ハウスドルフのパラドックス(英: Hausdorff paradox)とは、選択公理の仮定のもと、球面の逆説的な分解が存在することを主張した定理(疑似パラドックス)である。
つまり、選択公理を仮定すると、球面 K の分割 K = Q ∪ A ∪ B ∪ C であって、A, B, C, B ∪ C は互いに合同であり、Q は可算集合となるようなものが存在する。
いま、合同な図形に対して値が等しいような有限加法的測度が存在し、K の有限加法的測度が 1 であるとすると、A の測度は 1/2 にも 1/3 にもなり、矛盾が生じる。
この定理は、フェリックス・ハウスドルフにより、1914年に選択公理を使って証明され、『集合論基礎』(Grundzüge der Mengenlehre, Leipzig 1914) の巻末に採録された。フランスの数学者エミール・ボレルは、この結果を見て、選択公理に疑念を深めた。
また、1924年、ポーランドの数学者ステファン・バナッハ(バナフ)とアルフレト・タルスキは、ハウスドルフのパラドックスを援用して、バナッハ=タルスキーのパラドックスを証明した。
をある軸の180度の回転、z軸の周りの120度の回転をとする。
これらによって生成された群をGとする。
回転軸を適当に選べば、は非可換であり、その積は1とならないことを示すことができる。
の2つ以上からなる積は、以下ののタイプに分類される。ただし, は1または2である.
であることが示されれば、であることが分かる。
とすると、
であり、は、の式のを で置き換えたものである。
またはのn個の積を に作用させると、
であることが分かる.
による の変換結果のz座標は
である。右辺はの多項式であり、係数は代数的数である。を選んで、が超越数なるようにすれば、任意の n > 0 に対して、z ≠ 1 とすることができる。
回転 (G) を3つの集合A, B, Cに分割することができる。
- Aが単位元1を持つ。
- がAに属するとき、はA + Bに属する。
- がAに属するとき、はそれぞれB, Cに属する。
1は、Aに属するものとする。はBに属するものとする。はCに属するものとする。
を先頭が又はであるような、のn個の積とする。
を先頭がであるような、のn個の積とする。
がA, B, Cに属するならば、はB, A, Aに属するようにする。
がA, B, Cに属するならば、はB, C, Aに属するようにする。はC, A, Bに属するようにする。
このような手続きにより、Gは3つの集合に分けることが可能である(下図参照)。
1と異なるGの要素のKでの固定点をQとする。Qは可算集合である。P = K - Qと置く。xの軌道をとすると、か、のいずれか1つが成り立つ。
そして
である.
選択公理により、それぞれの軌道から代表元を選ぶことができる。これをMとする。
このとき
をA, B, Cと書き直すとであり、
であるから、は合同となる。よって定理は証明された。
- Felix Hausdorff, Grundzüge der Mangenlehre, Leipzig (1914), pp. 469–.
- Felix Hausdorff, Bemerkung über den Inhalt von Punktmengen. Mathematische Annalen 75 (1914), pp. 428–434
- S. Banach et A. Tarski, Sur la décomposition des ensembles de points en parties respectivement congruentes,Findamenta Mathematicae 6 pp. 244–277 (1924), Banach全集 第一巻 pp. 118–148, http://matwbn.icm.edu.pl/ksiazki/fm/fm6/fm6127.pdf
- 砂田利一 (2009), 新版 バナッハ・タルスキーのパラドックス, 岩波書店
- Stan Wagon (1985, Paperback 1993), The Banach-Tarski Paradox, Cambridge Univ. Press