ヒゲオヤジ
ヒゲオヤジは、手塚治虫の漫画に登場する架空の人物である。本名は伴 俊作(ばん しゅんさく)とされることが多いが、ほかの名前で登場していることもある。
概要
[編集]手塚治虫のスター・システムを代表する「俳優」のひとり。頭頂部から禿げ上がった頭と、二股に垂れ下がった白い口髭がトレードマークの中年男性として描かれる。服装は背広に格子模様の蝶ネクタイを付けていることが多い。『鉄腕アトム』をはじめとした複数作品で「本名は伴俊作、通称ヒゲオヤジ」と名乗っているので「伴俊作」が俳優としての本名であるかのように言われることもあるが、実際にはそれ以外の役名で登場した作品も多く、その中には、「ビル」や「サム」など、明らかに日本人でないものも含まれている。そのため俳優名としては「ヒゲオヤジ」で通すのが一般的である。
商業作品でのヒゲオヤジのデビューは、1946年の『関西輿論新聞』版『ロストワールド』[1](ただし、それ以前に、同年の『マァチャンの日記帳』第26回(1946年2月2日掲載)にも1コマだけ出演している[2][3])。単行本では1947年10月の『怪人コロンコ博士』が初出であり、同作で初めてケン一とコンビを組んでいる[4]。また、「伴俊作」名での初出演作は、1948年の単行本版『ロストワールド』である[5]。『地底国の怪人』(1948年)・『ふしぎ旅行記』(1950年)等の初期長編では、少年主人公のケン一とコンビを組んで、準主役を演じていることが多い[5]。
得意な役柄は江戸っ子気質(手塚によれば「神田の生まれ」[6])の熱血漢で、正義感が強く不正や差別には断固として敵対する。また好奇心が強く様々な事件に首を突っ込むところがあり、そのため多くの作品で私立探偵が当たり役となっている[7]。ただし、決して善玉専門というわけではなく、悪役やそれに近い役柄で出演したこともある[8]。
キャラクター原案は手塚ではなく、手塚の中学時代の友人今中宏である。大阪の老舗菓子屋「鶴屋八幡」の息子だった彼が、自分の祖父今中久吉をモデルに落書きしたのを、手塚が漫画の登場人物として借用した『オヤジ探偵』が起源である[9]。そのため、手塚の中学時代の習作では、ヒゲオヤジは関西弁を話していた[6]。
「アトム今昔物語」にて、20代後半から30代始め頃の姿が登場しているが、がっしりした体格の気の強そうな青年であった。
登場作品
[編集]- 『幽霊男』(1945年) - 漫画家デビュー前の習作。火気親次(民間素人探偵及び萬呂頭(よろず)研究家)
- 『怪人コロンコ博士』(1947年) - Q-Q-光線を発明した科学者
- 『怪盗黄金バット』(1947年) - サラダ公爵
- 『地底国の怪人』(1948年) - ビルおじさん(ロケット列車建造工場長)
- 『魔法屋敷』(1948年) - ヒゲタ博士
- 『ロストワールド』(1948年) - 伴俊作(私立探偵)
- 『メトロポリス』(1949年) - 探偵
- 『ふしぎ旅行記』(1950年) - ケン一のおじ
- 『ジャングル大帝』(1950 - 54年) - ケン一のおじ
- 『鉄腕アトム』(1951 - 68年) - 伴俊作(お茶の水小学校の教師、元私立探偵)
- 『来るべき世界』(1951年) - 伴俊作(私立探偵)
- 『ロック冒険記』(1952 - 54年) - 大助の父
- 『太平洋X點』(1953年) - 「地下鉄サム」ことサム・ユードオ(元ギャング)
- 『地球1954』(1954年) - 伴俊作(私立探偵)
- 『大洪水時代』(1955年) - 元医師の脱獄囚
- 『虹のとりで』(1956 - 57年) - アンパカ刑事
- 『スリル博士』(1959年) - スリル博士(医師)
