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ヒメハマトビムシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヒメハマトビムシ
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 甲殻亜門 Crustacea
: 軟甲綱 Malacostraca
亜綱 : 真軟甲亜綱 Eumalacostraca
上目 : フクロエビ上目 Peracarida
: 端脚目 Amphipoda
亜目 : Senticaudata
下目 : Talitridira
小目 : Talitrida
上科 : ハマトビムシ上科 Talitroidae
: ハマトビムシ科 Talitridae
亜科 : Platorchestiinae

ヒメハマトビムシ日本全国の海岸に生息する小型の陸棲甲殻類である。体長は15mm程度(平山 1995)。20世紀中は世界各地にみられる汎存種と考えられていたが、近年の研究によって、複数属・種を内包する総称として位置づけられるようになった。

分布

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クシヒメハマトビムシDemaorchestia joi
ロシア (Державин 1937)。国内の推定分布は秋田県茨城県静岡県 (笹子 2011);岡山県 (小川 2020);北海道福井県千葉県愛知県鳥取県愛媛県(Morino 2024)。
Demaorchestia mie
三重県 (Stephensen 1945)。
タイヘイヨウヒメハマトビムシPlatorchestia pacifica
韓国 (笹子 2011);台湾 (Miyamoto & Morino 2004)。国内の推定分布は北海道,東北,関東,中部,近畿,四国,沖縄県 (笹子 2011);父島 (濵邉 2017);岡山県 (小川 2020)。

生態

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  • 砂浜,礫浜,岩礁など多様な海岸の汀線上に生息し、昼間は海岸漂着物の下側あるいは砂質に潜りこんでいる。
  • 雑食性を示し、打ち上げられた海藻やその他生物の遺骸,砂粒の表面に付着した珪藻を食べていると考えられている。
  • 隠れている漂着物が取り除かれると、四方八方に飛び跳ねて逃げる。
  • ヒメハマトビムシ種群に噛まれたとする証言も散見されるが、等脚類と混同している可能性も否定できない。一方で、タイヘイヨウヒメハマトビムシPlatorchestia pacificaによる噛みつきを指摘する観察例もある[1]

形態

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  • ハマトビムシ科は、第1触角全長が第2触角柄部長より短いことにより、モクズヨコエビ科などから識別される。
  • Platorchestiinae亜科は、オスの第2触角の柄部は鞭部より長いこと;第2触角の基部は通常形を呈しヘラ状構造をもたないこと;オスの第2咬脚掌縁に波打ったような突起をもつこと;第1尾脚外葉上縁に棘状剛毛を欠くことで、日本から記録されている他の多くの属と識別される。
  • Demaorchestia属およびPlatorchestia属は、オスの第2触角柄部第2節は太く発達すること;オスの第2咬脚掌縁に2つの隆起があることで、モリノオカトビムシ属(Morinoia属)などのオカトビムシ類から識別される。
  • クシヒメハマトビムシDemaorchestia joiはオスの第2咬脚下縁に3~5本の剛毛をもち第7胸脚腕節に性的二形を生じないが、タイヘイヨウヒメハマトビムシPlatorchestia pacificaはオスの第2咬脚下縁に剛毛を欠きオスにおいて第7胸脚腕節が膨隆する。

