マダガスカルのカバ
マダガスカルのカバ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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Hippopotamus lemerlei の骨格標本
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地質時代 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
更新世 - 完新世 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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種 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
マダガスカルのカバ(Malagasy hippopotamus)とは、マダガスカル島に完新世まで生息していた複数種のカバ科を指す。Hippopotamus laloumena(en)、Hippopotamus lemerlei(en)、Hippopotamus madagascariensis(en) の3種が確認されている[1]。
概要
[編集]第四紀(更新世・完新世前期)のカバ科の分布は現在と異なりアフリカ大陸に限定されておらず、地中海の島々を含めたヨーロッパや、スリランカやインドやスマトラ島などの南アジア[2][3]にも達していた[注 1]。
現在のマダガスカル島にも、約1,000年程前またはより直近まで2種類または3種類のカバ類が生息しており[4]、これらはマダガスカル島の生態系における唯一の陸棲有蹄類であっただけでなく、リクガメ類と共に同島のグレーザー(grazer)の代表格であった。一方で、現生のカバ(H. amphibius)よりも草への依存度が比較的に低かった、または草はマダガスカル島のカバ類にとっては重要な食料ではなかった可能性も示唆されている[5][6]。
進化史
[編集]マダガスカル島で発見されてきたカバ類は、形態的にはおおむね現生のアフリカ大陸産のカバおよびコビトカバに非常に近いとされているが、マダガスカル産のカバ類の起源、分類、進化史、生態などには不明な点が多く[1]、分類の歴史自体もカバ属とコビトカバ属と Hexaprotodon の間で二転三転してきた[7]。
3種の中で、最も古い化石の年代が判明しているのは更新世の地層からも発見されている H. laloumena であり[注 2]、この種は他の2種(H. lemerlei、H. madagascariensis)と比べても明らかに大型なだけでなく、現生のカバ(H. amphibius)との類似性もより強い[9]。
H. laloumena はモザンビーク海峡に面したマダガスカル島の西海岸からも化石が出土しており[10]、これらの判断材料から H. laloumena の起源はモザンビーク海峡を越えてきた東アフリカ産のカバ(H. amphibius)である可能性があり[注 3]、他の2種(H. lemerlei、H. madagascariensis)の起源とも関連している可能性(共通の祖先からの分岐)もある。また、これが正しければ少なくとも H. laloumena は現生のカバ(H. amphibius)の後行シノニムとなり得る[12]。一方で、これらの3種のカバ類の同一または別々の祖先がマダガスカル島に到達した時期は不明であり、各種の祖先の到来時期がそれぞれ異なっていた可能性もある[11]。
マダガスカルのカバ類は島嶼化を経た可能性がある。H. laloumena は現生のカバと比較すると若干ながら小型ではあるが、それでも他の2種よりも著しく大型である[11]。一方で H. lemerlei と H. madagascariensis は大きさ的にコビトカバや地中海の島々に生息していた絶滅種[注 4]との類似性が強い。H. lemerlei は小型ながらもコビトカバとは対照的に生息圏の中心は水辺であったと思われる一方で、H. madagascariensis はコビトカバとの類似性がより顕著であり、形態・大きさだけでなく、化石の分布から判断される生息環境[注 5]からも、コビトカバと同様により陸上性が強く走行に適した脚部を有していた可能性がある。このため、これらの2種はコビトカバや地中海の島々の絶滅種との収斂進化を経たと思わしい[11]。
絶滅
[編集]少なくとも約1,000年前までは生息していたことと、(遺跡からの発見も含めて)マダガスカル産のカバの化石には人間の狩猟を示唆させる痕跡が確認されてきたことからも、他の同島の多くの絶滅動物と同様にこれらのカバ類の絶滅には人類による関与が大きく影響した可能性がある[13][14]。更新世中期以降に人類の影響で絶滅した可能性があるカバ類はマダガスカル産だけでなく、上述のヨーロッパやアジアの絶滅種にも同様の可能性が指摘されている。
一方で、マダガスカルには1648年に Étienne de Flacourt が報告したものも含めてカバに関する口承が多く残されており、1870年代後半まで同島にはカバが生息していたという伝承が存在する[15]。IUCNもこれらの口承の多さに注目し、マダガスカル産のカバ類の絶滅時期は比較的に近年であったと仮定している[16][17]。生物学者であるデイビッド・バーニーによる1990年代の調査でも、1976年に西海岸でカバらしき生物の目撃談が複数あったという情報が得られたが、当時バーニーは彼自身が未確認動物学者であるというレッテルを受けることを危惧してこの逸話を紹介することを躊躇しており、後に『American Anthropologist』において発表した際にも、この1976年の目撃談が誤認や同地の古い伝承や既存の古生物学の情報に由来する可能性を指摘している[13][15]。
なお、マダガスカルのカバはフォレスト・ガラント(en)のドキュメンタリー番組『Extinct or Alive』でも特集が組まれており、撮影中に発見された頭骨は死後200年も経っておらず、マダガスカルのカバが従来の主張よりも遥かに後年に絶滅した、または現代まで生存していたと番組は結論づけた(en)[18]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ ゴルゴプスカバ、ゴルゴプスカバに近い H. antiquus、H. melitensis、H. pentlandi、Cypriot pygmy hippopotamus、H. creutzburgi、Hexaprotodon、H. behemothなど。
- ^ laloumena はマダガスカル語で「カバ」を意味する[8]。
- ^ モザンビーク海峡を偶発的に泳ぎ切った、またはモザンビーク海峡が比較的に浅くなっていて途中に島々を有していた時代に海峡を渡った[11]。
