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ハハァ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ハハアから転送)
ハハー設置(上)と通常の壁(下)との比較。両方とも家畜の庭への進入を妨げているが、一方は外部への視界を遮ぎらない

ハハァ[1]ハハーハハア[2]en:Ha-ha(Ha-Hah)、フランス語: ha-ha またはsaut de loup )は、おもにイギリス式庭園風景式庭園[3]でみられる地形デザイン要素。

庭園の境界として単に壁を立てただけでは、庭園内からの景観が遮られてしまう。そこで、境界を溝(堀割)とし、溝の庭園側の壁面は垂直な擁壁に、もう片方の壁面は擁壁に向かって下向きに傾斜する芝の斜面とする。こうして、庭園外の敷地に家畜放牧しておいても家畜の庭への侵入を防ぐうえに、庭園からの景色を遮ることがなく、庭園とその周辺を連続した景観に見せることができる。セキュリティ面でも、視覚遮断を最小限に抑えつつ、庭園内への車両アクセスを防ぐことが可能である。

語源

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「ハハァ」(ha-ha、ha-hah)という言葉は、ルイ14世の息子がガヴァネスに怪我を心配されて近づかないように言われていた段差に近づいてみた時、「ハハァ、これはガヴァネスも恐れるはずだ」と言ったことに由来するとも言われている[4]。あるいは、風景式庭園に近づいてみた時の驚いた反応が由来である可能性も指摘されている[5]。日本ではこの"ha-hah" は、「ハハア、なるほど」というようなときに用いる感嘆詞が変化したという説[6]が広く流布されているが、ハハァの溝の片方が擁壁で片方は傾斜面という構造、つまり「half and half」の略語として「ha-hah」と呼ばれ、それが変化した可能性もあるという[7]。ただし、この説はそれほど支持されていない。

初代エグモント伯爵ジョン・パーシヴァルスペンサー・パーシヴァル英首相の父)が1724年にダニエル・デリングに宛てた手紙の中で、ストウ庭園[8]について次のように述べているという「What adds to the beauty of this garden is, that it is not bounded by walls, but by a ha-hah, which leaves you the sight of the beautiful woody country, and makes you ignorant how far the high planted walks extend.」(この庭園の美しさを増しているのは、境界が壁ではなくハハァによるものであるということであり、美しい森林地帯を見ることができ、高い植え込みの歩道がどこまで続いているか分からなくなる。) [9]

起源

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スコットランドウェスト・ロージアン、ホープトゥーンハウスの芝生を守るハハァ。壁が写真の左側に曲がるにつれて、壁が見えなっていくことに注目

機械式芝刈り機が導入される前は、広い草地の草を刈り込んでおく一般的な方法は家畜での対処、通常はを放牧することであった。ハハァはそのような土地で放牧されている動物が家に隣接する芝生や庭園に侵入するのを防ぐとともに、庭園と周辺の風景が一体であり、分断されていないと思い込ませるような連続した眺望を見せることができた[10][11][12]

このような構造は古代から存在し、イギリスでは鹿の放牧場(Deer park)でこの特徴がみられる。放牧場の外側にペール(木の棒で作られたピケット状の柵)や生け垣で覆われた溝を設けていたため、鹿は放牧場に入ることはできたが、出ることはできなかった。ノルマン・コンクエスト以降から、このような設備を建設する権利が国王によって与えられていたが、溝の深さやペールの高さは制限されていた[13]ダートムーアではこのような構造はリーピート(leapyeat)として知られていた[14]

ヴェルサイユ宮殿ル・アモー・ドゥ・ラ・レーヌのハハァ

事例

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イギリス、ウエストサセックス・パーラムパークのハハァと南面

最も一般的には、ハハァは広いカントリーハウスエステートの敷地内に設けられる。これらは景観的に邪魔になるフェンスを必要とせずに牛や羊を庭園から遠ざけることができる。深さは2 ft (0.6 m)からから9 ft (2.7 m)と様々である。

非常に深く長いハハァの例には、ロンドン南東部のウーリッジコモンから王立砲兵連隊兵舎のフィールドを分けるハハァがある。この東西に長く深いハハァは、羊や牛がロンドンの食肉市場へ輸送される途中でウーリッジコモンへ逃げ出し、王立砲兵連隊の敷地に入ってしまうのを防ぐために1774年頃に設置された。このハハァの珍しい特徴は、通常は隠されている壁が、西端部の75ヤード(70メートル)ほどの部分で内側の地面が下がっていき、壁が地上に現れることである。この部分は、ジェームズ・ワイアットゲートハウスとの境界を形成しており[15]、またハハァは国防省によって良好な保存状態が保たれているイギリス指定建造物であり、その全長に沿って「ハハァ・ロード」が走っている。一方、近くのジャコビアン・チャールトンハウスの敷地内には短いハハァもある。また、1767年から1774年にかけてジョージアン様式で建てられたバースにある30のテラスハウスをもつロイヤルクレセントにも、ロイヤルビクトリアパークを一望できる大きなハハァがある[16]