分類

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多くの文献において「ヒメハマトビムシ」という和名はOrchestia platensis(Iwasa 1939)(永田 1965)あるいはPlatorchestia platensis(平山 1995)に対応されてきた。しかし、2004年に真のPlatorchestia platensisアジアに分布しないとの知見が示され、台湾の標本を元にPlatorchestia pacificaという新種が記載された(Miyamoyo & Morino 2004)。台湾のPlatorchestia platensisPlatorchestia pacificaに置換されたことから、日本においても同様の処遇が行われ、「ヒメハマトビムシ」に対応する学名はPlatorchestia pacificaとされた(笹子 2011)。その後、森野・向井(2016)はこの対応を認めつつも、これまでPlatorchestia platensisと同定されてきたサンプルにPlatorchestia joi(=Demaorchestia joi)が含まれることを示唆し、「ヒメハマトビムシ」に対応する学名として暫定的にPlatorchestia joi(=Demaorchestia joi)を当てた。その後、Platorchestia pacificaにはタイヘイヨウヒメハマトビムシとの和名が与えられた(有山 2022)。 従来「ヒメハマトビムシ」と呼ばれていた日本の個体群は、現段階で本邦から発見されていないP. parapacificaP. munmuiP. koreanensisなども含まれている可能性が指摘されており(Morino 2024)、研究の途上にある。

脚注

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参考文献

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  • 有山啓之『ヨコエビ ガイドブック』海文堂、2022年、160頁。ISBN 9784303800611 
  • 平山明 著、西村三郎 編『原色検索日本海岸動物図鑑[II]』保育社、東京、1995年。 
  • Iwasa, M. (1939), “Japanese Talitridae (With Plates IX-XXII and 27 Textfigures)”, 北海道帝國大學理學部紀要 (北海道帝國大學) 6 (4): 255-296, NAID 120000962371, https://hdl.handle.net/2115/27016 
  • Державин, A. (1937), “TALITRIDAE Советского Побережья Японского Моря”, Исследования морей СССР.: 87-106 
  • Lowry, J.; Myers, A. (2022), “Platorchestiinae subfam. nov. (Amphipoda, Senticaudata, Talitridae) with the description of three new genera and four new species”, Zootaxa 5100 (1): 1–53, doi:10.11646/zootaxa.5100.1.1 
  • Miyamoto, H.; Morino, H. (2004-07), “Taxonomic studies on the Talitridae (CrustaceaAmphipoda) from Taiwan. -II. The genus Platorchestia, PUBLICATIONS OF THE SETO MARINE BIOLOGICAL LABORATORY (京都大学フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所) 40 (1-2): 67-96, doi:10.5134/176317, ISSN 0037-2870, NAID 120005300455, https://hdl.handle.net/2433/176317 
  • Morino, H. (1975), “Studies on the Talitridae (Amphipoda, Crustacea) in Japan. II. Taxonomy of seashore Orchestia, with notes on the habitats of Japanese seashore talitrids”, Publications of the Seto Marine Biology Laboratory 22 (1/4): 171–193, doi:10.5134/175882 
  • Morino, H. (2024), “Variations in the Characters of Platorchestia pacifica and Demaorchestia joi (Amphipoda, Talitridae, Talitrinae) with Revised Diagnoses Based on Specimens from Japan”, Diversity 16 (1), doi:10.3390/d16010031 
  • 森野浩; 向井宏(Japanese)『砂浜フィールド図鑑(1)日本のハマトビムシ類』海の生き物を守る会、京都市、2016年http://e-amco.com/activity#fieldguide1 
  • 永田樹三 著、岡田要 編『新日本動物圖鑑』北隆館、東京、1965年。 
  • 小川, 洋 (2020), “12 汎甲殻類”, in 坂本明弘; 中田和義; 福田宏, 岡山県野生生物目録2019 Ver1-2, https://www.pref.okayama.jp/page/602836.html 
  • 笹子由希夫「日本産ハマトビムシ科端脚類の分布と分子系統解析」『修士論文. 三重大学』2011年https://hdl.handle.net/10076/13048 
  • Stephensen, K. (1945), “Some Japanese Amphipodes”, Videnskabelige Meddelelser fra Dansk Naturhistorisk Forening 108: 25–88 
  • 濵邉昂平「小笠原諸島父島におけるヨコエビ類について」『小笠原研究年報』第40号、首都大学東京小笠原研究委員会、59-72頁、2016年。ISSN 0387-9844NAID 120006354554https://hdl.handle.net/10748/00009728