- ^ H. melitensis、H. pentlandi、Cypriot pygmy hippopotamus、H. creutzburgi。
- ^ マダガスカル島の高地の森林地帯からの発見が多い[13]。
出典
[編集]- ^ a b Allison Shackelton (2021年). “Diversity and Taxonomy of Malagasy Pygmy Hippopotamuses”. Huskie Commons(ノーザンイリノイ大学). 2024年11月12日閲覧。
- ^ Kelum Nalinada Manamendra-Arachchi (2022年7月28日). “Sri Lanka’s Lost Animals: The Pleistocene Period”. National Trust Sri Lanka. 2024年11月12日閲覧。
- ^ Aswathi Pacha (2019年1月20日). “History of India’s last known hippo”. The Hindu. 2024年11月12日閲覧。
- ^ Grubb, Peter (1993). Oliver, W.L.R.. ed. Pigs, Peccaries, and Hippos: Status Survey and Conservation Action Plan. IUCN. オリジナルの2008-01-02時点におけるアーカイブ。
- ^ Godfrey, L. R.; Crowley, B. E. (2016). “Madagascar's ephemeral palaeo-grazer guild: Who ate the ancient C4 grasses?”. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 283 (1834): 20160360. doi:10.1098/rspb.2016.0360. PMC 4947885. PMID 27383816 .
- ^ Crowley, Brooke Erin; Godfrey, Laurie Rohde; Samonds, Karen Elizabeth (7 July 2023). “What can hippopotamus isotopes tell us about past distributions of C 4 grassy biomes on Madagascar?” (英語). Plants, People, Planet 5 (6): 997–1010. doi:10.1002/ppp3.10402. ISSN 2572-2611.
- ^ Oliver, W.L.R. (1995). “Taxonomy and Conservation Status of the Suiformes — an Overview”. IBEX Journal of Mountain Ecology. オリジナルの2007-07-05時点におけるアーカイブ。 .
- ^ Faure, M. & Guerin, C. (1990). “Hippopotamus laloumena nov. sp., la troisième éspece d'hippopotame holocene de Madagascar”. Comptes Rendus de l'Académie des Sciences, Série II 310: 1299–305.
- ^ Faure, Martine; Guérin, Claude; Genty, Dominique; Gommery, Dominique; Ramanivosoa, Beby (June 2010). “The oldest fossil hippopotamus (Hippopotamus laloumena) of Madagascar (Belobaka, Mahajanga Province)”. Comptes Rendus. Palevol 9 (4): 155–162. doi:10.1016/j.crpv.2010.04.002 2022年12月24日閲覧。.
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- ^ a b c d Eltringham, S.K. (1999). The Hippos. Poyser Natural History Series. London: Academic Press. ISBN 978-0-85661-131-5
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- ^ a b c Tyson, Peter (1998). The Eighth Continent; Life, Death and Discovery in the Lost World of Madagascar. Ann Arbor: Museum of Zoology, University of Michigan. ISBN 978-0380794652
- ^ “生物多様性:マダガスカルで種の絶滅が起これば生物多様性が数百万年間脅かされる”. natureasia.com. ネイチャー コミュニケーションズ (2023年1月10日). 2024年11月12日閲覧。
- ^ a b Burney, David A.; Ramilisonina (December 1998). “The Kilopilopitsofy, Kidoky, and Bokyboky: Accounts of Strange Animals from Belo-sur-mer, Madagascar, and the Megafaunal "Extinction Window"”. American Anthropologist 100 (4): 957–966. doi:10.1525/aa.1998.100.4.957. JSTOR 681820.
- ^ Boisserie, J.-R. (2016). Hippopotamus madagascariensis. The IUCN Red List of Threatened Species 2016. doi:10.2305/IUCN.UK.2016-1.RLTS.T40783A90128828.en
- ^ Boisserie, J.-R. (2016). Hippopotamus lemerlei. The IUCN Red List of Threatened Species 2016. doi:10.2305/IUCN.UK.2016-1.RLTS.T40782A90128915.en
- ^ “Extinct Or Alive S2 E2 Pint-Size Mystery”. ディスカバリーチャンネル. 2024年11月14日閲覧。