コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

ヒトコロナウイルス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
(廃止)
ヒトコロナウイルス
分類
: 第4群(1本鎖RNA +鎖
: コロナウイルス科
Coronaviridae
: コロナウイルス属
Coronavirius
: ヒトコロナウイルス Human coronavirus

ヒトコロナウイルスHuman coronavirus)は、ヒト感染するコロナウイルスの総称。当初は、ヒト呼吸器ウイルス(Human respiratory virus)と呼ばれていた。かつては、ウイルス名としても有効であったが[1]、1995年にヒトコロナウイルス229EヒトコロナウイルスOC43に分割され消滅した[2]。現在では、種名ではなく、ヒトに感染するコロナウイルスの総称として慣用的に使用されている。

分類

[編集]

ヒトに感染するコロナウイルスは、風邪症候群の4種類と動物から感染する重症肺炎ウイルス2種類 (SARS-CoV, MERS-CoV) が知られていて[3]、更にSARS-CoV-2を加えた計7種類(2020年3月時点)[4]である。アルファコロナウイルス属、ベータコロナウイルス属の下記のものが知られている[4][注 1]。広義では7系統全てをヒトコロナウイルスとするが、狭義では、このうち229E、NL63、OC43、HKU1の4つのみをヒトコロナウイルスとする。この他1960年に最初に発見されたヒトコロナウイルスB814が存在したが、サンプルが失われており、分類学的地位は不明となっている。

オルトコロナウイルス亜科の中で、各ウイルスの分類は以下のようになっている。

ヒトコロナウイルス感染症

[編集]

文脈によっては単に「コロナウイルス感染症」と言う場合もある。

風邪症候群

[編集]

初期症状は微熱、耳の痛み、頭痛のいずれか。感染中期になると高熱となる。風邪(普通感冒)を引き起こすコロナウイルス(Human Coronavirus:HCoV ヒューマンコロナウイルス、ヒトコロナウイルス)が4種類(229EOC43NL63、HKU1)あり、風邪の10〜15%(流行期35%)の原因を占める。HCoV-229E、HCoV-OC43は1960年代に発見され、HCoV-NL63、HCoV-HKU1は2000年代に入って発見された[3]

発生年は毎年で、世界中で人類全体に蔓延しており、これまでの死者数は不明、感染者数は70億人と計算されている[3]

普通感冒コロナウイルスの種類
発見 ヒト受容体 ヘマグルチニンエステラーゼ(HE) 備考
ヒトコロナウイルス229E アルファコロナウイルス属英語版 1960年代 アミノペプチダーゼN(APN[6] なし
ヒトコロナウイルスNL63 2000年代 ACE2受容体 SARS関連コロナウイルスと同じヒト受容体
ヒトコロナウイルスOC43 ベータコロナウイルス属英語版 1960年代 Neu5Ac あり インフルエンザA型ウイルスと同じヒト受容体
ヒトコロナウイルスHKU1 2000年代 あり

SARSコロナウイルスによる重症急性呼吸器症候群(2002年-2004年)

[編集]

2002年に発見されたSARSコロナウイルス (SARS-CoV) による。キクガシラコウモリが自然宿主であると考えられている[3]。2002年11月、中華人民共和国広東省を起源とし、中国大陸を中心として、世界で感染が拡大したが、2003年7月5日に世界保健機関は「SARS封じ込め成功」を発表した。ただし、その後も2004年に14人の感染例がある。最終的な罹患数は世界30ヶ国の8,422人が感染、916人が死亡した(致命率11%)[7]

MERSコロナウイルスによる中東呼吸器症候群(2012年-)

[編集]

2012年に発見されたMERSコロナウイルス (MERS-CoV)ヒトコブラクダを感染源として、ヒトに感染すると重症肺炎を引き起こす[3][8]。2012年9月[注 2] - 2020年1月現在流行中[3]

2013年5月15日世界保健機関 (WHO) は患者が入院したサウジアラビアの病院の2人(看護婦と医療関係者)への「ヒト-ヒト感染」が初めて確認されたと発表した[9][注 3][注 4]2015年韓国でのアウトブレイクでは186人が感染し、36人が死亡した。2019年にもサウジアラビアで14人が感染し、5人が死亡した[10][11]

