、クキ・チン諸族はミゾ族英語版ルシャイ族英語版)とは民族学的に異なる。

カルビ語英語版がクキ・チン諸語と関連する言語であるか、あるいはクキ・チン諸語の1派であることには一般的同意が得られている。しかしながら、Thurgood の著作(2003)では、カルビ語はチベット・ビルマ語派に分類されていない。なお、ムル語英語版はかつてクキ・チン諸語へ分類されていたが、現在はロロ・ビルマ諸語と関連の深い言語であると考えられている。

下位分類

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クキ族チン族が暮らす地域は、基本的に険しい丘陵や山岳に囲まれており、政情も不安定である。このため、クキ・チン諸語の分布状況は、他のチベット・ビルマ諸語と比べてもはっきりとしない部分が多い[2]。従来提唱されてきたクキ・チン諸語の下位区分は、いずれも暫定的なものに過ぎない[3]

Peterson (2017) は、クキ・チン諸語を北西語群(Northwestern)、北東語群(Northeastern)、中央語群(Central)、マラ語群(Maraic)、南西語群(Southwestern)、南東語群(Southeastern)の6つに分類している[4]

より古い文献においては、古態クキ語(Old Kuki)、北部チン語群[5]中央チン語群南部チン語群という4分類も見られる[6][7]。「古態クキ語」はPeterson (2017)の「北西語群」、「北部チン語群」は「北東語群」に概ね相当する[8]

Bradley (1997) は、マニプリ語(メイテイ語)もクキ・チン諸語に含めている[9]

祖語

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VanBik (2009) は、比較方法を用いてクキ・チン諸語の祖語再建を試みている[10]

類型論的特徴

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他のチベット・ビルマ諸語と同様に、クキ・チン諸語は声調言語であり[11]SOV型を基本語順とする[12]。名詞は後置修飾を受ける[12]

クキ・チン諸語は代名詞化言語(pronominalized language)であり、動詞には人称を表す接辞が付加される[12][13]。同様の特徴は、ギャロン諸語キランティ諸語ヌン諸語ジンポー語等にも存在する。ただし、クキ・チン諸語における人称一致の体系は、これら他のチベット・ビルマ諸語とは独立に発達したものである[7]

多くのクキ・チン諸語において、動詞は2つの異なる語幹を持つ[12][14]。両者は一定の文法的条件に応じて使い分けられる。以下の例文では、文の極性が語幹の区別に関与している。

(1)    ハカ語英語版
  a.  hŋaaktshia-nùu-niʔ  bêel  a-laak 
子供-女-ERG  壺  3SG.S-取る 
「少女が壺を取った。」 (VanBik 2021: 371)
  b.  hŋaaktshia-nùu-niʔ  bêel  a-làa  lăw 
子供-女-ERG  壺  3SG.S-取る  NEG 
「少女が壺を取らなかった。」 (VanBik 2021: 371)
(2)    クミ語英語版
  a.  anglo-lö  l’ång  la 
少女-TOP  壺  取る 
「少女が壺を取った。」 (VanBik 2021: 371)
  b.  anglo-lö  l’ång  lo-lä 
少女-TOP  壺  取る-NEG 
「少女が壺を取らなかった。」 (VanBik 2021: 371)

チベット・ビルマ諸語にはしばしば、動詞に付いて動作の方向や様態を表す方向接辞が見られるが、これはクキ・チン諸語にも備わっている[15][16]

関連項目

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出典

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  1. ^ VanBik 2021, p. 369.
  2. ^ 西田 1989, p. 996.
  3. ^ VanBik 2021, p. 371.
  4. ^ Peterson 2017.
  5. ^ 西田 1989, p. 995.
  6. ^ 西田 1989, pp. 995–996.
  7. ^ a b Thurgood 2003, p. 13.
  8. ^ VanBik 2021, p. 372.
  9. ^ Thurgood 2003, p. 28.
  10. ^ VanBik 2009.
  11. ^ VanBik 2021, p. 375.
  12. ^ a b c d 西田 1989, p. 997.
  13. ^ VanBik 2021, p. 386.
  14. ^ VanBik 2021, p. 379.
  15. ^ 西田 1989, p. 999.
  16. ^ VanBik 2021, p. 381.

参考文献

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  • 西田, 龍雄 著「チン語支」、亀井孝, 河野六郎, 千野栄一 編『言語学大辞典 第二巻 世界言語篇(中)さ-に』三省堂、東京、1989年、995-1008頁。 
  • George van Driem (2001) Languages of the Himalayas: An Ethnolinguistic Handbook of the Greater Himalayan Region. Brill.
  • Thurgood, Graham (2003), “A subgrouping of the Sino-Tibetan languages: The interaction between language contact, change, and inheritance”, The Sino-Tibetan languages, London: Routledge, pp. 3–21, ISBN 978-0-7007-1129-1. 
  • Peterson, David (2017), “On Kuki-Chin subgrouping”, Sociohistorical linguistics in Southeast Asia: New horizons for Tibeto-Burman studies in honor of David Bradley, Leiden: Brill, pp. 189-209, doi:10.1163/9789004350519_012. 
  • Van Bik, Kenneth (2009). Proto-Kuki-Chin: A reconstructed ancestor of the Kuki-Chin languages (STEDT [Sino-Tibetan Etymological Dictionary and Thesaurus] Monograph Series 8). Berkeley: University of California. 

外部リンク

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