マツダ本社工場連続殺傷事件
マツダ本社工場連続殺傷事件 | |
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被疑者が侵入した東正門 | |
場所 | 日本・広島県広島市南区・安芸郡府中町(マツダ本社工場)[注 1] |
座標 | 北緯34度21分41.3秒 東経132度29分13.6秒 / 北緯34.361472度 東経132.487111度[注 2]座標: 北緯34度21分41.3秒 東経132度29分13.6秒 / 北緯34.361472度 東経132.487111度[注 2] |
日付 |
2010年6月22日 午前7時35分頃[注 3] (UTC+9) |
標的 | マツダ従業員(民間人) |
攻撃手段 | 乗物による突入攻撃(乗用車ではねる) |
武器 | マツダ・ファミリアS-ワゴン |
死亡者 | 1人 |
負傷者 | 11人[注 4] |
犯人 | 元マツダの期間工(42歳) |
動機 | マツダへの被害妄想により、同社に復讐しようとした[1]。 |
マツダ本社工場連続殺傷事件(マツダほんしゃこうじょうれんぞくさっしょうじけん)は、2010年(平成22年)6月22日に広島市南区及び安芸郡府中町にあるマツダの本社工場で発生した通り魔事件である。
この事件で12人が被害に遭い、1人が死亡、11人が重軽傷を負った[2][3]。
なお、以下に記載されている年齢はすべて事件当時のものである。
事件の概要
[編集]2010年(平成22年)6月22日午前7時35分頃、広島市南区仁保沖町のマツダ本社宇品工場の東正門前で、ファミリアS-ワゴンに乗った犯人が2人をはねた。警備員の制止を振り切って敷地内に進入、周回して5人をはねた。さらに社内橋東洋大橋で猿猴川を越え、800m離れた本社工場にも侵入し4人をはねた。工場内を約10分間、距離は約5km、平均時速約40kmで暴走し、7時45分ごろ、南区大州の北門より逃走した[4]。
犯人は北門逃走より40分後、北東に4.6kmほど離れた府中町畑賀峠(瀬戸ハイム上)で「わしがやった」と110番通報。駆けつけた広島東警察署[注 5] の警察官が、殺人未遂罪及び包丁を隠し持っていたとして、8時23分に犯人を銃砲刀剣類所持等取締法違反で現行犯逮捕した[5][2]。
工場の始業は午前8時15分であり、事件の起きた時間は丁度、夜勤と日勤の従業員が入れ替わる時間帯であった[6]。
犯人
[編集]現行犯逮捕された被疑者は同市安佐南区上安二丁目に住む42歳の派遣社員の男で、マツダの元期間従業員だった[2]。
マツダによれば、犯人は2010年(平成22年)3月25日に6ヶ月契約の期間社員として入社、4月1日から同工場でバンパーの製造業務に当たっていたが、14日になって自己都合退職した[7]。男はマツダ工場で同僚から集団ストーカー行為をされたとして、マツダが嫌がらせを止めなかったので、マツダに復讐しようとしたと供述しているが[1]、警察の捜査では嫌がらせの事実は確認できず、被害妄想による思い込みと判断された[1]。犯行現場ではブレーキ痕がほとんど発見されておらず、ファミリアS-ワゴンはフロントガラスが大きく破損し、ボンネットも変形しているという。
また、「2008年(平成20年)6月8日の秋葉原通り魔事件のようにしてやろうと思った、マツダの従業員なら誰でもよかった」などと供述している[8]。犯行前には知人に対して「僕は負け組」などと述べるなど精神的に不安定な状態にあったとされる。6月23日に男は殺人未遂と銃刀法違反の疑いで広島地方検察庁に送致された。
男は車好きが高じて車を何度も買い替えて多重債務に陥り、2008年5月に自己破産している[9]。アパートには4月から干したままの洗濯物などもあり、生活にかなり困窮していたのではないかとされている。
被害者
[編集]被害順 | 住所 | 被害者 | 被災区画 | 被災場所 | 被災状況 | 負傷(11名) 死亡(1名) はねられた場所と車の経路。容疑者は東正門から侵入し、宇品工場内を走行。さらに社内橋東洋大橋で猿猴川を越え、府中工場を一周。この過程で12名がはねられ、内1名が死亡した。
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1 | 広島市南区 | 50歳 | 宇品工場 | 東正門 | 軽傷 | |
22歳 | ||||||
2 | 広島市中区 | 36歳 | プラスチックB棟 | 重傷入院 | ||
広島市南区 | 軽傷 | |||||
3 | 東広島市 | 38歳 | プレス棟 | |||
4 | 広島市安佐南区 | 19歳 | ツーリングA棟 | 軽傷入院 | ||
広島市南区 | 29歳 | 重傷入院 | ||||
5 | 22歳 | 本社工場 | 鋳造A棟 | 軽傷 | ||
6 | 広島市安佐南区 | 26歳 | 1号館玄関 | 軽傷入院 | ||
