ホプキンス・レヴィツキの定理
抽象代数学の一分野である環論において、秋月・ホプキンス・レヴィツキの定理 (Akizuki–Hopkins–Levitzki theorem) は半準素環上の加群において降鎖条件と昇鎖条件を結び付ける。(単位元を持つ)環 R は、R/J(R) が半単純でありかつ J(R) が冪零イデアルであるときに、半準素環 (semiprimary ring) と呼ばれる。ここで J(R) はジャコブソン根基である。定理の主張は、R が半準素環で M が右 R-加群ならば、3つの条件
が同値であるというものである。半準素という条件がなければ、M が組成列を持てば M はネーターかつアルティンであるということしか言えない。
Charles Hopkins の論文 (Hopkins 1939) と Jacob Levitzki の論文 (Levitzki 1939) から定理は現在の形となった。そのためしばしばホプキンス・レヴィツキの定理 (Hopkins–Levitzki theorem) と呼ばれる。しかしながら、秋月康夫を含めることがある。数年早く可換環に対して結果を証明したからだ[1](Lam 2001, p. 55)。
右アルティン環は半準素であることが知られているから、定理の直接の系として、右アルティン環は右ネーター環でもある。同様の主張は左アルティン環に対しても成り立つ。これはアルティン加群に対しては一般には正しくない。ネーター的でないアルティン加群の例が存在するからである。
別の直接の系として、R が右アルティン環であるとき、R が左アルティン環であることと左ネーター環であることは同値である。
証明の概略
[編集]以下の主張の証明を書く:R を半準素環で M を左 R-加群とする。M がアルティン的あるいはネーター的であれば、M は組成列を持つ[2]。(この逆は任意の環上正しい。)
J を R のジャコブソン根基とする。Fi = Ji − 1M/JiM とおく。すると R-加群 Fi を R/J-加群と見ることができる。J は Fi の零化イデアルに含まれているからである。各 Fi は半単純 R/J-加群である、なぜならば R/J が半単純環だからである。さらに、J は冪零イデアルであるから、Fi のうち 0 でないのは有限個しかない。M がアルティン的(あるいはネーター的)であれば、Fi は有限の組成列を持つ。Fi の組成列をつないでいって、M の組成列を得る。
グロタンディーク圏において
[編集]定理の一般化や拡張がいくつか存在する。1つはグロタンディーク圏と関係するものである。G がアルティン的生成子を持つグロタンディーク圏であれば、G のすべてのアルティン的対象はネーター的である[3]。
関連項目
[編集]脚注
[編集]- ^ Akizuki, Yasuo (1935). “Teilerkettensatz und Vielfachensatz”. Proc. Phys.-Math. Soc. Japan 17: 337–345. doi:10.11429/ppmsj1919.17.0_337.
- ^ Cohn 2003, Theorem 5.3.9.
- ^ Toma Albu (2010). “A Seventy Years Jubilee: The Hopkins-Levitzki Theorem”. In Toma Albu. Ring and Module Theory. Springer
参考文献
[編集]- Cohn, P.M. (2003), Basic Algebra: Groups, Rings and Fields, ISBN 978-1-4471-1060-6
- Hopkins, C. (1939), “Rings with minimal condition for left ideals”, Ann. of Math. 40 (2): 712–730, doi:10.2307/1968951
- Lam, T.Y. (2001), A First Course in Noncommutative Rings (Second ed.), Springer-Verlag, ISBN 0-387-95183-0
- Levitzki, J. (1939), “On rings which satisfy the minimum condition for the right-hand ideals”, Compositio Math. 7: 214–222