埴生の宿
『埴生の宿』(はにゅうのやど/はにふのやど)は、日本で親しまれているイングランド民謡[1]。原題は『ホーム・スイート・ホーム』(英: Home! Sweet Home!)で、「楽しき我が家」という訳題でも知られる。
ホーム・スイート・ホーム
[編集]1823年に作詞・作曲され、同年初演のオペラ『ミラノの乙女クラリ』(Clari, Maid of Milan)の中で歌われた。
作曲
[編集]イギリスのヘンリー・ローリー・ビショップ作曲。なお、ビショップがこの曲の着想を得たのはイタリア(シチリア)民謡からと言われている。
作詞
[編集]アメリカ合衆国のジョン・ハワード・ペイン(John Howard Payne, 1791年 - 1852年)作詞。
— Home! Sweet Home![2]
- ’Mid pleasures and palaces though we may roam,
Be it ever so humble, There’s no place like home.
A charm from the skies Seems to hallow us there,
Which seek thro’ the world, is ne’er met with elsewhere.
Home, home, sweet sweet home,
There’s no place like home, there’s no place like home.- I gaze on the moon as I tread the drear wild,
And feel that my mother now thinks of her child;
As she looks on that moon from our own cottage door,
Thro’ the woodbine whose fragrance shall cheer me no more.
Home, home, sweet sweet home;
There’s no place like home, there’s no place like home.- An exile from home, splendor dazzles in vain,
Oh, give me my lowly thatched cottage again;
The birds singing gaily, that came at my call:
Give me them and that peace of mind, dearer than all.
Home, home, sweet sweet home,
There’s no place like home, there’s no place like home.
その後
[編集]アメリカでは、バディ・ボールデン楽団の演奏会のラスト・ナンバーとしてよく演奏されており、ジャズ・ナンバー化されている。
埴生の宿
[編集]
日本では、里見義訳詞の唱歌『埴生の宿』[3]として広く知られている。
1 埴生(はにふ/はにゅう)の宿も 我が宿 玉の装い 羨(うらや)まじ
— 「埴生の宿」 里見義
のどかなりや 春の空 花はあるじ 鳥は友
おゝ 我が宿よ たのしとも たのもしや
2 書(ふみ)読む窓も 我が窓 瑠璃(るり)の床も 羨まじ
清らなりや 秋の夜半(よは/よわ) 月はあるじ 虫は友
おゝ 我が窓よ たのしとも たのもしや
この訳詞は1889年(明治22年)12月に東京音楽学校が出版した『中等唱歌集』に収載された[4]。太平洋戦争勃発に伴い、洋楽レコードが「敵性レコード」として廃棄が呼びかけられる中でも、『埴生の宿』や『庭の千草』など歌詞を邦訳にしたものは、国民生活になじんでいる[5]として敵性レコードから除外された[6]。2006年(平成18年)には日本の歌百選の一つに選ばれている。
小説『ビルマの竪琴』では、日本兵と敵兵がともに歌うという象徴的なシーンでこの歌が使われている。
映画、ドラマなどで使われた例として前述の『ビルマの竪琴』をはじめ、『二十四の瞳』(木下恵介監督版)、『仮面ライダーV3』、『火垂るの墓』、『純ちゃんの応援歌』、『純情きらり』、『ゲゲゲの女房』、『マッサン』、『ガールズ&パンツァー 劇場版』、『西郷どん』、『おちょやん』などがある。
近年では、2004年(平成16年)にB-DASH(アルバム『ビッグ ブラック ストア (連絡しろ)』に収録)が、2007年(平成19年)にキリンジ(参加したアルバム『にほんのうた 第一集』に収録)がカバーしている。また、三城ホールディングスが「パリミキ」「メガネの三城」名義で出稿している波瑠出演のテレビCMでは、2019年(令和元年)6月21日から放送中の「知的好奇心(夏)」篇・「スマホ時代の目に」篇でハンバートハンバートによるカバーバージョンが用いられている[7]。
北大阪急行電鉄箕面萱野駅の到着放送チャイム、近鉄特急の桑名駅到着時の車内チャイム、埼玉県羽生市の防災行政無線の正午のチャイム(現在は途中切りになっている)や神奈川県愛甲郡愛川町の防災行政無線の夕方のチャイムなどでも使用されている。かつては、埼玉県羽生市や東京都羽村市の防災行政無線の夕方のチャイムでも使用されていた。
注
[編集]- ^ 後述のように作曲者は特定されており、民謡と呼ぶのが正しいのかは疑問が残る。
- ^ John Howard Payne (英語), Home! Sweet Home!, ウィキソースより閲覧。
- ^ 「埴」とは埴輪に使うような粘土のことで(コトバンク『埴』)、「埴生の宿」とは壁が土だったり土間に寝たりするような家を指す。ただ原詩における萱葺き(en:thatched)の屋根は、欧米においても日本と同様に、特に粗末な家に限定されるものではない。なお元々は労働者や農民の住居であったコテージ(en:cottage)は、作詞者が活躍した19世紀前半の英語圏では、庭園などで田舎を演出するための建築物でもあった。
- ^ 「埴生の宿」(『中等唱歌集』 - 国立国会図書館 東京音楽学校、1889年12月) 歌詞は26 - 27ページ、楽譜は25ページ。
- ^ 大石五雄『英語を禁止せよ 知られざる戦時下の日本とアメリカ』ごま書房 2007年 ISBN 978-4-341-08351-9 P.65
- ^ 「廃棄すべき敵性レコード 一覧表(その一)」 『写真週報』第257号 内閣情報局 1943年
- ^ Humbert Humbert(ハンバートハンバート)Facebook公式アカウント2019年6月21日付記事