ベンタブラック
ベンタブラック(Vantablack)は、カーボンナノチューブから構成される、可視光の最大99.965%を吸収する物質[1]。光が当たると、それを跳ね返すのではなく「チューブの森」に捉え[2]、チューブ内を何度も屈折させ最終的には吸収されて熱として放散される。2019年にMITが吸収率99.995%の物質を発表するまで既知の「最も黒い物質」であった[3]。
語源
[編集]Vertically Aligned NanoTube Arrays(垂直に並べられたナノチューブの配列)の頭文字をとっている[4]。
発展
[編集]初期の発展は、イギリス国立物理学研究所によって進められたが[5]、VANTAという言葉は、この頃は生まれていなかった[6]。現在は、Surrey NanoSystemsで開発が進められている[7]。
応用
[編集]この物質には、望遠鏡の迷光防止や赤外線カメラの性能向上等、様々な応用がある[7]。
Surrey NanoSystemsのCTOであるベン・ジェンセンは、次のように説明する[7]。
例えば、この物質は、望遠鏡の感度を向上させることで、遠い微かな星の光も捉えられるようにする。また、非常に低い反射率のため、地上や宇宙空間、大気中の機器の感度を向上させる。
また、ベンタブラックは、集光型太陽熱発電の素材として用いることで、熱の吸収を高めることができる。また軍事では、熱カモフラージュ等の応用がある。ベンタブラックの放射率と拡張性が、幅広い応用を可能にしている。
芸術家のアニッシュ・カプーアは、この物質を創作に用いている[8]。
近年では、H.モーザーなどの時計メーカーが、時計の文字盤にベンタブラックを用いている[9]。
2019年8月30日、BMWはベンタブラックの(若干反射率を高めた)派生素材で塗装したBMW・X6の特別モデルを製作したことを発表。フランクフルト・モーターショーで公開する予定[10]。
既存の物質からの改善
[編集]ベンタブラックは、これまで開発された物質の改善となっている。木炭は、入射光の4%を反射する。既知の2番目に放射を吸収する物質は、0.04%を除いた全ての光を吸収するが、ベンタブラックは0.035%を除いた全ての光を吸収する。また、この新しい物質は、400℃で形成される。アメリカ航空宇宙局は似たような物質を開発しているが、その成長温度は750℃である。従って、ベンタブラックは、高温に耐えられない物質の上にも成長させることができる[1]。
ベンタブラックのガス放出や粒子降下は少ない。かつての似たような物質は、これが多いために商用化が妨げられてきた。また、ベンタブラックは、振動耐性や耐熱性も優れている[4]。
脚注
[編集]- ^ a b “Vantablack, the world’s darkest material, is unveiled by UK firm”. South China Morning Post - World (15 July 2014). 19 July 2014閲覧。
- ^ “Vantablack: U.K. Firm Shows Off 'World's Darkest Material'”. NBCNews.com (15 July 2014). 19 July 2014閲覧。
- ^ MIT engineers develop “blackest black” material to date | MIT News
- ^ a b Kuittinen, Tero (14 July 2014). “[https://ca.news.yahoo.com/scientists-developed-black-deep-makes-3d-objects -look-233004466.html?pt=Array Scientists have developed a black so deep it makes 3D objects look flat]”. Yahoo! News Canada. 19 July 2014閲覧。
- ^ Theocharous, E.; Deshpande, R.; Dillon, A. C.; Lehman, J.. “Evaluation of a pyroelectric detector with a carbon multiwalled nanotube black coating in the infrared”. Applied Optics 45 (6): 1093. doi:10.1364/AO.45.001093.
- ^ Theocharous, S.P.; Theocharous, E.; Lehman, J.H.. “The evaluation of the performance of two pyroelectric detectors with vertically aligned multi-walled carbon nanotube coatings”. Infrared Physics & Technology 55 (4): 299–305. doi:10.1016/j.infrared.2012.03.006.
- ^ a b c Howard, Jacqueline (14 July 2014). “This May Be The World's Darkest Material Yet”. Huffington Post. 19 July 2014閲覧。
- ^ “How black can black be?”. BBC.col.uk. BBC News (23 September 2014). 7 December 2014閲覧。
- ^ 光を99.965%吸収するVantablack® 加工、H.モーザーのブラックホール文字盤、WebChronos、2018年9月26日、同年11月22日閲覧
- ^ “独BMW、「世界で最も黒い物質」まとったX6お披露目へ”. CNN (2019年8月30日). 2019年8月30日閲覧。