ノート:鴉 (横溝正史)
「女ではない」「夫婦のかたらい(性行為)ができない」がなぜ性分化疾患と言い切れるのかについて。
[編集]- 『鴉』は話の根底にかかわる重要な要素に「祖父の紋太夫がひ孫を望んでいるのに孫の珠生は子供ができない体だった」という要素があります。
- (「珠生が不妊」設定なのは本人のこの趣旨の説明で確定)
- しかし、それについてこの記事では2020年5月28日 (木) 09:22のDakarananyanen氏が詳細あらすじなどを記載し記事の体裁が整ってきたころの版から「珠生が性分化疾患である」(当時風に言うと「半陰陽」か)という記載になってますが、これの根拠は何なのでしょうか?
- 昔は女性は子供を産むものであるという考えが強く、不妊を理由に離縁されるケースもありました(「嫁して三年子なきは去れ」あたりで検索かけるとわかる。)ので「子供ができない体=女ではない」という表現はなにもおかしくはなく、実際に同じ横溝作品で執筆時期も近い(1946年)『蝶々殺人事件』では、ある登場人物が不妊であることを彼女の夫が説明する場面がありますが、その説明中に「(彼女は)生理的に女でない」「(彼女は)自分が女ではないという自覚」という表現があります。ここでいう「女」は明らかに「子供を産む存在」の意味であり、この直前に一般論で更年期の婦人を「生理的に女でなくなった」という形容がされていて、該当の女性が半陰陽だという描写ではありません(あくまで「性的に不能」という扱いです)。
- また、上記の夫は「妻が他の男と浮気するなど不可能」「ああいう体だったものだから、私の浮気は天下御免だった。」という説明もしている(「夫に隠し子がいて妻がショックを受けた」という趣旨の説明もあるので「夫が子供が欲しいというのでほかの女性と作らせようとした」ではなく「妻が夫の相手をできないので性欲を他の女性で発散させる」の意味と考えるのが自然)ところを見ると、横溝正史は「性行為しても子供ができない」ではなく「性行為そのものができない不妊」を想定しているようです。
- 別の作品とは言え、同一人物の執筆中にこうした表現がある以上「女であって女ではない=半陰陽(性分化疾患)」という根拠には弱いと思います。
- (そもそも、性分化疾患のない女性でも性行為が不可能なケースは十分に起こりうる。性機能障害や未完成婚参照)
--電流丸(会話) 2023年2月23日 (木) 14:34 (UTC)
少なくとも「不妊」に該当しないことは明らかですね。「妊娠を望む男女が避妊をせずに性行為をしているのに妊娠に至れない状態」という定義ですから。「性行為そのものができない不妊」というのは矛盾した言及です。
従って、論点は「不妊ではない何に」該当するのかというところに絞られます。そしてそれは「夫婦のかたらいのできぬ体」というのが機能的な原因なのか心理的な原因なのかという判断で決まります。「機能的な原因」=「性分化疾患」ですから。
原作の表現から心理的原因を想定するのは不可能とは言いませんが無理があるように思います。
--Dakarananyanen(会話) 2023年2月24日 (金) 00:42 (UTC)
- >少なくとも「不妊」に該当しない
- 「不妊症」と混同していませんか? 不妊は「妊娠しないこと」です。(広辞苑・goo国語辞書・精選版日本国語大辞典など)
- あと「機能的な原因で性行為ができないのは性分化疾患」はどうしたらそう言い切れるのでしょうか?確かに性分化疾患で膣が欠損とか言った事例もありますが、それはごく一部です。