- 『魔神ガロン』(1959 - 62年)
- 『キャプテンKen』(1960 - 61年)
- 『バンパイヤ』(1966 - 67年) - 伴俊作(私立探偵)
- 『やけっぱちのマリア』(1970年) - やけっぱちの父親
- 『ブッダ』(1972 - 83年) - パンパス刑事
- 『ミクロイドS』(1973年) - フーテン
- 『ブラック・ジャック』(1973 - 1983年)
- 『三つ目がとおる』(1974 - 78年) - 中華料理屋「来々軒」の主人
- 『MW』(1976 - 78年) - 酒処「水と油」の主人
- 『海底超特急マリンエクスプレス』(1979年) - 伴俊作(私立探偵)
- 『ミッドナイト』(1986 - 87年) - 三戸仙吉(ミッドナイトの父)
- 『グリンゴ』(1987 - 89年)
など多数
声優
[編集]- 富田耕生(下記を除いたほぼ全てのヒゲオヤジが出演する作品。)
- 辻村真人(アニメ:ジャングル大帝(第3作))
- 熊倉一雄(アニメ:鉄腕アトム(アニメ第2作))
- 緒方賢一(アニメ:三つ目がとおる)
- 八奈見乗児(アニメ:悪魔島のプリンス三つ目がとおる)
- 矢島正明(アニメ:鉄腕アトム(アニメ第1作))
- 和田文雄(アニメ:鉄腕アトム(アニメ第1作))- 矢島から交代。
- 大塚周夫(劇場版アニメ:火の鳥2772 愛のコスモゾーン)
- 相模武(人形劇:銀河少年隊)
- 河西健吾(アニメ:アトム ザ・ビギニング)
- 石住昭彦(アニメ:GO!GO!アトム)
- 高木渉 (アニメ:PLUTO)
俳優
[編集]脚注
[編集]- ^ 米沢 2002, p. 363.
- ^ 手塚 1991, p. 25.
- ^ 手塚 1991, p. 231, 渡辺泰「解説」.
- ^ 米沢 2002, pp. 363–364.
- ^ a b 米沢 2002, p. 364.
- ^ a b 手塚 1996, p. 97.
- ^ 私立探偵役での出演作に、『ロストワールド』(1948年)、『メトロポリス』(1949年)、『来るべき世界』(1951年)、『火星からきた男』(1952年)、『地球の悪魔』(1954年)、『伴俊作まかり通る』(1961年)、『フライング・ベン』(1966-67年)、『バンパイヤ』(1966-67年)などがある。また『鉄腕アトム』では元私立探偵の小学校教師。
- ^ 悪役やそれに近い役柄での出演作に、『一千年后の世界』(1948年)のボロ王、『ライオンブックス 来るべき人類』(1956年)の黒田隊員、『偉大なるゼオ』(1964年)の大臣、『ザ・クレーター 巴の面』(1970年)の玩具屋などがある。また『ブラック・ジャック』ではスリ師(「山手線の哲」)や吝嗇な大富豪(「灰とダイヤモンド」)など、様々な役を演じている。
- ^ 「第35回:大阪さんぽ(前編)手塚少年に芽生えた科学する心を訪ね歩く!!」『虫ん坊』2014年8月号(149)、TezukaOsamu.net、2022年6月14日閲覧。
参考文献
[編集]- 手塚治虫『手塚治虫デビュー作品集』毎日新聞社、1991年10月10日。ISBN 4-620-77016-7。
- 手塚治虫『手塚治虫エッセイ集① 手塚治虫自伝』講談社〈手塚治虫漫画全集 MT-383 別巻1〉、1996年2月16日。ISBN 4-06-175983-3。 - 初刊『ぼくはマンガ家』(1969年)。
- 米沢嘉博 著「解説 名優ヒゲオヤジの軌跡」、米沢嘉博 編『手塚治虫漫画劇場 ヒゲオヤジの冒険』河出書房新社〈河出文庫〉、2002年9月20日、362-381頁。ISBN 4-309-40663-7。