軽傷 | ||||||
7 | 22歳 | 協力会センター前 | 軽傷 [注 6] | |||
8 | 東広島市 | 39歳 | 装備A棟 | 死亡 | ||
計12名、うち死亡1名、重軽傷11名。被害者の性別は全員男性であった。 |
11名がはねられ、1名が肩からかけていたショルダーバッグを車にひっかけられた。バッグを引っ掛けられた男性を除く11名が病院に搬送された。9人がマツダ病院に、2名が広島市中区と安芸区の病院に搬送された。被害者12名の内、1名(39歳)が死亡、重傷2名(36歳・29歳)及び軽傷2名(19歳・26歳)が入院、その他の軽傷7名。
被害状況は6月22日[10]および24日に広島県警が発表したものである。なお、被害者12人全員に広島中央労働基準監督署により労働災害認定が下されている[11]。
裁判
[編集]本件では男は殺人罪に問われ、裁判上、刑事責任能力が争点になると想定し、2010年7月から約3カ月間に渡って本格的な精神鑑定を行った。結果、犯行時の責任能力を認める鑑定結果が出ており、地検は事件前後に論理的に行動している点も考慮し、責任能力に問題はないと判断、2010年10月29日に殺人罪などで起訴した[12]。しかし、争点をめぐる意見の違いから被告と弁護団の調整が長引き[13]、また、度重なる精神鑑定要請が行われたこともあって、一審の初公判が2012年1月26日[14]と、裁判の開始が大幅に遅れることとなった。
一審は裁判員裁判となったが、その審議過程で被告人が被害者遺族に支払われた保険金を要求するなどの特異な行動が明らかになっている[15]。
- 2012年(平成24年)3月9日、広島地方裁判所は被告人の完全責任能力を認め、求刑通り無期懲役の判決を下した[16]。この判決に被告は「『マツダ従業員による嫌がらせ』が『妄想』と判断されたこと」を不服として控訴した[17]。
- 2013年(平成25年)
事件に対する社内への影響
[編集]事件発生により、工場は一時操業停止したが、同日9時に操業再開した。社内には5箇所献花所が設けられた。事件の翌日の23日に行われた株主総会で警備体制に対する意見が出て、事件の再発防止に全力を尽くす方針を示した[20]。それに関連して、入退場に対する警備強化をする方針であると報道された[21]。また、事件発生の22日よりCMを自粛していることが24日に判明した[22]。
現場周辺
[編集]マツダ本社工場は宇品工場地区と本社工場地区に分かれ、社内橋の東洋大橋で結ばれている。敷地面積は2,247千平方メートル、建物延面積は1,796千平方メートルで、約15,000人の従業員が働いている[23]。
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容疑者が逃走した北門
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事件が起こったマツダ構内(本社地区)
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東洋大橋
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けが人が多く搬送されたマツダ病院
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]以下の出典において、記事名に男及び被害者の実名が使われている場合、その箇所を伏字とする
- ^ a b c 朝日新聞2012年1月26日 第1回公判における供述
- ^ a b c 『中国新聞』2010年6月23日付日刊18版1面 『マツダで無差別ひき逃げ 1人死亡10人重軽傷 本社工場 元期間社員を逮捕』
- ^ 『中国新聞』2010年6月25日付日刊17版33面 『マツダ工場暴走事件 1ヵ月半前から殺意? 容疑者知人に話す 「殺したいやついる」』
- ^ “現場にブレーキ痕なし マツダ工場の車暴走殺傷”. 日本経済新聞社 (2010年6月23日). 2024年2月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年2月24日閲覧。
- ^ “「マツダ」の工場でファミリア暴走11人はね1人死亡 「会社に恨み」退職の42歳派遣社員、殺人未遂容疑で逮捕”. MSN産経ニュース. (2010年6月22日) 2010年11月18日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “マツダ工場11人殺傷の容疑者「4月に解雇、恨みがあった」”. MSN産経ニュース. (2010年6月22日) 2010年6月26日閲覧。
- ^ “マツダ工場で元従業員 車暴走、11人死傷 「会社に恨み」逮捕の容疑者、実質勤務8日間”. 日本経済新聞社 (2010年6月22日). 2021年3月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年3月18日閲覧。
