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脂肪族ポリケトン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ポリケトンから転送)
ポリケトン
密度1240 kg/m3
ヤング率 (E)1500 MPa
強度t)55 MPa
破断伸度350 %
シャルピー衝撃値20 kJ/m2
ガラス転移点15°C
融点220°C
ビカット軟化点[1]205
熱伝達率 (λ)0.27 W/(m·K)
線膨張係数 (α)11 10−5/K
熱容量 (c)1.8 kJ/(kg·K)
吸水率 (ASTM)0.5
価格3-5 €/kg

脂肪族ポリケトン(あるいは単にポリケトン)は高強度、高耐熱、低吸水性が特徴[2]の熱可塑性ポリマー。ポリマーの主鎖にケトン基を有するため、ポリマー鎖同士の結合力が強く、高融点となる。例えばケトン-エチレンコポリマーで255℃、ケトン-エチレン-プロピレンターポリマーで220℃である。また、耐溶剤性も高く、高強度である。他のエンジニアリングプラスチックと比べると、原料のモノマーが安価である。パラジウム(II) 触媒を使い、エチレン一酸化炭素から作られる。融点を下げるために少量のプロピレンを混ぜることも多い。

ポリケトン系樹脂は、脂肪族ポリケトンの他、芳香族ポリエーテルケトンなど、主鎖にケトン基を含むポリマー全般を指す。ただし単にポリケトンと言えば、脂肪族ポリケトンを意味する場合が多い。この記事でも、以下ではポリケトンを脂肪族ポリケトンの意味で説明する。

シェルケミカルは1996年、ポリケトンを世界で初めて商品化し、「カリロン」の名で販売を始めたが[3]、2000年には販売中止し[4]SRIインターナショナルに製造権を譲っている[5]。シェルの他、2013年に韓国のヒョースン社が独自にポリケトン樹脂を開発している[6]

工業生産

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エチレン一酸化炭素から作るのが最も一般的である。工業的には、メタノール中での懸濁重合、あるいは固定化触媒を使った気相重合などで合成される[7][8]

重合反応の進み方

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この重合は、パラジウム(II) - フェナントロリン触媒(下の図の[Pd])を使うことで、連鎖的に反応すると言われている。この説は、ノースカロライナ大学チャペルヒル校教授のモーリス・ブルックハート英語版[9]が唱えたものである。

この反応でできるポリケトンは、非常に欠陥(不規則性)が少ないことで知られる。つまり、エチレンとカルボニル基が交互に付加する場合がほとんどであり、エチレン同士あるいはカルボニル基同士が繋がること(下図の赤い部分)はほとんどない。特に、カルボニル基同士が繋がることは活性化障壁が高いため、まず起こらない[10]

また、ブルックハート教授の研究によれば、エチレン同士が繋がるために必要となる、アルキルエチレン-パラジウム複合体も、どの条件でもほとんど発生しない。その上、アルキル基に一酸化炭素が付加するギブスエネルギーは、アルキル基にエチレンが付加するギブスエネルギーよりも約 3 kcal/mol 低い。

結果として、ポリケトンの欠陥率は非常に低く、約1ppm(100万分の1)ほどである[9]。[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン英語版]パラジウム(II)触媒を使った場合についても研究例がある[11]

二座配位子の重要性

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単座ホスフィン配位子に配位されたパラジウム (II) プレ触媒をメタノールに入れると、副生成物として比較的多量のプロピオン酸メチルが生成する。これと比較して、二座配位子であるジホスフィンを使えば、副生成物は生じない。

一方、二座ホスフィン配位子を使うと、錯体がシス-トランス異性体平衡となり(下図参照)、この反応に適したトランス異性体を得ることができる。それに対して三座ホスフィン配位子を使うと、トランス体しかできず、転移挿入英語版が起こらないために反応が進まない[10]

応用例

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  • 旭化成せんい旭化成のグループ会社)が2001年からポリケトン繊維の開発に着手し[12]『サイバロン』の名で販売を開始、2006年にパイロットプラントを作っている[13]

代表的な商品

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参考文献

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  1. ^ 10 kN ニードルロードを使った場合の破壊温度 / A K van der Vegt; L E Govaert (2003). Polymeren : van keten tot kunststof. VSSD. ISBN 90-407-2388-5 
  2. ^ 日笠茂樹ら. “ポリケトン/ポリアミド系ポリマーアロイの開発”. 2013年12月30日閲覧。
  3. ^ Shell Chemical Company announces The U.S. commercial launch of CARILON Polymers
  4. ^ MatWeb-Shell Carilon® DP P1000 Polyketone (discontinued **)
  5. ^ Carilon Thermoplastic Polymer - Next-Generation Plastics from SRI International
  6. ^ “暁星、ナイロンを上回る新素材を世界で初めて開発”. 中央日報. (2013年11月5日). https://japanese.joins.com/JArticle/177939 2014年1月13日閲覧。 
  7. ^ Drent, E.; Mul, W. P.; Smaardijk, A. A. (2001). "Polyketones". Encyclopedia Of Polymer Science and Technology. doi:10.1002/0471440264.pst273
  8. ^ Bianchini, C (2002). “Alternating copolymerization of carbon monoxide and olefins by single-site metal catalysis”. Coord. Chem. Rev. 225: 35–66. doi:10.1016/S0010-8545(01)00405-2. 
  9. ^ a b Rix, Francis C.; Brookhart, Maurice; White, Peter S. (1996). “Mechanistic Studies of the Palladium(II)-Catalyzed Copolymerization of Ethylene with Carbon Monoxide”. J. Am. Chem. Soc. 118 (20): 4746–4764. doi:10.1021/ja953276t. 
  10. ^ a b Drent, Eite; Budzelaar, Peter H. M. (1996). “Palladium-Catalyzed Alternating Copolymerization of Alkenes and Carbon Monoxide”. Chem. Rev. 96 (2): 663–682. doi:10.1021/cr940282j. PMID 11848769. 
  11. ^ Shultz, C. Scott; Ledford, John; Desimone, Joseph M.; Brookhart, Maurice (2000). “Kinetic Studies of Migratory Insertion Reactions at the (1,3-Bis(diphenylphosphino)propane)Pd(II) Center and Their Relationship to the Alternating Copolymerization of Ethylene and Carbon Monoxide”. J. Am. Chem. Soc. 122 (27): 6351–6356. doi:10.1021/ja994251n. 
  12. ^ “合繊/半歩先より三歩先 次世代に向けた開発加速”. 繊維ニュース. (2005年4月21日). http://202.214.18.226/seninews/viewArticle.do?data.articleId=76623&data.newskey=5df66b8ef6be566661869b586ddd64ed 2014年1月13日閲覧。 
  13. ^ “ニュー・テクノロジー/旭化成せんい・福田康男ポリケトン事業推進室長に聞く”. 繊維ニュース. (2006年2月9日). http://202.214.18.226/seninews/viewArticle.do?data.articleId=86626&data.newskey=ea12a3e80125a8d493994353c374cce2 2014年1月13日閲覧。 

関連項目

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外部リンク

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