ハハァは北米でも使用されている。カナダに残っている歴史的な施設は2つだけであるが、そのうちの1つはアイルランド生まれのノバスコシア州検事総長であるリチャード・ジョン・ユニアックによって建てられた田舎の邸宅の「ユニアックハウス」の敷地内にみられる[17]

ワシントン記念塔は低いハハァの壁で保護されている

21世紀においてもハハァは建築に採用されている。ワシントン記念塔では、セキュリティ対策をしつつ景観を遮ることを防ぐためにハハァが設けられた。アメリカ同時多発テロ事件の後、当局は大型自動車が記念塔に近づくのを防ぐためにジャージー・バリアを設置したが、後にハハァに置き換えられた。これは0.76 m(30インチ)の低い花崗岩の石の壁で、照明が設置されており、ベンチを兼ねている。このハハァは、2005年のパーク/ランドスケープアワードオブメリットを受賞した[18][19]

ギャラリー

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関連項目

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参考文献

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  • 田村剛 公園 日本の文献での解説
  • 岡崎文彬『ヨーロッパの名園』朝日新聞社、1973年。 NCID BN06942451https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001278777-00 
  • 岡崎文彬『名園のはなし』同朋舎出版、1985年。ISBN 4810404854NCID BN01984013https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001782084-00 
  • 川崎寿彦『楽園と庭 : イギリス市民社会の成立』723号、中央公論社〈中公新書〉、1984年。ISBN 4121007239NCID BN00307610https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001671266-00 


脚注

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  1. ^ 日本で造園の公務員試験でも採用されている表記は「ハハァ」 土木造園(造園)専門問題, 令和3年度施行 特別区職員 Ⅰ類採用試験 (PDF) 東京都, 2017年 登録ランドスケープアーキテクト(RLA)資格認定試験、登録ランドスケープアーキテクト補(RLA補)資格認定試験 1次試験(その1)問題用紙 (PDF)
  2. ^ 進士五十八「「借景」に関する研究:景観構造並びに借景思想にみる自然への態度の日本的特質について」『造園雑誌』第50巻第2号、日本造園学会、1986年、77-88頁、doi:10.5632/jila1934.50.77ISSN 0387-7248NAID 110004662275 
  3. ^ 自然と自由の政治的美学
  4. ^ What is a ha-ha?” (英語). National Trust. 2021年8月18日閲覧。
  5. ^ Harmonville, A.-L. d' (1842) (フランス語). Dictionnaire des dates, des faits, des lieux et des hommes historiques: ou, Les tables de l'histoire, repertoire alphabetique de chronologie universelle .... A. Levavasseur et Cie. pp. 65. https://books.google.fr/books?id=vWRfWF_ZmQQC&hl=fr&pg=PA65#v=onepage&q=Ah!%20Ah!&f=false 
  6. ^ (岡崎(1973)), 1985, (川崎(1984))等。
  7. ^ What's so funny about a ha-ha wall?”. BBC.co.uk. 2017年11月20日閲覧。
  8. ^ カタカナ用語集・ハ行 - 日本造園組合連合会
  9. ^ Clarke, G. B., ed (1990). Descriptions of Lord Cobham's Gardens at Stowe (1700-1750). Buckinghamshire Record Society. ISBN 0901198250 
  10. ^ West Dean College: "From the front the parkland landscape appears continuous, but in fact the formal grounds are protected from the grazing sheep and cattle by a ha-ha"
  11. ^ Lawn Pros and Cons”. Pat Welsh. 2013年4月15日閲覧。
  12. ^ Massachusetts Agriculture Archived 2009-01-16 at the Wayback Machine.: "Early suburbanites relied on hired help to scythe the grass or sheep to graze the lawn. The lawn mower ... made it possible for homeowners to maintain their own lawn. ... The ha-ha provided an invisible barrier ... which kept livestock from wandering ... into gardens."
  13. ^ Shirley, Evelyn Philip (1867). “1 Deer and deer parks”. Some account of English deer parks: with notes on the management of deer. London: John Murray. p. 14. https://archive.org/details/someaccountengl01shirgoog 2012年11月24日閲覧. "deer leap." 
  14. ^ Anon. “Okehampton Deer Park”. Legendary Dartmoor. 24 November 2012閲覧。
  15. ^ The Gatehouse”. LargeAssociates.com. Large and Associates Consulting Engineers. 2013年7月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年7月28日閲覧。
  16. ^ Royal Crescent Lawn 'Ha Ha' and its History”. Royal Crescent, Bath. 23 February 2021閲覧。
  17. ^ Anon. “About Uniacke Estate”. Nova Scotia Museum. 14 October 2015閲覧。
  18. ^ Monumental Security (from the American Society of Landscape Architects website, April 10, 2006)
  19. ^ Risk Management Series: Site and Urban Design for Security,, page 4-17”. U. S. Department Security, Federal Emergency Agency. 2020年10月17日閲覧。

外部リンク

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