WHOによれば2019年11月までに診断確定患者は2494人、死者858人[8]、約27ヶ国に感染例が波及している[12]。特別な治療法やワクチンはない[8]

  • 潜伏期間:2-14日[3]
  • BSL3施設で扱い、感染症法で二類感染症、三種病原体[3]

新型コロナウイルスによる呼吸器症候群(2019年-)

[編集]

2019年12月31日、最初にWHOに報告された新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) [注 5]による急性呼吸器疾患 (COVID-19) およびその流行である[14]。初発流行地は、中華人民共和国湖北省武漢市とされている。2020年2月には、中国国内と国外では規模に大きな差があるものの、東アジアを中心に東南アジア中東ヨーロッパで感染拡大が続いた。同年2月26日にブラジルで感染者が出たことで、南極大陸を除く(2021年1月に南極大陸において感染確認済み)5大陸全てに感染が拡大した[15]。2021年2月11日時点で全世界の累計感染者数は1億人を超え、死者数も230万人以上となっており、さらに流行地域の状況も数か月前と大きく変わりアメリカ合衆国ヨーロッパだけで感染者の半数を占め、南北アメリカで感染が急拡大している[16][17]

構造生化学者Jason McLellanのテキサス大学オースティン校チームは、2020年2月19日『サイエンス』に発表した論文「Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation[18]」で、SARSコロナウイルス(SARS-CoV, 2002-2003年流行)とSARS-CoV-2スパイクタンパク質には類似性があるが、SARS-CoV-2の方が、はるかに人の細胞に取り付きやすいと報告した[19]

  • BSL3/ABSL3 (Animal Biological Safety Level 3) 施設で扱い、感染疑い患者由来の臨床検体はBSL2施設で扱い[20]指定感染症で、感染症法で二類感染症以上相当[21]

コロナウイルス感染症の比較表

[編集]
感染症の種類と比較[22] 風邪 SARS
(重症急性呼吸器症候群)
MERS
(中東呼吸器症候群)
COVID-19
(呼吸器症候群)
原因ウイルス コロナウイルスによるものとしてはヒトコロナウイルス229E、NL63、OC43、HKU1 SARSコロナウイルス MERSコロナウイルス SARSコロナウイルス2
(2019新型コロナウイルス)
発生年 有史以前からと推定 2002年 - 2003年 2012年 - 2019年 -
流行地域 世界中 中華人民共和国の旗 中国広東省 サウジアラビアの旗 サウジアラビアなどアラビア半島 中華人民共和国の旗 中国湖北省武漢市から世界に拡大中
宿主動物 ヒト キクガシラコウモリ ヒトコブラクダ 不明[23]
感染者数 無数 8,098人
(終息)
2,521人
(2020年3月5日現在)[24]
106,797,721人
(2021年2月11日現在)[25]
死者数 不明[注 6] 774人 866人
(2020年3月5日現在)[24]
2,341,145人
(2021年2月11日現在)[25]
致命率 まれ[注 6] 9.4% 34.4% 2.2% ※上記死者数/感染者数の単純計算)
感染経路 飛沫感染、接触感染 飛沫感染、接触感染、経口糞口感染 飛沫感染、接触感染 飛沫感染、接触感染
感染力
(基本再生産数)
1 - 2 - 5 多数論では 1.4 - 3.9
潜伏期間 2 - 4日 2 - 10日 2 - 14日 1 - 14日
感染症法 非指定 2類感染症 2類感染症 指定感染症[26]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ ヒト腸コロナウイルス4408 - Human enteric coronavirus 4408 (HECV-4408):については除外する)
  2. ^ ザキ博士による全世界初の公表から始まった。
    "Novel coronavirus - Saudi Arabia: human isolate" ProMED-mail, 2012-09-20 15:51:26
  3. ^ また合計で関係者21人(死者9人)が医療機関関係者の感染者となる。
  4. ^ ヒト-ヒト感染は、イギリスで父子感染例がある。
  5. ^ このウイルスについて、日本の厚生労働省は単に「新型コロナウイルス」と2020年1月時点で呼称している[13]
  6. ^ a b 合併症は含まない