- 糖尿病で勃起不全の男性は後天的な性分化疾患ですか?女性に限っても性機能障害の記事に「膣炎や子宮内膜症などによる性交痛(があるので性行為が痛くてできない)」という例も挙げられてますが、これも後天的な性分化疾患ですか?他にも未完成婚の記事に性行為できない理由に「陰茎と膣のサイズの不和」などが挙げられてますが、これらを性分化疾患とは言えないでしょう。
- ちなみに『蝶々殺人事件』の方は調べた所『探偵・由利麟太郎』のバージョンでは精神的な理由で性行為ができない女性の話でしたが、原作でははっきり説明されておりません。--電流丸(会話) 2023年2月27日 (月) 16:18 (UTC)
確かに「不妊」という語彙の構造は単に「妊娠しないこと」ですが、「妊娠して当然なのに」という含意がある状況でしか通常は使わない語彙です。このあたりのニュアンスを語義説明で明記している辞典は少ないようですが、例えば用例記載の多い日本国語大辞典(小学館)では用例からこのニュアンスを読み取れますし、広辞苑あたりでも派生語の並びから推察できます。見た範囲では唯一岩波国語辞典が「(男女の少なくとも一方の)生理的な欠陥で、妊娠できないこと」と語義説明できちんと説明していました。「不妊」と「不妊症」に根本的な語彙の差異は無いわけで、ただ「不妊症」には医学的に厳密な定義が必要なので「妊娠して当然なのに」というのが具体的にどういう状況を指しているのか厳密に定義しているに過ぎません。Wikipediaの「不妊」の項目の立て方はこれで適切です。
いずれにしても、本作の状況を「不妊」と表現するのは、少なくとも著しく不適切で、確実に誤読を招くことは間違いありません。
--Dakarananyanen(会話) 2023年3月1日 (水) 13:26 (UTC)
- 普通「結婚していて仲の良い夫婦」がいたら、問題がない限り子供ができて当然な状況と見ますよ?(実際本編でも紋太夫達がそう考えているからこういった展開になったわけで)
- その「問題」の原因が何であっても「不妊である」という結果には変わりはありません。(後述の「不眠」の例えでいうなら、何が原因でも「眠れない」ならば「不眠」でしょう。)
- あと「〇〇症」と「〇〇」は同じような意味だから「〇〇症」の定義は「〇〇」に当てはまるってのはおかしいですよ。
- 〇〇症の「症」ってのは「病気とかの性質」を示す言葉であって、例えば「不眠症」(眠れない病気)の定義が「不眠」にそのまま当てはまるわけではないですよね?
- (「眠れない」の意味では該当しますが、自発的に眠らない「不眠不休で働く」などの用法もある。)--電流丸(会話) 2023年3月8日 (水) 11:32 (UTC)
「不眠不休」の「不眠」と「不眠症」の不眠は全く意味が違います。前者は「眠らない(眠ることを「しない」)」意味で、後者は「眠れない(眠ることが「できない」)」意味です。一方の「不妊」は専ら「できない」の意味です。「同じような意味」ではなく「同じ意味」なのです(この場合は)。同じ「不○」だからといって一緒くたにしないでください。
紋太夫の立場、つまり「そもそも性交をしていない」ことを知り得ない立場からすれば、確かに本作の状況は「不妊」と区別できません。しかし、それは「不妊のように見える」だけです。つまり、本作の状況は
- 一見すると「不妊」(かもしれない)と思えるが、実は「不妊」では無かった。
と表現するのが妥当です。
--Dakarananyanen(会話) 2023年3月10日 (金) 13:01 (UTC)
- 少々立て込んでいまして返信が遅れて申し訳ありません。
- 確かに「不眠」と「不眠症」の不眠は意味は違いますね。
- でもそれはなおのことDakarananyanenさんのいう「不妊症の定義に当てはまらないから不妊ではない」という理屈が成立しない意味になりませんか?
