ヒトヒフバエ
ヒトヒフバエ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Dermatobia hominis | |||||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
human botfly |
ヒトヒフバエ(Dermatobia hominis, 英: human botfly, 独: amerikanische Dasselfliege, 仏: ver macaque, 中: 人皮蠅)は、ハエ目ヒツジバエ科の昆虫。幼虫はヒト(および霊長目を含む広範囲の動物[1])に寄生して蠅蛆症を引き起こす。原産地はメキシコ・ベラクルス州からアルゼンチンおよびチリの北部、ウルグアイにかけて[1]。
英語ではtorsaloまたはAmerican warble flyとも呼ばれる[1]。『南山堂医学大辞典』はウマバエの学名としてDermatobia hominisを挙げる[2]が、他の文献によるとウマバエの学名はGastrophilus intestinalisである[3][4]。ここでは、D. hominisの和名としてヒトヒフバエを採用する[5]。
形態
[編集]成虫は体長12 - 18ミリ。口器を持たない。体は太く、頭部は黄色、胸部は暗青色で灰色の粉で薄く覆われる。腹部は光沢のある青色[6]。
生態
[編集]低地の森林に生息。道路沿いや林縁、川沿いの谷間などの明るい場所に多い[7]。
Dermatobia属の卵は40種以上の蚊・イエバエ上科のハエのほか、1種のマダニ科のダニによって媒介されることが観察されている[8]。本種のメスは吸血性のサシバエやマダニのほか、汗をなめに来るヒメイエバエの仲間に卵を産み付ける[5]。飛行中の蚊に産卵することもある[9]。卵はこれらの虫に膠着し、5 - 15日で孵化可能になる。宿主との温度差を感じると孵化し、刺し口などから皮下に入り込む。この間5 - 10分の早業である[5]。
幼虫は宿主のリンパ液を食べて6 - 12週間成長する。成長すると皮膚から脱出し、少なくとも4 - 11週間蛹として過ごす[5][10]。
蠅蛆症と対策
[編集]Venom extractor syringeと呼ばれる毒抜き用の器機により、幼虫がどの成長段階にあっても容易に吸い出せる[11]。また、幼虫の入っている穴にマニキュアを何層か塗り、部分的に窒息させることで幼虫を弱らせ駆除に成功した例もある[12]。剥がす際に幼虫がちぎれて取り残されてしまうため、粘着テープをその場所に貼ることは推奨されない[12]。
抗寄生虫薬のイベルメクチンの経口使用により、非侵襲的に幼虫の自然排出を促す。幼虫が目頭の内側のような手の届かない場所にいる場合に特に有効である[13]。
出典
[編集]- ^ a b c Defense Centers for Public Health 2023.
- ^ 『南山堂医学大辞典』南山堂、2015年4月1日、1946頁。ISBN 978-4-525-01080-5。
- ^ 『動物系統分類学(全10巻)第7巻(下C) 昆虫類(下)』内田亨(監修)、中山書店、1972年4月5日、172頁。
- ^ 『昆虫2.8万名前大辞典』日外アソシエーツ、2009年2月25日、164頁。ISBN 978-4-8169-2164-3。
- ^ a b c d 加納&篠永 2003, p. 233.
- ^ Fernandes Fernando de Freitas; Pedro Marcos Linardi (2002). “Observations on Mouthparts of Dermatobia hominis (Linneaus Jr., 1781) (Diptera: Cuterebridae) by Scanning Electron Microscopy.”. Journal of Parasitology 88 (1): 191–194. doi:10.1645/0022-3395(2002)088[0191:OOMODH]2.0.CO;2.
- ^ E. P. Catts (1982). “Biology of New World bot flies: Cuterebridae.”. Annual Review of Entomology (27): 313–338. doi:10.1146/annurev.en.27.010182.001525.
- ^ Ross Piper (2007). “Human Botfly”. Extraordinary Animals: An Encyclopedia of Curious and Unusual Animals. Westport, Connecticut USA: Greenwood Publishing Group. pp. 192-194. ISBN 978-0-313-33922-6
- ^ 西田 2012, p. 158-159.
- ^ 西田 2012, p. 160.
- ^ Andrea K. Boggild; Jay S. Keystone; Kevin C. Kain (2002). “Furuncular myiasis: a simple and rapid method for extraction of intact Dermatobia hominis”. Clinical Infectious Diseases 35 (3): 336–338. doi:10.1086/341493.
- ^ a b Bhandari et al. 2007.
- ^ Tais Hitomi Wakamatsu; P. T. P. Pierre-Filho (2005). “Ophthalmomyiasis externa caused by Dermatobia hominis: a successful treatment with oral ivermectin”. Eye 20 (9): 1088–90. doi:10.1038/sj.eye.6702120.
参考文献
[編集]- “Human Bot Fly Myiasis” (PDF). APHC. Defense Centers for Public Health. 2023年6月30日閲覧。
- 西田賢司『探検昆虫学者の珍虫ファイル わっ!へんな虫』(第1刷)徳間書店。ISBN 978-4-19-863219-9。
- Ramanath Bhandari; David P. Janos; Photini Sinnis (2007). “Furuncular myiasis caused by Dermatobia hominis in a returning traveler”. The American Journal of Tropical Medicine and Hygiene 76 (3): 598–9. doi:10.4269/ajtmh.2007.76.598.
- 加納六郎、篠永哲『日本の有害節足動物』東海大学出版会、2003年、233頁。ISBN 4-486-01633-5。