出典

[編集]
  1. ^ ICTV 2nd Report
  2. ^ ICTV 6th Report
  3. ^ a b c d e f g h i j k l コロナウイルスとは 国立感染症研究所, Jan 10, 2020 Accessed: 2020-01-20
  4. ^ a b 中国・新型コロナ「遺伝子情報」封じ込めの衝撃”. 東洋経済オンライン (2020年3月5日). 2020年3月6日閲覧。
  5. ^ 中込治・神谷茂 共著『標準微生物学』医学書院、2016年1月15日 第12版 第2刷、497ページ、
  6. ^ 86.風邪のウイルスのひとつ(コロナウイルス229E)はラクダから感染したものらしい | 一般社団法人 予防衛生協会”. www.primate.or.jp. 2020年7月9日閲覧。
  7. ^ 『標準微生物学』中込治・神谷茂(編集)、医学書院、2015年2月15日、第12版、p.498.
  8. ^ a b c 中東呼吸器症候群(MERS)について 厚生労働省 2020年2月25日閲覧
  9. ^ "Novel coronavirus infection - update" 15 May 2013, Global Alert and Response (GAR)
  10. ^ Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) - The Kingdom of Saudi Arabia”. Word Health Organization. 2020年1月16日閲覧。
  11. ^ MERS-CoV cases reported betwen 1 to 31 May 2019”. World Health Organization. 2020年1月16日閲覧。
  12. ^ WHO | Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV)”. WHO. 2020年1月27日閲覧。
  13. ^ 中華人民共和国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎の発生について”. www.mhlw.go.jp. 厚生労働省. 2020年1月27日閲覧。
  14. ^ Pneumonia of unknown cause - China. Disease outbreak news”. World Health Organization (5 January 2020). 7 January 2020時点のオリジナルよりアーカイブ6 January 2020閲覧。
  15. ^ 新型コロナ、五大陸に ギリシャやブラジルでも感染 日本経済新聞 2020/2/27 1:56
  16. ^ 新型ウイルス、世界の死者50万人を超える 感染者は1000万人 BBCニュース (2020年6月29日)、2020年7月15日閲覧。
  17. ^ 新型コロナ:新型コロナ感染4000万人 過去最悪ペースで拡大”. 日本経済新聞 (2020年10月19日). 2020年10月20日閲覧。
  18. ^ Cryo-EM structure of the 2019-nCoV spike in the prefusion conformation, Daniel Wrapp, Nianshuang Wang, Kizzmekia S. Corbett, Jory A. Goldsmith, Ching-Lin Hsieh, Olubukola Abiona, Barney S. Graham, Jason S. McLellan1, Science 19 Feb 2020: eabb2507, DOI: 10.1126/science.abb2507
  19. ^ 新型コロナウイルスのタンパク質、初の3Dマップ公開--ワクチン開発の足がかりに JACKSON RYAN (CNET News) 翻訳校正:緒方亮 長谷睦(ガリレオ)2020年02月20日 11時03分, CNET Japan, 朝日インタラクティブ株式会社
  20. ^ 国立感染症研究所内での新型コロナウイルスSARS-CoV-2取り扱いについて(2020年1月30日)
  21. ^ 「指定感染症」になると診療はどう変わる?”. 日経メディカル (2020年1月29日). 2020年3月13日閲覧。
  22. ^ 症状、予防、経過と治療… 新型コロナウイルス感染症とは? 現時点で分かっていること 忽那賢志(Yahoo!ニュース/個人)、2020年1月31日
  23. ^ COVID-19に関するWHO・中国合同調査団による報告書”. 外務省. 2020年4月28日閲覧。
  24. ^ a b Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) - Qatar
  25. ^ a b Coronavirus disease (COVID-19) Situation Dashboard - WHO(2020年3月30日閲覧)
  26. ^ 「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令」(令和二年政令第十一号) (PDF) 厚生労働省官報 令和2年〈2020年〉1月28日)