- ^ “元期間従業員を鑑定留置へ 殺人容疑で再逮捕方針 マツダ工場殺傷事件”. MSN産経ニュース. (2010年7月3日) 2010年11月15日閲覧。
- ^ “容疑者、車買い替え多重債務 マツダ工場11人死傷”. 日本経済新聞社 (2010年6月24日). 2024年9月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月27日閲覧。
- ^ 『中国新聞』2010年6月23日付日刊18版29面 『静止無視 元職場に突入 マツダ事件暴走事件 始業前 犯行11分 「すごい速度」悲鳴続々』
“制止無視し元職場に突入 始業前、次々はねる”. 中国新聞. (2010年6月23日)[リンク切れ] - ^ “死傷者12人の労災認定”. 中国新聞. (2011年3月9日). オリジナルの2012年7月28日時点におけるアーカイブ。 2011年4月18日閲覧。
- ^ “マツダ無差別殺傷事件 殺人罪などで元期間従業員を起訴”. MSN産経ニュース. (2010年10月29日) 2010年11月7日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “マツダ工場無差別殺傷事件、公判前整理手続きめどたたず”. 日本経済新聞社 (2011年3月2日). 2024年9月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月27日閲覧。
- ^ “マツダ殺傷事件で初公判、弁護側は無罪主張 広島地裁”. 日本経済新聞社 (2012年1月26日). 2024年9月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月27日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “無差別殺傷被告が遺族に金銭要求 「百万円差し入れて」”. 47NEWS. 共同通信 (全国新聞ネット). (2012年3月9日). オリジナルの2012年7月19日時点におけるアーカイブ。 2012年2月22日閲覧。
- ^ “マツダ工場殺傷事件で無期懲役 広島地裁、責任能力認める”. 47NEWS. 共同通信 (全国新聞ネット). (2012年3月9日). オリジナルの2012年7月16日時点におけるアーカイブ。 2012年3月22日閲覧。
- ^ “○○被告が控訴 マツダ工場暴走事”. 中国新聞. (2012年3月9日). オリジナルの2012年3月16日時点におけるアーカイブ。 2012年3月22日閲覧。
- ^ “マツダ無差別殺傷、二審も無期 広島高裁、被告の控訴棄却”. 全国新聞ネット (2013年3月11日). 2013年5月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年3月11日閲覧。
- ^ “マツダ事件で無期懲役確定へ 無差別殺傷の○○被告”. 全国新聞ネット (2013年9月26日). 2013年12月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年12月2日閲覧。
- ^ “マツダ社長が再発防止表明”. 中国新聞. (2010年6月24日). オリジナルの2010年6月24日時点におけるアーカイブ。 2010年7月1日閲覧。
『中国新聞』2010年6月25日付日刊17版33面 『工場ゲートにコーンを設置 マツダ社長再発防止を誓う』 - ^ “マツダ、ゲート警備強化へ”. 中国新聞. (2010年6月23日). オリジナルの2010年6月28日時点におけるアーカイブ。 2010年7月1日閲覧。
『中国新聞』2010年6月25日付日刊17版33面 『工場ゲートにコーンを設置 マツダ社長再発防止を誓う』 - ^ “マツダがCMや広告自粛 殺傷事件で顧客に配慮”. 産経新聞. (2010年6月24日) 2010年7月1日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “工場見学に出かけよう!”. 新規高等学校卒業予定者採用サイト(技術-技能系). マツダ. 2010年6月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年7月1日閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- マツダ工場暴走事件 - 中国新聞特集 - ウェイバックマシン(2012年4月1日アーカイブ分)
- マツダ工場12人殺傷事件 - Yahooニュース - ウェイバックマシン(2013年5月1日アーカイブ分)