- 不妊は字面からしても「妊娠し(出来)ないこと」の意味であり(手元の三省堂の『新明解国語辞典』第五版p.1237「不妊」より、少々古い辞書ですがそうそう定義が変わるものでもないでしょう。)、
- 意図的に回避しているなら「避妊」でしょうが、理由が何であれ(性行為ができない含む)子供が欲しいのにできないなら「不妊」で問題ないでしょう。
- ですので、珠代の子供のできない理由が性器の奇形で性行為ができないという前提であっても、「珠代は性分化疾患」を「珠代は不妊」にすべきかと思われます。
- (そもそもなぜ性器の奇形はいろいろあるのに即「性分化疾患」という結論が出てくるのかが不思議です。)--電流丸(会話) 2023年4月2日 (日) 15:04 (UTC)
「不妊症の定義に当てはまらないから不妊ではない」なんて一言も書いてませんよ。現実問題として「不妊」という語彙は「不妊症」の定義に概ね当てはまる状況でしか使われないのです。そこまで明確に書いている辞書は岩波国語辞典以外には見つからなかったというのは既に書いた通りですが、多くは単に明確でないだけです。
「不眠」についても、実は状況は似ているんです。「不眠不休」などの成句では字面通りに「眠らない」「眠れない」の双方を含む広い意味になりますが、単独で「不眠」と使えば基本的には「眠れない」に限定された意味になり、医学用語の「不眠症」に近い語義になります。このように、日常用語としては本来の語義の一部だけに限定された語義になってしまっているという語彙は珍しいものではありません。そういう意味では「不眠」も「不妊」も同じような状況になっています。そういう語彙を「本来の語義には確かに含まれるが実際にはほぼ使われないニュアンス」に敢えて使うのは、確実に誤読を招きます。
--Dakarananyanen(会話) 2023年4月4日 (火) 13:04 (UTC)
- 一年近くも放置していたことを蒸し返したことと、ノートで議論せずに記事を書き換えたこと自体は申し訳ありません(忙しくて書き込みに間が開いた後、修正済みと思っていました。)
- ただ、なぜ「珠世は性分化疾患」(=だから性行為ができず子供ができない)という表現にこだわる(「不妊」「子供ができない」に修正すると即戻す)のかが理解できないというだけです。
- 上の方で述べたように不妊になる理由はいくつもある、同じく性行為ができない理由もいくつもある
- 時代背景を考えると、子供を産めないだけで「女ではない」という表現は不自然ではない
- 性分化疾患には女性として性行為ができる例はいくらでもある(男性仮性半陰陽でもアンドロゲン不応症など膣は形成されるものはある)
- これらの事から考えると「子供ができない」--電流丸(会話) 2024年1月21日 (日) 03:28 (UTC)が適切な表現だと思われます。
差し戻す際に「とりあえず一旦」とも書いた通り、単に変更理由が明白に誤っていたから「元に戻した」だけです。元の表現に固執しているわけではなく、単にリセットしただけです。
それから「不妊」という表現が本作の状況には該当しないという問題と「性分化疾患」という表現の妥当性の問題とは切り離してください。
さらにもう1点確認しておきたいのは、現状は文章本体としては「女であって女でない体」という作品中の表現であり、その説明として「性分化疾患」にリンクしているということです。「黒猫亭事件#風間俊六の人物像」で「浜」から「横浜市」へ、あるいは「悪魔が来りて笛を吹く#玉虫家」の注で「一人前の女にしていただいて」から「水揚げ (花街)」へ、各々リンクしているのと同じ手法です。
本作の場合、紋太夫の立場からすれば不妊だろうと性分化疾患だろうと「子供ができない」状況であることが重要でしょうが、本作のロジックとしては貞之助の言動に関する描写も重要で、それを論じるには「そもそも性行為ができない」状況であることを明示する必要があります。それゆえ単に「子供ができない」という表現では不充分だと考えているわけです。
ちなみに、「性分化疾患」はかなり広範囲な状況を指し示す包括的な用語ですよ。上記の電流丸さんの記述には「性分化疾患」に該当しない「性器の奇形」が存在するように読める部分が見受けられますが、それは定義上存在し得ないのではないかと。